Miracle riddle
そして、昼休み。
冬空の下は寒いということで、いつもの五人は八神の部屋にいた。部屋の主ーー瑠璃色の髪の策略家は用があり、今は席を外している。
亮はフライドポテトを、フォークに刺したまま、ぼんやり、
(前、こっちにいた時より、ずいぶん、過ぎちゃったんだね。
呪いの解き方、見つからないなぁ。
文章の意味もわからないままだし……。
ヒューさんからの宿題の答えもわからないし、困ったね)
自分が十八の誕生日で死ぬという運命に立たされているのに、のんきに考えているボケ少女を前にして、ルー以外の、祐、誠矢、美鈴はお互いの顔を見合わせ、
(何かあったんだろうな。
これだけ、日付過ぎてるから)
ヒューが現実だと気づいたので、一気に時が過ぎた。もちろん、それだけの理由ではない。微調整されている、世界は。この先、どのシリーズでも同じ。
祐、誠矢、美鈴は、メロンをおいしそうに食べていたミラクル天使に顔を向けて、
(ルーが話すのか?)
それを受けて、純粋無垢なサファイアブルーの瞳を持つ人は、可愛く小首を傾げた。
(ボクの番?)
あるルートで、ミラクル天使は情報を知っている。他の人たちに明かす必要のないことがあるのも、わかっている。祐、誠矢、美鈴は、ルーの視線に小さくうなずくしかできなかった。これだけ急激に、時が過ぎた理由がわからないのだから。
(そう)
ルーはメロンを食べていた手を止めて、ボケ少女に、
「亮ちゃん、ボク、聞きたいことがあるの」
(大切なことなの)
くりっとしたブラウンの瞳に、金髪天使が映った。
「えっ?」
(ルーが聞きたいこと?)
「Are you ready?」
「あぁ、うん」
(何か気になることがあるのかな?)
ミラクル変化球と大暴投の嵐が、祐たち三人に襲いかかる!
「Riddle」
(困ってるさんなの)
一番困っているのは、スメーラの部下の秋。次は、答えを見つけることができない八神と亮。他に、付随する二名。五名がただいま迷走中。
大変なことが起きているとも知らず、亮はぽかんとして、
「え……?」
(リドル……?)
誠矢がため息をつきつつ、
「なぞなぞだって」
(勉強しとけって)
「あぁ、わかった」
亮は赤髪少年から、金髪天使へ視線を戻した。いつの間にか、ルーの瞳から純粋無垢な色は消え、全ての人々をひれ伏させるような皇帝のものに豹変していたが、
「ニンジンさんで逃げたら、別のことを考えたのは誰?」
(The answer is water)
ミラクル天使の言動を前にして、祐、誠矢、美鈴はため息をついた。
(混在してる……)
一番予測しずらいルーになってしまった。亮は気づかず、一生懸命考えて、
(ニンジンって、食べ物だよね? んー……?)
従兄弟の大好物に目がいき、
(あぁ、わかった)
「パン?」
(焼きそばにニンジン、入ってるもんね)
亮の宇宙の果てーー焼きそばパンまでの大暴投を聞いて、祐、誠矢、美鈴は盛大にため息をつき、
(誰って聞いたのに、食べ物で返してきた。
もう、収拾つかない。黙って、見とこう)
そうして、ボケ少女とミラクル天使は、他三名に放置された。ルーは春風のように微笑んで、
「亮ちゃん、可愛いさん♪」
「あっ、ありがとう」
亮は少し照れながら、お礼を言った。
ふたりのやり取りを見て、祐、誠矢、美鈴はまたため息。
(答えはどこにいったんだろう?)
ルーは気にせずに、
「Next riddle」
亮は正解を聞くことをすっかり忘れて、笑顔でうなずき、
「あ、うん」
「ご飯が落ちて、高くなると困る人は誰?」
(The answer is water&sun people)
ルーは絶対嘘はついてこない。事実を表している。亮はすぐに、
「パンダさん?」
(竹から落ちたら、困るね)
誠矢がすかさずツッコミ。
「いやいや、竹じゃねぇって、高くだって」
(次から次へと、遠くに投げんなって)
「あぁ、そうか」
(ご飯と高く……?
おにぎりが遠くに飛んだ?)
