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Legend of kiss3 〜水の王子編〜  作者: 明智 倫礼
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守護する条件

 夕闇に星が見え始めた校庭で、誠矢はバイクに寄りかかり、自分の師匠ーー燈輝を待っていた。昇降口から、滑るように歩いてくる燈輝を、誠矢は見つけて、右手を軽く上げた。


 背の高い、袴姿の男は、赤髪少年ーー弟子に低い声で、


「なぜ、言わなかった?」


 誠矢のため息が、冬空に舞った。


「直接、手出せるやつは、燈兄だけだかんな」

(オレが言った方がいいだろ。

 八神、もう夢じゃねぇって認めたんだから)


 優雅な策略家が、現実だと気づいたため、ここから、物語は大きく変わっていく。敵に狙われ始める、この世界は。だが、それさえも、神の戦略。


「どういうことだ?」


 燈輝は言いながら、誠矢に歩くように目で促した。弟子はそれに反応して、バイクを押し始める。


「夢見てんだろ?」

(燈兄だけだって、聞いたぞ。

 愛姉も誰も見てねぇって)


 シリーズ3は、アイシスもカータも見ていない。ある一定の時間までしか、五千年前は時が進まなかった。それが原因で、愛理も正貴も夢は見ていないのだ。


 夢を見ている人しか、ラピスラズリでは、直接手伝えないというルールがある。


 燈輝は草履で、校庭の土を踏みながら、


「あの世界に行くようになってから、繰り返し見る夢か?」

(死んだ人間を抱えて運んで来るやつの気の流れが、光にそっくりだ。

 初めて会った時、少し驚いた)


 花火大会の時、八神と自己紹介を交わして、燈輝は『似てる……』と思っていた。その時から、知っていたが、彼は修業以外に興味がないし、必要最低限のことしか言わない性格。


 近づいてくる校門を眺めながら、夢の話をしてきた燈輝に、誠矢は軽快に、


「おう」

(気づかねぇわけねぇもんな)


 燈輝の習得している武術なら、絶対、気づく。夢の中の人物と八神が同じだと。燈輝は落ち着いた声で、


「誰が言った?」

(なぜ、俺が夢を見ていると知っている?)


 誠矢は師匠の方は見ずに、


「ルー」


 燈輝は目を細めて、珍しく少しだけ微笑んだ。


「あの、おかしな気の流れのやつか」

(あいつは、かなり特殊だ)


「まぁ、おかしいのがルーだかんな」

(それなくなっちまったら、ルーじゃねぇって)


 誠矢たちは校門を左へ曲がった。186cmの燈輝は、174cmの誠矢を見下ろし、


「なぜ、直接、手は出せん?」

(協力した方がいいのではないか?)


「神様が決めたことらしい」

(さすがにそれは、ルーもどうして決まったか知らねぇらしいぞ)


 誠矢は軽く息を吐いた。ルーは全て知っているわけではない。ある法則があるから、知っていることが他の人より多いだけで、ミラクル天使は人間。他の人と何ら変わりない。


 大きな話に驚くなく、燈輝は短くうなずいて、


「そうか」


 武術家は自分を常に包み込んでいる、大きな気の流れを感じた。従姉妹の心配をしている、誠矢は本題へ。


「で、亮の呪いを解かなくちゃいけねぇんだよ」

(それが、オレたちっていうか、八神と亮のやることだな。

 って、すげぇ意味深に聞こえるじゃねぇか)


 ちょいエロに入った赤髪少年は、一人ボケツッコミをした。『やる』の意味が、大人の情事に変わっている。


 燈輝は不思議そうな顔で、


「何をすれば、解ける?」

「…………」


 誠矢は何も言わずに、修業バカーー師匠の顔を見上げ、ニヤニヤ。


(燈兄、それ聞いて平気なのかよ?)


「何だ?」


 自分を見つめている弟子に、燈輝は低い声で聞いた。誠矢は軽い口調で、


「ふたりが恋愛すんだよ」

(どういう反応すんだよ?)


「それは、手伝えん」

(修業したことがない)


 藁人形を刀で切るように、燈輝はばっさり切り捨てた。師匠の修業バカさ加減を知っている、誠矢はゲラゲラ笑って、


「わかってるって。そっちを手伝うんじゃねぇって」

(それは、誰も期待してねぇって。

 燈兄と亮が恋愛したら、マジ大変そうだな。

 どっちも恋愛にうとくてな)


 誠矢が直感した通り、シリーズ4はえらい展開になる。しかも、誰かさんのお陰で、めちゃくちゃなことになってしまう。


 燈輝は北風に袴をなびかせながら、


「では、何だ?」


 直感型、誠矢、ヒューに会っていなくても、何の話をしたのかはわかっていた。


「八神に言われたんだろ?」

(だから、ラピスラズリで、燈兄のとこ行ったんだろ。

 シトリンとコランダムは、隣同士だかんな)


「コランダムのことか?」


 燈輝は、シトリンでヒューに聞いた話を思い出した。師匠と弟子の脇を自転車が追い越してゆく。誠矢は軽く口調で、


「おう、だから、そっちを手伝うんだって」

(ヒュー、一人じゃ出来ねぇだろ、きっと)


 ギルドも城の人間も関係している可能性がある以上、ヒューは誰にも頼れない。しかも、コランダムとシトリンは隣国同士。ラピスラズリに飛んだ二日目に、自分のまわりにいた人たちを、ヒューはきちんと記憶している。


