歪んで歪んで元がわからなくなった小説って歪みねえな
書類や調度品が置かれた部屋の中で一人の男が椅子に座っている初老の男と口論を、というよりは若い男が一方的に怒鳴っていた。
「何故です!?なぜ認めてくださらないのですか!?」
「あれは卑賤なる身、お前はこの国の次期王だぞ?身分を考えろ、それに加えてあれは私たちの手に負えるようなものではない」
許せなかった、彼女をモノ扱いしている王であり自分の父が、尊敬していただけあって落胆も激しかった。
「しかし!」
「もうじきお前にも外交の仕事が回ってくるのだ!こんなところで油を売っている暇なぞないだろうが!」
なおも反論を加えようとする私を一喝する父、年老いたとはいえ王としての威厳は健在で反論ができなかった。
「ぐっ・・・分かりました・・・」
すごすごと王の債務室から出て行く私は周りから見ればとてつもなく哀れで馬鹿な男だろう、身分の差を顧みないという点から見れば責務を担うものとしては、当然失格なのだろう。
ふらふらといつの間にか自分の部屋に戻りベットに倒れこむ、午後にある職務が待っていると思うと何もかも投げ出したくなる。
「私は・・・それでも・・・」
脳裏に浮かぶ強烈な金の彼女、儚げで守りたくなるような少女。
彼女が目を覚ましたときの狂乱は酷かった、だけれどそれ以上に呼ばれている男の名前が憎らしかった。
彼女に自分の名前を呼んで欲しい、彼女を自分のものにしたい、そして自分だけを見て、自分だけにその口を使って睦言を囁いてもらいたい。
日増しに強くなるどす黒い欲望に、私は心地よさを覚えていた。
「必ず・・・必ず手に入れてみせる、誰にも渡さない、私だけのものだ、私だけのものなのだ・・・」
ループする支離滅裂な思考の中部屋の戸を叩く音がした、もう時間かと思い。
「何だ?」
と聞くと、仕事の時間をつげに来たのではなかった。
「王太子、重要なお話がございます・・・」
ゆっくりと静かに私だけに聞こえるかのような声に相当重要な要件なのだということがわかる。
「・・・入れ」
「失礼いたします・・・」
入ってきたのはこの国の大臣の制服を着た男で、確か他国との外交関係の仕事をしている男だった。
「何か用か?」
その小太りの男は私が座っているベットから2、3歩離れた場所で平伏し、小さく、しかしはっきりとした言葉で話し始めた。
「王太子、これから私が口にすることは最近メイド達の間で流行りし言であります、けして私は・・・」
「言ってみろ」
「はっ・・・最近メイド達の間でこのような流言が流行っておるのです『この国の王は勇者を自分の皇后にするつもりだ』・・・と」
「なっ・・・」
思わず絶句してしまった、しかし心の中で考えていた、必死に否定していたひとつの可能性が浮上してしまった。
父が私と彼女の婚姻を許さないのは身分からではなく嫉妬からなのではないのか?と、いうことだ。
「し、しかし、そ、れはりゅ、流言なのであろう?」
言葉切れ切れになんとか意味のある言葉を口から出す。
「ここから先はあなた様が信じるかどうかはあなた様次第でございます・・・」
そう言ってひとつの書状を平伏したまま懐からだし、恭しく私に差し出す大臣。
「これは・・・?」
何も言わずに顔を伏せている大臣をチラリと見たあと、よく見るとそれには王のサインと王家の印が書かれていた。
「機密文章ではないかっ・・・」
誰に聞かれるか分からない恐怖に小さく声を荒げる私に平伏したまま大臣は言った。
「私はこの国をお救いできるのはあなた様しかいないと思ったのです、どうか私を、いえ・・・あなた様をお信じください」
「・・・・・・」
嫌な予感がしながらそれを開くとそこに書いてあったことは私の心臓を激しく跳ね上げた。
「勇者を皇后に・・・だとっ?」
そこに書いてあったのは各国への代表に対する勇者の魔王討伐後の扱いであった。
「父上っ、あなたは・・・っ」
頭の中がぐちゃぐちゃになる、なんだこれはっ!?なんなのだこれは!?
「王太子・・・」
「下がれっ!」
「・・・・・・はっ」
静かに扉に近づき最後まで馬鹿丁寧に礼儀作法を守り扉を出ていく、平時であれば褒められたのであろうが、今は私を馬鹿にしているとしか思えなかった。
「王太子」
「・・・なんだっ!?」
「私はあなた様の味方です・・・この国はもうダメです、あなた様は私達の希望なのです、どうかご英断を、明日もう一度謁見したします」
それは暗に、というよりほぼ直接的な王に対する謀反の思惑を見せる言葉、誰かに聞かれれば即座に首を刎ねられるだろう。
「・・・・・・」
静かに閉じられた扉を尻目にもう一度書状を見やる、段々と怒りが湧いていき、プルプルと手が震えてきた。
「おの、れ・・・おのれ・・・」
何も考えられそうにない、憎くて憎くて仕方がない。
「く、くくっ・・・」
小太りな男は脂肪のついた顔を歪ませて醜く笑う、喉の奥から出たいびつな笑い声はきっと聞いたものの背筋を凍りつかせるであろう笑い声であった。
「やはり人間とは御しやすい、馬鹿な奴・・・」
脳裏に浮かぶ屈辱が男を復讐に駆り立てる。
「あの女も、あの女もっ、あの女も!全員犯して泣き叫んだ顔を嬲りまくって、俺の子を孕ませて絶望の中に殺してやるっ」
脂肪と思われていた皮膚の表面がぞわりと蠢く。
「おっと・・・我慢我慢、冷静になれ、冷静になるんだ・・・げひっ、げひひひっ」
やがて収まった蠢きに若干の違和感の残る頬を摩りながら誰もいない廊下をゆっくりとした歩で歩く。
俺の好きなゲスじゃない・・・俺はスガスガしいゲス野郎が好きなのであってこんな邪悪なゲスは好きじゃない・・・。
ついでに好きなゲス野郎はチョコラータ先生。
燃えるゴミは月水金




