9話 お勉強 <後編>
久しぶりの更新です。
「はぁ……まさか授業に遅刻させてまで説教されるとは…」
「しゃあないやろ。向こうが武器出してもうたんやからな」
「俺悪くないじゃん」
「いやいや、ハクもなかなか煽ってたよ?」
「なんだなんだ?噂は聞いたぞ!あのアルバルトと喧嘩したんだってな!俺もその場にいたらあいつと戦えたのかもなぁ!なんて惜しいことをしたんだ!…」
昼休みが終わり、ハクたちAクラスの生徒たちは訓練場にて魔法実習の授業を受けていた。現在は魔力を体に慣らすために自分が得意な属性の魔法で、簡単な火球や水球を作り出したりしている。
これは言わば、準備運動のようなもので、いきなり高出力の魔法を使うと失敗して怪我に繋がってしまうためである。
と言っても、常に体に魔力を巡らされているハクにとっては呼吸をするのと同じくらい造作もないことなのだが。
「みなさん、慣らしは終わりましたか?今日の魔法の課題を伝えるのでボードの前に集まってくださーい!」
魔法実習を担当している女教師のパンタ・マホルは、声を張って生徒たちをボードの前に集めた。
パンタは赤い眼鏡が印象的で、長い三つ編みを腰辺りまで伸ばしている。常に笑顔でいるような温厚な先生として知られており、生徒からの人気も高く、担任のエリスとは正反対の性格のようにも見える。こう見えて、魔法の実力のみで元ブリューナクのランク8として働いていたというのだから驚きだ。
服装は教師用の戦闘服兼、制服を着用している。
デザインは生徒の戦闘服と同じようなデザインだが、黒を基調としている生徒用とは違い、緑色が基調になっている。
「みんな揃いましたね。それではさっそく、今日の授業内容に入りたいと思います。今日みなさんにやってもらうのは、"障壁"です」
その言葉を聞いて、嬉しそうな様子の生徒もいれば、ハズレくじを引いたときのような顔をする生徒が見受けられた。
「今月中には、無属性の障壁の他に、最低で2つの属性で障壁を作れるようになってもらいます。既に3つ以上の属性で生成が可能な人は、まだできない属性を練習して下さい。強度は、同じ属性の初級魔法が防げれば合格とします。生成できる障壁の種類の数によって点数を付けます。何か質問は?」
パンタが質問を質問を受け付けると、一人の男子生徒が手を挙げた。
「はい、えーと…トリセルさん」
「はい。もし、無属性と2属性の障壁ができなければ、どうなるのですか?」
何故初回の授業で生徒の名前を当てられたのかというと、パンタがかけている眼鏡にカラクリがある。一見して普通の眼鏡だが、ガラスに映像が映し出されるスマートグラスとなっており、顔認証により生徒のプロフィールを表示したりすることができる。
もちろん教師以外が使おうとすると、ただの眼鏡になってしまうので情報漏えいは防がれている。
ちなみに、パンタのスマートグラスは度入りである。
「もし、不合格となってしまった生徒には放課後の補修を受けてもらい、再テストを行ってもらいます。そこで結果がでなければ0点となってしまうので気を付けて下さい。他に質問は?」
そこでハクは「もうできない属性が見当たらなければどうすればいいですか?」と質問しようかと迷ったが、確実に注目を浴びてしまう気がして手を挙げなかった。
「えー…では演習に入ってもらう前に魔法の基礎について復習しておこうと思います。全ての魔法に共通するもので、もちろん今日の実習内容にも大きくか関わってくるのでよく聞いておくように!」
「「「「「「「はい」」」」」」」
「ではまず、魔素を利用するには2通りのやり方が存在します。えー…では、ヘラミルさん。その2つとは何ですか?」
当てられた女生徒は、「はい」と返事をしてから答える。
「魔法と魔技です」
「その通りですね。魔力を使って魔法陣を生成する魔法と、魔法陣を使用せず、イメージと感覚のみで発動する魔技の2つがあります。ですが、魔技は魔素をそのまま自然エネルギーに還元するのので非常に習得が困難とされており、本学園では卒業まで扱うことはありません」
そもそも魔素は、地震や台風、雷、地殻変動、火山活動といった、アルバステラに存在する自然エネルギーを元に、魔木が排出している。この魔素を自然エネルギーに戻して発動するのが魔技である。
本来は体に毒となってしまう魔素を、徐々に体に慣れさせることで、細胞レベルで耐性を付けることで可能となる。
しかし、あくまでも一時的で強引な還元であって、魔臓が勝手に魔力に変換してくれるわけではないところが大きな違である。
