2話 再会 <前編>
「あーー焦ったーーー・・・・」
『アハハ!流石ハク!ちゃんとフラグを回収したわね!』
(やかましいわ!)
ハクがそう呟いているのはリニア新幹線の中である。
あの青年と別れてから、文字通り目にもとまらぬ速さで駅構内を疾走した結果、無事に間に合わせることができ、今は車両の一番端っこに座ってひと段落ついているところだ。
ちなみに自由席なので好きな席を選んでいる。
近辺に乗客がいないことを確認してから、携帯端末をポケットから取り出し、操作しながらベルと会話を続ける。
「そういえばあいつの名前を聞くのを忘れてたな、ええと、あった、トール・マクド?この国の出身か?なんだかしゃべり方が独特だったけど。年齢は俺と同じくらいにかな?アドレスにはメアドと電話番号しか登録されてないな」
『おそらく同い年だね~。それにしても妙なやつだったよ!ただの学生ではなさそうやな』
「真似をするでない。・・・・ってえぇ!?何だこれ!?」
『何よいきなりー、どったの~?』
「いつも通りSNSを確認してたらこんなものが投稿されてたんだよ」
『えー…なになに?駅で超高速のUMAと遭遇?だってさ!アハハハハハっ!』
「やばいなぁ・・今度師匠になんて言われるか・・・」
携帯端末に映っていたのは、ハクが残像を残しながらホームの階段から一瞬にしてリニア新幹線に乗り込む姿が動画付きで投稿されており、トレンドにも入ってしまっている。
おそらく投稿しているアカウントを見てみると鉄道好きの人が出発のシーンをとらえようとしたところ偶然映ってしまったのだろう。
「・・・・見なかったことにしよう」
と呟くと、そっと携帯端末をポケットにしまう。そして、窓から改めて外の景色を眺めることにした。
リニア新幹線なだけあって物凄い速さで走っており、景色もすごい速さで移り変わってゆくが、持ち前の動体視力でその景色を脳に焼き付ける。
体感時間で20分ほど経ったとき、おもむろにカバンから本を取り出して半ばから読み始める。
表紙には魔法陣学基礎と書いてあり、魔法陣の組み方や原理などが基礎から詳しく書いてあるのでステムおばさんから借りていたのだ。
ハクが通おうとしている都立アトランティア魔法学園は、中立都市アトランティアが経営する唯一の学校であり、初等部から高等部まで存在し、世界で活躍する魔法使いを多く輩出するセカンドアース最大の魔法学校である。
もちろん、各国にも多くの魔法学園が存在するのだが、中立都市という特色から数多くの人種や種族と腕を競い合うことができるので、卒業する頃には多くの経験が積めるのである。
そんな優秀な生徒が集まる学園に途中から転入することもあって、遅れるようなことがないようにこうして魔法の勉強を予習しているのだ。
ちなみにベルはというと、簡易式のテーブルに立てかけてある携帯端末でバラエティ番組を見ながらゲラゲラと笑い声を上げている。
こんなことは日常茶飯事なので、ハクは周りがうるさくても集中できるというスキルを身に着けてしまったのである。
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『次はー、終点、ケルピー、ケルピー。ご利用ありがとうございました』
「ふぁ~・・・着いたか、ベルは寝てるようだな」
ベルの姿が見当たらないこたを確認してから、本や携帯端末など取り出したものをしまいつつ下車の準備をする。
そして、新幹線が止まったことを確認すると、出口へと向かい下車をする。
ホームにある時計を確認すると、時刻は14時を過ぎていた。
「流石に腹減ったなぁ。何か食いもん買ってから船に乗るとするか。えーと・・・チケットには14時40分発と書いてあるから、寄り道しても大丈夫そうだな」
これからの方針を決めたハクは、早速駅を後にして船着場へと向かう。船着場は駅から徒歩10分程度なため、寄り道しても十分に余裕を持って到着することができそうである。
ということで、地下には無いような食べ物を並べる露店を食い入るように見ながら何を買おうか悩んでいると、店のおばさんに声をかけられた。
「お兄さん、物珍しそうな目で見てるね!観光かい?」
「そんなところです。海の無いド田舎から来たんでこんな魚見るの始めてなんです」
「そうかい!何買うか決まってんのかい?」
「いんや、まったく決まってないです。これから船に乗るんですけど、乗りながら食べられる物を探してまして」
「おーそうかい!だったらこれがオススメだよ!」
そう言って指差したのは、様々な種類の刺し身が、ご飯が見えないくらい盛られている海鮮弁当だった。それを見たハクは思わずよだれが口から出てしまいそうになるのを手で止めるが、今すぐにでも食べたい欲求は収まらなかった。
「おばさん!これにする!これひと」
『ふたつ!ふたつ!』
「やっぱり2つ下さい」
「おや?2つも食べるのかい?育ち盛りは違うねぇ!」
「アハハ……(何でこのタイミングで起きるんだよ!)」
