三年蓮組の授業風景 参
高い壁に囲まれたとてつもなく広い箱庭、それが現在の日本を表すにふさわしいだろう。
外敵を防ぐために建てられた堅牢なる盾、それが民を安心させると共に悪意ある敵を拒む。
10年前に滅びかけた世界、その際日本という国は一人の男によってまとめられ束ねられ守られた。
それが現在の日本、世界の大陸が一つになり魑魅魍魎が蔓延る世界になっても未だ存続を続ける小国である。
そんな高き壁に囲まれた小国、10年前と同じビルが立ち並ぶ町並みの中をのんびりと歩く兄妹の姿があった。
「また、にぃのせいで遅刻・・・」
「そういうな妹よ、そう膨れては可愛い顔がより可愛くなってしまう。
おまえは兄を犯罪者にさせたいのか?」
「?いまさら、変態から変質者にくらすちぇんじしても、どうとも思わないよ?」
「オッフ、妹の心無い罵倒が兄を襲う・・・だがそれがいい!」
そう首を傾げながら自らの兄に純粋な瞳を向ける、小柄すぎる少女。
学校しての制服が大人っぽい制服なのも相まってか背伸びをした小学生にも見える。
そしてそんな少女に対し、真面目な顔で良識がある人間が聞けば即通報待った無しの妄言を体を垂れ流す青年。
平均的な身長に終始にやにやと口角を上げたその顔はにやにやと笑ってさえいなければ、顔の作りはそこまで悪くない。
その少年は黒の学校指定の制服を来ているが普通の制服とは違って制服の至る所にポケットが縫いつけられており、その上にロングコートを来ており、そのにやけた顔と合わさって子供が初対面で遭遇すれば即防犯ブザーに手を伸ばすだろう。
「ところでだ、妹よ」
「なに?」
「あの脳筋教師・・・怒り狂ってると思うか?」
「教室入った瞬間、殴り飛ばされるのは、確定」
そう気怠げに欠伸を交えながら妹は兄に答える。
「そ、そうか。安心しろ妹よ兄が必ず守る!」
「マッチポンプ乙」
のろのろと兄妹が歩いていると正面の道から見覚えのある人物たちが歩いてきた。
その姿は見上げるほどの巨躯を黒い鎧に包んだ男とその男に背負われる青白い顔をした黒髪の少女。
さらに少女の血色の悪い顔の上に青い半固体の物体がプルプルと震えている。
「ん?サンフトとユリとスライムじゃん、おいおいどうしたんだよサボリかよ!!俺も混ぜろよ!」
サンフトと呼ばれた黒鎧の少年が巨体をねじらせ、見下ろすように兄を見ると兜で見えないが口を開いた。
「お、おはよう。組長。さ、さぼりじゃ無い。壁外体育に、む、向かう途中でユリさんが、た、倒れたから休憩して、いま向かってるところ」
外見とは裏腹に弱々しい声でサンフトがそう伝える。
それを聞くと兄はにやにやした顔を一瞬真顔に戻す。
「お、おわった・・・壁外だとッ一発殴られるだけじゃ絶対にすまないではないか!ここなら汚れないし、とか言って槍を持ち出してくるにきまってる!妹、今日は体調が悪いからおうちに返ろう?ね?ね?」
真顔で妹にそう言うと妹は少し考えたそぶりをしたあと兄の袖を握り少し微笑んで。
「だめ、そんなことしたら私まで怒られる・・・」
「あぁ!?妹にそんな瞳で見られあまつさえ袖をひっぱってもらえるなんて、これにあらがうことはできるわけがないっ」
「い、一緒に行く?」
「左様!共に行こうぞ!」
サンフトが提案した突然、ユリの頭に乗っかっていた青い半固形物体から声が発せられた。
「スライム、起きてたの」
「おお、起きてましたとも!ユリ嬢が倒れたので頭を冷やすためにここにおるのです。」