「ちなみに、適合者は魔法を得意とし、魔技は魔人が得意とする傾向にあります」
当時、魔素の濃度が高い地上に追い出された非適合者たちのなかには、魔人となってしまった者もいる。
そのため、本人の意思に関わらず、体が魔素を還元できるようになってしまい、魔技を習得してしまうケースがあった。その体質を遺伝として子孫に残してきたことから、魔人が魔技を得意とする風潮ができあがったのだ。
「そして、魔法も発動には2種類の方法があります。一つ目は魔力を使って魔法陣を生成し、そのまま放出するというものです。二つ目は、魔力がこもっている魔材を媒体にして発動する魔法陣魔法です。例えば、魔素を出している魔木を材料にして作られた本に、魔法陣を書き込んだものを魔本と呼んでいます」
パンタは説明を一度止めると、腰に装着しているケースから一冊の本を取り出した。
「私が使っている魔本がこれです。魔本は印刷では作れないので、誰かに書いてもらうか自分で書くしかないのでかなり高価に取引されています。もちろん試験に魔本の持ち込みは禁止しています」
それだけ説明すると、再びケースに魔本を戻した。
「対して一般的な魔法は、その現象の原因と理由を知っているほど効果的になります。例えば火属性初級魔法の火球であれば、展開した魔法陣に、酸素を吹き込むことを意識すると、魔法陣にその術式が組み込まれます」
パンタは説明をしながら、手に魔法陣を展開させ、火球を作り出していた。更に、魔法陣の周りに書かれている文字が増えたかと思えば火球が更に激しく燃え盛る。
生徒たちがその火球を見つめているのを確認すると、手を上に向けて、頭上に火球を撃ち放った。
普通の火球であればそのまま消失するのだが、パンタが放った火球は、訓練場の天井近くで停止したかと思うと、大きな音と共に花火のような爆発をしてみせた。
「このように魔法はいくらでも強化は可能ですが、その分イメージしなければならないことが多くなってしまい、難易度も格段に跳ね上がります。ちなみに今のは爆薬に使われる化学物質をイメージして術式に入れました」
「ですが、魔法は練習をすればするほど慣れていくので、高難度の魔法でもいずれは短時間でスムーズに発動できるようになるのも特徴の一つです」
それを聞いたハクは、飛行魔法を修得したときの特訓を思い出して顔を曇らせる。
飛行魔法は姿勢制御や重力操作、空気抵抗、風向き、その他諸々を常に意識しなければならないことが山ほどあるため非常に難しい。そのため、ハクは何度も墜落と怪我を繰り返し、やっと無意識で飛べるようになったのだ。
ベルとシンクロしていれば、ベルがそのイメージを肩代わりできるので非常に楽になるのだが、ハクはそれをやろうとはしなかった。
「そして魔法の難易度には、自分が得意な属性も関係してきます。イメージし易いものというのは個人差があるため、向き不向きが生じてしまいます。統計的には、雷属性魔法や重力魔法などはイメージするのが非常に難しいので使える人は少なく、火属性魔法や水属性魔法は比較的イメージできやすい人が多いです」
空間拡張や時間停止の魔法が未だに開発できていないのにはこういった理由があるためである。そもそも理屈がわかっていなければ魔法を使うことが困難になるためだ。
そのため、他の魔法発動時に現れる術式を解読し、魔法陣魔法によってそれらを組み合わせて無理矢理完成させようとしている研究が今もなお続けられている。
「では、本日の本題の説明に入ります」
パンタがボードの画面をスライドさせると、画面が切り変わる。
「障壁は属性によってイメージのし方が大分異なります。土属性であれば、地面を隆起させるイメージで展開でき、岩の様な頑丈さを思い浮かべれば更に強固なものができます。火属性であれば、炎で丸い円を書くイメージが必要です。もちろん形状は問いませんが、全ての物を燃やし尽くすというイメージは必須ですね」
先生は説明をしながら、左手で簡易版の小さな土属性の障壁を創り出し、右手では炎の障壁を創り出してみせた。
それを見た生徒たちは驚きと感嘆を含んだ声を漏らしていた。
「では、みなさん、バラバラになって各自練習に取り組んで下さい。私は見回りますので、わからないことがあったら遠慮なく声をかけてくださいね!」
説明を聞き終えた生徒たちは立ち上がり、各々のスペースを確保するために散らばっていった。
(んー…大人しく純度を上げる練習するか、最近魔法なんて防がずにぶった切ることの方が多いからな)
『それってハクが脳筋なだけじゃん!』
(あんだと!?)
