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明るい地下と暗い地上  作者: シゲさん
第1章 1年生編
20/20

10話 逃走 <前編>


「…ただいまー」

『おかえりー』

「なんでベルが答えるんだよ」

『寂しいかなーと思って!』

「そりゃどうも」


空がオレンジ色になろうとしている頃、ハクは1日の授業を全て終えて寮の自室に帰ってきた。


「あ~疲れた〜」


なんとも中年男性のような口調で悪態をつきながらリビングのソファーに寝転がる。


「少し休んだらブリューナクに行くか…」

「ふぁ〜…アタシもちょっと眠いかも…………ん?」


この部屋において勝手に実体化することに何の抵抗もなくなってきたベルは何かの異変に気付いた。


「どうした?」

「んー…なんだろう…何かが足りない気がするんだよなぁ…」


空中であぐらをかきながら、顎に手を当てて何か考えごとをしている。


「腹が減ってるだけじゃないのか?」

「人のこと食いしん坊みたいに言わないでくれます〜?」

「そう言ったつもりなんだが」

「む〜」


ベルが気になる異変に対して、ハクは危機感を持つことはなかった。しかし、ベルの探知能力は無視できるものではないので、一応ハクもソファーで仰向けになりながら感覚を研ぎ澄ます。


そして、何か引っかかるものに気付きそうになったそのとき…



ピポピポピポピポピポピポピーンポーン



「うっせーな!誰だよまったく…」


突如、部屋中にインターホンの連打音が鳴り響く。

多少の苛立ちを見せながら部屋のインターホンを連打した犯人を特定すべく、体を起こしてスマホを取り出す。


「ん?トオル?」


犯人がトオルだとわかったら、密かに犯人だと疑っていたカジに対して心の中で謝りつつ、画面の応答ボタンで訪ねてきた理由を聞くことにする。


「てめー人んちのインターホンをれん――」

「大変や!学園に魔物が侵入しよった!」

「あ?寝言は寝て言――」


      ピロリロリン、ピロリロリン


トオルと話していると、突如スマホから大きめの機械音が流れた。


「うそ…だろ…?」


音の正体は生徒達に向けた避難の指示だった。


「今開ける!」


急いで玄関を開けると、トオルもかなり焦っている表情をしているのがわかった。


「何が起きてるかわからんがとにかく避難しないと!ここから一番近いのはメインスタジアムや!」

「あ、あぁ…でもちょっと待ってくれ」


目の前でトオルがなにやら急かしているが、

気にすることもなく一度冷静になってこの状況を整理する。


(魔物の正体は?)

『信じたくないけどグルガンマの反応ね』

(それは確かか?)

『間違いないんだな〜これが!』

(確かにランク8以上の大物だけど、あの学園長が張った結界が破られるとは思えない。ましてや北の森との境目も結界を貼っているはず…となれば…)

『内部から召喚された?』

(……とにかく行ってみるか)


ハクはトオルの制止を振り払ってクローゼットへ向かうと、

制服を脱ぎ捨てて団員の戦闘服に着替える。


そして、武器を収納しているキャビネットの扉に手をかけた瞬間、いつもの感覚よりも何か物足りなさを感じた。。


『……違和感の正体がわかったわね』

「あんの野郎っ……ん?ちょっと待て…最後に出してやったのっていつだ?」

『2週間前だね~』

「いつもなら月に1回で満足してたじゃないか…何で急に?」

『あいつの考えてることなんてアタシにわかるわけないじゃーん』


既に開いているキャビネットと、その中に収納してあったアタッシュケースが開けられていたことから、この騒ぎの発端がこのキャビネットから逃げ出したものだとわかった。


「地上の濃度なら自分で実体化できるのかよ」

『密かにずっと溜め込んでたのかもね〜』

「あいつ……今度アタッシュケースに魔力遮断結界つけるか?」

『そんなことしたら機嫌悪くするね、絶対』

「ですよねー…はぁ…アカリさんに怒られるんだろうなぁ…」


思わずため息をこぼしたハクは、一本の長い刀を背中に、ホルスターにしまってあるハンドガンを腰に装着して、部屋を飛び出す。


「やっと来おった!はよ避難せんと!」

「先に避難しててくれ、俺は他のみんなの様子も見てくる!」

「何言うてんねん!さっさと自分も――」


        ビュンッ!


