途中までは……
一方、先に帰宅した亮は、ぼんやり部屋で考えていた。ドライフラワーにしたカーネーションを見つめて、
(先生、今日、今までと違ったなぁ。
いつもは、何だか落ち着かなくて、先生とはよく話せないんだけど、今日は平気だったね。
先生が変わった?
それとも自分が変わった……!)
そこで、重要なことを思い出した。
(そうだ!
ヒューさんから出された宿題の答え、まだ見つけてないよ。
大切なことだよね、すごく真剣な顔して聞かれたから。
どうして、急に気になるようになったんだろう?
いつからかな? よし、思い出してみよう)
亮はそう思って、ラピスラズリに行くようになってからのことをボケ少女なりに、思考回路を展開。
(初めて会った時……?
違うね。
ヒューさんが先生だとわかった時……‼)
そこで、椅子から飛び上がった。
「えぇっっ!」
(キ、キスしたから、気になるようになった?
ん? でも、変だよ。
あの時も、学校で話しかけられた時みたいに、ドキドキしてたから。
変わってないってことだ。
じゃあ、次はどうしたっけ?)
さらに時を進める。
(マリアちゃんに初めて会った時……? 違うね。
こっちで、先生が眼鏡かけてなかった時……‼)
八神の罠にはまって、亮はドキッとした。
「えっ!」
(ど、どうして、眼鏡かけてこなかったのかな?)
八神、罠を仕掛けすぎである。呪いが解けない状態になっている。
(すごく優しい目をしてるんだよね。
マリアちゃんと話してる時は特に)
亮は自然と笑顔になった。ふと、あることを疑問に思って、
(そういえば、最近、ずっと眼鏡してこないね。
何か意味があるのかな?
重要なことみたいだけど……ちょっとわからないね)
八神とは比べ物にならないほど、情報が穴だらけ。それでも、ボケ少女は時を進める。
(マリアちゃんに首飾りをつけた時……? 違うね。
Little Mermaidを読んであげた時……?
ヒューさんの淋しそうな目を見ると、切なくなるんだよね。
どこかで見たことがあるんだよね。
いつ、どこで見たんだろう?)
事実は歪めてるは、記憶力は崩壊しているは、可能性も導き出せない。さすがのボケ少女も、珍しくため息をついた。
(わからないなぁ。
とりあえず、次かな?)
先走り少女気にせず、先に進む。
(ピアノを教えてもらった時……‼)
「えぇっっ!」
亮はびっくりして飛び上がった。
(ドキドキしすぎて、よく覚えてないよ、そのあとは。
で、でも、よく思い出さないとね。
答え見つけないといけないから)
あれは、ヒューの罠が行くつくとこまで行ってしまったので、リエラが覚えていないのだ。ヒュー、罠仕掛けすぎである。
それでも、策という鎖から、何とかはい出ようとして。心臓バックバクのまま、亮は一生懸命考えようとした。
(最初はドキドキしたけど、ヒューさんがピアノ弾いたあとは、ほっとしたね。
優しい人なんだよね、ヒューさんは。
そういえば、花火大会の時も手に触れたね。
あの時も最初ドキドキしたけど、つないだら、ほっとした。
ここが、気になるようになった時?
でも、そのあとも、よくドキドキしてたような気がする。
じゃあ、違うかも知れないね)
亮はベッドに寝っ転がって、天井を見つめた。
(そのあと、どうしたかな?
マリアちゃんに勉強を教えて……チョコレートパフェ食べて……‼)
「えぇっっっ!」
大声を上げて、勢いよく起き上がった。
(先生、どうして、近づいて、じっと見つめたりするんだろう?
ドキドキして、倒れそうだったよ。
よく、言ってる意味がわからなくなるし……)
それも全部罠。言葉を途中で擦り変えられているし、そこに意味などないのだ。八神の罠に見舞われている亮は、深呼吸をして、
(お、落ち着いて、考えないとね。次だね。
そのあと、木に登って街を見てたら、ヒューさんが来て……急に抱きしめられた。
でも、あの時はドキドキしなかったなぁ。
『……急に消えたりしないでください』)
ヒューはあの時は罠を仕掛けていない。だから、リエラは普通でいられたのだ。しかも、完全に冷静な策略家の地位を失っていた時。姫が普通にしていられるのも当たり前。ヒューの突然の言葉に、亮は首を傾げ、
(どういう意味なんだろう?
そのあと、泣いてたよね。
湖のところでも、泣いてたね。
待ってるだけで、救えるのかな?
あの時はそれが一番だと思ってたけど、今は少し、違うような気がする)
八神のように理論立てて、亮は考えていない。感情のまま動いているので、その時の気分で、行動が変わってしまう。しかも、記憶力は崩壊、自分で自分を分析できない状態。
それでも、宿題の答えを出したくて、さらに考える。
(遠出に出かけた時、ヒューさんの手がすごく震えてた。
そして、自分はヒューさんの手から手綱を取って……‼)
ここで、気づいた! 気持ちの変化があったことに、亮は大声を上げ、
「あっっ!」
(あの時からだ。気持ちが変わったよ。
ドキドキしたり、戸惑ったりじゃなくて、自分から自然と、ヒューさんに何かしたいと思った。
自分がしっかりしなくちゃと思った。
でも、何でそう思うんだろう?)
恋愛鈍感少女、一生懸命考えて、首を右左に傾ける。
(怪我しないで欲しいと思ったから?
ヒューさんを救いたいと思ったから?
助けたいと思ったから?
守りたいと思ったから?
どれかな? ……それとも全部?
んー……確かに、全部かも)
青き石版で、自分の両手首をぎゅっとつかんで、真剣な顔をしたヒューを思い返して、
『なぜ、あなたは私のことを急に気にするようになったんですか?』
やっと、策略家の心が届いたか。と思いきや、
(これが宿題の答えかも知れない)
宿題だって言われていたではないか、ヒューから。ボケ少女、遠回りしすぎである。記憶力が崩壊しているのに、なぜか、その次のヒューの質問へ。
『そちらはいつからですか?』
冷静な瑠璃紺色の瞳を思い浮かべながら、亮はたどり着いた。
(答え。ヒューさんの手から、手綱を取ろうとした時)
次の質問も、ボケ少女しっかり記憶していた。
『なぜですか?』
(答え。………。
なぜの方がわからないね。
んー、どうして、そう思うんだろう?
…………。
…………。
…………)
亮はいつからかは突き止めたが、それが恋だとは気づかなかった。