『本当のことでしょ!?いつもいつも私がいなきゃ――』
「あの〜…」
ベルがハクに対して言い返そうとしたが、脳内で言い合いをしていることなど知る由もないユミールが、ハクに声をかけた。
「ん?どうしたユミ?」
「私に障壁教えてくれないかな?」
「俺で良ければお安い御用だが、なんで俺なんだ?」
「ハクって魔法得意でしょ?だから…」
「障壁もできるんじゃないかって思ったのか…でもなぁ…」
「やっぱり迷惑…だよね?」
断られると思ったユミールは、あからさまに悲しそうな顔をして俯いてしまった。そして、良いか悪いのかわからないタイミングでレイリンが近づいてくる。
「あー!ハクっちがユミっち泣かしたー!いーけないんだーいけないんだー!」
「小学生か」
「な、泣いてないよ!リンちゃん!」
「え?そうなの?」
「まったく…俺が教えるのを躊躇ったのは、アドバイスがあまり上手くできないからなんだ」
濡れ衣を着せられそうになったハクが弁明を図る。
ハクは魔法のアドバイスが苦手なわけではなく、できないのだ。
というのも、どうやら曖昧なイメージだけで術式を改良していくことができることがここ最近で発覚したためだ。
特にベルとシンクロしているときは顕著にそれを実感でき、第3段階まで上げれば、一度見た簡単な魔法であれば一発で発動できることもわかっている。
これは、ベルの特殊能力である魔力探知が関わっており、発動したときに発生する魔法陣の術式を、術式の文字ではなく感覚でどんな魔法が発動されたか探知してきたことが原因だとミクが言っていた。
その感覚を真似すれば魔法が発動できてしまい、原理や仕組みを覚える必要などなくなってしまうのだ。
この能力を使って、マルスやミクに見せてもらった魔法はほぼ覚えることができた。
よって、理屈を理解しないまま感覚で魔法を発動しているハクにとって、他人に魔法を教えることなどできるわけがないのだ。
「そ、そうなんだ…」
「まぁ、何か手助けはできるかもしれないから一緒に頑張ろうぜ」
「うん!」
元気を取り戻したユミールと、彼女にくっついているレイリンとともに練習をすることにした。
一方、トオルとカジは二人で既に練習を開始していた。
「だからそんな無駄に大きくするから死角を作ってまうねん!必要最低限にせぇや!」
「だ、だったらトオルはできるのか!?」
「あぁ、なら全力で初級魔法打ってみぃや」
「どうなっても知らないぞ!」
なにやら言い合いをしている様子の二人は、距離を取りはじめた。ある程度距離をとった二人はそれぞれが片手を前に突き出して魔法陣を展開する。
「俺がどの属性を使うかわからないのにもう展開していいのか?」
「あぁ、おおよその検討はついとる。いつでもええで」
「ほんじゃ!全力手裏剣!…うりゃ!」
カジは、先日のハクとの模擬戦でも使用した土手裏剣よりも遥かに大きさを増した手裏剣を魔法陣から出現させる。
それをもう片方の手でキャッチしてトオルに向かって投げた。
それに対してトオルは、展開していた魔法陣を黄色く輝かせ、雷を纏わせた。
カジが放った巨大な手裏剣と、バチバチと音を鳴らす雷を纏った魔法陣がぶつかり合う。
土属性でできた手裏剣は、雷属性の障壁を突き破ることは容易いはずであるにもかかわらず、その手裏剣は砕け散ってしまった。
「なっ!?」
「言った通りやろ?」
「ぐぬぬ……」
属性の優劣は存在するが、魔力を元にして具現化していることに変わりはないので、相手が放った魔法を注意して分析すれば、展開した障壁のどの部分を厚くして対応すればいいかわかるのだ。
「あの二人、なんだか喧嘩してない?」
「あんなの喧嘩に入らないよ。ほっとけば大丈夫」
「そうそう、モーマンタイ!」
「それ何語だ?」
「んー…何だっけ…中国語?で大丈夫って意味なんだって」
「へぇ〜」
少し離れたところから二人のやり取りを見ていたハクたちは、気を取り直して障壁の練習に移る。
(んー…俺は派生属性でも練習しようかな)
『マルスに止められてなかった?』
(やるなと言われるとやりたくなるよな)
『アッハッハ!どーかん!』
頭の中でなにやら企てているハクを余所に、ユミールとレイリンは練習に励んでいた。
「レイリンは火属性が得意なのか?」
「うん!そうだよ!…はっ!」
レイリンは火属性の障壁を展開しており、ハクの目から見ても非常に魔力濃度が高いことがわかった。
「凄い濃いな」
「ん?魔力の質がわかるのー?」
「まぁな」
「じゃあちょっと何か打ってみてよ!」
「おう、いいぞ」
試し撃ちを任されたハクは、レイリンから一定の距離を取ると手のひらを障壁に向ける。
「とりあえず火球からいくぞ」
「は、早くして〜」
「はいはい、火球!」
障壁の維持にも魔力を消費するため、疲れが現れはじめたレイリンがハクを急かして火球を打たせる。
シュンッ ボワッ!
