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1 最後の晩餐

 日付も変わった深夜一時。男はくたびれたスーツ姿のまま、コンビニへと向かった。

 いつもの入店音が鳴り響く。

 男には何故だか、その入店音が懐かしく思えた。

 店内にお客は誰一人いなかった。

 レジには、まだ若そうな女性の店員がレジ前で突っ立っている。

 男は、迷うことなく、レジ前に向かった。お目当ては、コンビニのホットスナック、このコンビニの目玉商品、ファミチキだ。

 夜も更けたこの時間では、すでに売り切れてる場合がほとんどのはずだが、そこには、美味しそうなファミチキが、油を輝かせて、そこに鎮座していた。

 男は出てきたつばを飲み込んだ。

 男はそのままレジへスライドする。

「いらっしゃいませ」

 店員が軽く会釈をする。

 名札には北斗 真理と書かれている。

「あ、すいません。ファミチキ二つ……いや、三つください」

「かしこまりました」

 店員は棚からファミチキを取り出し、袋に入れていく。

 男はその間に財布を出そうとする。

「……あれ? 財布……ポケット……ないな。あれ?」 

 男は慌てふためいた様子で、ズボンのポケットやジャケットのポケットに手を突っ込む。

「お客様、お財布をお忘れですか?」

「うーんすいません、どうやらそうみたいで……ごめんなさい、すぐに家まで取ってくるので!」

「……お客様、お客様はいつも当店でファミチキを買ってくれますね」

「へ? まぁ、そうですね……僕はファミチキ大好きですので」

「ふふっ、いつも御贔屓にしてもらっているお礼に今日はサービスしますよ」

「ええっ? いや、でも……本当に貰っていいんですか?」

「ええ。お客様が当店で一番ファミチキを買っているお客様ですから」

「いやぁ、じゃあお言葉に甘えちゃおうかなぁ……」

 女性店員は、ニコッと笑いながらファミチキの入った袋を男に渡した。

「お客様……最近ファミチキを食べてなかったでしょう? もう我慢できないのではありませんか?」

「え? えっと、そういえば最近ファミチキを食べていない気がする……」

「今ここで、食べてもいいですよ」

「えっ!? いやぁ、それは流石に……」

「でも食べたいでしょう? ファミチキ。今すぐにでも」

「……ふぁ、ファミチキ……」

 男の目線がぐらぐらと焦点を失っていく。

「欲しいでしょう? ファミチキが」

「ほ、ほっしぃ……ファミチキ、ほ、ほっほ……」

 男は理性を失った様子で、ファミチキにかぶりついた。

 極限まで腹を空かせたライオンのように、その様は食事ではなく捕食と呼ぶに相応しい光景だった。

「美味しいですか?」

 男は無言で咀嚼を続けている。

「良く味わってください。それが……」

 男は、口の中のものを全て飲み込む。

「貴方の食べる最後のファミチキなのですから」

 店員がそう言い終わると同時に、男は意識を失った。



「転生希望者、黒瀬累くろせ るい性別、男、25歳没」

 男は自分の名前を呼ばれて目を覚ました。

「死因はトラックに轢かれて即死。ん? 遠因としてはファミチキ中毒? えっと、職場のストレスを、好物のファミチキのやけ食いで誤魔化し続けた結果、健康診断に引っかかる」

 フッ、と小馬鹿にしたような嘲笑が聞こえてくる。

「医者にファミチキを控えるように言われて、ファミチキ断ちをした結果、ストレスが限界地に達し、難聴、眩暈、言語障害、果てには、夢遊病を引き起こし、ある日、真夜中に道路の真ん中に寝ていたところをトラックに轢かれた……あんた、可哀相だね」

「……ここはどこだ」

 男は……累は、辺りを見渡しながら言った。

 殺風景な部屋だった。何もない白い部屋、家具も何もない。それどころか、窓も扉もない。そこに累と先ほど嘲笑した小太りの女性がいた。

「ここがどこだろうとあんたには関係ないけど……分かりやすく言えば、死体安置所と言ったところかな」

「俺は死んだのか?」

「死んだ」

 間髪入れずに答えられて、累は動揺した。

「黒瀬累、あんたは、今あたしが言ったように、トラックに轢かれて死んだ。普通なら、天国とか地獄とかに行って、輪廻転生を待つが、あんたはそのまま転生するように、神様に言われたから、今は、転生の準備中ってわけ」

小太りの女性は一枚の書簡を取り出す。

「死者、黒瀬累は、あまりにもあんまりな死に方、そして、その死の遠因が、ファミチキによるというのは、我々としても不服極まりないので、即時転生者にするようここに記す。第一主神斗真理……ようは斗真理様にあんたは気に入られたってわけだ。よかったな」

「……」

 累は思い出していた。最近流行りの異世界転生物の小説。あれは本当だったのかと。

「そして、お前は元いた世界ではなく、別の世界に行ってもらうことになった」

「異世界転生だ!」

「うわ、急に大声出すなよ」

「本当に異世界転生ってあるんだな……あれって経験談だったのか?」

「急に元気になって怪しい奴だな……これも斗真理様からの指示があって、お前は異世界に転生することになった」

「なんか、特殊な能力とかくれるんだろ?」

「は? 何言ってるんだお前」

「それかすごい道具か? スマートフォン持ってたかな俺」

「何を言ってるか分からないけど、お前は、ただ単にそのまま転生するだけ。まぁ、記憶とかは引き継ぐけど」

「え? だって、こういうのって特典が貰えたりするんじゃ……」

「死んだ人間にどうして特典を授けなきゃいけないの。そんな甘い話があるわけないでしょ」

「……」

「あぁ、そう、斗真理様曰く、あんたが異世界に行くことになった原因だけど」

 女性はニタッと笑って、

「またあなたに中毒になってもらいたくないので、ファミチキも何もない、文化があまり進んでない世界に行って、健康で過ごしてくださいね。だって」

 女性は指をパチンと鳴らした。

 その瞬間累の足元が落とし穴のように開き、累は真っ逆さまに落下していく。

「精々、健康に生きておくれよ。ファミチキ中毒さん」

続きを上げるか不明です。

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