 それを踏まえて、弾き出した協力者が、トムラムなのだ。


「わかった」


 燈輝は短く承諾し、呪いのことへ話題転換。


「それで、解けたのか?」


 誠矢の白いため息がもれた。


「解けてねぇだろ」

(恋愛してるようには見えねぇぞ)


 全然、進まない、シリーズ3は。だが、それも神によって、計算済み。もちろん、未来は常に変わっていくので、無事解けるとは言えないが。恋愛に興味のない、燈輝は不思議そうな顔で、


「なぜ、わかる?」


 感情に流されそうになりながら、誠矢は真剣な顔で、


「真実の愛をはぐくんで、ふたりがキスしねぇと解けねぇんだって」

(亮が相手っていうだけで、かなりピンチだな。

 恋愛にうとすぎだって)


 直感型、誠矢、亮と一緒で、感覚的すぎる。ひとつ呪いの解き方の手順を抜かしている。武術の修業バカは、結果だけを重視し、


「じゃあ、解けてる」


「はっ⁉ 何でだよ?」

(いつの間に、そういう話になったんだよ?

 八神、やりやがったか?)


 策略家の罠をかければ、確かに亮の恋愛の無頓着さもなくなるかもしれない。


 期待した誠矢の耳に、燈輝の見当違いな言葉が。


「溺れてたところを助けたと言っていた」


 お笑い少年、誠矢は一人ボケツッコミ。


「おう、そういうことだったんだな……って、それは違うって!」

(燈兄、ナイス前振り)


 燈輝は真剣な顔で、


「違うのか?」


「真実の愛をはぐくみが、抜けてんじゃねぇか」

(それが簡単に出来たら、誰も心配しねぇって)


 誠矢はゲラゲラ笑い出し、燈輝は珍しくため息をついた。


「よくわからん」


「で、何の話してきたんだよ?」

(呪いのことも、あのことも聞いてねぇみてぇじゃねぇか。

 なら、他のこと話してきたってことだろ)


 誠矢の直感はいつも通り冴えていた。あのこととは、八神の過去のこと。


「光の趣味の話だ」


 なぜか、そこに照準が合っていた、燈輝は。策略家の罠に引っかかったと知らない師匠に、弟子は予測を立てながら、


「何て、言ってたんだよ?」

(燈兄まで、八神の罠にはまってるみてぇだぞ)


 真っ直ぐすぎる燈輝は真面目な顔で、


「亮を困らせることが、趣味だそうだ」

(おかしなやつだ)


「亮、それ聞いて、どういう反応したんだよ?」

(やっぱり、ヒューのやつ、楽しんでんじゃねぇか)


 欲望のあるところが、誠矢と八神は似ているので、とにかく悪戯するのだ、このふたりは。無駄なことも思いっきりして、楽しむのが特徴。


 街灯の下を通り抜け、影がぐるっと回るのを見送りながら、燈輝はそのまま正直に、


「そうなんですかって、言っていた」

(気にしている素振りには、見えんかった)


 亮と燈輝が罠に引っかかったという事実を前にして、誠矢はゲラゲラ笑い出した。


「ぷはははは……!!」

(だから、納得すんなって。

 突っ込むところだって)


「それは、恋愛をしているとは言わないのか?」

(俺には、仲よく思えるが……)


 師匠の低く落ち着き払った声を聞いて、弟子は真顔に戻った。


「どうなんだろうな? オレにもわからねぇな」

(八神、迷ってんだろ。

 恋愛するのか、しねぇのか。

 繊細なやつだかんな。

 そうじゃなきゃ、倒れたりなんかしねぇだろ。

 自分のせいだと思ってんだろ、全部。

 わかんだよ、オレと似てるとこあるかんな、八神。

 それに、亮を利用してるって思ってんだろ。

 だから、許せねぇんだろ、自分のことが。

 亮は利用されてるなんて思ってもいねぇし、例えそうだったとしても、気にしねぇのにな。

 まだ、だいぶ時間かかりそうだな)


 誠矢と同じで、八神もかなり謙虚。しかも、二十年前の出来事に付随することが原因で、八神にはある意味、自殺願望がある。溺れたマリアを助けた時、荒波に逆らわなかったのは、そのせい。だが、その願望と、優雅な策略家は常に必死で戦っている。


 赤髪少年は、恋愛にうとい燈輝に忠告。


「とにかく、燈兄、花火大会の時みたいに手助けしすぎんなよ」

(八神の代わりに、亮、担ぐなよ)


「わかった」

(担ぐのが手助けにしすぎになるのか、知らんかった)


 みんなの前振りが無効になったとは、燈輝は気づいていなかった。誠矢はさらに、真っ直ぐすぎる師匠に忠告。


「それから、キスしろとか、絶対、本人に言うなよ。特に亮にはな」

(あいつ、それ聞いたら、絶対、気絶するって。

 真実の愛はぐくむどころの話じゃなくなるって。

 八神的には、面白ぇかも知れねぇけど、真面目にやらねぇと、亮、死んじまうからな)


 さすが誠矢、物語の予告をしている。終盤、とんでもない罠が発動し始める。


「言わん」

(俺がそれを言うことは、あり得ん)


 冷え切ったアスファルトの上に、ふたつの影が伸びていた。

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