もちろん手加減はされているものの、ハクが放つ火球は同級生のものと比べても速さや威力が段違いだ。
急かされて放った火球もそれなりの威力がこもってしまったのにも関わらずレイリンの障壁はそれを打ち消してみせた。
「ほぉ…まぁ予想してたけど」
「うしっ!もっと強い水属性頼める?」
「流石にそれは…」
「いいからいいから!」
『だいじょぶそうだよー』
(ベルが言うなら平気なんだろうな。中級でいいのか?)
『うん!モーマンタイ!』
「じゃいくぞー」
「オイッス!!」
「アクアスパイラル!」
ハクの手のひらに出現した魔法陣からは、先の尖った細い水が螺旋を描きながら凄い勢いで障壁に向かっていった。
一瞬やり過ぎたかと思ったハクも、レイリンの障壁の変化を見た瞬間にその考えを無くす。
「ぐぬぬっ!」
レイリンは踏ん張る声を漏らしながら、展開している障壁に更なる魔力を込めると、魔法陣にまとわりついていた炎の色が赤色から蒼色へと変化した。
ジュッ
その直後に2つの魔法がぶつかり合い、水が蒸発するときにでる音と、白い煙を出しながら拮抗する。
やがて、蒼炎の障壁の方が次第にアクアスパイラルを消滅させていき、完全に消失させた。
「リンちゃん凄い!」
「あぁ、大したもんだ」
「はぁ…はぁ……えヘヘ」
レイリンが発動させた蒼炎は、火属性の派生属性とされており更に難易度が格段に上がる。
他にも水属性の派生である氷属性や、土属性の派生である岩石属性などが存在する。
「わ、私も頑張らなきゃ!」
「その意気だ」
「ふぅ……障壁!」
ユミールが発動させた障壁は、魔法陣を淡い光で包んでいた。
「ユミは光属性が得意なのか?」
「うん!」
「そういえば治癒魔法も光属性だったな」
光属性を得意とする者は数が少ない上に扱いづらい属性でもある。特徴としては治癒魔法や防御系統の魔法に優れていることだ。そのため、光属性で生成する障壁は他の属性に影響を受けにくく、万能で強固なものを発現させることができる。
がしかし…
「ぐぬぬぬぬ!」
「力み過ぎだ。それだと体内の魔力が回りにくくなるぞ?」
「だ…だって…力入れないと発動…っ…しないんだもん…」
汗を流しながら必死に障壁を維持しているが、その割には強固に見えない。
それを見兼ねたハクは、ユミに歩み寄って魔法陣を展開している方の手首を掴んだ。
「え!?ちょっ!?」
ユミの手首を掴んだハクは、目を閉じて集中しはじめた。
すると、ハクの手がだんだんと白く淡い光を放つ。
「こ、これって」
それに反応するように、魔法陣の光がより白く輝きを増す。
「俺が魔力を送ってるから力を抜いてみろ」
「う、うん」
言われた通りに力を抜いても魔法陣は解除されていない。
「この感覚を忘れるな。声量を上げたいときに、喉から声を出すんじゃなくて腹から声を出すような感覚と同じだ。魔力の通り道を広げる感覚」
「す、すごい…」
この芸当は人の魔力を感じ取ることのできるハクだからできることであり、普通の適合者ではできない。
「この感覚を忘れるな」
「うん!」
『ちょっとー!アタシがせっかくネリネリした魔力勝手にあげないでよー!』
(いいじゃねぇか、減るもんじゃないし)
『体内魔力減ってるじゃん!』
(細かいことは気にすんな)
「ハクっち凄いね!」
まだ説教したりないような表情のベルを余所に、レイリンからお褒めの言葉を頂いた。
「まぁ練習したからな」
「ミクっちがこの前同じことしてたけど、その場にいた先生は度肝を抜かれてたよ!」
ハクはその言葉を聞いて大事なことを思い出す。
が、しかし思い出すのが遅かったようだ。
「今のは魔力同調ですか?ファールティ君」
「え、えぇまぁ…」
また目立ったことをしてしまったことに気付き、誰も見ていないことを祈ったが、その願いは届かなかった。
パンタの目にとまってしまったのだ。
「その歳で他人の魔力に合わせるなんて素晴らしいわ!」
「そんなこと……Sクラスのミクに教えてもらったんですよ」
「だとしても凄いわ!」
「ちょ、ちょっと先生声大きいです」
