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明るい地下と暗い地上  作者: シゲさん
第1章 1年生編
16/20

8話 もしかしてこれって… <後編>

正月も終わったので更新していきます。


ハクが今いる場所はブリューナク本部1階のエントランス。

現在の時刻はもう少しで12時になろうかとしていた。


午前中に、とある魔物の討伐任務を終えたハクは、ロッカールームで団員服から私服に着替えてから、街合わせ場所であるエントランスの椅子に座って本を読んでいた。


普段は学校か傭兵団の制服、もしくは部屋着と運動着しか着ることがないハクは珍しく、Tシャツの上にジャケットスタイルのカジュアルな格好になっている。




『来たよ!』

「ん」


お得意のベルの探知能力によって、待ち合わせしている友人の一人がハクに向かって近づいているのを感じ取る。


本にしおりを挟んでパタンと閉じると、足元に置いていたリュックに入れる。


「お疲れ様。何の本読んでいたの?」

「お疲れさん。魔武器についての本だよ」


一番最初に来たのはミクだった。

彼女も午前中の仕事を終えてきたばかりのはずなのだが、疲れている様子は全く無かった。服装はレザージャケットにパンツスタイルと、男女が見てもカッコイイ女性の雰囲気を纏っていた。


「へぇ、なんでまた?それも紙の本で」

「昨日のカジの魔武器を見てちょっとね。俺は電子書籍よりも紙の方が好きなんだ」


現代では、本を出版する際には電子書籍が主流となっており、世界中の学校ではタブレット一つで全教科の教科書を管理しているのだ。しかしながら、ハクのように本は紙で読みたいという者も少なくないため、大きな街であれば書店も存在している。


「おじさんみたいなこと言うのね」

「お前、自分が年を上に言われると怒るく――」

『ちょっとハク!!』


「何か言ったかしら?」

「いえ、何も…」


いつもの癖でまた思ったことをすぐ口にしてしまいそうになるが、今は小さな姿の相棒がそれを阻止してくれた。


「魔武器について勉強したいならまず、魔物の特性を――」






いつの間にか隣に座っていたミクとかなり真面目な会話をしていると、またも知っている魔力が近づいてくるのを感じた。


「二人ともお待たせ」

「よっ」

「お疲れ様」


集合時間の5分前に到着したのはマルスだ。


「何の仕事してたんだ?」

「んーこれは最上級機密だから教えられないかな。ミクでさえもね」

「じゃあやめとく。何か寿命が短くなりそうな気がするし」

「そうね」






「最後の一人も来たようだね」


マルスが到着してから間もなくして、集合時間にほぼぴったりで到着したのはユミールだ。


「はぁ…はぁ…お、おまたせ」

「急ぎの用事じゃないからそんな急がなくていいのに」

「ち…ちこ…く…は…だめ…たから…はぁ…」

「まったく、律儀な子ね」


ユミールは普段、時間をきっちり守る性格なのだが、今日に限っては家を出るのが遅れてしまったようだ。


「ユミが時間ギリギリなんて珍しいね」

「ちょ…ちょっとね」



ユミールが遅刻寸前になってしまったのは、昨日の夜に電話でミクと話したことが原因となっていた。



――――――――――――――――



『だから明日は本部に直接来てくれるかしら』

「うん、わかった!」

『じゃあよろしくね。あ、そうそう、私とマルスは途中でいなくなるからハクの参考書探しに付き合ってあげてね』

「そうなんだ、大丈夫、任せて!」

『それじゃあまた明日』

「うん!また明日!」


   ピッ


「あの子、慌てると思ったのに意外と冷静だったわね」



――――――― 翌朝 ―――――――


アルケミス家の食卓では毎朝、食パンとベーコンエッグが食卓に並べられていた。ユミールも寮暮らしになったとはいえ、例外なく食パンとベーコンエッグを朝食として食していた。ちなみに休日の朝は食堂は閉まっている。


