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文化祭の君  作者: 獅童最
side 佐藤菫 『文化祭の君』
8/14

第7話 中二 十一月 『飾る』

 *****


 ――二年前、中学二年の十一月。


「で、これが菫が毎日一生懸命作ってた新作かぁ」


 文化祭当日の朝。独特の浮足立つような空気の中、菫と凜が見上げた工作室の壁には、文庫本サイズのプレートが飾られている。

 そこには、てろりとした質感ときらきらと透き通る青と白の樹脂で、海が描かれていた。

 砂浜部分には、あの日の海で拾った貝殻やシーグラスも散りばめられている。


「うん。やっと出来上がったよ……どうかな?」

「めっちゃいいじゃーん!すごいね。こんなに綺麗に波模様が描けるんだ。菫の作る青、吸い込まれそうに深くて、私好きだなぁ……」

「思った以上に難しかったけどね。工作室のヒートガン使わせてもらえて、ホント良かった」

「いやでも、初日とかめちゃめちゃ心細そうにしてたから心配したよ。まぁ、途中からはすごい楽しそうだったけど」

「うん、最初は緊張したけど、楽しかったよ」


 にこにこと自分のことのように嬉しそうな親友の言葉に、菫もほっと息をつく。


「でも、ほんとすごいわ。この透明感はレジンならではだよね。布じゃ、ちょっと出せないよ。菫が苦労してた波のところの、セル、だっけ?泡みたいなのも、うまくできてるじゃん」

「凜、ちょっと褒め過ぎだよ……でも、ありがとう」

「褒め過ぎなんてないよ。いつも言ってるじゃん。菫の一番のファンは私なんだから」

「そんなこと言ったら、凜の一番のファンは、私だよ。凜たちの作った衣装、すごい迫力だったもん。圧倒されちゃった」

「わーい。嬉しい!じゃあ、お互い様だね」


 にっしし、と撫でられた猫のような目で笑う凜と微笑みあっていたところで、菫の耳に先輩女子の声が飛び込んでくる。


「誰かー、男子ー!あそこのテープ剥がれそうだから貼り直してくれない?あ、くまっち!ちょうどいいところに。あれ、届く?」

「これか?わかった」

「そうそれ。ありがとうー」


 そんなやりとりをなんとはなしに眺めていたところで、凜がすすすっと顔を寄せてくる。


「菫の『親戚』、背が高くていいね。羨ましい……」

「凜ってば、だからそれは……」

「わかってるわかってる。『遠縁』でしょ」


 意味ありげに笑う凜には、経緯は説明済みである。

 そんな凜は、にやにやといたずらっぽく笑いながら、さらに続ける。


「……ねぇ、連絡先くらい、聞いた?」

「やだ、聞けないよ。それに、凜も知ってるでしょ。うちは中学の間はスマホ禁止だもん」

「そうだった。その問題があった……菫の家、そのへん厳しいもんねぇ。まぁでも、そもそも学校でスマホ出してるのなんて見つかったら、あっという間に取り上げられちゃうしね」

「そうだよ」


 校則の厳しい青葉学園では、校内でのスマホの使用は基本的に禁止である。

 ただ、電車を乗り継いで遠くから通ってくるような生徒も多くいるため、緊急用途でスマホの所持そのものは認められている。凜もそのうちの一人だ。

 一方、菫はというと、比較的学校の近くに住んでいるため、スマホは持たされていないのが現状だ。


「じゃあさ、文化祭終わったあとも、通うの?工作室」

「まさか。さすがに無理だよ。それに、もうエポキシの液も使い切っちゃったもん。またお小遣いたまるまで、我慢だよ」

「なぁんだ。じゃあ、『親戚』さんとも、しばらく我慢だねぇ」

「ちょ……凜ってば!そんなんじゃないよ」

「どーだかねぇー。菫さん、顔、赤いよー?」

「違うってば……」


 慌てる菫に、凜が追い討ちをかけるように言う。

 そこに、戸口の方から声がかかる。


「駒野ー、劇部の最終チェックいくよー」

「あ、はーい!今行きまーす。じゃあ菫、また後でね。午前中の体験当番、がんばって!」

「うん。凜も。いってらっしゃい」

「まぁ、なんかあっても、先輩が助けてくれるよ」


 なんとなく、菫の後ろを見ながらそう言って去っていった凜を見送ったところで、不意に菫にも声がかけられた。


「オーシャンアートだっけ。完成して良かったな」

「は、蜂須賀先輩……っ!ありがとうございます、先輩のおかげです」

「いや。毎日頑張っていたもんな。いい出来じゃん」

「よく見ると、粗とかありますけどね。でも、私なりに、頑張りました」

「うん。いいと思う。波打ち際とか、細かい表現もできてるし、試行錯誤してただけの結果は出たんじゃん?」

「っ!ありがとうございます!」


(嬉しい……!見ていて、くれたんだ)


 先輩の思いがけない言葉に頬を熱くしながら、菫は勢いよく頭を下げる。

 そんな菫の頭上で、ふっと息を吐いた気配とともに、独り言のように小さなつぶやきが漏れ聞こえた。


「俺も、頑張らんとな……」

「え?」

「いや、なんでもない。じゃあ、午前中の当番、よろしくな。なんかあったら、呼んで」

「はい!頑張ります!」


 そんなふうにして、菫の中学二年の文化祭は、始まって――終わった。


 *****

これにて、菫の中二編が終わりました。

次話からは、中三編に入ります。


読み味を気に入ってくださった方は、是非リアクション・ブクマ・ご感想など頂けますと大変励みになります。


引き続きどうぞお楽しみください。

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