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② ロボットの少年


 子供を見た。


 子供は、人の往来の多い通りでひとりたたずみ、誰かを探しているかのように、辺りをキョロキョロと見廻していた。こんな街なかで、子供がひとりでいるのは、何か異様だ。何か訳があるのではないか、と感じた。


 子供にその訳を尋ねた。子供は、無垢な瞳を僕の方に向けて、云った。


「待ってるんだよ」


「何を待ってるんだい」


「次の指示をしてくれる人」


 子供は、僕から目を外し、再び往来を見渡した。そして、僕から目を外したままで、云った。


「実は、僕、ロボットなんだ」


「ロボット?」


「うん。だから、誰かに次の行動を指令してくれないと、何にもできないんだ。だから、次の命令をしてくれる人を待ってるんだけど」


 子供は再び僕の方に視線を向け、ニコリと笑って付け加えた。


「でも、お兄ちゃんは違うみたいだね」


 俺は、この子供には自主性が欠けていると感じた。自分で決断し、何かをなそうという気持ちを知らないのだと。そこで、子供に向かって、こう云った。


「君は、君の思うようにしたらいいんだよ。だれの指示も待つ必要はない」


「できないんだ」

 子供は、遠くを見つめるような視線で云った。


「僕はロボットだから、誰かにプログラミングされた人格しか持っていない。自分の意思で決断し、行動することはどうしてもできないんだ。人から与えられた指示を的確にこなす、そのために僕は存在しているんだ」


 子供は、俺に顔を向けた。俺は、改めてその子供の瞳を見た。無垢ではあるが、好奇心や希望に溢れた子供らしい輝きは存在せず、ただ虚無を見つめるような、漆黒の穴がそこには広がっていた。じっと見つめていると、その穴が徐々に大きくなり、今にも呑みこまれてしまいそうな錯覚を覚える。


 瞳に大きな漆黒の闇をたたえたまま、子供はまたニコリと笑って、こう付け加えた。


「仮に、僕が何か自分の意思で行動したとしたら、人々のためにならないことをするかもね。もしかしたら、ここら一帯の人たちを憎んで、みんな殺そうとするかもしれないな」


「なぜ、そんなことを?」


「さあ、分からないけど。でも、今の僕にはそんな感情はない。誰かの指示を待って、その人の云う通りに行動するだけなんだから。だから、心配ないよ」



 俺は子供のもとを離れた。決して、この子供に対して危機感を感じたとか、そういうワケではない。ただ、俺が彼に対してできることは、何もないと感じたのだ。この子供はこれからも、このように誰かの指示を待ち、その指示に従って動く。指示をする人が良い人であれば、良い行いをし、悪い人であれば、悪い行いをする、それを繰り返すのだろう。


 だが、おそらくは、この子供もうすうす気づいているに違いない。自分がその繰り返しに耐えられなくなっていることに。それは通常、人には「不満」という感情として受け取られるものなのかもしれないが、おそらく彼には、どのように感じればいいか分からない内的情報なのだろう。


 ただ、「不満」は確実に、彼の心に生まれている。今は気づかぬくらい小さいものであっても、それが大きくなり、はっきりと認識できるようになれば、彼の行動はどう変化するだろうか。おそらくは、これまですることはなかった、自らの意思で行動することもあり得るのかもしれない。そして、その行動は、彼の云うように、我々にとって喜ばしいことではないのかもしれないのだ。


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