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明るい地下と暗い地上  作者: シゲさん
第1章 1年生編
13/20

7話 学園生活のはじまり <前編>

前回の更新より1週間以上経過してしまいました…申し訳ありません。


タルボスと卒業生の計らいにより、賑やかに入学式を終えて、現在教室で明日からの流れの説明をエリスから受けている。


「入学式ご苦労様でした。明日から早速授業がはじまるので時間割と教室を必ず確認すること。今日の午後に第2訓練場で戦闘服など、授業で必要なものが販売されるので必ず買うこと。

来週には実際に武器を使った格闘術も開始されます。それまでに各自自分の武器を用意して学園に申請しておくように。

学校の購買でも安くて質の良い武器が揃っているので私のオススメです。奨学金で買うこともできるので心配はいりません。詳しくはプリントを読んで下さい。ではまた明日」


坦々と連絡事項を伝えたエリスはそのまま教室を出て行くかと思いきや、最後に一言添える。


「あと、ファールティとナイサスはこの後職員室に来るように」


エリスが去った後、クラスメイトたちは何人かのグループを作って午後に何をするかワイワイと話し合いはじめる。


「入学初日に呼び出しとは流石やな」

「人を問題児みたいに言うんじゃねぇよ…」

「え、違うの?」

「ユミにまで言われると泣けてくるからやめて」


すると、ハクが幸先さいさきの悪いスタートを切ってしまった原因がこちらに近づいて来るのが見えた。


「おいハク!俺ら呼ばれちまったぞ?何したんだ?」

       「「「誰のせいだよ!」」」


ハク、ユミール、トオルが同時にツッコミを入れる。


「え?」

「お前が突然模擬戦を挑んできたから問題視したんだろ」

「あぁ、俺らが喧嘩でもすると思われてんのか?」

「そうかもな、それよりさっさと職員室行かないと。ユミとトオルはこの後どうするんだ?」

「ワイは面白そうだからハクに付いていこかと思っとる」

「私はリンちゃんとミクちゃんと買い物に行く約束が…」

「わかった。じゃあなユミ!」

「うん!頑張ってね!」


別れを告げたユミールは軽く手を振った後、レイリンの机の元へ小走りで向かっていった。


「じゃあ行くか」

「おう!」


カジが相変わらずでかい声でいい返事をすると、3人は職員室へ向かうべく教室を後にする。








    コンコン「失礼しまーす」



廊下にトオルを残し、ハクとカズは職員室に足を踏み入れる。

職員室の中は、教師一人一人に広いデスクが独立して用意されているだけあって、かなり広々とした造りになっている。


その中でエリスの席を探す二人は辺りを見渡す。


すると、「こっちにこい」と招いている手が、ひょっこりと机の仕切から飛び出しているのを発見した。


「たぶんあれだな」


仕切りから手が生えたように見える机に二人は向かうと、そこには座りながらPCで作業をしているエリスがいた。


「…来たか」

「はい。早速なんですけど、ご用件は?」

「いや、別に説教しようってわけではない」

「なんだぁ〜よかったー!」

「ナイサス、職員室では静かにしろ」

「す、すいません…」


叱られて、はじめて声のボリュームを落としたカジはしゅんとした態度に変わった。そんなカジの代わりにハクがエリスからの要件を聞き出す。


「それで?」

「Aクラスの生徒から報告があってな。ナイサスとファールティが放課後に喧嘩をするってな」

「ただの模擬戦ですよ。入学初日に喧嘩なんかするわけないじゃないですか」

「ほぅ…では、今朝のSクラスの連中とのいざこざはどう説明するんだ?」

「(ギグッ!)いやぁ…あれは向こうからですねぇ…」

「え、Sクラスのやつに喧嘩売ったのか!?流石だな!アッハッハ!」

「てめぇは俺に喧嘩売ってんのか!?ややこしくなるから黙ってろ!」



ギロッ 「二度は言わんぞ?」

    「「すいません」」



先程までの反省をどこかに投げ捨てたカジが、声を大きくして会話に入ってくると、ハクも巻き添えでエリスに叱られてしまった。


「我々教師も、生徒同士の模擬戦や魔法の練習などは推薦している。それに対しては何も言わんが一応確認のためな。ついでに第6練習場のDルームを予約しておいたぞ。学生証をかざせば中に入れるようにしておいた」

