煙湯舟
村の集合場所で僕は祀られた
「おめでとう」 「よかったね」 「いってらっしゃい」
「必ず帰ってきて 又遊ぼうね」そう皆が僕を祝福する
僕はこの村で12年ぶりに試験に選ばれた
でも僕は嬉しく無い 皆と別れるのが嫌だった
それでも僕は大大浴場に呼ばれ 何かの儀式をされる
皆が見ている中 僕は湯が流れている大きな筒を登りだす
登って登って随分遠くまで来た 下を覘いても
湯気のせいで既に下は見えない 試験場所にはまだつかなかった
僕は登る 選ばれた者はそうしなければならないと言われている
不意に体が宙に浮いた 手を動かし間違えた 僕は登っていた筒から落ちてしまった
永い間落ちて 僕は温いお湯に沈んだ
溺れかけ 水面に急ぐ 顔を出したそこは 真っ暗で大大浴場でもないようだった
体が流されている このお湯はどこかへ流れているらしい
暫く漂っていると 急に流れが早くなり 僕はあわてた
流されるうちに大大浴場にあった筒に似たものに僕は入っていく
そして
僕は知らない街についた 瞬きをしてからお湯から上がり
道路を歩きながら 人を探した
黒い仮面を被った人が居たので 試験場所について聞いてみた
その人は高い塔を指差した
礼をして 高い塔に歩いていく
入り口に着くと 赤い仮面を被った人が二人いた
二人に名前を言うと 二人が片方ずつ扉を開く
中に入ると 階段があった
窓が無いのに明るいその通路は
上に行けば行くほど明るくなっていた
不意に視界が開けた 小部屋ほどのそこには
壁も天井もなく ただ正面に一人
女性が立っていた 「やぁ」 そう言われる
挨拶と名前を言うと「君の村はそんな言語なんだね」 とその人は笑う
何処となく困惑している僕に その人は歩み寄ってくる
僕の頬に手を当てて 軽く撫でてくれた
「君はね 私と暮らすためにここに来たんだよ アメア」
アメア その名前は聞き覚えが無かった
自分の名前じゃない けれど何故か昔からそう呼ばれていた気がした
そしてそう呼ばれた時 その女性の名前がなぜかわかった
思わず名前を呟く 女性がしゃがんで僕を見て
「お帰り」
といった その瞬間から村の記憶が徐々に薄れていく
その代わりにこの街での記憶がはっきりしてきた
そうか 僕は 過って水路に落ちて
あの村に…
それから僕は永く街にいた
村の事をすっかり忘れて
そんなある日僕は気になる物ができた
空の上を走る管のような筒のような物
何かどこかで見たような 表現に困る感情が沸いてくる
僕はそれを追いかけてみた それは高い壁の向こうへつながっていた
どこか此処ではない場所が恋しくなっている
誰かと何かを 約束したんだ
「…何処へ行くの」
彼女が僕を呼び止める けれど
僕は 振り向かなかった きっと 振り向いてしまえばまた
この街でのなにもない日々が始まる気がして
気が付けば走っていた
其処に行きたかった 何があるのか忘れてしまったけれど
よじ登って 建物を越えて 筒の前に来た
もう一度彼女の声がする 「どうしても行くの?」
こくんと頷く 僕は筒を壊して 中に入ろうとする と
中から溢れて来たお湯に流されて 建物から落ちかけた
流れ続ける御湯の中を彼女が僕によってくる
そして僕の手を取って言った 「いってらっしゃい」
彼女は僕を起こして 筒の中に押し入れる
僕はすぐに流される 最後に見えた彼女の顔は泣いているように見えた
流れ流れて流されて
僕はついに 大大浴場に帰ってきた
お湯の中から身を起こす
目の前には見た事のある人がいて
「・ ・ ・ お帰り」
そう言った 「ただいま」
笑顔で返事をして 僕は ・ ・ ・