トオルが全ての言葉を口にする前に、

ハクが目の前から一瞬にしていなくなってしまった。


「っておい!」


トオルの制止を振り切ると、エレベーターを通り越して非常階段へと向かう。


学生寮の非常階段は螺旋階段状になっており、真ん中が吹き抜けになっている。その吹き抜け部分にハクは躊躇なく飛び込む。


「ベル」

『あいよ』


軽い返事をしたベルは、空中に足場(障壁)を展開すると、ハクはその足場を蹴って更に落下速度を上げる。



周りに衝撃波が伝わる程の勢いで一階に到着したハクは、

急いで現場へ向かう。






他の生徒はもう避難したのか人通りが極端に少なくなった学園内を疾走していると、ベルが更なる異変に気付く。



『…ん?』

(なんだ、悪い知らせか?)

『ん〜どっちかな〜』

(教えてくれ)




『グルガンマが2体になりましたー!パチパチパチ〜」




(例の魔物の共闘と関係が?)

『わっかんなーい!魔力は確かにグルガンマだけど、片方はあいつの可能性もあるよねー』

(だよなー…行ってみないとわからんな…急ごう!)








ハクが到着したのは学園内で最も面積が大きいグラウンドである。そして、グラウンドには四足のドラゴンが2頭暴れている。


片方のグルガンマは、今まで確認されてきた個体と同じような特徴をしており、紫色の鱗に、やぎのような角、巨大な翼を持っているのに対して、もう片方のグルガンマは白色の鱗を纏っていたいた。



その様子を見て何かを確信したハクは、現場に急行したと思われる教師陣のもとへと急ぐ。


そこには学園長やエリスを含む数名の教師と、学園仕様の戦闘服を着たマルス、そして、ブリューナク団長アカリの姿があった。


ハクの接近にいち早く気付いたアカリは、ハクの方に振り返る。


「(お主、なぜここにおる)」

「(ちょっと色々ありまして…少しお話いいですか?)」

「………おい、ライブラ!」


ハクの言葉に何かを察したアカリは、この場での最高責任者である学園長のタルボスに声をかける。


「今は学園長じゃ、……それより何故ここにファールティがおるのじゃ?避難はどうした?」

「ハッ君!?」

「い、いえ、その…」

「ワシが呼んだのじゃ。こいつを少し借りてもええかの?」



「勝手なことをするなよ雌狐めぎつね。ワシの生徒を危険にさらしおって」



アカリの一言に、タルボスはただならぬ怒りを見せる。

ハクは思わず正直に自分の意思でここに来たことを言いそうになったところ、アカリから手を突き出され制止を受ける。


「(黙って見ておれ)」

「(はい…)」


「こやつはランク5の立派な団員じゃ、ワシらがいる限り怪我をすることはなかろう。頼む」


腕を組みながら少しの間思考に浸ると、

眉を寄せてため息をついたあと、アカリに返事を返す。


「……わかった」

「おんにきる。マルスもこい」

「ハッ!」


もっと頑固に引き止められるかと思いきや、あっさり解決をしたアカリは、ハクとマルスを連れてグラウンドの端まで移動する。





「それで?あの状況に心当たりがあるのじゃな?」


アカリはグラウンドに向けて指を指しながらハクに説明を求めた。その指の先には3重の結界の中でお互いを傷付け合っている2頭のドラゴンがいた。

結界はタルボス、アカリ、マルスのものだ。




「はい、片方のグルガンマに関しては…俺の使い魔です」



    「「………………………は?……………………………」」



「いや、だからあれは俺の使い魔なん―――」

「いや聞こえておる。使い魔ということは魔物か?」

「そうです。色々と質問はあると思いますが、結論だけ言うと白い方が俺の使い魔兼魔武器の"オルヘータ"です。動物のオコジョに似てるので名前はオコです」

「オルヘータじゃと?絶滅したと聞いたが、その話が本当なら辻褄が合うのぉ…」

「オルヘータって何ですか?それにあのドラゴンがオコジョって――」

「マー君、質問はあとだ。とにかくこの状況を何とかしないと。整理すると、皆さんが駆けつけたときには2頭のドラゴンが暴れているものの、対峙しているため結界を張って観察している、ということでいいですか?」