「んー…午前中はどうしようかなぁ…買いたい物考えておこうかな」


ユミールは朝ごはんを食しながら、午後の買い物まで何をするか考えていた。


考えた末に、昨日ハクが言っていた魔力を体内に留める練習というのを試しにやってみることにした。他にも、本を読んだり家事をこなしたりしていると、出発する時間が近付いてきた。


「さて…今日は何を着ていこうかなー♪」


鼻歌交じりに衣装棚を開けて中身を確認する。


「んー、やっぱお母さんに聞くか」


ユミールは普段、自分の着るものに対してこだわりがあまりなく、着るものは大抵母のアリシアに決めてもらっていた。というのも、アリシアは大手ファッション企業に務めており、デザイナーと相談しながらコスト面や生産過程などを考慮して最終的なデザインを決める役職についている。よって、自然と自分の母親を頼るのはユミールにとっては当たり前となっていた。


スマホをホログラフィック通信モードにして、母親に連絡する。

すると、数秒後に床に置いたスマホから椅子に座ったアリシアの姿がホログラフィックで立体的に映し出された。アリシア側にはユミールの全身が映っている。


「どうしたのユミ」

「今日友達とお出かけするんだけど、洋服を選ぶの手伝って欲しくて」

「まったくもう…そろそろ自分で決められるようにしなさい?」

「今日は許してよ〜」

「まぁいいわ、で?誰とでかけるのよ」

「ハクとミクとマルス君だよ」

「なーんだ、ハク君と二人じゃないのね」

「お母さんたら、また……そんな………こと……言って……」

「どうしたの?」


ミクが昨晩言っていた、ハクと途中から二人になるということがどういうことなのか、母親に茶化されてはじめて気付いたのだ。


(……え?うそ?いやまさか…もしかして…これって…)


「ユミールさーん、どうしたんですかー?」

「あ、ご、ごめんお母さん」


昨晩にミクから言われたことを思い出して、自分の世界に入り込んでしまったところをアリシアに引き戻される。


「急にどうしちゃったのよ」

「それが、途中からハクと二人になるのを今思い出して」

「あら、入学して早速デートなんて気が早いのね」




ポク・ポク・ポク・ポク・ポク・ポク・チーン




「デデデデデデデート!?」

「そりゃそうよ、他に何があるのよ」

「い、いやだって他のみんなもいるし…」

「でも途中で別れるんでしょ?ならデートじゃない。それにあなた達が二人ででかけるなんて、今にはじまったことじゃないでしょう?」


そう、アリシアの言う通りハクとユミールが一緒に行動するなど今にはじまった話ではないのだ。勉強を教えるときも、一つの部屋に男女二人で勉強していたし、毎日のように二人肩を並べて街を歩きもしていた。


だがそれはユミールにとっては、少し義務のようなものを感じていたため、あまり意識をしないようにしていたのだ。勉強を教えるのに熱心になって顔が近くなってしまったのもそのためだ。


よって、二人が行動を共にするのは珍しいことではなく、ユミール本人でさえ昨晩の電話に普通に返事をしてしまったのだが、改めて考え直すとやはりデートになるのではないかと思えてきたのだ。


『まぁいいわ。早く着る服を決めちゃいましょう』

「そ、そうだよね!」

『(コンコン、アルケミスさーん、昨日の件なんですけど――)はーい、今行くわ。ごめんユミ、もう仕事に戻らないと』

「え、ちょっ、おか――」

『頑張ってね♪』


   プチッ


親指を立てながら娘との通信を切断すると、スマホからホログラフィックが消えて、数秒の間部屋が静寂に包まれた。


「おかーーーさーーーーーん!」



その後、ただでさえ服選びに無頓着なユミールが、ハクとデートをすることを意識しながら、素早く着る服を選べる訳もなく、長時間試行錯誤をしていたのは言うまでもない。



―――――――――――――――――



「ということがあって…」

「ユミもそろそろ自分で着る服決めないと」

「だって普段着るものなんて制服か寝間着くらいだし…」


現在4人は路面電車で、ブリューナク本部からいつぞやの4番街に向かっているところだ。4人集まったところで、マルスが「まずはお昼ごはん食べようと思うんだけど、どう?」と提案してきたので他の3人も了承した。