「ありがとうございます!」


「お前、俺に模擬戦挑んでおいて予約してなかったのか?」

「ふゅ〜ふゅ〜ふゅ〜♪」

「てんめぇ…」


練習場の予約状況は、携帯端末の学園専用アプリなどで確認することができ、空いている場所を予約することもできる。練習場の他にも自習室や会議室、スポーツジムなどの予約も同様である。


どうやらエリスは、先程からPCを操作していたのは、学園のポータルサイトで予約をしていたようだ。


「要件は以上だ。くれぐれも怪我はしないようにな。あと模擬戦の際は戦闘服の着用が義務付けられているので、その前に必ず戦闘服を購入しておくこと」

「わかりました、ありがとうございます。失礼します」

「失礼しまーす!」


職員室を後にした二人は、廊下で待ってたトオルと合流する。


「俺とトオルはこのまま購買部いくけどどうする?」

「俺は先に寮に戻るわ!」

「わかった、じゃあまた後でな」

「おう!」


ハクとトオルはカジと一旦別れると、戦闘服を購入するために第2訓練場へと向かう。






第2訓練場は新入生たちで賑わっていたが、なんとか戦闘服の売り場を見つけて、二人は様々な戦闘服を手にとって眺めていた。


ブリューナクの団員服のように自分の好みのタイプの服を選べるようになっている。


服を手に取りながら選んでいると、紙袋を持った3人組の女子生徒が近づいて来た。


「おーいハクー!」

「お、ユミたちはもう買い終わったのか?」

「うん!ハクたちはこれから?」

「せやで。模擬戦するなら必ず戦闘服着ろって釘刺されてもうた」

「当然よ」


「3人はもう買い終わったのか?」

「うん!ミクっちがいるとすごい楽なんだよ?どれがぴったりなのかすぐ当てちゃうんだから!」


ミクのことなのに、まるで自分のことに自慢するレイリンの言葉に、ミクは思わず苦笑いする。


「ミクの観察力と魔力の読み取りは凄いもんな」

「褒めても何もでないわよ?」


ハクの言うとおり、ミクは他人の魔力だけでなく身長、体重、重心、身体能力、癖などを見分ける観察力を持っている。

そして、その能力が買われて取り調べなどの任務も行うようになり、ランク8になったふしもある。


「ハクはスピード重視で武器は銃と刀だからこのタイプの服がいいわね。あとサイズは――」

「まてまてまてまてまて」

「何かしら?」

「いや、俺ミクの前で銃使ったことないよな!?」

「あぁそのこと?ハクの立ち回り見てればそのくらいわかるわよ。あの間合いのとり方は銃を使う人のものよ。言ったらまずかったかしら?」

「…いや…問題ないけど…凄いな…」

「でしょー?えっへん!」

「何でリンが威張ってんだよ」


リンが豊満な胸を張って威張るほどのミクの観察力により、ハクとトオルの戦闘服選びは一度の試着だけで素早く終わってしまった。


「それにしてもこの服、デザインも生地の触り心地もブリューナクの団員服にソックリだな」

「え…えぇ、この学園の制服や戦闘服はブリューナクの技術部が監修しているのよ」

「どおりでな〜」

「いや、それよりあなた…」


『ハクさ〜やっぱりアホなの〜?』

(あんだと?)


ベルにバカにされて、何かに気付いたハクは辺りを見回すと、目をパチクリさせているトオルとレイリンがおり、その横には苦笑いのユミール、ため息をつくミクがいた。


「…………あ…………」

「おいハク、まさか…ブリューナクの一員なのか?」

「これは…その…マルスに着させてもらったことがあるんだ!」

「流石に無理があると思うよ?」


『あぁ〜しーらなーい』


「…ここだけの話にして欲しい…」

「なんでや?そんな隠すことなんか?」

「今からカジと模擬戦をするわけだが、俺はそこで勝とうなんて思ってないってのはさっき言ったな?」

「あぁ」

「俺がブリューナクの団員として負けてしまっては、団員のみんなに泥を塗ってしまうだろ」

「なるほどなぁ…」


ブリューナクの団員として戦うのと、田舎から引っ越してき生徒では肩書が天と地程の差がある。傭兵団に入るのが実は簡単なんじゃないかと思われれば、たまったものではない。


