4話 問題児 <後編>
「さて、お主らは何故フードをかぶっているのじゃ?」
ここはブリューナク本部の団長室。
マルスの団員服を借りて着ているユミールとハクがフードをかり、その横にいるマルスと一緒に、立派な椅子に座っている団長の前に立たされている。
「例の依頼はもう終わったんですか?」
「午前中は部隊の選出やらの打ち合わせじゃ。あからさまに話を逸らすでない」
「被害者及び加害者の搬送をする場合、顔をできるだけ隠すのはマニュアルに書いてありますよ?」
「ワシに喧嘩を売っておるのか。本部の中は別じゃ」
「ですよね~」
団長の殺気が若干増したのを感じたフード組の二人は、「フードをかぶって顔を見せずに黙ってマルスに全部任せよう作戦」の失敗を感じ、素直にフードを外し作戦Bへと移行する。
すると、いつの間にか目の前の席に団長の姿がなくなっていた。
風を感じて横を見ると、ユミールに抱きついている団長がいた。
どうやら、フードを外したユミールの顔を見た瞬間に、目にもとまらぬ速さでユミールに抱きいていたようだ。
「やぁ~しゃぁしゃぁしゃぁ!久しぶりじゃのぉユミー!もっと顔を見せておくれ~」
「く、苦しぃです…」
さっきの殺気はどこへ行ったのやら、今までにないくらい幸せそうな顔でユミールのことを撫でまわしている。はたから見ると、背が同じせいか、仲のいい友達か、歳の近い姉妹にしか見えない。
「それではマルスよ。今回の事件の報告を頼む」
ユミールのことを人形のように抱きしめつつ、色んな意味で崩壊していた顔を仕事モードに戻してマルスに報告を命じる。
「はい。今回の事件は12時頃、4番街にて起きました。被害者はアトランティア学園高等部1年のユミール・アルケミス。加害者のグループは計5人でいずれもアトランティア学園高等部2年の男子学生とみられ、詳しい身元は現在調査中。犯行内容は強盗と公務執行妨害で現行犯逮捕。団員のハク・ファールティが犯行グループ全員を気絶させ、現在はブリューナク付属病院で治療中。被害者に怪我はありません」
「そうかそうか、ほんとに怪我はないのか?」
「はい、ハクのおかげで怪我はありません」
「よくやったハクよ」
未だにユミールを抱きかかえているアカリがハクにお礼を言う。
しかし、マルスが恐れていた指摘がアカリの口から飛び出す。
「して、何故ユミーの目元が赤くはれておるのじゃ?」
その言葉がアカリの口から出た瞬間、この部屋の空気が凍り付く。
「ち、違うのアカリさん!これは昨日夜ふかししちゃって!」
「ほう、昨晩は何しておったのじゃ?」
「え、えと、え~と、その、て、テレビ番組見てたの!」
((なんて見え見えの嘘なんだ!!))
「そうか…」
ハクとマルスが心の中でツッコミを入れると、寒気を感じるだけだった空気が徐々に殺気へと変化していく。
「ユミーに嘘をつかせたのはマルスか?」
「はい」
「現場で何があったか詳しく話せ」
ユミールから離れ、完全に威厳のある団長に戻ったアカリは、この首謀者と予想されるマルスを問い詰める。
「ユミから聞いた話ですと、4番外で買い物をしていたところ、裏路地の入口付近で5人の青年グループに絡まれ、そのブレスレットを強盗されかけていました。それを探知したハクは飛行魔法を用いて現場に急行したため、怪我に至ることはありませんでした。しかし、到着するまでに、ブレスレットを無理矢理外されて、ユミが獣人であることがバレてしまい、差別的な発言を浴びせられました。これがことの真実です」
作戦Bとは、「もう無理そうになったら開き直ってどうにでもなれ作戦」である。
スラスラとありのままを話したマルスは、冷や汗をかきながらアカリのリアクションをうかがう。
すると、アカリは無言でゆっくりと部屋の扉に向かって歩きだす。
「団長、どこへ行く気ですか?」
マルスがそれを扉の前で行く手を阻み、問いを投げかける。
「決まっておろう。病院じゃ」
「団長はこれから任務があるでしょう。取り調べはミクに頼んであります」
「そこをどけ」
「病院ではなく、任務に向かうのであればどきます」
「二度は言わんぞ?」
その言葉が発せられた瞬間、この場の空気が一瞬にして殺気で満たされる。
ハクやマルスでさえも鳥肌が立つ程に。
「や、やめて下さい!私のためにそんなことする必要ないです!」
殺気が襲い掛かってくる中、ユミールは勇気を振りしぼって説得を試みる。
「そやつらがバカにした獣人と言うものを教えに行ってやる」
「そ、そんなことしたらアカリさんも、ただではすみませんよ?」
「こんな職を捨てることで、ユミーが少しでもここで暮らしやすくなるのであれば、たやすいことじゃ。そういうことじゃマルス」
アカリがマルスの肩に手を置こうとした瞬間、ユミールが奥の手を使う。
「ア、アカリさんがそんなことするなら、わ、私!アカリさんのこと……大嫌いになります!」
すると、アカリの手がピタっと止まる。
「そそそそそそ、それは…困るのじゃ」
かなり動揺しながらも、マルスの肩に置こうとした手を下ろすとユミールの方へと体を向け直す。
「し、しかしユミーは悔しくないのか?」
「もちろん悔しいです。悔しくてしょうがないです。だけど、アカリさんが私にこのブレスレットを渡してくれたときに言ってくれましたよね?