電車の窓際に立って、あれが何の建物か、どんなお店があるのかをマルスがハクに教えているのに対して、ユミールとミクは中央に並ぶ席に座って今朝の出来事を話していた。




アトランティアの街は、中央にそびえ立つ電波塔を中心にして、外側にいくにつれて段々と建物の高さが低くなっていく街づくりが成されており、遠くから見ると人工の山ができているようにも見える。


背の高いビルが立ち並ぶ中心街を抜けて、比較的背の低い建物が並ぶ旧ヨーロッパの町並みが再現された4番街に入っていた。


4人は途中でそこで下車して、マルス行きつけの喫茶店に向かって歩きはじめる。


「そういえばユミとはこの辺ではじめて会ったけど、よく来るのか?」

「うん、ここの街並みが好きでよく来るの」

「その気持ちわかるよ。僕も好きなんだ」


そんな話をしながら歩くこと数分、辿り着いたのは落ち着いた雰囲気の喫茶店だった。


「ん?この感じどっかで…」

「もしかしてハッ君も来たことあるの?」

「いや、そんなはずはないんだけど…」


何か違和感を覚えたハクは看板に目を向けると、そこには"アステシア"と書かれていた。


「とにかく入りましょ」


ミクは何度か来たことがあるのだろうか、新鮮味の無い面持ちで店内へと足を踏み入れていく。それに続いて3人も店内へとはいっていく。


     カランカラン


「こんにちはー」

「あらいらっしゃい、マルス君にミクちゃん。それとそのお友達かしら?」

「二人の友人のハク・ファールティです」

「同じく友人のユミール・アルケミスです」

「あらあら、マルス君がミクちゃん以外の子をつれてくるなんて珍しいわねぇ」


カウンターの向こう側からマルスに返事をしたのは、ここアステシアを一人で運営しているラムだ。


「アハハ…この人はここの店主、ビムおばさんだよ。いつもの席に座っていいですか?」

「えぇ、もちろんよ」


マルスがそう言うと、店内の一番奥にある4人座れるテーブルに座った。それに伴って他の3人もそれぞれ着席する。

店内には他にも数人がいたが、それぞれがお気にいりの場所だと言わんばかりにくつろいでいる様子だった。


着席した後、4人がそれぞれメニューを広げたり、上着を脱いだりしていたところ、空中に浮いた水の入ったコップとおしぼりが目の前を通って座ってるテーブルに着地した。


昨日同じような光景を見ていたおかげで、なんとか驚きを飲み込むことができたが、一般的な飲食店ではまず見ることができない光景だ。何故なら、その店主がアトランティア学園のようなエリート校の卒業生でない限り浮遊魔法など到底できるわけがないからだ。


『んー……』

(どうしたんだ?)

『この魔力どっかで…それにあの顔もどこか見覚えが…』


小さくなったベルが腕を組みながら、空中であぐらをかいて何か考え事をしていた。


『あーーーーー!』

(何かわかったのか?)

『面白そうだからナ・イ・ショ!』

(やれやれ…)


考え抜いた末に、何かを思い出した様子のベルに、ハクが尋ねても答えてくれなかった。


ベルのことはさておき、とりあえず何を食べようか考えようとしたところ、マルスが店のメニューをハクに渡してきた。


「僕とミクはもう決まってるからどうぞ」

「わかった」


メニューを受け取ったハクは、隣にいるユミールと共有しながらメニュー表を覗き込む。


「ん〜…迷うねー…何かオススメってある?」


決して種類は多くはないが、どれも魅力的に見えてしまうランチメニューに、ユミールは思わず決断が鈍くなってしまっていた。


「ビムさーん!まだビーフシチュー残ってる?」

「あぁ、あと2食残ってるわよ!」

「ちょうど良かった。一日限定15食しかないんだ」

「いいのか?マー君とミクは」

「私は別の頼む予定だったし、マルスもそうでしょ?」

「うん」

「そっか、じゃあ俺はビーフシチューで」

「あ、私も!」


4人全員のメニューが決まったところで、テーブルに備え付けてあるパネルを操作して注文する。店内はモダンな雰囲気ではあるが、こういったところは便利なシステムを取り入れているようだ。でなければ一人でお店をまわすことなど、到底できないだろうと予測できる。


