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明るい地下と暗い地上  作者: シゲさん
第1章 1年生編
12/20

6話 入学 <後編>

ハクとユミールは教室へ向かう途中、先程遭遇したマグリスのことについて話していた。


「さっきのマグリスとかいうやつは、どっかの坊っちゃんなのか?」

「ん〜私も詳しくは知らないんだけど、確かミズガル王国の公爵か何かの跡取りだった気がする」

「なるほどなぁ、でも実力的にはどうなんだ?」

「それが、実力も相当なもので、各学年に数人しかいない契約者の内の一人なんだって!」

「へぇー意外だな」


Sクラスの生徒たちは皆、家の名前だけで在席していると思われやすいが家柄が良い分、英才教育を幼い頃から受けているため、それなりに実力を伴っていることが少なくないのだ。

マグリスはその良い例である。


加えて、守護霊と契約できる確率が非常に低いとはいえ、将来有望な生徒が集まるアトランティア学園においては、契約者がそこまで珍しい存在ではないのだ。


そんな話しをしているうちに、扉の上に「1-A」と書かれた標識がある部屋の前に到着した。


後ろで何故か緊張しているユミールと対象的に、緊張の欠片も持っていないハクが何の躊躇ためらいもなく扉をスライドして中に入る。


すると、ほとんどの席は既に埋まっており、クラスメイトと思われる人たちは近辺の席に座る人と楽しそうに話していた。


しかし、ハクが入ってくるのに気付くと、何人かのクラスメイトたちは、突然会話を止めて隣の人とヒソヒソ話しをしはじめる。


「やっぱり、下での騒動を見てた人が何人かいるみたいだね」

「マー君め…」



二人は入り口に突っ立っていると、教室からバタバタと足音がこちらに近づいて来る。


      ドタドタドタドタ


「ユミっちーーーーー!」

「ゴフッ!」


何事かと思い、ハクはユミールの方を向くと、そこにはユミールではなく、身長170センチ程の女性がそこにはいた。正確には、ユミールが包み隠されて確認できない状況なのだが、その女性の背中をタップしてギブアップを示す小さな手だけは確認できた。


「…ぷはぁっ!」

「久し振りだねユミっちー!」

「…相変わらず元気そうだねリンちゃん…」


ユミールがぬいぐるみのように抱かれている光景に既視感を覚えるものの、何故かリンと呼ばれているこの女子にもどこかで会ったかのような錯覚におちいる。 


「あのー…この人は?」


じゃれ合っているユミールに恐る恐る、抱きついている人物について聞いてみる。


「アタイはレイリン・コウメイだよ!よろしくハクっち!アタイのことはリンって呼んでくれ!」

「え、何で俺のこと知ってんの?」

「ユミっちから聞いたよ?君がユミッチを助けた白馬の王子さ―」

「わーーーーー!」


ユミールが顔を赤くしながらリンの声に被せて発狂しているが、改めてハクはリンの容姿を確認する。


リンは青い短髪が特徴的で、性格と相まってかなりボーイッシュな雰囲気を出しているものの、女性特有の胸の大きな膨らみを持っているのでギャップを感じてしまう。男性顔負けの身長と相まって、誰の目から見てもの抜群のプロポーションを持っている。


そんなリンとユミールがじゃれ合っている中、ふとあることを思い出す。


「ん?コウメイってどっかで…」




「おい!お前がハクとかいうやつか?」




何かを思い出そうとした直前で、後ろの廊下から何者かに声をかけられる。


「ん?誰だお前?」

「俺から名乗らなくちゃな!すまんすまん!俺はカジ・ナイサス!よろしく!」

「もう知ってるみたいだけど俺はハクだ。よろしく」


突然話しかけてきた男は、女子二人の横で軽い挨拶を済ませる。

更に、カジの声が大きいせいでクラス中がこちらを注目してしまっている。声の大きさの他にも、赤色に近い茶色の短髪をツンツンさせた髪型に、頬に刻まれた傷跡が特徴的である。


