おまえ、もしかしてまだ、サブヒロインが死なないとでも思ってるんじゃないかね?
あの人が出て行ったドアをぼぉっと眺める、反芻するのはあの人とのキスの味。
「あぅ・・・」
こんな思いは知らない、確かに私は男だった時の記憶を持っているし、男より女の方が好きだと思っていた、なのに・・・。
「こんな気持ち知らない・・・痛い、苦しいよぉ」
あの人からキスされたとき足が震えた、そのまま全てを奪って欲しいと訳の分からない思いに心が震えた。
「こんなに・・・」
私は、私は・・・。
「絶対に帰ってこないと許さないから・・・」
ミルドに恋をしてしまったらしい。
あの人の触れていた場所が火傷しそうなほど熱い。
「ぐ、うっ!」
「ぼおぉおおぉおおっ」
化け物の手が振り下ろされ、それをいなすが反動で腕が少し弾かれる。
「なんて馬鹿力だよクソが!」
ナイフを肉塊に刺すが腐肉のようにそれは食い込むだけだった。
刺した場所から薄くピンクがかった透明な液体が血のように飛び出る、それが匂いの元らしい。
頭が霞がかったようになるがそれでも意地で闘っている、つーか時間がかかれば掛かるほどこっちが不利になるからこれ無理ゲーだろ・・・。
「ぼおおぉお!」
「がぁ!?」
腕を不規則に振り回され、予測が立てられない攻撃についに一撃を食らってしまう、予想外の怪力らしく数メートル吹き飛ばされるが直ぐに体勢を立て直す。
「いってぇなおい」
やべぇ・・・死亡フラグが、噛ませ犬フラグがプンプンしてきた、アリシア助けて、マジで、割と本気で。
「また買い直さないといけないな・・・はぁ、剣が一本いくらすると思ってんだ・・・マジで」
手元を見るといつもの重さの半分もない愛剣の無残な姿が見える、毎日手入れを欠かさずしていたのでショックも大きい。
「つーかどうしよう、もう攻撃手段がない」
「あおおぉおおぉお!」
「はぁ!?」
今までしてきてなかった攻撃をされた、肉塊の頭らしき場所から薄いピンク色の糸が幾本となく出てきて油断していた俺の体にかかる、あーもうなんかこの匂い臭くなってきた。
拘束性も粘着性もないその糸は特に意味はなかったが一瞬の隙を誘発させるには十分すぎた。
「おぼうぼおおぼおおおおおおおお!」
あ、やばい死んだ――
「風よ!!」
おバカなあの少女の声と共に化け物の体が誰かの民家に吹き飛ばされ、俺に迫っていた化け物の腕は突然の横からの強い圧力に耐え切れなかったのかちぎれて転がっていた。
「アリシア!」
「死んだら恨むって言いましたよね?ならもっと頑張ってください」
初めて出会った時と同じように体が震えて顔も青ざめているがしっかりとした意思の下立っているアリシアはこれ以上なくかっこよかった。
「アリシア」
「・・・なんですか?」
「最高」
「・・・・・・・・・当たり前ですよ」
本当に、最高だ。
見つめ合っていると半壊した家屋をぶち壊しながらピンク色の生物、もとい化物が三つになった手足で現れた。
「ああああありりあいぁしあいぁいあ!」
なんとなくアリシアの名前を呼んでいるような気がするのだが・・・。
「・・・・・・知り合い?」
「知り合いにあんな卑猥で猥褻でピンクな生物はいません、寧ろいたら死にます」
「だよね」
気のせいか。
「ああありいいいしいいいあああああ」
「やっぱ呼んでるぞ?知り合いじゃないのか?」
「勘違いの人違いじゃないですかね?あれはお兄さまじゃありませんよ、ピンクの何かです、チ○コかなんかです、さっさとこの世から排除するのが世の常ってやつですよ」
「・・・・・・まぁいいか」
あの状態から自分の親だと言われても俺は殺すね。
あんな卑猥な生き物が目の前にいるのはとても嫌だ。
「あの痛かっこいい技は何だ?」
「風の先天性スキルです・・・後痛かっこいいってなんですか?ちぎりますよ?」
「さーせん」
「誤ってないじゃないですかー!」
「まぁそれより、来るぞ!」
「え?」
「ありぎりrぎありいいあしああああああ」
明らかにアリシアを捕獲しようとしていたのでアリシアを抱いてよける、あれ?なんでだろうピンクからの殺気が倍増した気がする・・・。
「うぇっ!?なんですかこのネトネト?きもっ!」
「うるせぇ!気にしてんだよ!それよりさっきのは後どれくらいできる?」
「精神力的に後一、二回ですかね、さっきでっかいの使っちゃったから、もう弱いのしか使えません」
「おk、アリシア使えない」
ってことは俺がどうにかしないとな、あれですか?守って死ぬパターン?