「ビムさんって、魔法が得意なの?」

「私達ブリューナクの団員にとってはとても有名な人よ」

「へぇ〜、そんなに凄い人なのか」

「そう……良くも、悪くも…ね…」

「ん?どういうこと?」


有名な人だと聞いて、どんな凄いことをしたのかわくわくしながら聞こうと思っていたユミールに対して、マルスの顔色はどこか曇っているように見えた。


「そうね…20年前の事件と言えば何かわかるかしら?」

「20年前か…もしかして『ビルカダン島事件』のこと?」

「なんだそれ?」


優秀なユミールに対して、地上の歴史についての知識はまだまだ浅いハクは、何のことかわからなかったのでミクに質問した。


「ビルカダン島は、場所自体が秘密とされている島で、現在は全ての魔人を障壁で幽閉している島よ。でも昔からそこは魔人たちの住処として使われていて、平穏に暮らしていたわ。長年の観察によって魔人たちも、私達と同じようにメル語を話して、同じように生活をしていることもわかっていたの」


「魔人って聞くと、残虐なイメージが強いもんな」

『……………………』

(どうしたんだ、ベル)


ミクからビルカダン島事件について聞いていると、ベルから悲しみの感情が流れ込んできた。


『…んーん、何でもない』

(?)


それだけ言うと、ハクの前から姿を消してしまった。

そんなことを知るわけもない他の3人は話を続ける。


「ハクが言うように、魔人たちは残虐だとされていたけど、知性も理性も持っていて私達と何ら変わりはないらしいわ。そんな魔人達と適合者たちの間で、条約を結んで交流を持とうという運動があったの。そして、20年前にビルカダン島で条約を結ぶことになったのだけれど、条約の調印式で事件が起きた」


ミクがそこまで説明すると、それに続けるようにマルスが説明をしはじめる。


「条約に反対していた過激派は、調印に来ていたアトランティアの使節団を襲撃したんだ。使節団は、魔人が使う強力な魔法により、なすすべなく殺されてしまった…。それを聞いたブリューナク及びアトラスが魔人を討伐対象として過激派の鎮圧に向かったんだ。そして、過激派を鎮圧した後、もちろん条約は白紙、そして島全体を障壁を使って幽閉することを条件として穏健派の命を保証したんだ。これがビルカダン島事件だよ」


「そんで?その事件とビムさんは何の関係が?」


「当時ブリューナクでランク9まで上り詰めたビムさんは、ビルカダン島の鎮圧作戦に参加したの。当時の上の命令は魔人の全滅…。ビムさんも治癒魔法師として参加して、戦場で団員の治癒を行っていたわ。でも、その戦いに疑問を感じていたビムさんは敵とされていた魔人まで治癒していたの。それが上層部まで知られてしまって、帰還後に解雇されてしまったのよ」


「そんなことが…」

「当時は治癒魔法の技術をたった二人で200年進めたと言われるほど物凄い人だったんだ」

「ん?二人?」


マルスの言葉の中に疑問点を持ったところで、ラムが両手にビーフシチューを持ちながら、パンや他の料理を浮かせて近づいてきた。


「あらあら、懐かしい話をしているのね」

「すいません、べらべらと…」

「いいのよ、マルス君とミクちゃんの友人なんだもの。それにハク君は…」

「俺が何か?」

「いや…何でもないわ。それではごゆっくり」

「ありがとうございます」


ハクにとっては歯がゆさが残ってしまったが、そんな気持ちを凌駕する程に美味しそうな料理がズラリとテーブルに広がっていた。ラムの料理をはじめて見る二人はよだれを垂らすのを我慢しながらスプーンを手にした。


