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明るい地下と暗い地上  作者: シゲさん
第1章 1年生編
15/20

8話 もしかしてこれって… <前編>

8話前編です。



「「「「「いっただっきまーす!」」」」」


カジとトオルの二人も時間ピッタリに到着すると、ハクが用意した料理を囲んで食事をしはじめる。


お得意の浮遊魔法で、みんなの取皿にどんどん料理を盛っていく光景を見て、また二人が口をあんぐりさせたのは言うまでもない。




「まさかハクが料理上手なんてなぁ」

「ここ何年も一人暮らしだったからな。自然と見に付いた」

「え、一人暮らしってことは、やっぱり…ってイタタタッ!何すんだよミク!」

「デリカシーないのはハクだけで十分なのよ」

「おいそれどういう意味だ」


カジが何かを言おうとしたところに、ミクにつま先をグリグリと踏まれて言葉を中断した。


「みんなも気付いてると思うけど俺の両親はもういない。写真すら残ってないから顔もわからないけど、俺の師匠がここまで育ててくれたから苦労することはなかったよ。さ、食べてくれ」


いつの間に料理の取り分けを終えていたハクは話半なかばで食事を再開することを勧める。



「うわ、うめぇ!」

「ほんと、これ美味しい!」

「作って欲しいものがあったら、これからはハクのところに行こうかしら」

「やめてくれ。料理は俺の幼馴染から教わったから、あいつのためにも今日は頑張ったんだ。いつもはこんな豪華なのは作らない」

「へぇ~、その幼馴染はとても料理が上手なんだね」

「あいつはもうプロ級の腕前だぞ」

「一度その人の料理も食べてみたいもんや」


皆がそれぞれの感想を述べながら、次々と料理に手を付けていく。


「マー君はまだ仕事なのか?」

「えぇ、私も手伝おうか聞いたのだけれど、『今日はシフト入ってないでしょ?無理しなくていいよ』って言われてしまったわ」

「若獅子さんも大変やなぁ」

「なんだあいつ、そんな呼ばれ方されてんのか?」

「なんや知らんかったんか?」

「あぁ」

「マルス君の守護霊が獅子だから若獅子なんて呼ばれるようになっちゃったの。アカリさんも面白がって刺繍なんかいれちゃったりして…」

「なるほどな」


先程から会話に入ってこないレイリンは、無言でバクバクと料理を食している。


「それじゃ本題に入ろうぜ!」

「本題?」「本題って何?」「さぁ…」

「お前らは何のために来たんだ!?」

「冗談だからボリュームを落としなよ」


カジがこの場に来た目的を果たそうとしたものの、他の人たちはそんなことどうでもよくなったと言わんばかりに料理に夢中である。


カジが大声でツッコむが、二重に防音対策はしてあるため、近所迷惑にはならないものの、それでも無駄に広い部屋のせいで大きな声が響くのだ。


「じゃあ早速、俺から質問していいか?」


先程からサラダとコーヒーにしか手を付けていないハクが、最初の質問を投げかける。


「おう!いいぞ!」

「まずカジの魔武器についてなんだけど、固有魔法は重力操作と、土分身で合ってるか?」

「ご名答!流石だな!」

「あの分身には驚かされたな。質量を持った分身も始めて見たけど、流石に魔武器をコピーできるわけがないと思ったんだ」

「材料はアバタ・マンティスかしら?」

「そう!ランク7の分身カマキリ!」

「2つの固有魔法を保有させて魔武器に加工するなんて凄い技術やな。めちゃくちゃ高級な匂いがするで」

「これは代々家に伝わる武器でこの世に一つしかないんだ!」


魔武器というのは、材料さえ同じであれば似たようななものを大量に作ることは可能だが、上級な魔石程加工が難しく、大量に作ることはできない。魔石の希少価値もあるため、練習ができないまま加工するのがほとんどで職人の癖も色濃く反映される。