「今の暴言は撤回してください、さっき遅れを取ったミルドよりかは私は絶対に確実に優秀です」
「そんな馬鹿な」
馬鹿な会話をしている間もピンクの生物からの攻撃は止まらない、攻撃手段が一本なくなったおかげで避けるのは楽だが。
・・・・・・そろそろ疲れたし終わらせよう、腕も痛いし、別にアリシアが重いわけではない。
「アリシア一発頼む」
「分かりました」
攻撃を避けてピンクが止まった瞬間に動き出す、アリシアが攻撃を仕掛け、俺が走る。
先ほどの攻撃で恐れているのか体全体を飛び跳ねさせて横に避けるピンク色。
ピンクが着地して止まった瞬間にスキル:縮地を使って移動距離を縮めピンクの真下にスライディングする。
「うらああああああああああああああ!!」
これは俺の痛み!これは折れた愛剣の痛み!そんでもってこれも愛剣の恨みだああああああああああああああ!!
とばかりに腹に突き刺す、腐肉の中に芯のようなものがありそれを突き破り折れた剣の先が向こう側まで貫通する。
ピンクは何と言うか、蠕動?なんかもうビクンビクンしてやがて動かなくなった、死に際まで破廉恥とは、やりおる。
ピンクの重い死体の下からはい出てくるとアリシアが待っていた。
「ミルド!」
アリシアが駆け寄ってくる、が一定の距離で止まる。
「どうした?」
「すごく・・・えっちぃです」
「・・・だよな、早く体洗いたい」
悪夢のような夜が明け、やっと事件は終わったかと思った、だがそれが始まりであった。
昨日の匂いがほかの街の人を犯してないと、誰が決めたのだろうか、誰が匂いが消えたから皆正気に戻った一安心などと言うだろうか?
「おにー・・・さん」
俺は早朝まだ寝ているアリシアを置いて孤児院まで来ていた、甘かった、砂糖菓子にメイプルシロップをかけて食べるより甘い考えであった。
肉、血、肉、血、それと何か。
それの中心にいるのはよく見知ったユリアの姿。
「ユ、リア・・・」
「ころして、早く、ころしてください」
「あ、うあ・・・」
「どうして、こうなっちゃったんだろう・・・おかしいですよね、こんなの夢です、だから・・・」
――――ころして。
「そしたらきっと目が覚めて、またおにーさんと・・・」
「ああ、お休み」
おやすみなさい。
「ミルドさん?」
「・・・なんだ?」
「何で手にぎってんですか?」
贖罪のためにベットに顔を押し付けているのか、涙が出ないこの顔をアリシアに見られないように、人のように悲しんでいると思われたくてアリシアの手を握っているのか分からない。
「ただ」
「ただ?」
「ただそうしないといけないような気がしたんだ」
「そうですか」
「ああ」
アリシアのもう片方の手が俺の頭を優しく撫でた、優しくいつまでも。
ミルド、好きだよ、今日も大好き、明日も大好き、一生大好き。
ああ俺もだ、ミルドはそう言うと私を抱きしめてそれで。
朝揺れる馬車の中、急に停止した馬車のせいで目覚めた私はミルドとの逢瀬を中断させた馬車に殺意が湧いた。
「ユーリ様」
「何?」
騎士の一人が馬車の窓からこちらに話しかけてきた、どうやら何か有事があったらしい。
「これから慰問する街で新種の魔物が現れたそうです、民は不安に駆られ――」
「それで?」
「は?」
「その魔物は?」
「あ、は、はい、魔物はその場にいたギルドに所属しているハンターによって倒されたそうです」
「ふーん」
「それとその魔物の特徴なのですが」
「別にそんなの聞かなくても大丈夫だよ」
それより早くミルドに会いたい。
魔物を全部殺して、邪魔な人も全て何もかも壊して、全部全部なくなったら、きっとミルドは来てくれる、ミルドは死んでない、ミルドはきっと事情があって来れないだけなんだ、きっとそう、だからミルドが安心できるように頑張らないとね。
「そうですか、お時間を取らせてしまいすいませんでした」
一度礼をして離れていく騎士、殺してやろうかと思ったけどやめた、めんどくさいし。
「ああ、ミルド・・・ミルド好きだよ、誰にも渡さない私だけのなんだから」
ミルドに 死亡フラグが たった!
致死率80%オーバーです。
勇者が勝つ方に、66兆2000億円
というか魔王に会えずして死にそうな勢いなんですけど・・・。