「で、俺に何か用か?」

「おう!…俺と戦って欲しいんだ!」

「嫌だ」

「即答!?」


初対面の相手にいきなり戦いを挑むバックを、面倒なやつだと判断したハクは、反射的に断ってしまう。


『えー!楽しそーじゃーん!』

(勘弁してくれ…百歩譲ってもお前の力は借りない)

『えぇー!でもコイツ、そこそこやるみたいだよ!』

(……ほぅ)


「んで?何で俺と戦いたいんだ?」

「だってお前マルスより強いんだろ?」

「ちょっ!!」


声のでかいカジのせいで、クラス中のみんなに下で起きた騒動が伝わってしまい、ざわつきが更に増す。


(……はぁ…俺の学園生活終了のお知らせ)

『まぁまぁ…元気だしなよ』


半透明で手のひらサイズのベルが、肩に立ちながらハクの頬をペチペチと叩いて励ます。もちろん実際に触れられているわけではなく、長年の感覚だ。

どうやってこの場を切り抜けようか悩んでいると、ある作戦を思いつく。


「気が変わった。カジ、その申し出やっぱり受けるわ」

「お、何かわからないけどその気になってくれたか!そんじゃ、入学式が終わった30分後に第6訓練場のDルームな!ちゃんと武器も忘れんなよ!」

「わかった」


「お前たち、教室の前で一体何を騒いでいるんだ?」


よく見ると、女子二人がじゃれ合いをして、男二人が模擬戦の約束をするという何ともカオスな状況の教室の入り口に、注意を入れたのは、教師と思われる高身長でスタイル抜群の女性だった。


「おや、お前はあの有名な問題児じゃないか。お前らさっさと席に付け、ホームルームをはじめるぞ」

「イ、イエスマム!」

「私は軍人ではないが」

「す、すいません、つい…」


いつの間にか姿を消して、ちゃっかり自分の席に座っているカジを除いて、ドアの前に立っていた3人に教室に入るよう指示したのは、ハクが編入試験のときに試験監督をしていたエリス・ロザリンド先生だ。


ハクとユミールは慌てて黒板に掲示してある座席表で自分の席を確認する。すると、窓際の席にハクとユミールの名前が縦に並ぶ形で書かれていた。恐らく、事情を知っている学園側の上層部の配慮だろう。


ハクたち以外の生徒も、エリスが教壇に立つのを見て急いで自分の席へと戻っていく。






「まさか、同じクラスで隣の席なんて奇遇やな、ハク」

「まったくだ。クラスが同じになる予感はしてたけどまさか席も隣なんてな」


ハクが席につくと、隣にはトオルが座っていたのだ。


「ん?ハクのお友達?」

「うん、色々あってね。後で紹介するよ」

「よろしゅう」「こ、こちらこそ」


後ろの席のユミールから、トオルのことで質問をされたが、これからホームルームが始まる雰囲気だったので後回しにする。


「よし、欠席者無しだな。まずは、ようこそアトランティア学園へ。私は高等部魔法陣魔法術講師のエリス・ロザリンドだ。このAクラスの担任をすることになった、よろしくな。例年ならSクラスにいてもおかしくないやつらが、今年はAクラスにたくさんいると聞いてとても楽しみにしている。

さて、挨拶はこの辺にして、もうそろそろ入学式が始まる。この席順のまま廊下にて整列するように。何か質問あるやつはいるか?…………………………では行こう」


エリスからの挨拶が終わり、生徒から質問がでなかったので、廊下側の一番前の生徒から順番に席を立ち始める。ハクたちは窓側なので、順番を待つ間に先程中断した紹介を済ませる。


