三年蓮組の授業風景 肆
そこは一言で表すならば黒い森。と表現するのが最も相応しいだろう。
生い茂る木々は幹はもちろん葉も全て黒く染まっており、それらが生やす針葉樹が禍々しい雰囲気を醸し出している。
ただその森に現在獣の咆哮と柔らかい肉を切り裂く蹂躙する音が響いている。
その中心にいるのは無数のライオン程の大きさをした魔獣とそれらに囲まれている赤毛の少年だった。その少年の周囲には様々な武器が浮かんでいた。
魔獣は幻獣種にカテゴライズされるスコルと呼ばれる大型の狼のような魔獣だった。
少年を取り囲んでいたスコルの一匹が少年に飛びかかる。
「っっ!切り裂けシューラヴァタ!」
少年の周囲に浮かんでいた短い槍が飛びかかってきたスコルの脳天に突き刺さる。
脳漿が地面に飛び散り、周囲を赤黒い血で染まる。
だがよく見ると既に見渡す限りの地面や木々は既にこれとないほどに血と肉片で汚れきっている。
「はぁ、はぁ。どれほどおるのだこいつ等は。というか普通これだけ仲間を殺されてたら逃げ出すだろうにッ!」
少年、シーアは息を切らしながら自らに飛びかかってくるスコルを手に持った剣で切り伏せる。
頭に浮かぶは自分が無事に生き延びれるか。ではなく咄嗟に逃げさせた少女の安全だった。
「スーリヤ・・・」
獣の咆哮はまだ止まない。
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「さっ、次々いくわよー。次は私とじゃなくて組手形式でやってもらうわ。」
そういう影宮は腰かけたまま指を立てて迷う素振りを見せる。
「はい!はい!拙者!虚兎殿と試合したいでーす!!そんでそんで組んずほぐれずの近接戦闘の訓練がしたいでござる!デュフ」
手を挙げて腹を揺らしながら意見を述べるダム・ダヒアイリヒ。
そしてその様子を見て指名された虚兎はもはや能面のような貼り付けた笑顔だ。
心なしか虚兎の体からバチバチと雷を放っている。
「いいですよ。ただし、間違えて消し炭にしちゃってもいいですよね」
「いいけどこっちに飛び火すんなよ?虚兎さん本気なると周りの被害考えないんだから加減してくれよ。いやマジでお願いします。いやだぜ俺またあんたがふっ飛ばした第二訓練場の後始末させられるみたいなのは」
それを聞いて虚兎は先ほどまでの恐ろしい雰囲気を崩し、顔を赤らめて恥じらうように手を合わせる。
「だってあれはしょうがないじゃないですか、いきなりダムさんが変なこというからついカッとなっちゃって、えへへ」
「ったく、えへへじゃねぇっつの」
「さ、そろそろいいかしら?この椅子座り心地悪いのよねぇ」
よっこいしょ、とどこか古臭い掛け声で椅子。正しくは横たわっていた組長の背から腰を上げる。ついでに背中に蹴りを入れるのを忘れることなく。
「げふぇ、おいおい。先生ひどくね、凹した挙句に椅子にして座り心地悪いとか。まぁ仕方ねぇよ。俺の背中は妹専用の椅子だからな。先生の尻の大きさじゃあなぁ」
「ぶち転がすわよ、腐れシスコン。あと、一旦授業中止ねー」
「え?なぜですか影宮先生」
影宮から突然の授業中止の言葉に首を傾げる虚兎。彼女は根が真面目な為に影宮の言葉に戸惑いを隠せないようだ。
そんな虚兎を見て組長は普段から浮かべているニヤけ顔をさらに深め。
「妹よーこっちゃこいこっちゃこい」
組長はそう言うと妹へ向けて手招きをする。
そしてトコトコと兄に向けて歩いてきた妹へ背を向けると、そのまま妹を背に乗せる。
「おにぃの背の乗り心地だけは評価する」
「あぁ、妹に褒められて嬉しすぎて踊りだしたい気分だが」
先ほどまでのニヤケ面はそこには無く、鋭い視線を草原の先へと向けていた。
その視線の先には未だ遠く微かにしか姿を捉えられないが一人の人間が数十匹もの魔獣から逃げる様子が伺えた。
魔獣から逃げてこちらへ向かってくる様子に気付いた蓮組はそれぞれが戦闘準備をしながら組長の様子を伺う。
「組長どうします?」
虚兎はみんなを代表してか組長に問いかける。
都市街においては全て自己責任。勿論今回のように授業で都市街に出る際は教師に決断権はあるが、しかしこの影宮という教師はこの蓮組の担任になった当日に『都市街においてのトラブルは全て組長に任せたわ!責任は私がとるから安心しなさい』とその言葉をもし他の組の教員が聞いたなら卒倒するであろう発言だが蓮組の面々は二つ返事で頷いた。
その理由は影宮では蓮組の制御は不可能という自己評価と自分がこの特異過ぎる集団の手綱を握るよりも最も相応しい者がいるという極々単純な理由だった。
「助けるぞ、行くのは俺と虚兎、それに佐藤で行ってくる。あとは適当に万が一打ち漏らした場合に備えてここで待機」
「「「「了解」」」
組長の指示に蓮組全員が即答する。
それを見ていた影宮は妹を背負ったままの組長に向けて口を開いた。
「行く前に確認、救出部隊の選出理由は?」
まるで授業の延長とでも言うように影宮質問する。
その質問は待ってましたとばかりに組長は先ほどまでの真剣な表情を消し。代わりにいつも浮かべているニヤケ面を表す。
「追われてるやつを守るには虚兎は適任だし、佐藤なら器用に虚兎をフォローしながら戦えるつかこの二人以外はあの逃げてきてる奴もまとめて吹き飛ばすだろ」
「いい答えよ、その答えに免じて遅刻による成績の減点は無しにしといてあげる」
「まじかっサンキュー影宮ちゃん」
「教師をちゃん付けすんじゃないわよ。ほら行ってきなさい」
「おっけー行くぞおめーら」
組長は背負っている妹をもう一度確かめるように背負いなおすと虚兎と佐藤へ向けて声をかけると虚兎と光太郎も準備が終わった様子だった。
虚兎は手に金剛杵を手に持ち、光太郎は鉄火から手ごろなロングソードを受け取り終わったところだった。
「さっさと行こうぜ組長。襲われてる人が心配だ」
「えぇ、早く行きましょう」
二人の返事を聞くと組長は妹を背負ったまま、走り出す。
妹を背負いながら走るその姿に誰も何も言わないまま、二人も組長に続いた。