すると、黙って聞いていたレイリンが口を挟む。


「よくわかんないけどさ〜模擬戦やるんだったら本気でやんないと〜!相手に失礼だぞ、ハクっち!」

「それはそうなんだが…そういえばカジって強いのか?」

「彼はSクラスだろうと上級生だろうと、自分より強いと思った人には片っ端から勝負をしかけているのよ」

「とんだ脳筋だな…ってことはミクも?」

「私は全力で断ってきたわ。ただ、マルスがあまりのしつこさに、模擬戦を受け入れたときは、マルスに一撃も当てられなかったみたいだけど」

「マー君と比較してもなぁ、他にカジと闘ったことある人いるか?」


カジと本気で戦うべきかどうか決めるための判断材料にしようと、他にカジと闘った人がいないか聞くと、誰も反応しなかった。…がしかし、数秒の間を置いて遠慮がちにレイリンが手を挙げる。


「ん?リンも闘ったことあんのか?」

「アハハ…実はねー。でもギリギリで負けちゃった」

「そっか…」


レイリンがカジに負けた事実を知ったところで、レイリンの実力を知らないため、あまり参考にならないことに気付く。


『もう考えるのやめて、本気でやろうよー!』

(だとしてもベルは出番ないけどな)

『あーそうだったーー!』


頭を抱えてショックを受けているベルをスルーして思考に戻る。



     ……………



「…よっし、勝ちに行くか」

「せやな、それがええと思う」

「うん!そっちの方がハクらしい!」


『ホントにいいのぉ〜?』

(マルスよりは弱いと思わせれば大丈夫だろ。ベルの力さえ借りなければ勘付かれることはなさそうだし)

『そんな上手くいくかなぁー…』


結局考えることをやめたハクは、何も考えずに戦うことを決意する。そして、目新しさのない戦闘服を着替えるのと、武器を取りに行くために、一旦寮へ戻ることにした。


寮には荷物整理のために昨日訪れているので、迷うことなく自分の部屋へと向かっていく。


学年と男女別、計6棟の巨大なホテルの様な寮が立ち並んでおり、部屋の広さは1LDKと寝室があるため、一人暮らしをするにしては広々としている。言わずもがなSクラスの生徒は更に広い部屋に住んでいるのだが。


その内の一室に入ったハクは、素早い手付きで戦闘服へと着替えて、武器の準備をするのかと思いきや、寝室に向かってベッドの上で胡座をかいて瞑想のポーズをとって目を瞑りはじめた。


「時間の猶予は?」

『あと5分かな』

「わかった。5分たったら教えてくれ』

『あいあいさー』


毎朝同じように瞑想をしているため、ベルを目覚まし時計代わりに使うのも日課なのである。では何故今、瞑想しているのかというと、魔臓が無いハクにとっては戦う前に、いかに体内に魔力を溜め込んでいられるかが重要になってくるからだ。


今回はベルの力を借りないということもあって、今集中して溜め込んだ量がそのまま闘いで使える魔力だと言っても過言ではないのだ。


ハクは魔臓がない代わりに、体内に蓄積できる魔力の量がとてつもなく大きい。これは、適合者ではないハクだが、魔素の変換が得意な守護霊のベルがいてこその方法である。



ベルが物凄いスピードでハクの体内に魔力を送り込んでは、集中してそれを漏れなく体の内側に留める作業が続く。



ベルの変換スピードについていけるようになったのは、ここ数年の話なのだが、毎朝の日課にしているため、現在は魔力を溜めながら技を放てるほどまで成長を遂げている。






『はい終了〜』

「…流石に5分だと半分もいかないな。まぁなんとかなるだろ」


ベッドの上から降りたハクは、武器が収納されている木製の大きなキャビネットを開くと、中には2本の剣と思われる武器と、その下にスーツケースが置かれているのが見えた。その中から、一番質素な片手剣だけを取り出して腰に着けると、そのまま急ぎ足で部屋を後にする。