「おっすスライム!やっぱりお前は善意の固まりだな!片栗粉の精霊とか前に漏らしたことも許してくれ!」
「それは未来永劫忘れることはないだろう」
プルプルと震えるスライムは不快感を表すように激しく揺れる。
「そ、それはそうとそろそろ、い、行こう?か、影宮先生に怒られちゃうよ?」
「そ、それは不味いな・・・」
そう言うよ兄は袖を妹に握られたまま逆方向に歩き出す。
「い、妹よ。兄が死んだら強く生きろよ」
「大丈夫、おにぃが死んだら。日本で三日三晩の宴会の準備は出来てるから」
「それは初耳だ妹よー!!」
向かう先は遠くへ見える高く厚い壁。
その越えた先は油断したモノから死んでいく弱肉強食の世界である。
_____________
刃と鎖。石突きと強靱なる肉体との衝突する打撃音が、広い草原に連続して響きわたる。
「いいわよ静波。ちゃんと制約は守られてるようね、安心したわ」
「ぬかせ年増ぁ!勝負はこれからだろうがぁ!」
静波の拘束衣から振り回した鎖が影宮へ襲いかかる何本も襲いかかるそれはこの世界に蔓延るモンスターだったとしても直撃を受ければその命、もしくは深い傷を与えるだろう。
しかし影宮は音速にさえ達するその鎖を神懸かりとさえいえるその槍裁きで抑え、受け流し弾き返す。
「このっ」
「まだまだ、権能の掌握にはほど遠いわね」
鎖の打撃の連鎖を断ち切った影宮は静波の懐へ飛び込む。
だがそれは予測通りと言わんばかりの拘束されていない静波の強靱な膝蹴りが影宮の顔面に迫る。
「だから甘いのよ、まぁそこが可愛い教え子の良いところなのだけれど」
静波の膝が影宮の顔に触れた寸前、影宮の体がブレる。
そして蹴りが影宮に触れた瞬間。影宮の体が黒く霧散した。
「ちぃッ!」
忌々しいとばかりに静波は舌打ちを一つ。
崩れた静波の背後に霧散した黒い影が集まり影宮の形になっていく。そしてそのまま体制の崩れた静波の背後へ槍を突き放つ。
槍の勢いに手加減の様子は無い。
正確に教え子の心臓へ向けて解き放たれた一槍はそのまま静波の心臓へ突き刺さる、はずだった。
「どっちが甘ぇんだよ独身教師!」
静波は蹴り上げた体制を無理に抑えようとはせず、むしろより勢いをつけて足を振り上げる。
そのまま地に着けた片足も地面をへこませるほどの力で蹴りつけ、結果背後から心臓を貫かれるはずだった静波の体は宙へ逃れた。
だが宙に逃げた無防備な敵を逃すほど影宮は甘くはない、空中という逃げ場の無い静波へ向けて槍を向ける。すると影宮の周囲にまたも黒い影が集まりそこから10数本の黒き槍が姿を現す。
「安心しなさい!急所は外すわ、多分ね!」
そう無邪気な笑顔でぬかす影宮は迷うことなく出現させた黒槍を静波へ突き穿つ。
「ハッ!この程度で俺に届くと思うなッ!」
周りに何もない空中、襲いかかるは10数本もの風を切り迫り来る黒槍。
おまけに腕は拘束具で満足に動かせず、自由にできる足は宙に浮き蹴り上げる場所もない。
だが、身を守る術は残っている。
体を捻らせ、体に纏う鎖をしならせ自らの右足へ自由に動かせる鎖を全て巻き付かせる。
即席の足甲を形作った静波は自分に向けて最も早く到達する黒槍へ向けて右足を鞭のように鋭く、しかししなやかに蹴りを放つ。
「オッッラァァ!!」
反発力を受け止める地面もない空中による衝突。
それはいくら強靱な肉体を持っている今の静波でさえもその衝撃は受け止めることはできず弾き飛ばされる。