「うむ、その通りじゃ」











タルボスは魔物の出現を探知すると、アカリに救援要請を出したあと、教師陣に生徒の避難等を任せて他の教師を数名引き連れて現場へと向かった。


一行が到着すると、グルガンマ一頭を結界で抑えつけて、周囲の生徒の避難を待っているマルスの姿があった。


「すまないマルバス。後はワシらが引き受ける」

「わかりました。では――」


    ギャオーーーーン


学園長たちの到着を見て、マルスが結界を解こうとしたその瞬間、結界の中にもう一頭のグルガンマが雄叫びとともに出現した。


「なに!?これは報告にあった魔物の共闘か?」

「いえ、何やら様子がおかしいですね。片方の色が違います」

「む?」


結界内に出現したドラゴン2頭は、共闘して結界の破壊をするかと思いきや、互いに噛み付いたりブレスを吐きあったりと、とても協力している様子ではなかった。









「――ということがあったんだ」

「マルスはどうしてその場にいたんだ?」

「Sクラスはもう一時間このグラウンドで授業があったんだ。気付いたときにはグラウンドの隅に魔法陣が出現していて、壊すには時間が足りないと判断して結界を張ったってわけ」


ハクはマルスの説明を聞きながら、顎に手を当てて何か考えごとをしていたが、何か思いついたのか、アカリに対してある提案をする。


「…俺に考えがあります」

「言うてみろ」

「俺の使い魔に一度魔物石に戻ってもらいます。その直後、結界を解くと同時に一頭になったグルガンマを一斉攻撃して仕留めるというのはどうです?」

「よかろう。マルス、今の案をお主が提案したことにして、ライブラに伝えてくれ」

「わかりました」

「魔物石に戻る理由は、最初に出現した方に倒される設定で」

「了解」


伝言を任されたマルスは急いで学園長の元へと走り出す。

ハクとアカリもその後を徒歩で追っている中で、アカリが話を切り出す。


「さっきはおぬしを庇うことができだが、次はもう無いと思え。いくらあやつに借りがあったとしても、それを振りかざすような真似はしたくないのじゃ。やつの言うとおりルールを破るやつは組織にいる資格はなくなる」

「…わかりました」


貸しとは何なのか気になるハクだったが、そのような無粋な質問をしてしまえば、わざわざ空気を読んで二人のもとを離れたマルスにも申し訳がなくなる。


「それとな」

「………」


もう一つ付け加えようとするアカリを見て、ハクは次に何を聞かれるのかおおよその見当はついていた。


報連相ほうれんそうは社会の常識じゃ。お主はまだ学生の立場じゃが、同時に団員でもある。アレほどのものを報告無しに所持すると最悪、退団を告げねばならなくなる」

「はい…」

「…まったく、あんなバケモノを隠しおって…」

「すいません…アレは人前に出す予定はなかったので…」

「それを判断するのはワシじゃ、勘違いするなよ小僧」

「はい、すいませんでした…」

「わかればよい」


歩きながら一通りの説教を終えたアカリは、手を目一杯上に伸ばし、自分より身長の高いハクの頭にポンッと手を乗せる。


自分より背の低い上司に頭を撫でられたハクは、少しだけ顔を赤らめて顔を俯かせる。

幸いなことに、マルスを含めこちらを見ている者はいなかった。






「説明は終わったか?」

「ハッ!」

「よろしい。タルボスよ、マルスが言った作戦で問題ないかの?」

「構わん」

「うむ、魔力探知が得意なハクの話ではあと200秒で白いグルガンマは魔物石へと戻るそうじゃ。その間に攻撃魔法の準備を頼む。合図は一番内側の結界を張っているマルスが出す。この作戦の指揮はワシが取らせてもらう。異論は?」