「改めて、ワイはトール・マクドっちゅうもんや。トオルと呼んでくれてかまへん。あと、なまりが酷いかもしれんが、堪忍したってな」

「私はユミール・アルケミスって言います。皆んなからはユミをとかユミーと呼ばれています。よろしくお願いします」


トオルとユミールがお互いに自己紹介を済ませて握手を交わすと、ハクに対して質問を投げかける。


「敬語はいらんからな。んで、ハクはこっちに来たばっかりのはずやのに何でもうこんな可愛らしい子と知り合うてるんや」

「か、かわ、かわ…」


「んー…どっから説明すればいいのやら…きっかけは、ユミがこの学校の先輩に絡まれてたところを、俺が助けたことで、それから編入試験の勉強とかでお世話になったんだ」

「ハクはワイのときといい、ホンマ主人公やな」

「やかましいわ」

「お、ええツッコミ」


ハクがユミールとの出会いを説明している間、ユミールは可愛らしいと言われてずっと口をパクパクさせていたが、ようやく正気を取りもどす。


「あ、あの!トオル君とハクはどこで知り合ったの?」

「んー…簡単に言うとアトランティアに向かう途中の駅でばったり会った」

「それ簡単にし過ぎちゃう!?」

「お、いいツッコミ」

「やかましいわ!」


「ウフフ!なんだか二人は兄弟みたいだね!」


「「…ぷっ!…アッハッハ」」

「そこ!静かにしていろ!」

「「「…すいません…」」」


ユミールにおかしなことを言われて、思わずつられて二人も笑い出したところ、とうとうエリスに注意をされてしまう。

そこで静かになった3人が、列の最後尾に並び終えたことで入学式の会場となる講堂に向かいはじめる。

ちなみに、講堂はこの巨大な建物のワンフロアをそのまま使って作られているので、建物間を移動することはない。


移動中も3人は、怒られてしまわないように注意しながら会話を続けていた。


「そういえば、どないしてさっきカジとかいうやつの模擬戦を引き受けたんや?」

「あーあれね。俺がマルスより弱いことを証明するためだ」


実際はマルスと本気で戦ったことはなく、どちらの実力の方が上なのか知るよしもない。


当のカジはというと、列の前方で鼻歌を歌いながらルンルン気分で歩いていた。余程ハクと模擬戦ができるのが嬉しいのだろうか。


「マルスってあのブリューナクの幹部で有名なやつやろ?そんなん勝てるわけないやん。そもそも何でハクがマルスより強いなんて噂が広まってるんや?」

「それはね、マルス君が皆の前で堂々と、ハクが自分より強いって言っちゃったからなんだよ」



「それはホンマのことか?」



今まで楽しげに会話をしていたトオルが、急に真面目な声色でハクを問い詰める。


「…あいつの見栄っ張りだよ。俺がSクラスのやつに馬鹿にされてたから見過ごせなかったんだろ。もちろんでっち上げだ」

「でも、そんな優秀なやつが思い付きでそんな嘘を言うなんてとても思えへんやろ。実は本当のことちゃうんか?」

「買いかぶり過ぎた。アイツだって人間なんだ、ときには感情に任せて変なこと言うこともあんだろ。俺がマルスに勝てるわけがない」

「…そういうことにしとったるわ」


「も、もう着くよ!」


喧嘩してるわけではないが、妙な空気が漂っていることを感じたユミールは慌てて二人に到着を知らせる。

エレベーターやエスカレーターを使わずに階段で降りてきたためそれなりに時間がかかったが、ようやく講堂がある階に到着すると、Cクラスの新入生が拍手に包まれながら大きな扉から入場しているところだった。その後ろに、Bクラスの生徒と思われる人たちが担任の教師を先頭に列を成している。


Aクラスの生徒も、Bクラスの生徒の後ろに付いて入場の準備をする。すると、制服の色から3年生と判断できる人が4人、中にブローチが入ったカゴを持って新入生に配りながらこちらに近づいて来た。


「こちらは今年の卒業生たちが作った折り紙のブローチになりまーす!1人ひとつ胸に付けてご入場くださーい!」


前の人から順番に渡されていく。受け取った新入生は、その折り紙のクオリティの高さに感嘆を漏らす。列後方にいたハクたちもブローチを受け取ると、例外なく感嘆を口にしていた。


「へぇ〜すげぇなこれ。卒業生は皆手先が器用なんだな」

『これ、少し魔力を感じるよ!』

(なに?)


