神の戦略
時はちょうど、リエラが神月 亮として転生する、三年前。
ある重大な出来事が起こった。
ーーーーーーここは天上界にある、スメーラ神殿。
スメーラの部下ーー秋は、出された指示に、思わず後ろへ倒れそうになった!
「えぇっ!? さ、さようでございますか!?」
かろうじて、倒れずにバランスを保った秋は、乱れた黄色の髪に構わず、震える声で、
「そ、それでは……あの者には荷が重すぎるのでは……」
対するスメーラは落ち着いた様子で、立派な椅子に腰掛けたまま、
「彼の者がどういう者か、きちんと把握していますか? あの者は、特殊な考え方をする者ですよ」
その質問を聞いた秋の瞳は、驚愕に染まった。
「……あの、もしかして、今回のことはご存知だったのですか?」
「えぇ、こうなることは予測していましたよ。あの時から」
平然と返してきたスメーラの前で、秋は一メートルほど飛び上がった!
「えぇっ!?」
落としそうになった資料を抱え直し、
「では……なぜ、スメーラ様はお止めにならなかったのですか?」
(スメーラ様のお力なら、今回のことは阻止出来たと存じますが……)
真剣な眼差しを向ける部下を、スメーラは静かに見つめ、逆に問いかけた。
「なぜ、だと思いますか?」
秋は落ちつきなく、床や壁のあちらこちらへ視線を動かし、
「…………」
(なぜ、このようなことを、わざとスメーラ様はされたのでしょう? 意味があること、なのでしょうか? こんなことで……本当によかったのでしょうか?)
答えを見つけられない部下に、スメーラは優しく、
「もっと広い視野と、先を見る目を養った方がいいかも知れませんよ。私たちは、人ではありません。神なのです。十年、二十年先を見るのではなく、千年、一万年、さらに 先を見て、常に行動しなければなりません。世界全体が、いい方向へ変わっていくことを常に考えなければいけません。ですから、もう一度、彼の者の考え方を分析し直して下さい」
秋は顔を上げ、しっかりとうなずいた。
「はい、わかりました」
きびすを返して、出口へ向かい始めた部下の背中に、スメーラは一言。
「先ほど告げたことは、すぐに実行して下さい」
(すべての者を守るためには、これが鍵となるのですから)
秋はさっと振り向き、
「はいっ」
しゃきっと返事をして、謁見の間から出ていった。
一人、謁見の間に残ったスメーラは。
はるか遠くーーまるで、別の宇宙、空間を見つめるように、じっと扉を凝視する。
「一体、どれだけの嫉妬心を持てば、あの者は気がすむのでしょう。そのことで、他の者はおろか、自分自身も幸せになることは、決してないというのに」
ひとつ嘆息すると、さっと席を立ち、右奥の部屋へ入っていった。