「ない」


アカリの支持を聞いたハクや教師陣が力強く頷くと、教師用の戦闘服を着用した人物が一人、アタッシュケースを手にこちらへ近づいてくる。


「持ってきました」

「ご苦労。配ってくれ」


アタッシュケースの中身はおはじき大の小型ヘッドセットだった。

持ってきた若い教師が、その場にいる教師やアカリに配る中、マルスとハクの分を渡すか躊躇う。


「二人にも渡せ」

「…わかりました」


少なくともこの場にいる大人たちは皆、子供に戦わせることを良しとしていない様子であることを感じたハクは、少し罪悪感を感じながらヘッドセットを受け取る。


その場にいる者全員がヘッドセットを装着すると、一行はお互いの魔法に干渉し合わない程度に一定の距離を空けるため移動をはじめる。


ハクは白いグルガンマ、もといオコの視界に入らなければならないため、急いでオコの正面に移動する。












(クッソ!俺様が暴れる予定がこんな雑魚に先越されるとは!)


当のオコはというと、自分が目立つことしか考えてなかった。


(この結界のせいで身動きができねぇ…こんなのなければ、こんなカス野郎捻り潰してやるのにっ!…ん?)


本物のガルカンマに噛み付いたり、弱めのブレスを吐いたりと、結界の中で暴れまわっているオコの前にハクの姿が見えた。


(バカハクが何か言ってやがるな、なになに?…ま・も・の・い・し・に・も・ど・れ、だと?)


正面に見えるハクの口の動きから何を言っているのか読み取ると、思わず一瞬悔しそうな表情をしてしまったが、契約上従わないという選択肢は無いため、コクリと頷いてみせる。


(また石に逆戻りかよ…はぁ…おっと)


本物のグルガンマの攻撃をかわしつつ、戦闘とはまったく関係ないことを考えていた。













(あいつ今嫌そうな顔したよな)

『そうとう戻りたくないんだね』

(また今度だしてやらないとな)


オコの魔力が次第に弱まっていくのを確認すると、ベルとの脳内会話を中止させ、集中しなおす。






体感時間で数秒後、オコの身体が淡い光を放ちながら拳大の石へと変化をはじめ、次第に完全な白い石に姿を変える。


「白いグルガンマの魔物石化を確認」

「了解。ワシとタルボスの結界を解く」


ハクが報告を終えると、3重の結界のうち2枚が解除され、残り1枚のみとなった。


「ではカウント5でいきます。5.4.3.2.1…」


      「グルォォオオー」


マルスのカウントが終わった瞬間、魔法陣が刻まれた半透明の結界が音も無く一瞬で消滅し、雄叫びとともにグルガンマが自由の身となったのも束の間…



「放て!」



次の瞬間には高火力の魔法が次々と襲いかかった。

多色多様な魔法が一頭のドラゴンに集中すると、その標的は力尽きたかのようにバタリとその場に倒れ込む。


(やったか?)

『そのようだねー』


その場にいた者が魔物石に変わったグルガンマの側に集まる。


「あまりにも手応えが無さすぎるのぉ」

「グルガンマと戦ったことあるんですか?」

「うむ…以前戦ったときはもう少し骨のあるやつじゃった。ワシが急行する必要なんてなかったかの」

「サジタリウス、解析を頼めるか?」

「もちろんじゃ。…マルス、この石を持って帰った後、本部で例の件のバックアップを頼む」

「了解」


グルガンマの遺物となる2つの魔物石を拾い上げたマルスは腰のポーチにしまって、アカリガ出現させた転移魔法陣の上に立つと、一瞬の発光とともにその場から姿を消す。


一方、タルボスは教師陣たちに細かい指示を出して、この事件の収拾をはかっていた。



「してハクよ、もう少しワシに付き合ってもらうぞ」

「…?…何かあったんですか?」

「この事件の犯人の尻尾を掴めるやもしれん」

「…まさか…この場にいないミクが?」

「流石の洞察力じゃの…。タルボス!ハクを少し借りていく!寮長さんに遅くなると伝えてくれ!」

「ワシを誰だと思って……もういい…とっとと行け」

「おんにきる!」



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