「あら、ごめんなさい?ついつい」
生徒たちは広大な練習場をめいいっぱい使っているため、全員が注目することは無かったが、近くで練習していた生徒たちの何人かからは注目を集めてしまった。
このままではマズいと思っていたハクは、とある質問を投げかける。
「そういえば先生、質問があるのですがよろしいでしょうか」
「えぇ、何でも聞いてちょうだい」
「試験についてなんですけど、障壁の発動は攻撃魔法が発動されてから展開するのか、それともあらかじめ展開しておいていいのでしょうか」
「おぉ!いい質問ですね!説明するのを忘れていました」
手のひらをパンッと叩いて、大事なことを思い出した仕草をとる。
「事前に展開してもらっても構いませんが、実戦ではそんな余裕はありません。よって、攻撃魔法を発動してから障壁を展開した場合は加点することにします。また改めてみんなの前で説明するわね」
「なるほど、わかりました」
「他に質問は?」
「今のところ大丈夫です」
「よろしい!」
そう言うと、パンタはハクたちのもとを離れて、近くのトオルとカジガイル場所に向かって行った。
(ふぅ…)
『まったくもう…ハクも練習すれば?』
(そうだな)
もう下手な行動をするのはやめようと、自分の練習にとりかかる。
(うーん…リンの蒼炎を間近で見れたから、蒼炎ならいけるかな…)
『そればっかりは、やってみないとわからないよね〜』
(だよなー…っと)
ベルと脳内で会話しながら片手を前に突き出して魔法陣を展開させる。
「ほっ」
気の抜けた声で火属性の障壁を出現させたハクは、早速炎を蒼色に変えるイメージを頭の中で浮かべる。
「うーん…」
だが一向に炎は蒼くなろうとはしなかった。
『レンが展開した魔法陣の術式と同じはずだから、違いがあるとすれば、それぞれの術式に込める魔力の量だね。こればっかりは繊細な感覚までは読み取れないし難しいね〜』
「ぐぬぬ…これでどうだ!」
『ちょっ!人の話を聞――」
ボワッ!!
「あっち!」
『言わんこっちゃない…』
過剰に魔力を込めても、赤い炎のまま拡大しただけだった。
「あっは!ハクっちも無茶するねぇ!私も最初は同じだったけど!」
「なんだ見てたのか」
「ハクっちはガスバーナーを見たことはある?」
「あぁ、もちろん…………ってそういうことか!」
「流石理解が早いね!」
蒼炎を生成するコツは絶妙な空気とガスの量にある。
ただ炎の威力を上げようとしたり、空気を大量に生成しても上手くいかない。炎、空気、ガスの量を、使用する場所の天候や湿度を考慮しつつ調整しなければならないため練習が必要となる。
「なるほど、これはすぐには無理そうだな」
「あったりまえだよ!アタイもお父さんとたっくさん練習したんだから!」
「そりゃそうだよな」
まだまだ魔法に関しては未熟であることを実感することができたハクは、悔しさとともに練習の必要性を感じていた。
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ハクが練習場で障壁の練習をしている頃、
そのハクの部屋のキャビネットから白光が漏れ出していた。
キャビネットの中からガタガタと物音が聞こえてくる。
しばらくガタガタと音がした後……
「っぬぁーーーーー!」
キャビネットの中のスーツケースがガタンッと音を立てて勢い良くフタが開いた。
「フンッ!」
バタンッ!
キャビネットの扉も勢い良く開かれると、
そこから何やら小さい白いものが飛び出してきた。
「ハクのやつ俺様をいつまでも閉じ込めやがって!」
その正体は胴体の長い白い小動物なのだが、メル語を話している。
「このオコ様を放置するとどうなるか思い知らせてやる!」
中性的な声色で何やら物騒な発言をした自称オコは、玄関に向かって走り出すと、物凄い跳躍力でドアノブに捕まりドアを開けてしまった。
そしてそのまま、ハクたちが寝泊まりする寮から飛び出してしまった。
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