3話 傭兵のお仕事 <前編>
3話前編です。初めての戦闘描写なのでアドバイス頂けると嬉しいです。
目測で200平方メートルほどの広さを誇る地下訓練施設へと到着した4人は、早速試験の準備に取り掛かる。
「武器はどうする?刃引きをした近接武器と、ペイント弾が装弾された各種銃器があるけど、必要ならあなたの部屋から武器を持ってくるわよ」
「いや、俺の武器は性能は違えど形はこの刀と一緒だからね」
「わかったわ、じゃあこの刀でいいのね?はい、これ」
「ありがとう、んじゃ行ってくるよ」
「気を付けてね、あんなわくわくした団長を見るのは久しぶりだわ」
ミクが心配そうな表情でハクを見送ると、その先には準備運動をしている団長の姿があった。
「準備はよいかの?」
「えぇ、俺は準備万端です。それにしてもその武器は何ですか?」
「ん?これか?地下にはないのか。トンファーと言って打撃と防御が主体の武器でな。最近ハマっておる。まぁ見るのがはやいじゃろ」
言葉を交わした二人が戦闘態勢に入ると、二人の間に立っていたマルスが片手を上げて試合開始の合図の準備をする。
「これより模擬戦を開始します。双方構え!」
ハクは腰を低くして抜刀の構えをとるのに対し、アカリはというと、トンファーを持ったままクラウチングスタートの構えをとっている。
「突っ込んでくる気まんまんじゃないですか、めちゃくちゃ怖いですよ」
「様子を見るのは性に合わないのでな。おぬしこそ隙がないのぉ、流石はヘクトルの弟子じゃ」
(ベル、起きてくれ、久しぶりの対人戦だぞ)
『呼ばれて飛び出てベルちゃんだよー』
両者の構え方について感想を述べて、テンションが無駄に高い守護霊を呼び起こして開始の合図を待つ。
「戦闘・・・・はじめ!」
合図が出た瞬間、シュンという音と共にアカリの姿が消える。
と錯覚するほどに、目では捉えきれない速度でこちらに迫ってくるのが気配でわかった。
そうと分かったハクはすぐさま目を閉じベルとのリンクに全神経を集中する。
一瞬、左側面から殺気を感る。
すかさず居合でカウンターをしようとしたところ、頭がズキンと痛むような焦りの感情が走る。
『違う!後ろ!』
「ッ!?クソッ!」
予想と反して後ろからトンファーが迫ってきているのを遅れてかんじ、カウンターを中止して攻撃を流すパリィへと変えて対応する。
トンファーの側面と刀が甲高い音を立てて激突したのは一瞬で、アカリが自分の攻撃を流されるのを予想していたかのように、スルッと刀の上でトンファーを滑らる。
そして、その勢いを使って回し蹴りを繰り出す。
それに対しハクは抜刀をした構えのまましゃがんで回し蹴りを回避する。
しかし、次の瞬間には、目前に口元を釣り上げてニヤけるアカリの顔が映りそのままアッパーを繰り出す。
「フンっ!」
「あっぶな!」
思わずそう口にすると、バク転をしてギリギリのところでアッパーを回避して体制を整える。
続けてバックステップで距離をとろうとしたもが、相変わらずの速さで追い打ちをかけてきたアカリに舌打ちをしながら迎撃をする。
「チッ、一の型、龍爪!」
相手の勢いを殺そうと、刀を横に一の字を書くように振る。
すると、龍の三本の爪のような斬撃が三の字になってアカリに向かって放たれる。
それを華麗な高い前宙でかわすものの、ハクはその隙を逃さまいと、刀に炎をまとわせながらアカリの着地を狙いに前へ駆け出す。
「フッ!」と短く息を吐いて地面を蹴ると、アカリに急接近し上段から切りかかる。
それをトンファーを頭上でクロスし受け止める。
しかし、それだけにはとどまらず、刀に押し負けるフリをして腰を落とすと、そのまま片足を軸に回転して足払いを繰り出す。
ハクはその足払いを、アカリの頭上を越える高さで、ひねりをいれながらの前宙でかわし、背後を取る。
そして、そのまま空中で至近距離の技を繰り出す。
「もらった!(三の型、炎龍!)」
「ふん、甘いわ!」
直撃を確信したハクの予想は外れ、右手のトンファーを左下から右上へと斜めに振りかざすと、ハクが放った炎龍を一瞬にして消した。
「なっ!?」
ハクが驚きながら着地をすると、アカリは自慢顔で補足を入れる。
「驚きを隠せないようじゃな。ヘクトルに魔断を教えたのはワシじゃ。それをおぬし等の流派に零の型として組み込んだようじゃが、オリジナルをなめてもらっては困るのう。それよりも、おぬしはまだ魔法が使えないというのは嘘なのか?」
「いえ、あれは魔法とはちょっと違うんです。俺の龍刀流は体内の魔力を使わずに、空気中の魔素をそのまま刀を媒介にして打ち放つ業なので」
「なるほどのう、おぬしが天才と呼ばれる理由がわかったわ。それならワシももう少し上げていこうかの」
すると、先ほどのアカリとは雰囲気が変わり、更に殺気を増しているのを肌で感じる。
(この人本気で俺を殺す気か!?)