『ふっふーん、アタシを出し抜いてこんなに美味しそうなもの食べようったってそうはいかないんだから』
いつの間にか頭上に現れていたベルの言葉に、ハクは複雑な心境になりつつも携帯端末を取り出し、レジにある読取機にかざすと、決済完了の文字が浮かび上がる。
それを確認した女将さんは手早く紙袋に二つの高級海鮮弁当を詰めていく。
「まいど!良い旅を!」
「ありがとうございます」
ハクは紙袋を受け取りその店を後にする。実はこの弁当はそれなりに値が張る代物なのだが、なんの躊躇いもなく買えたのは、ハクがお金に困っていなく、むしろ大金を手にしているからである。理由は、ヘクトルのとある手伝いをしているのと、両親が残した多額の財産があるからなのだが、この財産は1メルも使用しておらず、ヘクトルからのバイト代だけで生活している。
ちなみに、第3次世界大戦後、崩壊した経済システムを復興させる際、世界共通の通貨と言語を各避難地区へと流通させた。
それがメル語と通貨メルである。ハクたちが適合者たちと問題なく会話できたのは、この世界の言語が統一されていたからであるが、トールのようにその地のナマリが出てしまう人も少なくない。
ちなみに経済が安定した現在はメルだけでなく、各国の通過も作成されているが、共通の通貨として現在も使われており、レートの中心もメルである。
『あー早く食べたいわー、地下にも魚はいたけど全部養殖だし、地上の魚の方が絶対美味しいに決まってる!』
「そうだね、見たこともない種類の刺し身や貝が乗ってる」
ハクから見ると頭上を浮遊しているように見えるベルは、口元によだれを出しながらジュルジュルと手で拭いている。
本来、守護霊は食欲という概念が無いらしいのだが、ヘクトルの守護霊であるガルガくらいしか他の精霊を見たことがないので、ハクはその文献を密かに疑っていたりする。
そうしているうちに、船着き場までやってきたハクは、携帯端末で現在時刻を確認する。船の出発まであと10分ほど余ってはいるものの、特にやっておくこともないし、さっきからわざとらしくベルが空腹の感情を流して来るので、先に船内で食事を取ることにした。
船での移動時間は5時間にも及ぶため、ふねの大きさはそれなりにでかく、料金によって個別の部屋まで用意されている。もちろん船内にはレストランや娯楽スペースなど存在するがハクは大衆弁当の方が好きなのでわざわざ弁当を持ち込んだ事情もある。
ヘクトルから受け取ったチケットは個別の部屋付だったので、早速その部屋に行くことにする。
「えーと……あ、あった205号室」
『はやくはやくぅ~』
「わかったからそう急かすなって」
そう言いながら携帯端末を取り出し、ドアノブにかざすとピッという機械音が解錠を知らせる。
ドアを引いて部屋の中を見渡すと、そこにはごく一般的なホテルの二人部屋よりも少しだけ狭いと感じるだけで悪くないと感じる部屋があった。しかし、何故か二人部屋なのはヘクトルの配慮なのだろうが、ベッドがダブルベッド一つしかないのは余計なお世話としか言いようがない。
『ねぇねぇ!バルコニーがあるよ!外が見える!』
ベルが興奮気味に、ハクの頭上から離れてガラス扉をすり抜け、外の景色を眺め始めた。
『「そこで(ここで)食べよう!」』
「満場一致みたいだな。・・おっと、船が動き始めたみたいだ。ちょうどいいな」
部屋の鍵を閉めたのを確認してから、ベッドにかばんを投げ捨ててそのまま紙袋を手にバルコニーへ向かう。そしてテーブルにお弁当二つと箸を2膳用意すると、椅子に腰かけてからベルを呼ぶ。
「ベルゼ」
「またまたベルちゃんとーじょー!今日のハクは太っ腹ね!」
「どの口が言うんだか・・・でも、地上に来てからは体内に魔力の入るスピードがすごい早く感じる。今までの感覚でいると体内に留めきれないみたいだ」
「そりゃそだよ~、地下にある魔力は物凄ーーーーーく薄くなってるから集めるの大変だったんだよ~」
「結局自分が実体化したかっただけじゃんか。まぁ、師匠が必死になって、俺に魔力の溜め方を教えてた意味がようやく分かったよ」
「魔力の保有力が強いほどより強力な魔法が打てるようになるしね~」
二人は話しながらもお弁当のフタを開けてお箸を手に持ち、準備万端の姿勢を作る。
「そんじゃま早速、「「いっただっきまーす!」」よしじゃあまずはこの小さいエビから頂こう。あー・・・・ん?あぁーーーーーーーーー!?」
「ちょっと何を急に・・・・あ?あたしの天然ホタテちゃんがいない!ちょっとハク!あたしの分食べたでしょ!返しなさいよ!」
「お前こそ俺のエビ食ったろ!この食いしん坊だて・・・っておい、あそこ見ろ!」
言い争いを続けていたハクはバルコニーの外へと指を指すと、そこには群れになっているカモメサイズの鳥型魔物が20羽飛行していた。すると、ピンポンパンポーンという音の後に船内アナウンスが流れる。
『乗客の皆様にお知らせです。ただいま鳥型の魔物が確認されました。そのため、一時的に船の周囲に魔力障壁を展開致しましたので、引き続き船の旅をお楽しみください』