『悔しかったら周囲に自分を認めてさせるのじゃ。獣人として誇りをもって、誰かの役に立つ。そして、お前が馬鹿にした獣人に助けられてどういう気持ちだ?と言ってやるんじゃ。ワシはそうやってここまで来た。お主も周りに認められるようになったとき、これをワシに返しに来い』って…」
隣で聞いていたハクは、何とも団長らしい考え方だ、と関心をする。
「今日はこんな惨めな姿を見せちゃったけど、いつか必ずアカリさんみたいに強くなって見せます!こんなことでクヨクヨしてたら、これを返せる日なんて来ません!」
「…うむ、そうじゃな……」
半分強がりな部分もあるが、ユミールの必死の説得によって何とかアカリを食い止めた。
そのおかげで殺気を放つことをやめたアカリが、改めてハクの方に向き直る。
「さて、さっきは聞き流したが、飛行魔法とはどういうことじゃ?」
「ギクッ!…」
「入団初日に現行犯の逮捕、及び飛行魔法の行使…。ヘクトルめ、とんだ問題児を寄越しおったな。まさか、あの羽で…」
「団長が想像してるものとは違うと思います。見ますか?」
「そうじゃな、一応見ておこうかの」
「わかりました」
ハクが返事をすると、羽を出現させるためにベルに合図を送る。
(じゃあ、頼む)
『あいあいさ〜』
「龍刀流、二の型、翼竜!」
すると、ハクの背中からガラスのような半透明のドラゴンの翼が出現する。
以前は、鞘に入れた刀を背中に背負い、刀に魔力を集中させないと発現できなかった技も、今となっては刀無しで発現できてしまうため、もはや刀の流派でも何でもなくなってしまった。
「うわー、すごい綺麗…」
「これが飛行魔法(魔法じゃないけど…)の翼竜です、詳しいことはマルスの報告書見てください」
ユミールにばれるわけにはいかないので、細かい説明をマルスに丸投げして、すぐに翼を解除する。
「おい!何で全部僕に」
「うむ、了解した」
「団長まで!…僕の仕事がどんどん増えてく…」
「そんな顔してると、イケメンが台無しだぞ?」
「いったい誰のせいだと思ってるんだ!」
「アハハ!二人ともまるで兄弟みたいだね!アッハハハハ!」
ユミールが心の底から笑っているのを見たハクとマルスは、
顔を合わせると、お互いに顔をほころばせ合う。
(こんなユミーの笑顔を見るのは初めてなのじゃ…)
____________
「では、任務に行ってくる。ユミーのことは任せたぞ。あと、報告書は明日までにな、何か嫌な予感がするのじゃ…」
「わかりました。お気をつけて」
「アカリさん、いってらっしゃい!」
「うむ!ユミーの顔を見れば100人力じゃ!」
一行は、エレベーターに入る団長を見送ってから、団長室の向かい側にあるもう一つの部屋へと向かう。
その部屋の扉には"情報局 特別顧問室"と書いてある。
「おい、特別顧問ってどゆこと?」
「んー話すと長くなるかな」
「てっきり団長の秘書か何かだと思った」
「あながち間違ってないけどね。さ、入って入って」
マルスにうながされて、二人は部屋の中へと入っていく。
すると、団長室とは大きく異なり、難しそうな機械がズラズラと壁際に並べられており、中央ではモニターが何枚も備えられたメインデスクが存在感を放つ。
しかし、入り口から入ってすぐの場所に、応接用の机と椅子が用意されているのは団長室と同様だ。
「そこに座ってて」
「ほーい」
二人に、椅子に座るよう指示すると、マルスは部屋に備わっているコーヒーメーカーで二人と自分用にコーヒーを用意する。
「手伝おうか?」
「いや、このくらい大丈夫だよ。ボタン一つで簡単だからね。ミクの入れるコーヒーには遠く及ばないけと勘弁してね」
コーヒーカップをカポッとはめてボタンを押す作業をしながら、ユミールからの申し出を丁寧に断る。
しかし、片手は団員証を持って耳に当てているので誰かと連絡しているようだ。
マルスを待っている間、ハクはユミールに学園の様子や教師について質問攻めをしていると…
「お待たせ。これからのことだけど、さっきミクから連絡があった」
マルスは三人分のコーヒーと角砂糖の入ったケース、ミルクピッチャーが乗せられたお盆を机に置いて、自らも席につく。
「何て?」
「学園の退学をチラつかせたらすぐに口を割ったみたいだよ」
ポチャン
