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ユリアの裏設定小話件尺伸ばし

これは尺伸ばし、見なくても別にユリアは生き返らない。

ユリアは十の誕生日に父母を亡くした、強盗に殺されるあっけない終わりだった。

強盗は捕まったが気は晴れなかった。


「お父さんお母さん」


今はいない父と母に呼びかけるが一人には広すぎるこの家には人は自分しかいない。


ベットの上でうずくまっていると、物音が階下から聞こえた、昼前のこの時間帯に誰だろうと、また強盗かと身を固くして下の様子を見に行くと、ここら一帯の家の貸出をしている宿貸しとその部下が十数名、お父さんとお母さんと私の住んでいた家の家財を運び出していた。


「何するの!!」


私が驚いて宿貸しに駆け寄るとそれは顔の怖いスキンヘッドの男に邪魔された。


「この家の貸し賃が払えなくなったからな!別のやつに貸すんだよ!」


ニヤニヤとおぞましい笑みでそう言い放つ宿貸し。


「そんな!」


「これは払ってもらってない貸し賃の代わりだ」


そう言ってスキンヘッドの男に命令するとスキンヘッドの男は私の腕を掴んで外に放り投げる、石畳に体と頭が当たって、一瞬視界が暗くなり、クラクラしながら立ち上がる。


「さわ、るな!お父さんとお母さんのものにさわるな!!」


走ろうとするもスキンヘッドの男が私を石畳の通りに押し付ける。


「ははは!貧乏人が喚きやがる!」


ぺっと唾が私の顔にかかる、私はそいつの横で馬車に家具が黙々と積まれているのをただただ見ているだけしかなかった。


「うあ、うわあああ!」


憎くて悔しくて、でも涙は見せまいと唇が白くなるぐらい噛んだ、絶対に許さないと目に焼き付ける。


「こっちを見るな貧乏人、臭いだろうが」


顔の半分が土のついた靴で覆われる、髪の毛がザラザラするが私はそいつを見ない、ただ馬車だけを目を見開いて凝視した。


「ふん!余所者が!」


やがて嬲るのに飽きたのか馬車と共に去る宿貸しとスキンヘッド。


家には鍵がしめられ、もう私は家には帰れない、大通りに力なく倒れているが誰も声をかけようとはしないし助けようとはしない。


つい最近越してきたばかりの私たちに親しい人たちなど居なかった。












夜になり寒さがこの体を苛む、小さなこの体にはこの寒さは十分死に直結した。


次第に暗くなる視界の端にシワシワの足首が見えた、白くてほっそりとして、でもしっかりと二本で立つ綺麗な足。


私は天使様はお年寄りだったのね、と思いながら意識を失った、きっと次目が覚めたら天国にいるのだわ、と考えながら。












暖炉でパチパチと木がはじけている音と美味しそうなシチューの臭いがする。


「う・・・ぁ・・・?」


ほこりっぽいソファのカビた匂いが鼻腔に入る。


「けほっ・・・ここ?」


暖炉の火しか明かりがないこの暖かで仄明るい部屋はこじんまりとしていて、小さなベットと裁縫箱の置いてある机、そして暖炉の前の安楽椅子、それだけだった。


いや、安楽椅子には白髪混じりの老婆が座っていた、この部屋の一部のように。


「天使様なの・・・?」


「どうだろうねぇ」


天使は編み物をしながら口を意地悪に歪め笑った。


「私死んだんじゃないの?」


「どうだろうねぇ」


天使は編み物をやめない、年季の入った安楽椅子がキィキィと甲高い悲鳴を上げる。


「ここは天国ですか?」


「ちがうねぇ」


「じゃあ地獄ですか?」


「そうかもねぇ」


「えっ?」


私は何も悪いことしてないのに・・・。


「ふふふ・・・どれだけ善を積んだって地獄に行くことはあるのよ」


私の思いが分かったのか意地悪に言葉を放つ天使。


「な、んで・・・なんで神様はそんなことするの!?」


「さぁねぇ、神様だからじゃないのかねぇ」


取り敢えずこの人が天使じゃないことが分かった。


「・・・どうして、どうして助けてくれたの?」


あのまま死ねたらよかったのに、そう本気で思った。


「スープ飲むかい?」


「え?」


「だからスープ、ジャガイモと人参とミルクと・・・一応塩胡椒はかかってるよ」


老婆は暖炉にかかっていた鍋に入ったシチューを木のスプーンで掬って気のお椀に入れて私に差し出した。


「別にそんなのいらな・・・」


老婆と私しかいない部屋に鳴き声が響いた、もちろん発生源は私のお腹だ。


「物語のようだねぇ、まるで・・・まぁ食べなさいな」


お椀を差し出されてつい受け取ってしまう、シチューからいい匂いが漂ってくる。


「い・・・ただきます」


スプーンで一口すする。


もう一口、もう一口、熱すぎるジャガイモを舌で転がし柔らかい人参を歯で丁寧に崩して、暖かいミルクがとても甘いはずなのにとってもしょっぱくて・・・。


「う、ぁ、うああああん」


かなしくてくやしくて、つらくて、なにもかもめちゃくちゃにしてやりたくて。


私は老婆に全てを吐露した。


辛かったことお父さんのことお母さんのこと。


くやしくてないて。


つらくてないて。


かなしくてないて。


思い出にないて。


「う、ぁ・・・」


全てを吐き出して、老婆の膝がびしょ濡れになるまで泣いて、涙も枯れ尽くして。


「すっきりしたかい?」


「・・・はい、ありがとうございます」


助けてくれた老婆にお礼を言った。


「別に大したことじゃないよ」


「でも・・・」


「それに助けたのは実は善意からじゃないからね」


「えっ?」


「このスープ、舐めてごらん」


老婆が先ほどのシチューをスプーンで掬って私の口先に持ってくる、私はそれを舌先でちょろっと舐める。


「・・・・・・あれ、しょっぱい」


・・・・・・・・・私の涙の味じゃなかったの?


「実は料理が下手くそでねお嬢ちゃんさえ良ければ家でご飯を作ってもらえないかと思ってね、家の子になっておしまいよ」


なんだそれは・・・私は怒りより呆れがでてきて。


「なんですかそれ・・・」


「別にお嬢ちゃんがかわいそうだとかそういうのじゃぁ一切ないよ、ただ家のガキどもが不味いだの殺人料理だの言うもんでね・・・」


ぷいっと横を向く老婆のその仕草がなんでかとってもおかしくて。


「あ、あは、あははははっ」


突然笑い出した私を見てキョトンとした老婆は少しこちらを見たあと柔らかい笑みを浮かべて。


「で、どうなんだい?家の料理当番になってくれるのかい?」


私の答えは―――



実は老婆が転生者なのさ!

\ナ、ナンダッテー/

   ΩΩΩ

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