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Legend of kiss3 〜水の王子編〜  作者: 明智 倫礼
30/41

過ぎた季節

 リエラとヒューがこちらの世界へ戻ってくると、なんと、日付は翌年の一月二十五日、月曜日だった。

 八神はいつも通り、朝早くに学校へ来た。策略家の手元の懐中時計は、八時三分十三秒を指していた。登校している生徒たちが多く行き交う、中庭を見下ろして、


 七月八日。

 昼休みに、神月さんたちのところへ行きました。

 そこで、スチュワート君は『光先生は、昨日、夢を見ましたか?』と私に聞きました。

 私は『いいえ……見ていませんよ』と応えました。

 スチュワート君は『光先生は、王子サマになりましたか?』と聞きました。

 そちらに誰も、何も返してきませんでした。

 スチュワート君は、時々、おかしなことを言うという傾向があります。

 しかし、そちらに誰も返してこないというのは、おかしいんです。

 それらから考えると、あの中の誰かが、王子になっている夢を見たという話を、私が来る前にしていたーーという可能性が高くなります。


 そして、あちらの七月十日。

 リエラさんは私に『ヒューさんも王子様ですか?』と聞きました。

 『も』ということは、誰か他にも王子であるーーという可能性が非常に高くなります。

 あちらでの十一月八日。

 コランダム城で見つけた、他国の王族の写真。

 彼らの性格や特徴。

 そして、私と神月さん。

 全員、恐いほど似ているんです。

 これらの情報から導き出せること……。

 彼らも王族であるーーという可能性が非常に高い。


 そこで、朝の予鈴が鳴り、八神は部屋から出て、2−Cの教室へ向かった。



 暖房のぽわっとした温かさが広がる教室。

 策略家は知らない振りをして、優雅な声で、出席を取り始めた。


「如月君」

「おう」


 いつも通りの生徒らしくない、誠矢の返事が返ってきた。八神は心の中で、情報整理。


(あなたは、セリル グェンリード。

 春日さんとは、あちらの世界では兄妹です)


「白石君」

「はい」


 祐の人を引き付けるような声が響いた。


(あなたは、ユーリ ソフィアンスキー。

 あなたのお兄さんは、カータ ソフィアンスキー。

 こちらでの名前は、櫻井 正貴さんです。

 あなたの義理のお姉さんは、アイシス ソフィアンスキー。

 こちらでの名前は、神月 愛理さんです。

 リエラさん、神月さんのお姉さんです)


「スチュワート君」

「は〜い」


 寒い教室に、春風のようなルーのふんわりボイスが舞った。冷静な策略家でもたどり着けない人物が、


(あなたが、唯一、わからないのです。

 どなたなのでしょう?

 ラピスラズリの国は、海と陸、合わせて五つ。

 コランダムは全ての国と、国交があります。

 他国の資料もあります。

 しかし、あなたの写真は見つかりませんでした。

 それらから導き出せること……。

 あなたは移動していないーーという可能性。

 あなたは王族ではないーーという可能性。

 もしくは、別の何かがあるーーという可能性。

 あなた一人、おかしいんです。

 七月八日。

 昼休みに、私はあなたたちのところへ行きました。

 そちらで、私は全員に、『何の話ですか?』と聞きました。

 そちらに最初に言葉を返してきたのは、あなたでした。

 『夢の話です』

 おかしいんです。

 私が声をかけて、あの中で最初に言葉を返してくる可能性が一番高いのは、如月君。

 二番目に可能性の高いのは、春日さんです。

 あなたが最初に返してくるーーという可能性は、ほぼゼロに等しいんです。

 そして、あなたは私に『光先生は、昨日、夢を見ましたか?』と聞きました。

 私は『いいえ……見ていませんよ』と否定しました。

 それなのに、あなたは『光先生は、王子サマになりましたか?』と聞いてきました。

 見ていないと応えたのに、そちらの質問をしてくるのはおかしいんです。

 こちらの時点で、そちらの質問を私にしてくるのは、他の人とは別の情報を知っているーーという可能性が非常に高いんです。

 なぜなら、そちらの時点では、日付は一日も進んでいなかったのですから)


 夢だとみんな思っていたのに、ルーだけ夢じゃないと、最初から知っていたということだ。

 シリーズ始まって以来、ミラクル天使は他の人と、生きている条件が違う。八神が読んだ通り、別の情報を持っている可能性大。ルーに霊感はない。でも、七月八日の放課後、亮と帰った時、見えない誰かと話していた。それは、別のことが原因。


(七月十三日、月曜日。

 こちらの日も、私は昼休み、あなたたちのところへ行きました。

 私は全員に、『今日は何の話ですか?』と聞きました。

 そちらに最初に言葉を返してきたのは、またあなたでした。

 『花火大会の話です』

 おかしいんです。

 そして、如月君が花火大会の条件を提示してきました。

 最後に、私に確認してきたのも、あなたでした。

 『光先生、どうですか?』

 私は『それでは、参加させてもらいますよ』と応えました。

 如月君が『七月二十五日、夕方五時に、オレん家の病院の屋上に集合な』と言いました。

 その問いかけに、あなたは『わかった』と応えました。

 あなたは、嘘をつくーーという傾向はありません。

 あえて言わないということはしますが、嘘をつくことはしません。

 これらの情報から導き出せる可能性、それは……。

 あなたはあちらに移動する日時を知っているということです)


 さすが、策略家、ここまで読んでくるとは。シリーズ1は、ユーリはルーの正体を知る必要なしと言っていたが、無意識化でわかっていた。シリーズ2では、セリルはルーの正体をあることで直感したが、問いたださなかった。今シリーズで、ルーの正体と、なぜ知っているのかの理由に、たどり着けるかもしれない。