時間ピッタリに練習場に到着したハクは、入り口の扉に学生証をかざして中に入ると、そこには想像以上の観客が壁際の観客席に集まっていた。中には買い物を続けているはずのミクたちの姿まである。


「遅かったなハク!」


相変わらずの声量にため息を漏らすと、この状況の説明を求める。


「時間ピッタリだろ…で?なんだこの観客は」

「俺もわかんねーよ!俺が入ってくるのを見計らって勝手に入って来たんだ!」


壁際の観衆はミクたちのみならず、クラスの何人かと生徒会長、担任のエリスや、ハクの編入試験で格闘術を担当したアガトスまで来ている。


(どっちにしろ、本気を見せたことあるアガトス先生がいるんだったら実力を隠すのは無理だったな)

『あのゴリラめちゃ強かったもんねー』

(そのゴリラはやめろ。笑いそうになる)


「まぁいい、あまりジロジロ見られるのは好きじゃないんだ。さっさとはじめようぜ」

「そうだな!」


二人は15メートル程距離が離れた位置につくと、その中間地点にトオルがやってくる。


「二人とも準備はええか?ルールは、相手の気絶、もしくは降参が確認されたら敗北。決定打は必ず寸止めにすること。」


どおやら審判をつとめる様子のトオルは、二人にルールの確認をすると、二人が首を縦に降る。


トオルは片手を挙げて試合開始の合図をする準備を終える。

それを見た両者は構えの体制をとる。


「なんだその陳腐な剣は?」

「これか?見た目はそうだが意外と切れ味は凄いんだぞ?地元の武器屋のお墨付きだ。あまりなめない方がいい」


ハクが構えていたのは、どこにでもあるような普通の片手剣である。

しかし、ハクの言っていることは正しく、この学園の購買で売られているものよりも、切れ味、硬度共に優れており、ハクの好みの重さに調整してある。


しかし、トオルの聞きたいことはその理由ではない。


「ちっがーう!魔武器は使わないのか!?」

「あぁ。俺の魔武器は殺傷能力があまりにも高いからな」

「…そんな余裕こいていられるのも今のうちだからな!」


なめられていると判断したカジがそう意気込むと、胸ポケットから卵型の赤い石を取り出し、力強く握る。

すると、手の中から光が漏れ出し、その光が武器の形へと変貌していく。みるみると光が変形していくと、カジの両手には鎖で繋がれた2つの鎌が両手に握られていた。


魔武器とは、魔物石を魔物の素材へと戻し、魔鉱石等と加工することで作られる武器のことである。加工するには高等な技術が必要で高値で取引されている。


他の武器とは違うポイントは二つある。


一つ目は、魔物石同様、石に魔力を一定量注ぎ続けなければ具現化しないことだ。石の素材となった魔物のランクによって注がなければならない量が変わってくるため、自分に合った武器を探さなければならない。逆を言うと、魔力注がなければ石のままなので携帯するのが非常に楽である。


二つ目は、素材にした魔物の固有魔法が使用可能となることである。このメリットを求めて、戦うことを職業としている者たちは魔武器を欲しがるのだ。

例えば、ジャイアントベアーの爪を加工して作られた剣に、魔力をより多く込めることで「硬質化」の固有魔法が発動できるようになる。硬質化された剣は、巨大なハンマーの攻撃も折れずに防御が可能となる。


高価な魔武器だが、アトランティア学園に通うほどの優秀な生徒たちのほとんどが魔武器を所有している。

カジもその内の一人である。





そんな魔武器である鎌を持ったカジと、見た目は一般的な片手剣を下段で構えるハクは、それぞれ腰を落として開始の合図を待つ。




         「はじめ!」

          ダンッ!