「え、正直に吐いただけで退学じゃなくなるのか?」
ポチャン
「ミクがブラフをかけたんだよ。本当は何しても処罰は変わらないけどね。あ、これ法律違反だから内緒ね」
ポチャン
「おいおい…処罰は結局どうなったんだ?」
ポチャン
「罰金と半年間の停学。実質の留年が義務付けられたわけだね」
ポチャン
「重いのか軽いのかよくわからねーな…で?何か重要な情報は掴めたのか?」
ポチャン
「そいつらに金で、ユミールのブレスレットを奪いに行くように指示した依頼主がいるらしい。………で、ハッ君はいったい何個砂糖を入れる気なんだい?」
そう、先程からポチャンポチャンと、音を鳴らしている正体は、ハクがコーヒーに角砂糖を何個も入れている音だったのだ。
隣のユミールも2個入れた身だが、思わず口を開けて眺めているだけだった。
「え?あと4個くらい」
「う、うっぷ」
想像しただけで胸焼けがしてくるレベルの量に、なんとか耐えつつ、本題に戻る。
「首謀者に関しては、犯行グループにも顔を見せなかったみたいだ。学園を退学にならなかった理由と何か関係がありそうだから、こちらで裏取りの調査をする予定だよ」
「確かにきな臭いな。で、ユミは今後どうするんだ?」
「ふぇ?」
二人がずっと仕事の話をするものだから、まるで自分には関係ないような態度でコーヒーカップを両手で持って、呑気にコーヒーを飲んでいたので、突然呼ばれて思わず変な声をだす。
「あのなぁ……犯人が退学にならない上に、首謀者が入学式までに見つかるとも限らない。むしろ見つかっても直ぐには手が出せない可能性が高い。ユミが学園に通うには危険過ぎるんだ」
「そ、そんなぁ…私、学校行きたいよ…」
ハクが半ば呆れながら説明をすると、ユミがあからさまに落ち込む態度を見せる。
「もちろん、被害者が身を引くなんてあってはならないからね。対処はするよ」
「どうすんだ?」
「先程、ミクがユミのご両親に説明のための連絡を取ったときに、ある提案をしたんだ」
心配からなのか、再びコーヒーを飲み始めたユミに代わって、ハクがマルスに質問すると、マスクの口から思いもよらない提案が飛び出した。
「犯人を捕まえる間、ハッ君にはユミのボディガードになってもらう」
……………
「ぶふぅ!!」
「はぁ!?」
あまりの驚きにユミは口からコーヒーを吹き出してしまう。
そのコーヒーから自分を守るべく、向かい側にいたマルスは、瞬時に手の平から魔法陣を展開し、障壁を発動する。そして、障壁の表面に付着した水分を水系魔法の応用で吸収すると、障壁を解除する。
「ごごごご、ごめん!今拭くから!」
自分がおかした失態に顔を赤くしながらも、直ぐにポケットからハンカチを取り出し、テーブルを拭き始める。
その様子を見て、止めても無駄だと判断したマルスは、ユミが気の済むまでテーブルを拭かせてあげることにした。
それを見ていたハクは、驚きはしたものの話を本題へと戻す。
「で、具体的には?」
「ミユの護衛を正式に仕事として、ハクに指名依頼してもらうんだ。丁度学園に通っていて、ユミと知り合いで、尚且つブリューナクの団員であるハクにはうってつけだ。もちろん、ランク5のハクにとっては子供のお小遣い程度の報酬しか出されないし、ユミにとってもハクが護衛として不満ならこの話は無しだ」
ユミールの家庭はそんなに裕福な訳ではなく、通常依頼で護衛を依頼できるほど金銭に余裕がないことを考慮して、マルスがミクに対して事前に提言しておいたのだ。本来であればランク5の団員を何日も雇うとなると大金になってしまうのだが、個別依頼であれば、どんなに少額でも団員が了承すれば問題ない。
「ラララ、ランク5!?」
「お前さっきから驚いてばっかだな」
先程から色んな意味で忙しそうなユミールに対してツッコミを入れつつ、話を進める。
「ユミはどうする?ハクに護衛を頼むことに不満はあるかい?どうしても同性が良いという要望などあったらミクあたりに」
「不満なんてあるわけないよ!むしろこっちからお願いしたいくらいだよ!」
「そ、そうか。で、ハッ君の方は?」
何故か凄い勢いで身を乗り出すユミに、ベルが反応する。
『………………』
(どうしたベル?さっきから妙な殺気が伝わってくるんだが)
『あの子、怪しい…』
(何がだ?)