『こっちも本気を出していかないとやばそうね・・・』
ハクの心情を読み取ったかのようにアカリが寒気を誘うような雰囲気を出すと、アカリの目が黄色から赤色に変わる。
更に、今まで一本だった尻尾が九本に増える。
そして、それを見ていたミクが思わず叫ぶ。
「団長!それはやりすぎです!」
「・・・いや、大丈夫。いざとなれば僕が止める」
(地下でハクがどれだけ強くなったかを知りたいしね…)
慌ててミクが止めに入ろうとすると、マルスが前に入りそれを止める。
「仕切り直しじゃ、小僧。死ぬ気で来るがよい。でなければ…」
「死ぬぞ」
アカリの忠告を聞き、ハクも"敵を"殺す覚悟をしたのか、目を瞑り集中する姿勢を見せる。
戦場で敵は待ってくれないのと同じように、アカリも先程とは比べ物にならない速さ、もはや瞬間移動とさえ思える速度でハクへと迫る。
背後から死の宣告をされるも、何とか冷静を保ち、ベルとのリンクを更に引き上げることに成功し、探知能力を強化する。
そして、間一髪、後ろを振り向くことなく刀を背中とトンファーの間に差し込んで防御する。
更に、背中に刀を添えたまま炎を刀にまとわせる。
危険を察知したアカリはその場をバックステップで離れる。
それを探知したハクが振り向きざまに炎龍を繰り出す。
対してアカリも向かって飛んでくる炎の龍に対して魔法で対抗する。
「鬼火!」
そう唱えると、九本の尻尾の先に青い炎が灯され、炎の龍へと向かっていく。
二つの技が衝突したかのように思えたが、九つの炎のうち3つのみで炎龍を打ち消し、残り6つが多方向からハクを襲う。
ハクはそこでようやく目を開けると、目の色がベルと同じ赤と黄のオッドアイに変わっており、髪もゆっくりと白色に変色していく。
「ほぉ・・・面白い」
「四の型、水龍!」
ハクが刀を振ると、今度は水でできた龍が3匹出現し、残りの鬼火を飲み込み、何とか相殺する。
その間、右サイドにアカリが移動するのを探知してする。
それを迎撃するために新たな技の準備をする。
「五の型、雷龍 〜帯電〜 !」
すると、刀から雷の龍が飛び出すことはなく、刀から始まり、体中にバチバチという音をさせ、電気を全身に行き渡らせる。
そして、超高速で向かってくるアカリに立ち向かうべくこちらからもアカリに劣らない速さで迎え撃つ。
帯電を使うことで、脳から体に送る電気信号の送信をベルと二人で行い、身体強化の能力を底上げをしたのだ。
その結果、アカリから繰り出されるフェイントを交えた高速の連続攻撃に何とかついていく。
カキンッ、キンキンキン
ミクはとらえきれないスピードで連撃を繰り広げている二人を見て驚愕をする。
「あんな速さの団長見たことないわ」
「あぁ、それにあの団長、笑っているね、この戦闘を相当楽しんでる。このままじゃ・・・」
(マズイ、このままじゃじり貧だ。押し負け始めてる)
『うん、短期決戦でいかないとまずいよ』
(そうだな・・・・あれを使っていいか?)
