導入①
さて、まずはどうするべきか、、。
無事、剣と魔法と理不尽の世界へ召喚された二宮 茜は一人ごちる。
二日前、それは軽い頭痛から始まった。
「茜ー、学校遅れるわよー!」
朝、布団から出るのが辛い1月半ば、追い討ちをかけるようにして明け方から頭が痛い、、母が階下からこちらを呼ぶ声にエコーが掛かっているように頭の中に反響して疼く。
「茜ー!」
痺れを切らしたのかどんどんと音を立てて階段を上る音が聞こえてくる。
「今日は頭痛いから、休む!」
ドアの前でノックをされる寸前でかろうじて返答する。
「えー、、今日から出張なのに、休むしか無いかしら」
戸惑うような母の声、大したこと無いからと出来るだけ元気に答えて無理やり送り出した。
二宮家は母子家庭、たまの出張にはもう慣れたものだ。
「熱計りなさいよ、ご飯とお金、下に用意してあるからね、、。」
最後に聞いた母の声は心配そうに私を気遣ってくれていた。
この時の私は、前日のネットゲームのやり過ぎで知恵熱が出たんだろう位に思っていたんだ。それから数時間、私は周期を伴って猛烈に痛くなる頭、吐き気、指先の痺れから全身に広がる麻痺を経て翌日の朝には、冷たくなってベッドと壁の隙間に挟まりこんでいた。
結果、急性脳出血だったのだ。
目を開けると、蛍光灯のような青白い光に包まれた四角い部屋にいた、、さっきまでの痛みから病院を連想するけど、、違う。
ベッドも無ければ窓も無い、監獄のような冷え冷えとする世界。
「もしかして死んだかな?、、せめてセックス位はしてから来たかった、、生物としては、、、。」
そう言って一度も使うことの無かった自分の体をかえりみるように下を向く、視点は確かに下がったが、見慣れた胸の膨らみも、足も見えない。
「なんともまぁ、俗っぽいんだか、色っぽいんだか、哲学臭いのか良く解らない感想だね?」
突然、聞こえた自分とは異なる声に反射的に視点を向ける。
薄く笑う薄情そうな色白の男性が逆さまになってついと此方を見下げていた。
「はじめまして、茜、私の名前はアテナイ、争いと発明の神をやっている者だ、ああ、分かってるどうせ君は今しゃべれない、思うだけで此方には伝わる、、んん?そうだ、君は死んだのさ、若いのに脳出血とは運がない、、おっと君の母親かい?出張から帰って来て君を見つけて、大分落ち込んでるみたいだ。うわ言のように一人にしてごめんねと呟いている、、、これは、遠からず死ぬな、何も食べて無くてもう三日以上眠れてない。」
母さん、母さん、、、ごめん。急に死んじゃって、お別れも言えてない。それに死ぬってちゃんとご飯食べてよ、、どうしようもなかったんだからそんなに自分を責めないで、、母さんのせいじゃないから、、。本当にごめん。
「どうにか、、何とかならないの?」
「なるよ。そのために、私が来たんだから。」
うっすらと口元を歪めてアテナイは目を細める。巣にかかった獲物を眺める蜘蛛のように無機質な笑顔だった。