『天然オタンコナスのハクにはわからないでしょうね。ムムム…早速リムのライバルが登場とは……地上、恐るべし……』
(何で俺が罵倒されなきゃならん、わけわからねー)
変な殺気が伝わって、喋りにくいことこの上ないのだが、マルスの質問に返答する。
「もちろん友達を助けるためなら報酬なんてどうでもいいし、引き受ける気はある。だけど、何故俺なんだ?それこそ、さっき出てきたミクやマー君だっていいじゃないか」
「それは学園のクラス分けが関係してくる」
「「クラス分け?」」
ハクとユミールがポカンとした表情で首を傾げる。
「何でユミまでわからないような顔をしてるのかはさて置き、学園は実力順にクラス分けを行うんだ。ハクも一週間後には編入試験があるのは知ってるよね?」
「あぁ、もちろん」
実力主義のアトランティア学園では、年度の終わりにクラス分けテストが行われ、魔法の技術と学力テストの結果によって順位が決まる。加えて、高等部からは格闘技も対象となる。この3つの項目を総合的に評価して、上から順にSABCDEの6クラスに振り分けられるのだ。
「僕とミクはすでにSクラス行きが決定している。そして、ユミのご両親から聞いたけど、ユミはAクラスだよね?」
「うん、そうだよ」
「な、なんだお前ら、優秀生過ぎないか?マルスとミクはまぁともかく、ユミがAクラスなんて」
「ユミはこう見えて、学力テストでは僕の次で学年2位だよ」
「えっへん!」
マルスから"こう見えて"という余計なことを言われたことに気付かずに、ユミは腰に手を当て、豊満な胸を張り自慢げな態度をとる。
『ちょっとどこみてんの!?ハクのスケベ!』
(俺も男なんだ、こればっかりは許せ。そしてスケベではない)
「それに、Sクラスと他のクラスには少し気まずい雰囲気もあってね、仮にハクがBクラス以下になっても僕らよりは近付きやすいんだ」
「つまり、クラスが違うことが確定している二人よりも、Aクラスになれる可能性がある俺が適任だと?」
「その通りだよ」
「いやいや、待て待て!俺が上から2番目だと?無謀じゃないか?」
「確かにね。でも格闘技は文句なしとして、魔法は本番までに基礎は叩き込めると思ってる。筋の良さは見てきたからね」
(最悪ベルに頼ってもらえれば大丈夫だろう…)
マルスがゲスなことを考えていることなど、わかるはずもないハクは話を進める。
「学力の方は?一応編入試験のために予習はしてきたがAクラスに入ることを想定なんてしてないぞ?」
「そこが、問題なんだ。もちろん僕とミクで本番までにサポートはする予定だが、僕らには団員として役職が付いてしまっている以上、ハクに付きっきりというわけにはいかない。だから、そこに関してはハッ君自身で」
「ハイ!私がハクのお勉強見ます!」
「…はい?」
「それは名案だが、ユミはいいのか?」
「もちろん!私のために試験勉強してくれるというのなら、私がサポートするべきだと思う!」
「決まりだな」
「おい!」
勝手に話が進んでいくことに納得がいかなかったものの、そこまでして断ることでもないので、しぶしぶ了承する。
「そういうことだから、とりあえず形式上の取り調べはここまでにしておこうか。ユミはもうご両親と連絡を取っていいよ。心配してるだろうし」
だいたいの事情は車の中で聞いていたので、取り調べというよりも相談をしていただけなのだが、事件の都合上行わなければならない決まりなのだ。
それを聞いてユミは、親へ連絡すべくポケットから携帯端末を取り出すが、なにかを思いついたのか、ダイヤルを押そうとする手を止める。
「あ、あの!べ、勉強教えなきゃだから、その…」
「あぁ、連絡先交換しなきゃな。ちょい待ち」
不安そうにオドオドとしながら提案すると、それを察したハクは自らも携帯端末を取り出し、赤外線通信で連絡先を交換する。
「ほい、んじゃこれから宜しくお願いします、先生」
そして、ユミは不安そうな顔を一変させ、パァッと明るい顔でこう答える。
「覚悟しといてね!」
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