(七月二十五日。

 如月君が『三組に分かれて、買い出しな』と言いました。 

 そちらに最初に反応したのは、あなたでした。

 『美鈴ちゃん、ボクと手つなぐさん♪』

 また、おかしいんです。

 私はその後、神月さんと買い物に出かけて、燈輝さんとお会いしました。

 偶然……とは思えないんですよ。

 あの時、私は二回、何かを感じた気がしたことがありましたからね。

 そうなると、偶然ではなく、必然であるーーという可能性が高くります。

 そして、花火大会の話を私に振ってきたのは、あなたでした。

 それらから導き出せるもの……。

 あなたは、燈輝さんに私たちが会うことを知っていたーーという可能性が出てくるんです。

 しかし、また、おかしいんです。

 その後、私たち三人は、みなさんのところへ戻りました。

 そこで、燈輝さんとあなたは自己紹介をしていました。

 ふたりは初対面なんです。

 では、なぜ、あなたは彼が来ると知っていたのでしょう?

 別の情報を知っているーーという可能性がさらに高くなるんです)


 ルーだけいつもおかしいのだ、シリーズ通して。八神の読み通り、

 花火大会の時、ルーは真っ先に、

 『美鈴ちゃん、ボクと手つなぐさん♪』と言って、

 その時の心理描写は、

 『彼と彼女が一緒じゃないと、困るんだ』

 という、八神と亮をペアにさせようとしていた。

 燈輝と会わせようとしていた意図があるのに、ルーと燈輝は初対面。

 ルーは人間だ、予知などできない。

 新たな謎が……。


 冷静な頭脳を稼働させながら、策略家はずっと出席を取り続けていた。


「春日さん」

「はい」


 美鈴はいつも通り返事を返した。


(あなたは、ミリア グェンリード。

 あちらでは、如月君の妹です)


 八神は、最後の人を呼んだ。


「神月さん」

「はい」


 亮は普通に返事を返した。


 記憶力に優れた八神。

 神がわざと見し過ごした、二十年前の出来事は、いつまでも色褪せない。

 八神の中の時間は、未だその時のまま。


 策略家はひどい喪失感と対峙しながら、名簿を閉じ、ほんの一瞬目を伏せた。


(神月さんが生き続けるーーという可能性を高くしたい。

 ですが……方法が見つかりません)


 瑠璃色の髪の策略家は朝のホームルームを終えて、廊下を優雅に歩き出した。


(初めて、あちらに移動する前日のこちらの日付は、七月七日。

 あちらの一度目の時間は、七月七日〜八日の二日間。

 こちらは一日も過ぎていなかった。七月八日。

 二度目は、七月九日〜十日の二日間。

 あちらも一日も過ぎていなかった。

 こちらへ戻ってくると、日付は一日過ぎていた。七月十日。

 こちらの世界はあちらから戻ってくると、時間が勝手に過ぎる。

 三度目にあちらへ行く前日のこちらの日付は、七月十三日。

 あちらで過ごした時間は、七月十五日〜十六日の二日間。

 この時点で、あちらの日付も勝手に過ぎるーーという可能性が出て来た。

 そして、時間の経過は、一定ではないーーという可能性も出て来た。

 戻ってくると、こちらの世界は、七月十五日)


 女子生徒の憧れの眼差しを、巧みにかわしながら、八神は歩いてゆく。


(日付が前後していることがある。

 四度目にあちらに行くまで、こちらで過ごした時間は、七月十五日〜八月三十一日、一ヶ月と十六日間。

 あちらで過ごした時間は、九月二十八日〜十月二日の六日間。

 こちらへ戻ってくると、九月二日。

 あちらで六日間過ごしたのに、こちらでは一日しか過ぎていなかった。

 今日は一月二十五日、月曜日。

 前回こちらの世界で過ごした最後の日は、昨年の十月三日。

 あちらの最後の日付は、十一月十一日。

 今回、あちらにいたのは、十四日間。

 その間、こちらで過ぎた日数は、三ヶ月と二十二日間)


 激情の渦に飲み込まれそうになり、それを抑えるため、瑠璃色の髪を策略家はかき上げた。


(あまりにも早すぎます。

 これらのことで、過ごした時間と勝手に経過する時間は、一定の法則がないーーという可能性が非常に高くなりました。

 すなわち、いつ世界を移動して、どれだけ過ごして、どれだけ勝手に過ぎるのか予測が出来ません。

 次は、いつ、あちらへ行くかわかりません。

 あちらが何月の何日になっているか予測出来る情報がありません。

 こちらにいる間に、出来る事をしなければ、手遅れになるーーという可能性が高くなります。

 スチュワート君に聞くことで、解決出来る問題であるーーという可能性が非常に高いです)


 廊下の端を、冷静な瑠璃紺色の瞳で捉え、


(しかし……今、彼に聞いても、情報を引き出せるーーという可能性は非常に低いでしょう。

 なぜなら、彼は、神月さんの呪いのことを知っているーーという可能性があります。

 そちらから導き出せること……。

 彼女が死ぬかも知れないという事実を知っていて、あえて、伝えてこないーーという可能性があります。

 ですから、スチュワート君には、今は聞くことが出来ません。

 何か重要な意味があるのかも知れません。

 今日、一日過ごして、あちらへ戻るーーという可能性があります。

 全てから判断すると、私が今日すべきことは………そちらの方がいいでしょう)


 八神はラピスラズリでしてきたことを、この世界で実現させようと決断し、授業のある教室へ優雅な足取りで向かった。

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