「手遅れなんですけどね!?」
アナウンスにツッコミをいれたハクは怒りをあらわにして鳥を睨みつける。
「おい、ベル」
「えぇ、わかってるよ」
「ここは俺にやらせてくれ。いつも通り足場を頼む」
「わかった。不本意だけど、地上に出てきたばかりだから魔法の手加減ができるかわからないからね」
短い会話を終えると、ハクは肩幅まで両足を開き、右手を前に突き出しながら手のひらを魔力障壁へと向けて目を閉じる。
「龍刀流……(拳だから違うか?まぁいいや)零の型、魔断!」
そう唱えると、なんの前振りもなく、ハクたちの前にある障壁に穴が空いた。
その隙間に向かって勢い良くジャンプしたハクは穴を抜け、そのまま落下するかのように思えたが、最高地点に到達した瞬間、足元にガラスのような半透明の円盤が出現した。
その円盤に着地するやいなや、更に前方に出現した円盤に高速で突撃して方向転換を行う。端から見たら、空中をジグザクに飛んでる人にしか見えない。
そのとき、ベルはと言うと目をつぶりながら視覚情報をハクの視覚へと切り替えて、まったく同じものを見ている状態を作る。
そして、詠唱をすることなく、空中に魔力障壁を作る容量で濃密なガラス版をイメージしてハクの着地点に無言で生成する。
「うぉらぁ!てめぇら!食い物の借りはでけぇぞ?」
そう言いながら空中の鳥型の魔物を拳でバッタバッタと海へと落としていく。しかし、やはり相手は鳥なので拳だけだと限界があるのか、数が減っていくにつれ徐々に攻撃が当たらなくなる。
苛立ち始めたハクは、一つの円盤に着地してから、またも右手を魔物へと向けて思考する。
「くっそ、ちょこまかと…。地上にいる今なら武器無しでもいけるか?…三の型、炎龍!」
すると右掌から全長5メートル程の旧日本特有の龍の形をした炎の塊が出現し、鳥型魔物を飲み込んでいく。
「うし、討伐完了っと。鳥型と戦うのは始めてだったけどなんとかなったかな」
『はじめてにしては上出来じゃないかな?でももう少し考えて飛んでほしいかな』
ハクが例の足場を経由しながらベルのいるバルコニーへと戻っている中、ベルは腕を組みながら頬を膨らませて立っている。
「悪かったって。今度プリンでも買ってやるから」
「しょうがないな〜約束だよ?」
(ちょっろ)
そして二人が再びバルコニーの椅子に腰をおろそうとしたとき、
扉からピッという音とともに勢い良く扉が開かれる音が聞こえた。
前もって気配を探知していたベルの姿は既にそこにはない。
「大丈夫ですかお客様!?魔力障壁の破損がこの辺りで確認されたのですが、お怪我はありませんか!?」
そう言いながら焦った血相で駆け寄ってきたのはこの船の警備員だろう。体内魔力が普通の適合者よりも少し多いと、ベルからの報告もあった。
「えぇ、大丈夫です。俺が倒しておいたんで。障壁発生装置の不具合だと思いますが、今後は気をつけて下さいね」
「え、あ、はい。………ってえぇ!?倒した!?」
「何か問題ありましたか?一応、来年度からアトランティア学園に通う身なので魔法が多少なり使えるんですよ」
「は、はぁ…なるほど、不幸中の幸いでしたね。ご協力感謝致します」
「いえいえ、こちらは何も問題ないので他の被害状況を確認してあげて下さい」
「そうですね、ありがとうございます!失礼します!」
警備員は一礼すると外へと出て行った。
『人間という生き物はほんと、こしゃくだね~』
「そう言うな"ベルゼ"。世の中には人を幸せにする嘘と、人を不幸にする嘘の2種類があってだな…」
「今のは確実に後者じゃないかなー?」
「こんなことで師匠に殺されたくないからな、んなことよりさっさと弁当食おうぜ」
「納得いかないけど、それにはさんせーい!」
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「あー美味かったー」
「新鮮なお魚がたくさんあったねー!満足満足!……う~ん、でもご飯食べたら眠くなって来ちゃった…おやすみ〜…」
「ほんとにお前は本能のままにしか生きないのな」
ベルが黒い穴へと戻っていくのを見届けたハクは、お腹をさすりながらいつもの日課であるSNSのチェックを行う。
何故こまめにSNSをチェックしてるのかというと、地上の知識に疎いハクが、ニュースやテレビなどだけでは手に入らない、若者の流行なんかをチェックするためである。
学園に入ってからみんなの会話に入りやすいようにとの考えで、変なところで真面目なのだ。
「今のトレンドは〜♪……んー……………見間違いかなー…」
そう呟いて現実逃避を計るものの、そこには人の形をした何かが船の側面で鳥型の魔物を次々となぎ倒していき、最後には炎の龍を出現させる動画がバッチリと投稿されていた。
「…………終わった……………」
まるでこの世の終わりが来たと言わんばかりの顔で海と空を遠い目で眺めるのであった。