ベルの指摘により、すぐに付けることをやめて裏側を注意深く見ると黒いインクのような跡が少しはみ出ていた。


「あぁなるほどな。これはすごいな」

「どうしたのハク?」

「んや、何でもない」


ブローチの秘密に気付いたハクだが、そこでネタバラシをしてしまうと卒業生に無粋なマネをしてしまうと思ったハクは適当にごまかした。


「トオルは気付いたようだな」

「まぁなー。でも何が起こるかまでは分からへんな」


ブローチに対して各々の感想を呟いていたところで、Aクラスの入場がはじまった。


「続いてAクラスのみなさんの入場です!」


司会の教師から紹介を受けると、吹奏楽部による演奏が壮大なメロディに変わる。次第に音が落ち着くのを確認した先頭のエリスが一番最初に講堂に入っていくと、それに続くように次々と新入生も入場していく。


「いよいよだね!」

「緊張してんのか?」

「緊張もしてるけど…それよりも楽しみの方が大きいかも」

「ワイも同意見や」

「奇遇だな、俺もだ」


3人は前にゆっくり進みながら、わくわくしていることが伝わってくるようなニヤケ顔を見せていた。

そこに、A以下のクラスと比べて半数しか生徒がいない、白い制服を着た集団がこちらに向かってくるのを確認する。


「あら、もう新しい友人を作るなんて流石ね、ハク」

「残念ながらこいつは以前に会ったことがあるんだ」

「残念ってなんや!残念って!」

「ウフフっ、もうすぐあなたたちの出番よ?」

「あ、本当だ!」


「(あいつが噂のハクとかいうやつか)」

「(なんであんなやつがクロールと話してんだ)」

「(平民風情が調子に乗りやがって)」


ミクとハクが話しているのを見たSクラスの数人は、ハクの悪口を次々とコソコソ話しはじめる。


「ミクもマルスのこと言えねぇじゃねぇか」

「はて?何のことかしら?ウフフっ」

「おまっ!確信犯だな!?」


ミクから嫌がらせを受けたハクは、言い返す隙もなく入場の番が回ってきてしまった。前の生徒が進むのを見て慌てて後を追いかける。






「おいハク、せっかくの入学式なのに何でそんなムスっとしとんの?」

「放っておいてくれ…」

「ミクちゃん、実はハクにお母さん呼ばわりされたことまだ根に持ってるんだよ」

「え!?あれ時効だろ!」


『乙女に対して歳を上に言うのは禁句なんですー!』

(へいへい)