「二人は何を頼んだんだ?」

「僕はナポリタン」

「私はドリアよ」


二人に運ばれてきた料理もまた、食欲をそそらせるように湯気を踊らせていた。


「「「「頂きます」」」」







4人は食事を楽しんでいると、先程の会話の中で気になった言葉があったことをハクは思い出した。


「そういえば、さっきの話に出てきた、ビムさんと一緒に治癒魔法を研究してた人っていったい誰なんだ?」

「ラムさんの妹のリムさんよ」

「ゴホッ!ゴホッ!ゲホッ!」

「だ、大丈夫!?」

「アッハッハ!」『アッハッハ!』


ハクが思わずむせてしまったのを見て、マルスが笑い声をあげた。ベルに関しては腹を抱えてハクを指差しながら大笑いしている。それをよそに、ユミールがハクに水を差し出して、それを一気に飲み干す。


「はぁ……お前、知ってて黙ってたのか!?」

「そっちの方が面白いと思ってつい」

「何でマルス君あんなに笑ってたの?」

「ハッ君と僕が前にお世話になってた喫茶店のオーナーがリムさんだったんだよ。それでこっちに来たときも、あの店と同じ味が食べられるものだから通うようになったんだ」

「へぇ~、世界って狭いのね」

「まったくだよ…」


驚きのせいで、一時中断されてしまった食事はその後も会話を交えながら進んでいった。






「ごちそうさま〜、あー美味かった」

「本当に美味しいね。今度お母さんも連れてきたいな」


食事を終えた4人は、早速買い物に行くために準備をすすめる。


「ビムさーん、ごちそうさまでしたー」

「はーい、今日もありがとねぇ」

「こちらこそ、また来ます」




店を後にした4人は早速、本来の目的である買い物へと向かう。

最初に向かったのはホームセンターだ。


「家具見に来たはいいけど、俺は買う物ないかな〜」

「ここは家具だけじゃなくて掃除用品とかキッチン用品もあるよ」

「お、まじか」

「うん、後で行こうか」

「そうだな、マー君は何を探してるんだ?」

「イスだよ。今の部屋にも余計だと思えるほど高いイスがあるんだけど、PC作業には向いてないんだよね」

「お前らしいな。イスは実際に座ってみないとわからないからネットじゃ買えないもんなぁ」

「そうなんだよ」


現在はハクとマルス、ユミールとミクに別れて買い物を楽しんでいる。


「なぁ」

「ん?」

「この際だからずっと気になってたこと聞いていいか?」

「悪い予感しかしないんだけど」

「まぁまぁ。そんじゃ聞くけど……マルスとミクって付き合ってんのか?」

「その話か…。よく聞かれるけど、付き合ってるわけじゃないよ。大切な友人で大切な仲間ってだけだよ」

「ふーん…お似合いだと思うけどなぁ」

「僕なんかに何でもできるミクはもったいないよ」

「お前、俺みたいな全国の普通な人間に謝れ」

「その言葉、そっくりそのまま返すよ」





一方その頃、女子二人組は掃除用品コーナーにいた。


「あんな綺麗なハクの部屋見せられたら自信無くすよね」

「えぇ、あの見たことない高性能な掃除ロボットも気になるし、何か特別な魔法でも使ってるのかしら」


実は掃除はベルが担当して、ソファーで寝転がってテレビを見ながら、ハンドクリーナーなどを浮かせて掃除しているなどと、二人は知るよしもなかった。


「そういえば、ハクはお手伝いさんを部屋の中に入れないって言ってたね」

「でも全部自分でできるんだし、不思議ではないわね」


ハクを見習って、自分でできることは自分でやろうという心が芽生えはじめたこともあり、様々な掃除グッズを手に取りながら会話をしていた。


「そういえばハクとはどこまでいったのよ」

「!?っとっとっと」


突然過ぎるミクからの発言により、思わず手に持っていた商品を落としそうになってしまったが、なんとかキャッチした。


「ふぅ〜」

「何をそんなに動揺してんのよ」

「何でそこでハクが出てくるの?」

「あれで気付くなという方が無理な話よ」

「ま、まさか、今日のデ、デ、デートも!?」

「私とマルスに仕事ができたのは本当よ。(面白そうなのも本当なのだけれど)それで?手くらいは繋いだわけ?」

「そんなことできるわけないよ…」

「ハクはバカみたいに鈍感だから、多少強引にいかないとまったく効果はないと思うわよ。それに、マルスと一緒にいることが多いから見立たないけど、顔も整っていてあんだけ強ければ他の女にもきっと目を付けられるわよ」