トオルが腕を降ろして試合開始の合図をした瞬間、配後の空気が揺れる程の速さで飛び出したのはカジだ。


はじめてカジの戦闘を見た何人かの観衆は目を見開く。


しかし、ハクは驚くことなく落ち着いている。

(団長の方が2倍は速いな)


すると、ハクの左の脇腹に向かって鎌を突き刺そうとするカジの姿を捉える。


「はっ!!」


ハクはそれを右に少しステップして避ける。


カジはその場で、初手の攻撃の勢いを利用して1回転する。

すると、追撃するかのように鎖に繋がれたもう片方の鎌が円を描いてハクの腹に向かって迫ってくる。


「フッ!」


避けられないと判断したハクは剣を使って弾く。


弾かれた鎌をキャッチしながら、

その隙をつくように、カジが魔法を発動していた。


「土手裏剣!」


ハクの左側面にいるカジから、土でできた手裏剣が5つ、回転しながらハクに向かっていく。


「魔断」


ハクが目にも止まらぬ速さで5回剣を振ると土手裏剣が粉々になり、消失した。


「はぁ!?魔法を切った!?」


あまりの衝撃にカジは追撃を忘れてしまう。


「驚いている暇は無いぞ。水弾!」


ハクは、剣を持っていない左手に魔法陣を出現させると、魔法陣から次々と野球ボール大の水弾が飛び出してカジを襲う。


「クソッ…畳返し!」


カジが片手を床に付けて魔法を唱えると、地面を隆起させて一枚岩の壁を目の前に出現させる。


その岩壁に水弾が当たるが、岩はビクともしない。


水弾が間髪を入れずに次々と岩にぶつかるのを感じていたカジは、岩の後ろで苦い顔をしながら次の手を考えていた。



しかし、本能的に気配を察知したカジが瞬時に鎌を構え直す。


「フンッ!」

「!?」   ガキンッ!!


水弾が打ち続けられるにも関わらず、魔法を発動しているはずのハクが岩の影から飛び出してきた。


手には氷でできた剣が握られており、隙だらけのカジに連撃を繰り出す。


氷と金属がぶつかり合う音が訓練場に鳴り響く。


隙を付かれたカジは必然的に防戦一方となり、どんどん後ろに下がっていく。


このままではマズイと感じたカジは、片方の鎌で氷の剣を防いだ瞬間、魔武器の固有魔法を発動させる。


「グラビティオ!」


ハクの氷の剣が、鎌の持ち手で防がれたと思いきや、急に手元がとてつもない重さに見舞われて、次の瞬間には手から氷の剣が離れていた。


床には氷の剣を上から被さるように、地面にめり込んで固定されている鎌があった。


手持ちの武器が無くなったハクに、カジはもう片方の鎌で襲いかかる。


それに対してハクは思わず、バックステップでカジから距離を取り、息を整える。


(あれは魔法陣も無かったしあの鎌の固有魔法か?一瞬でめちゃくちゃ重くなって思わず手を離しちゃったけど…)


改めてその鎌の方を見ると、下にあった氷の剣は溶けてなくなっており、床に刺さっていた鎌もカジの手元に戻っていた。


ハクも、いつの間にか床に刺していた片手剣を引き抜く。








一方で、この一連のやり取りを見ていた教師のエリスがアガトスに向かって感想を漏らしていた。


「床に刺した剣に水弾の魔法陣を移して、まるで本人が水弾を打ち続けていると思わせるとは…物体に魔法陣を留めるなんて3年でもできる人は少ないのに…アガトス先生が彼を気にかける理由がわかりました」

「相手が水魔法に有効的な土魔法で防御したのを逆手に取ったのか。土魔法での防御は視界が遮られてしまうからな」







カジは息を整えながら先程の出来事を振り返る。


(思わず固有魔法を使ってしまった…流石にバレたか?さっさとケリつけた方がいいかな…)


息を整え終えたカジは床に魔法陣を出現させて、新たな魔法を発動させる。


「影分身!」


カジが魔法を唱えると、床に10個の魔法陣が展開され、下からスルスルとカジの分身が出現する。




「火系魔法の蜃気楼……ではないようね…あれは一体何なの?蜃気楼にしても10体も出せるなんて」

「アタイもあの技に負けちゃったんだ~」

「探知に長けてないと本体を見破るのは難しいもんね」


カジの魔法を見ていたミク、レイリン、ユミールが壁際で感心をしていた。





対するハクは、ジグザグに動いてこちらに向かってくる11体のカジを見ながら、対応策を考えていた。


(蜃気楼だとしたら質量を持たないはずだよな…)