そして静波がいた場所に黒槍が何本も突き立てられるがそれは虚しく空を切る。
「おっとと、やっぱ動きづれぇ」
そう言いながら鎖を鳴らして地面に着地する静波。
彼は右足に巻いた鎖をジャラジャラと音を鳴らしながら解いていく。
それに伴い、筋肉質だった静波の体が元のしなやかな肉体に戻っていった。
「あれま、もう満足?」
「うん、それに巻き込まれたくないしー」
静波は言葉を切ると巨大な門の方向へ顔を向ける。
歩いてくるのは巨大な黒い鎧姿の大男。それに背負われる黒髪の華奢な少女とその頭に乗っかっている半固形の物体。
そして大男の陰に隠れるようにして歩いてくる、蓮組の組長である<妹狂い>とその妹。
「お、来たわねぇ。サンフトとユリとスライムはいいとして。
<妹狂い>!そして妹ちゃん!」
「おはよう。先生」
他の蓮組の生徒と同じ場所までくると妹は伏し目がちにあいさつした。
そして続けて。
「言い訳タイムぷりーず」
「ん、いいわよー」
「にぃが悪い」
言い訳を5文字で言い終わると、その答えばもはや聞き飽きたとばかりに影宮はこめかみに手を当ててため息をついた。
「はぁ、一応。聞いといてあげるけど、組長は言い訳あ・・・る?」
聞きながら組長の方を向くとさっきまでサンフトの影にいた組長の姿はそこには無く。いったいいつ移動したのやら慌ただしく魔力によって形作られた通信版を操作している、イーゼル・ゲルマンの側に移動していた。
「おい守銭奴。前に注文した奴はやくよこせよ!」
「うるさいぞ腐れシスコン。ほれ、ご注文の品『すけべ妹Ⅷ』初回限定盤ださっさと受け取れ。仕事の邪魔だ」
そういうとイーゼルは包帯を巻いた右手を懐に入れるとそこから小さな箱を取り出し組長へわたす。
そのパッケージには幼い少女のあられもないする姿が描かれていた。
完全に18禁ゲームである。
「うひょー!ハチベェ先生完全新作初回限定版すけまいシリーズの最新作!サンキューイーゼル!!俺授業終わったら速攻こいつのCGコンプしてや「死亡フラグ建設まいどありー!!」
「ぐほぉあ!!」
エロゲを掲げていた妹バカの顔面へアマゾネス渾身の右ストレートが突き刺さる。
その衝撃たるやさきほどサイシネンへのパンチの比ではなく妹バカは空高く打ち上げられ、グシャリと地面へ衝突した。
だがしかし、絶対に汚すことは許さないとばかりにエロゲは両手に掲げられていた。
「私の授業に遅れたあげく欲望に忠実にエロゲとは・・・去勢してやろうかしらッ」
影宮の言葉に反応してガバァッと顔を上げると。
「おいおい先生!一発で勘弁してくれよ!つかいま本気で殴ったろ!自動結界5枚全部ぶち抜くとか生身で受けてたら即死だったのだが!!」
「あんたがこれくらいで死ぬわけないでしょうがそれに、あれで終わりなんて考えてないわよね?」
青筋を立てた影宮がポキポキと拳を鳴らしていた。
それをみた組長は顔を青ざめると今彼にできる精一杯の笑顔で。
「て、手加減してね?」
「善処するわ」
「あ”あ”ぁ”ぁ”ぁぁぁあぁあ」
広けた草原にバカの悲鳴が響きわたった。
________
ギルド直属育成機関『桜花』
それは人間が10年前に突如手にした神のごとき力のその一端。
【権能】と呼ばれる力の制御をするために創設された機関である。
その中でも異質なモノ達だけが集められた組。
蓮組、その組長こそ『妹狂い』と呼ばれる男である。