亮は異次元にワープしそうになった。祐はレースのカーテンから垣間見える空をぼんやり眺めて、
(時間のむだだから、聞かないことにする)
不機嫌王子はジュレイテの人々の幸せを考え始めた。ルーはさらに次へ、
「優しさと厳しさを、降らせた人は誰?」
(The answer is God)
「あぁ、メロン?」
(ルー、大好きだよね)
誰と聞かれているのに、また食べ物で返して来たボケ少女。ルーはしっかりとしたサファイアブルーの瞳に映し、
「素敵さん♪」
(そう、キミは昔から変わらない)
「え……?」
(ステッキ?)
さらに、大暴投した亮には構わず、ルーはさっと次へ。
「優しくなって、空を渡った人は誰?」
(The answer is you)
亮は自分のランチボックスに視線を落として、
「ポテト?」
(からっと揚がったから)
亮は『空』をなぜか器用なことに、音読みーー『カラ』にした。美鈴がツッコミ。
「それ、人じゃないよ」
(どうして、そこにたどり着いたのかわからないよ)
誠矢は心の中で、ゲラゲラ笑った。
(世界の果てかも知れねぇな)
「あぁ、そうか」
(ルーのなぞなぞは難しいね)
亮は親友の忠告を、何とか大暴投せずに聞いた。今までの質問、実は二重に罠が仕掛けられている。だから、亮が答えられないのだ。他の人のために、用意されたもの。ルーは無意識下でやってくる、こういうことを。
質問が途切れたところで、扉がノックされた。ルーがふんわり、
「は〜い」
(お帰りなさいさんなの♪)
瑠璃色の髪を持つ策略家ーー部屋の主が入ってきた。八神は情報を得ようと、受け持ちの生徒を見渡して、
「今日は何の話ですか?」
(最初に言葉を返してくるのは、誰ですか?)
冷静な頭脳に、天文学的数字の膨大なデータが流れ出した。ルーが真っ先に、
「Today's conversation is a riddle.(なぞなぞの話です)」
(It is my turn.(ボクの番なの))
流暢な英語が、優雅な部屋に舞い始める。八神は冷静な瞳を持って、
「I understand.(そうですか)」
(Also, you talk first.(また、あなたからなんですね))
ミラクル天使は策略家に、春風のように微笑んで、
「Mr.Hikaru, can I take a riddle for you from me? (光先生、問題出してもいいですか?)」
英語の上に、ルーの意味不明な質問。祐、誠矢、美鈴はあきれた顔。
(今日のルーは、いつにも増してわからない)
八神は英語がペラペラだ、ミラクル天使の言語を何の支障もなく受け止めた。しかも、冷静な頭脳は、今も正常に稼働中。
「OK.(えぇ、構いませんよ)」
策略家は書斎机に腰でもたれかかった。英語では、曖昧な表現ができない。だから、確定するしかない。ルーは純粋無垢なサファイアブルーの瞳に、担任教師を映して、
「What stands behind the falling blue? (降ってくる青の後ろに、立つものは何ですか?)」
(That heart is very beautiful.(綺麗さんなの))
「Is there a hint in that riddle? (ヒントはありますか?)」
(Is that only information? (情報はそちらだけですか?))
冷静な策略家が一歩リード。疑問形になっている。ルーは純粋無垢な瞳で、小首を傾げて、
「Hmm……? (んー……?)」
(How do I say? (どう言えば、いいかな?)
Because it is a riddle, as you do not understand, I have to…….(なぞなぞだから、わからないようにしないと……)
All right, I. (わかった、ボク)
ミラクル天使、独特の思考回路でたどり着いた質問を、策略家へふんわり投げた。
「What does not change, what changes? (変わらないで、変わるものは何ですか?)」
八神はあごに手を当てて、考える振りをした。
「Hmm……? ( そうですね……?)」
(Why do you listen to me now? ( なぜ、そちらを今、私に聞くのでしょう?)
I was worried, you seem to be unable to measure with just the possibility.(困りましたね、あなたは可能性だけでは計れないみたいです)
今までのデータから取り出した事実を元に、八神は可能性を見出したが、確定はできなかった。
ミラクル天使は順番がめちゃくちゃなのだ。理論を使って、順序立ててくる八神には、ルーは非常に予測しづらい。
(困りましたね)
優雅な策略家は、心の中で降参のポーズを取った。だが、何とかやり過ごした。ミラクル天使の質問に、策略家は一切応えていない。情報漏洩は免れ、新しい事実を手にした。
英語でのやり取り、しかも、冷静な頭脳の持ち主、策略家対ミラクル天使の複雑な思考回路が展開され、他の四人はついていけなかった。
亮たち四人がランチを食べ終え終わると、昼休み終了のチャイムが鳴った。