結局、ヘクトルとの修行でつちかった殺気を読み取って本体を見破ることにした。




一人目のカジが鎌を振り下ろしてくると、それを偽物だと確信したハクは対応することなく、本体探しに集中する。



がしかし…



        グサッ  「ッ!?」


鎌が肩に刺さったのに対して、痛みを感じる暇もないまま2人目のカジが襲いかかってくる。


急いで肩に刺さった鎌を抜いて、その鎌で2人目の攻撃を受け止める。




気が付けば、11人のカジに囲まれて全方位からの攻撃をギリギリで避けたり受け流している状況になっていた。


(このままじゃ!…)


いくらハクとはいえ、11人のカジに攻撃されていると、少しずつかすり傷が増えていき、着々とダメージが蓄積されていく。


(こうなったら…)


カジたちからの連撃をかわしながら、素早くしゃがんで両手を地面につき、2つの魔法陣を展開させる。




「なんだと!?」


エリスが驚いた次の瞬間、ハクの足元が隆起しはじめる。

足場はぐんぐん伸びていき、3メートル程の円柱状の足場となっていた。


それと同時に、ハクの足場からとてつもない量の水が溢れ出し、訓練場一面を大きな池に変えてしまった。


壁際の観覧席には魔法障壁が貼られており、観覧席からの眺めはまるで水族館の水槽を眺めている気分だ。



観覧席は傾斜になっているため、見物人たちは急いでハクが作った足場が見える高さまで席を移動する。




ミクたちもようやく、水面が見える高さまで駆け上がってきたと思いきや、床に手をついたままのハクの頭上から何かが高速で降ってくるのがわかった。



(鎌をそれぞれ2トンにしたんだ!これで決める!)

          「もらった!」


ハクも上から何かが近づく気配を察知して上を見上げると、物凄い速さで降ってくるカジがいた。


普通に回避しようにも既に手遅れな距離であり、受け止めるなんて到底できそうにない威力なのもわかる。


こうして考えている間も刻一刻と迫ってくる。


そして、目の前まで鎌が接近したそのとき…



         バチッ


強力な静電気が発生したような電気音がしたと思えば、ハクの姿がそこから消えていた。


追い詰められたハクは、本能的に体に電気を走らせ、アカリと戦ったときと同じように、人間の領域を超えた反応速度で横へジャンプしていたのだ。


        ドゴォーーーーン!


カジは周囲に大きな波が生まれる程の巨大な衝撃とともに、ハクが立っていた円状の足場に着地する。


正直避けられると思っていなかったカジは驚きを隠せないまま、急いでハクの姿を探す。


すると、まるで水面に立っているかのように見えるハクが、

カジに手のひらを向けて魔法陣を展開してるのを見つけた。


(自分で障壁の足場を作るのは、はじめてだな)

「これで終わりだ。水牢球すいろうきゅう!」


ハクが魔法を唱えると、周りにある大量の水がカジに襲いかかり、あっという間にカジを水の球体の中に閉じ込めてしまった。



魔法を受けたカジはとうとう、水牢球の中で両手をバッテンの形にしてギブアップのサインをした。



それを見たハクは直ちに全ての魔法を解く。


水牢球がとけ、カジは円状の足場に仰向けで倒れ込む。



それと同時に、円柱状の足場と水位が少しずつ下がっていき、水族館と化していた練習場が元の姿に戻っていく。




床に寝転ぶカジの側まで歩み寄ったハクは、手を差し伸べる。


「ナイスファイト」

「…ん…サンキュー……」


カジはハクの手を取り、立ち上がった。










二人が握手をしている光景を見て、観衆の一人であった生徒会長のディアロス・アステルトは怪しい笑みを浮かべていた。


「ハハッ…あれは間違いない…やっと見つけたぞ…フハハッ…」



引き続き、アドバイスや誤字脱字の指摘等、募集しております。少しでも気になって頂けたらブックマーク登録よろしくお願い致します。更新のモチベーションに繋がります。

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