「そ、そんなぁ」

「ま、頑張りなさいな」


いつの間にか何を買うか決めていたミクが、自分の買い物かごを持ってレジの方へと向かっていく。それを見て、自分もさっさと決めなければと、急いで商品をカゴに入れる。







「お、色々買ったみたいだな」

「まぁね。そっちはそんなに買ってないみたいだけど」

「僕はイスを買ったよ。郵送を頼んだけど」


集合時間になると、それぞれが集合場所に時間通りに到着した。


4人はスマホを取り出し、何かのアプリを開く。

すると、上空を飛んでいる無数のドローンのうち4機がこちらに近づいてきた。ドローンが目の前で滞空している間に、備え付けてある箱に買い物した物を入れて、スマホをかざすと、そのまま上空へ飛んでいった。


「しっかし便利だよなぁこれ」

「そうね。団長なんかは猛反対していたけれど」


航空機規制法の緩和がされて依頼、待っていたと言わんばかりにドローンの研究開発が進められ、困難とされていた姿勢制御なども魔力によってすんなり解決された。

そんなドローンをいち早く使いだしたのが、運送会社である。

誰でも手軽に自宅に物を送れる他、ネットで買ったものも5キロ未満の物であれば配達できるため、多くの人がサービスを利用している。

現在アトランティアを実験都市として、ドローンの有用性と危険性を観察しているため、このサービスが使えるのはアトランティア内のみだが、3年後には世界中で利用できるようになる予定だ。


そのため、アトランティアでは上空を無数のドローンが飛び交っている状況になっている。


「確かに団長はこういうの嫌いだろうな」

「この運送会社のシステムのファイアウォールは僕が構築したから安心して欲しいところではあるんだけどね」





その後も4人は洋服や魔法具を見たりしていたが、ミクとマルスが仕事に向かう時間が近づいてきた。


「そろそろ私達は本部に戻るわね」

「おう、気をつけてな」

「うん、それじゃあ二人ともまた学校で」

「うん!またねー!」


魔法具屋の前でユミールとハクは二人を見送った。


その後、二人の間に一瞬の静寂が訪れたが、はくの方からユミールの方に話しかける。


「さて、じゃあ行きますか…本当に付き合ってもらっちゃっていいのか?」

「もぅ…何回大丈夫って言えばいいの?早くいこっ!」

「お、おう」


ユミールに時間を取らせてしまうことにまだ罪悪感を感じていたハクに対して、彼女は手を握って引っ張る形で連れ出した。


勢いで手を繋いでしまったユミールは、数メートル進んだところで立ち止まってしまう。


(どどどどどうしよう…勢いで握っちゃったけど…嫌がってないかな……やばっ、手汗かいてないかな…)


「ユミ?………ってあぶなっ!」

「え」


今日は休日というだけあって、それなりの人通りがある。

そんな中で立ち止まってしまったユミールの向こう側からスマホを見ながら歩いてくる男性がいた。

ぶつかりそうになったところを寸前のところでハクが手をぐっと引っ張ってなんとか回避したものの、ユミールとハクが密着する姿勢になっていた。


「え、あ、…」

「いきなりぼーっとすんなよ、まったく、ほら行こうぜ」


今度はハクが前になって、ユミールの手を引っ張って先導する。





「あ」

「ど、どうしたの?」


ユミールは顔を真っ赤にさせながら、黙ってハクに引かれるがままあるいていたが、対するハクも数メートル進んだところで立ち止まってしまう。




「本屋って…どっち?」

「もう、ハクったら」


ハクの言葉を聞いて、真っ赤にさせていた顔を笑顔に変えて、呆れと嬉しさを含んだような声色で答えた。


引き続き誤字脱字のご指摘やアドバイス等お待ちしております。すこしでも気に入って頂けたらブックマーク登録お願いします。

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