『しょうがないよ、このままじゃ本当に殺される』
ハクとベルが高速の打ち合いをしている間に脳内会議を行った結果、短期決戦をかけることにした。
そして、連撃の間に入れたフェイントで隙を生ませると、距離を作るために後ろに飛ぶ。
しかし、離れたところに着地しようとした瞬間、後ろから九つの鬼火が迫ってきていた。
苦しさを顔に出しながらも、ベルの探知能力によって予測はしていたため、迎撃の準備はしてあった。
刀を持っていない左手を横へ突き出し、手のひらから防御用の技を繰り出す。
「四の型、水流 ~大蛇~ !」
先ほど放った水龍よりも一回り大きな水でできた蛇が左手から放たれる。
すると蛇は円を描くようにして九つの鬼火を全て飲み込んでいく。
しかし、この技の発動のために見せた一瞬のスキをアカリが見逃すはずもなく、フェイントを交えながら再度急接近を計る。
そして、アカリからも完全に無防備だと確信した右脇腹をめがけてトンファーを突きつける。
「もらっ」 ガキンッ 「何!?」
アカリが驚いたのは、避けるのではなく受け止められたからであり、ハクが用いた防御方法に驚愕をしたのだ。
甲高い金属音が鳴ったかと思えば、目の前に突如現れたのは黒い羽である。
見た目はフサフサしてそうだが、とても頑丈のようだ。
その羽の出どころを見ると、確かにハクの背中から服を突き破って飛び出している。更によく見ると反対側の背中からは白色の羽が生えているのが見えた。
思わずバックステップをして距離を取ったアカリは改めてハクの容姿を見る。
白と黒の天使の羽を生やすハクの姿を見て驚愕の色を隠し切ることはできなかったが、ハクの手に持つ刀に尋常ではない量の魔力が集中しているのを感じ取り、すぐさま驚愕の感情を捨てて、こちらも技の準備をする。
アカリはトンファーを床に投げ捨てる。
手を伸ばして、まるで一本締めをするかのように胸の前でパシッと手を叩いて鳴らすと、そのまま両手を広げていく。
すると、手の平から光の軌跡が出現し、手を目一杯開き切る頃には、目の前に光の弓が形成され、宙に浮きはじめる。
すかさずそれを左手に構える。
そして、何も持たない右手に意識を集中させ、先に鬼火が灯った光の矢を形成すると、左手に構えていた光の弓にセットする。
対してハクは、右手に持った刀に全神経を集中させ、今までに見せた炎や水、雷の他に、土、風、草、闇、光、計8色の輝きを帯びさせる。
そして……
「いくぞベル」
『まっかせなさい!』
覚悟を決めたような顔つきで腰を落とし、8色に輝く刀を上段に構える。
「終の型……ヤマタノオ」
「喰らい尽くせ…百鬼夜」
二人が同時に技をだそうとしたその時、
二人の目の前に何かが高速で割り込んできた。
「お二人とも、そこまでです。もう十分でしょう。この地下施設を破壊するおつもりですか?」
そう言いながらハクの目の前に現れたのは、訓練用の大剣で上段に構えた刀を受け止めたマルスの姿が確認できた。
対してアカリの目の前には、矢にかぶりつく神々しい大型の獅子だ。
「ありがとうバロン、もう大丈夫」
「ヴルル」
マルスは自分の守護霊に御礼を伝えると、バロンと呼ばれた獅子は前方に黒い穴を出現させ、その場を去っていく。
「団長、僕が言いたいことわかりますか?」
「う、うむ、少しやり過ぎたようじゃ、申し訳ない」
狐の耳と尻尾を垂れさせて下を向きながら謝罪を口にするその姿は、もっぱら叱られてる少女にしか見えない。
それを見たマルスはため息をつきながらハクの方を見る。
すると、羽も無くなり、髪の色が黒に戻り目の色も元通りになっているものの、うつむいたままその場を動くことはないハクを確認する。
「ハッ君には聞きたいことが山ほどできた、…ってハッ君?おい!」
カラン…
マルスが声をかけても返事がないので、ハクの様子がおかしいと思えば、手から刀を落とし、マルスに寄りかかるように倒れ込んできたのだ。
その行動に慌てそうになったが、ハクの隣にベルが突如出現する。
「ちょっと力を使い過ぎちゃったみたいだね〜、魔素濃度の高い地上に出たばかりなのに加減を間違えたかな~、あ、心配しないで少し寝たら治ると思うよ〜」
「わ、わかりました。その前に何故あなたは名前も呼ばれてないのに召喚できたのですか?」
「んー…その辺の話はまた今度ねー!でも簡単に説明させてもらうと、私堕天使だから天界の掟が適用されないの。追い出された身だから」
そう言いながら、先程ハクが戦闘中に背中から生やした黒と白の羽を出現させて、これが堕天使の証だと言わんばかりに指を指す。
「そんなこと聞いたことな」
「んなことより〜、ハクを部屋のベッドまで運びたいから貸してくれる?」
「あ、あぁ」
羽をしまいながら話を無理矢理終わらせると、マルスに寄り掛かっていたハクを受け取り、お姫様抱っこをする。
「そゆことだからミクちゃーん、道案内よろー!」
「そ、そんな勝手な!聞きたいことが」
「構わん、部屋まで運ぶのを手伝ってやれ」
「だ、団長!しかし!」
「二度は言わんぞ、これは命令だ」