「次は俺の番な!序盤に水弾を打ってきたときがあっただろ?あれを打ち続けたのはどうやったんだ?」

「あれは地面に刺した剣に魔法陣を移したんだ」

「マルスに教わったのかしら?」

「そう。あいつは2つ以上の魔法陣を移すことができるからな」

「そういえば前に戦ったときも同じようなことしてたなぁ」


マルスの戦闘スタイルは、鉄壁の防御を維持しつつ、スキあらばカウンターを決めるスタイルなので、防壁に攻撃用魔法陣を加えることなど造作もない。


「そしてあの氷の剣で不意をついたんやな」

「あれは氷魔法中級のアイスソードさ。込めた魔力の純度によって硬さも変わるけど、あのときはめいいっぱい込めたっけな」

「魔武器と対等に斬り合ってたもんね」


基本的に魔武器は普通の武器より強度も切れ味も段違いに高いため、魔法で作られた武器相手では相手にならないのだが、魔力の純度さえ高くすれば対抗できる。


「そう!そこに驚いたんだ!」

「ん?どこか変なところあったか?」

「どの魔法も純度が高過ぎるんだよ!最初の水弾だって、本当は普通の魔法障壁で防御しようと思ったんだけど、5発防ぐのが関の山だと感じたんだ!あとあの土魔法で作った足場!俺の魔武器を4トンの重さにして突っ込んだにも関わらず少しも崩れなかったよな!?」

「おいまて、あの攻撃そんなにヤバイものだったのか?当たったら確実にただじゃ済まされなかったよな?」

「……………」


ハクの指摘により、冷や汗をダラダラと流しはじめるカジはなんとか話を逸らそうとする。


「そ、それにあんな魔法連発した後に大量に水を生成するなんて尋常じゃないだろ?」

「魔力量に関しては、ぶっちゃけギリギリだった。それに、俺はいつも体内に魔力溜め込んでるから、魔法を打てる間隔が短いんだよ」

「溜め込むやと!?普通そんなことせーへんで…」

「…マジで?」


        コクコク


この場にいる人の中で、常に体内に魔力を溜め込む習慣があるのはハクだけであることを裏付けるように、ハク以外のメンバーが首を縦に振る。


それもそのはず、魔力を体に溜め込むには常に意識することが必要で、尚且つ体力がどんどん削られてしまうのだ。

いざというときに魔法を連発できるというメリットと比べると、適合者にとっては明らかにデメリットの方が大きい。


「お前らも溜め込む癖を付けると身体強化の質も上がるし、物に魔法陣を移すことも簡単になるからオススメだぞ?」

「なるほど、あの速さにはそういうカラクリがあったのね」

「そうだ!俺の最後の技を避けたとき物凄い反応速度だったよな?絶対決まったと思ったのに!」


(こいつ意外とするどいな…)


先の模擬戦において、ハクは良く立ち回れたという自信はあるが、唯一の失敗は今指摘された点である。魔法陣無しで電気魔法を体内に流すなど普通はできない。


「だから身体強化さえ上達すればいくらでも速くなれるんだってば。ウチの団長なんて身体強化だけであの2倍は速いからな」


これは嘘偽りのない本当のことなので、なんとか身体強化万能説を押し通すつもりでいた。


「そうかもしれないけど…ってん?今ウチの団長って言ったか?」

「ハクっちはブリューナクの一員なんだよ?」

「まじかよ!通りで強いと思った!」

「でもカジも中々だったぞ?後半の洪水も室内での模擬戦だからこそできたわけだし、屋外だったらもっと苦戦してた」


そう、後半で使用した水系魔法の洪水は、屋内での戦闘でのみ発揮する魔法であり、屋外で発動しても相手を押し流す効果しかない。もちろん、ハクには洪水以外の手もあったのだが、現時点で魔法陣を使った魔法で対処できるかと言われれば難しい。


「そう言われてみるとそうだな!くっそー、あとちょっとだったんだけどなー」

「それで、実際マー君より強いと思ったのか?」

「んーそうだなー…確かにハクは強かったけど、マルスの実力はそれ以上だな。あのときは手も足も出なかったし」

「だろうな。だから言ったんだ、あいつより強いわけがないと」


なんともわざとらしくマルスより弱いことをアピールしはじめたハクを見て、ユミールとミクが苦笑いをする。



模擬戦で疑問に思ったことを聞いていると、いつの間にか料理が全て食べられているのを見たハクは、食器を片付けると同時に、人数分の紅茶と、ミクが持ってきた茶菓子をテーブルに並べる。


「それで、ミクからのアドバイスはあるか?」

「えぇ、まずカジだけど分身の数は計算した方がいいわね。見たところ蜃気楼の分身よりも何倍も魔力を消費しているみたいだし。あの場面では5体で十分だったでしょうね。そうすれば最後のハクの水牢球から脱出するだけの魔力を温存できたかもね」