入場を終えたハクたちは席に着いて、先程ミクから受けた嫌がらせについて、女子二人からお叱りを受ける。


Aクラスの最後尾であるハクたちが席に着いてしばらくすると、吹奏楽部の演奏が今日一番の盛大な音楽に切り替わる。


「続いては、いよいよSクラスの皆さんのご入場です!」


この学校のSクラス贔屓ひいきに疑問を感じるが、今日はお偉いさんも来ているため、特別扱いしているのだろう。来賓の席をよく見ると二人程見知った顔があった。


「こんなに近くでアトラスのメンバー三人を見れるなんて滅多にあらへんで」

「あのいかついオッサンは雰囲気でわかるけど、他の二人って誰だ?」

「え?本気で言ってんの?」

「本気も本気」


流石のハクもアトラスという単語は聞いたことはあった。


アトラスとは、3大国とアトランティアからそれぞれ3人ずつと、地下避難地区連合から1人の、計13人で構成された事実上世界最強の平和維持組織である。


人員の選定は各国の判断で選抜されるが、実力や社会貢献度が上位なほど発言力が強まるため、慎重に選抜を行っている。


しかし、顔を見せているのは現在6人で、素性が知れ渡っているわけではないのでハクもそこまで把握をしていなかった。

よって、人々からの人気は必然とその6人に集中しているのだ。


「ユミールは何でこんな常識教えなかったんや…」

「いや私もまさか、あんな身近にアトラスのメンバーがいるのに知らないなんて思わなかったよ」

「え、まさかアカリさんか?」

「せやで。あと、来賓席のオーラ漂う人が、アトラスメンバーを束ねているレオ様。そんで学校の関係者席の一番前に座ってる校長もそうや」

「まじか…まぁたしかにあんな強かったら納得だわ」


ハクと闘ったことのあるアカリが世界トップ13の実力者のうちの1人だと聞いても驚きはしなかった。


「ちなみにアトラスには各々に称号が与えられてるの」

「せやで。レオ様も本名ではなく称号らしいで」

「校長先生はライブラ、そしてアカリさんは――」


「サジタリウスだろ?射手座の」

「え、何でそないなことわかるんや?」

「勘」


実はアカリの弓に殺されかけているから、そう思ったなどと言えないので、あながち間違ってない言い方で誤魔化す。


3人がアトラスについて話し合っていたら、いつの間にかSクラスの入場完が了しており、会場は静まり返っていた。


「新入生の入場が終わったところで、続いてはご来賓の方々のご紹介に移らせて頂きます」


司会の教師の進行により、次々と紹介されていく中でハクが見知っている人の出番がくる。


「続いて、地下避難地区連合軍少将レン・コウメイ様」

「ご入学おめでとうございます」


レンは一言お祝いの言葉を述べた後、一礼して席に着く。

その後もアカリやレオの出番が過ぎていく。


入学式は順調に進行され、新入生代表としてマルスのスピーチがあったりレオからの祝辞があったりしたが、ハクにとってはありきたりな内容で退屈をしていた。後でマルスにユーモアというものを叩き込んでやろうかと密かに計画するほどに。


今度は在校生代表として現生徒会長が挨拶をするようだ。


「まずは、新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。先程ご紹介に預かりました生徒会長のディアロス・アステルトと申します。この度は――」


(あれが、副団長の言っていた生徒会長か)

『うん…確かに何考えてるかわからないような人だね〜』


ディアロスがスピーチを続ける中、ハクは彼の観察をする。

男にしては少し長めのブロンドヘアをしており、いかにも良いところの育ちなのが伺えるが、一番目を引くのが左目を塞いでいる眼帯だ。


観察しているうちにスピーチが終わっていたため、ハクはスピーチをまったく聞いていなかった。すると、熱い視線を送り過ぎたのか、去り際のディアロスと目が合ってしまう。その一瞬だけ、口元に笑みを見せると、そのまま学校関係者席の方に戻っていく。


(男からイケメンスマイルもらっても何にも嬉しくないわ)

『じゃあアタシのスマイルあげる♪』


そう言って、半透明のベルの笑顔が目の前に至近距離で映る。


(やかましい)

『むー!べーだっ!』


目の前からベルがあっかんべーしながら姿を消すと、壇上には最後のスピーチをしている校長がいた。


「この会場のみなさんも、長い話に疲れていることかと思うからのう、ここで毎年恒例のサプライズを用意したのじゃ。決して慌てることのないように、しかと見ていて欲しいのじゃ」


         パチンッ


校長が指を鳴らすと、新入生に配られたブローチが次々と光を帯びていく。


そのとき、ハクのブローチは光ながら形を変えていき、次第に小鳥の形に変形して肩に止まっていた。そして、光を帯びた小鳥が飛び立つと、光の軌跡を残しながら天井近くまで羽ばたく。天井まで羽ばたいた小鳥は光の粉となって雪のように降り注いだ。


隣のユミールのブローチは小人に変形して、肩に座りながらシャボン玉を吹き出していた。


トオルのブローチはというと、人差し指を突き出した手のおもちゃが、紙吹雪と共に飛び出して、トオルの頬にめり込んだ。


「なんでやねん!」


その他にも様々な仕掛けが施されたブローチが、会場内を笑いと感嘆の声に包ませた。

一通りの発動が止んだところで、校長がスピーチを再開させる。


「今ご覧頂いたのは卒業生が一人一人、自分の好きなように魔法陣を書き込んだ紙を折りたたんで作ったブローチじゃ。気に入ってもらえたかの。ほっほっほ!」


校長と卒業生のサプライズに包まれたところで、入学式が無事に終了したのだった。

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