「……了解しました」
ミクは歯がゆさを捨てきれない会話を終わらせると、スタスタと訓練施設から出るためにエレベーターへと向かうベルの後ろを追いかける。
「マルス、ハクのことを徹底的に調べろ。最優先じゃ。」
「わかりました。それにしても、彼は色々とイレギュラー過ぎます。百歩譲って、守護霊とのシンクロを第三段階まで習得しているのはいいとして、堕天使の守護霊なんて聞いたことがありません」
「わしもじゃ、一度だけ堕天使を従える魔人を見たことはあるが、人間が従えた例など聞いたことない。それとこれについては」
「最高機密レベルで扱います。ミクにも後で口止めします」
「うむ、よろしく頼む。……………ヘクトルめ、何を隠しておるのじゃ……」
二人の会話しか音のない訓練場は静寂に包まれ、まるで不穏な空気を漂わせているようだった。
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「ハクは本当に大丈夫なの?」
「それは安心して。ヘクトルと修行してたときはよくあったの」
「そう、ならいいの」
そこで一度会話は途切れるものの、ベルがぼそりと会話を再開する。
「…………ありがとう」
「何が?」
「何も聞かないでいてくれて」
「それはハクに聞くことだし、ハクが言いたくないことなら聞かないわ」
その言葉を聞いたベルは、ミクに笑顔を見せる。
「これからもハクをよろしくね」
「もちろんよ、言われなくてもそのつもりだわ。…ぇ~と…」
「スーパーアルティメットパーフェクトビューティフルプリティーベルちゃんだよ」
「却下、よろしくね、ベル」
「む〜!」
「ぷっ……」
「「アッハハハハ!」」
後にした訓練場とは違い、二人が乗っているエレベーターには笑い声が溢れていたのであった。
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ハクのランク認定試験が終わりってから数時間が過ぎ、日付が変わったばかりの頃、ブリューナク本部最上階にアカリの姿があった。携帯端末を片手で持ち、耳に当てながら誰かと会話をしている。
「あやつのこと全部吐いてもらうぞ、これから3年間世話をする身として知る権利がある」
『はて、なんのことですかね』
「とぼけるでない、今日ハクと一戦交えた。あやつの能力は異常じゃ」
『そうですか、あれだけ力抑えろと言っておいたんですがね…、まさか羽のことも?』
「そのまさかじゃ」
『あいつがそこまで力を出さなきゃいけないなんて…、九尾でも使ったんですか?』
「それは事実じゃ。謝る。しゃが、話を逸らすな」
『結論から言うと…その質問にはお答えできません』
「なぜじゃ?」
『死んだハクの両親から話すなと言われているからです』
「なんじゃと?」
『あの子の両親は、死ぬ寸前まで自分の子供の幸せを願いました。ハクの特殊な能力を知られたら、それを狙う奴に襲われる危険性があるので隠してほしいと遺言を残してこの世を去りました。しかし、私も戦いに身を置く立場ですので、ハクより先に死を迎えるでしょう。その時、ハクを守れるのはアイツ自身です。だから自分を守れる力を付けさせるために地上に行かせました。これ以上は話せません』
「どうしてもか?」
『はい、いくら団長でもこればかりは譲れません』
「お主がそこまで言うのであればしょうがないのぉ。しかし、遅かれ早かれハクは自分で気付くのではないか?」
『その通りです。なのでその時が来るまでにハクを強くしていただきたいのです。肉体的にも精神的にも』
「無茶な注文じゃのう」
『地下にいるよりはその可能性はあると思っています』
「よかろう、その賭けに乗ってやる」
『では、お願いします』
「うむ」
その言葉を最後に電話を切ると、扉から音が聞こえた。
コンコン
「入れ」
「失礼します」
そう言って扉から姿を現したのはマルスである。
「あれからハク・ファールティのことについて調べましたが、欲しかった情報は何一つ手に入りませんでした」
「だろうな。あいつの様子を見るにデータベースなどに保存するわけがない」
「移動ログを見ても、基地や研究施設がある層に移動したり、たまに他の避難地区に行っていることぐらいしかわかりませんでした。少し悔しいくらいです」
「なるほどのぉ、お主の情報収集能力をもってしてもこの有様なのであればこれ以上詮索してもしょうがないじゃろ。これからはハクの監視役に任命する」
「はっ」
「深夜までご苦労じゃった。ゆっくり休むとよい」
「団長こそ早めにお休みになってください。では」
マルスが報告を終えると、団長室を退出していった。
部屋の中に自分一人しかいないことを確認してから、外の景色を眺めるために後ろを振り返る。
「この歳になってもこの世界には知らないことであふれておる。これからが楽しみじゃ」
今日の模擬戦を振り返ると、思わず口元を緩めてしまい、太陽光パネルで埋め尽くされた光り輝く月を見ながら独り言をつぶやくのであった。