「お、おう、確かに」


ハクがブリューナク本部で編入試験に向けた特訓をしていたときも、ミクの的確なアドバイスにかなり助かっていた。


「そしてハク」

「は、はい」

「ハクは距離を取って―――」


その後もミクだけでなく、レイリンやトオルからもアドバイスをもらったり、討論を繰り広げていった。















「あら、もうこんな時間なのね」

「そうだな、じゃあお開きにするか」


時計を見ると夜の8時になる15前を指していた。

この学園の寮には門限が決められており、異性の寮は20時、外出は21時、申請をすれば最高23時となっている。


6人が同時に立ち上がると、順番に玄関へと向かっていく。


「あ、そうだハク。明日何か予定はあるかしら?」

「午前中は本部に行って依頼受けてから、午後は練習着とか欲しいから買い物にでも行こうかなーと思ってる」

「ならちょうどいいわね。マルスから伝言だけど、明日の午後買い物でもどうかって。この前行けなかったお店に連れて行きたいとも言っていたわ」

「わかった、後で連絡してみるわ。他のみんなは?」

「アタイは父ちゃんと修行ー」

「ワイは用事がある」

「俺も実家に帰って修行かなー!」

「わ、私は、その…」

「なんだ、ユミも来ないのか?参考書買う予定だったから来てくれると何かと助かりそうだったんだけどな」

「しょ、しょうがないなぁ〜じゃあ私も…デヘヘ」


明日の予定を決めようと皆の空き状況を確認していく中、ユミールが答えるのを躊躇っていたので、ハクが本音を吐露するとニヤケ顔で参加を表明してきた。


「別に無理してもらう必要はないぞ?マルスとミクがいればなんとかなりそうだし」

「無理なんかしてないよ!私がハクの教育係なんだから!私が選ばないと!うん、そうだよ!」

「お、おう、よろしく頼む」


いつからハクの教育係になったのか疑問ではあるが、断る理由もないため、ユミールの圧に押されるがまま了承した。


明日の予定も決まったところで、みんなはハクの部屋を後にする。


「お邪魔しました」「ごちそうさまでした」

「また食わせてもらいに来るわ!」「ワイもまた食べたい」

「アタイもー!今日はありがとね!」


別れの一言を告げた5人はハクの部屋を出ていった。


それを見届けたハクは扉を閉めてから背伸びをする。


「ふぁ〜…ベルー、飯食うぞ〜」

「もう黙ってみてるの辛かったんだけど!」

「なんだあのときも起きてたのか」


ハク自身とベルの分だけ残しておいた料理を、お得意の浮遊魔法を使ってダイニングから、大きなテレビのあるリビングまで運び入れる。



「よっこらしょ」

「いっただっきまーす!」


リビングにあるテーブルに料理を運び終わった後、ソファーに座って二人で夕飯を食べはじめる。


「モグモグ……また料理の腕上げたんじゃない?」

「そうか?」

「うん!だけどリムの方がまだまだ上手だね〜……アッハッハ!」


ハク自身は味付けや材料を変えた覚えはないため、料理の腕が上がっているのかどうかわからない。たまにベルから遠慮の欠片もないアドバイスを貰うことがあるので改良を重ねることはあるが、今日に限ってはお褒めの言葉を頂けた。


ハクの横で何故ベルが笑っているのかと言うと、先程録画したバラエティ番組を見ながら食べているからである。

バラエティ番組にはあまり興味のないハクは、スマホをホログラフィックモードにして、目の前に映し出されたニュース番組見ていた。


現在のテレビは、どれも指向性スピーカーの機能を備えているので、ハクの耳にはかすかな音しか聞こえてこない。


『続いてのニュースです。アトランティアにおける北の森でまた、群れを成した魔物が発見されました。目撃されたのは今日の14時頃、結界付近にておよそ20匹の群れで行動しているポイズニック・タートルをブリューナク団員が発見したそうです。先月から多発している魔物の集団行動については、現在ブリューナクの研究機関が調査を行っており、――――』


「また魔物が群れを作ってる話か」

「モグモグ……最近多いよねー」

「食うか話すかどっちかにしろ」


ベルは頬をリスのように膨らませながらハクの独り言に返答した。


ハクは朝晩にニュースを見る習慣が付いているのだが、ここ最近のニュースは魔物の集団行動が多くなっている。普段群れを成さない魔物が集団となる例や、異種での共存までもが確認されているため、話題となっているのだ。








「はぁ〜食った食った」

「ごちそーさまでしたー」


使い終わった食器類を浮遊魔法で食器洗浄機に押し込んでいくと、直ぐに机の上はキレイになった。洗浄機にスマホを向けて操作をすると、洗浄機が動き出す。




「おいベルー、あれやんぞー」

「んー…眠いけどがんばるー」


夕飯の後片付けが済むと、二人は寝室に向かっていった。




二人が寝室に入ると、ハクはカジと戦う前に行ったときと同じように、ベッドの上で座禅を組んで意識を集中させる。

そして、ベルもハクと背中を合わせるようにして座禅を組む。


魔力を体内に溜め込むときと違うのは、二人でなければできないことと、お互いに目を開けたままで意識を集中させることだ。


「よいしょ…ベッドの上に誘うなんて、ハクったら大胆なんだから〜もう〜」

「その冗談は聞き飽きた。んじゃまず、第1段階から」

「ぶー」


ハクが座禅を組んだまま、自分の目の前に指を3本立てた手を向ける。


「さーん、じゃあ次アタシ〜、はい」


今度はベルが自分の目の前で指を2本立てた手を向けた。


「2本」「せーかーい」


お互いに背を向けあっているので、自分が何本の指を立てているかなどわかるはずもないのに、ハクとベルはこれを5回ほど繰り返した。


先程から二人が行っているのは、守護霊と契約者によるシンクロ率を高めるための修行である。


シンクロには大きく分けて4つの段階に分けられている。

今ハクとベルが確かめていたのは第1段階のシンクロで、この段階までシンクロさせると、視界や聴覚といった五感全てを共感させることができるのだ。


「次は第2やるぞ」

「ほーい」


今度はハクが目を瞑ると、ベルの頭上に黒い円が突如出現し、ゆっくりと下がりながらベルを飲み込んでいく。

黒い円に完全に飲み込まれたベルはベッドの上から姿を消してしまった。


それから数秒経ってハクが目を開けると、目の色が赤と黄色に変色していた。そしてゆっくりと髪色も銀に変わっていく。


シンクロを第2段階まで上げると、守護霊の容姿の特徴が契約者の方に現れる。もちろん姿を変える他にも、守護霊たちがもつ特殊能力を使えるようになる。しかしながら、五感を共有するだけで相当な脳の負担になるにもかかわらず、本来の人間ができるはずのない能力を発揮するのは至難の技なのだ。


ベルの能力は広範囲探知能力なので、ハクとのシンクロを高めるほど、魔力を有するものを探知できるようになる。


「マー君はまだ帰ってきてないみたいだね」

『んーそうみたいだねー』


試しに覚えている魔力を探知してみると、この学園内にマルスがいないことがわかった。ハクがベルとシンクロを第2段階まで上げると、集中せずともこの広大な学園全体くらいは探知可能なのだ。


「んじゃ最後行くぞ〜」


ハクが軽口でそう言うと、ベッドの上から降りて立ち上がる。

そしてまたも目を瞑り、意識を集中させると今度は黒と白の羽が背中に出現し、本来のベルの姿に更に近づいた。


第3段階までシンクロすると、守護霊が本来持つ実力のほぼ100%を発揮させることができ、そこに契約者自身の実力が上乗せされるため、身体能力なども大幅に強化される。


しかし、一つの体に二つの魂を留めておくことは体と精神の負担になるので長時間のシンクロは危険である。


「問題ないな」

『うん!それに前よりもちょっと楽かも!』


守護霊を実体化させるにあたって、魔素の薄い地下よりも地上の方がやりやすいのと同じように、シンクロもまた魔素の濃度が高ければ高いほど負担が減るのだ。


シンクロが第三段階までできたことを確認し終えたハクは、シンクロを解除して元の姿へと戻る。


「お疲れさん」

『う〜ん…もーねるー』

「おう、おやすみ」


その言葉を最後に、脳内からベルの声が聞こえなくなった。


ハクも入学初日から色々とありすぎて体力的にも限界を迎えていたため、そのままベッドへと倒れ込んだ。


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