第4話 中二 十月 『踏み出す』
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(わぁ……なんかいけないことをしてる気分……)
月曜日の放課後、菫は男子校舎と女子校舎を中空でつなぐ、通称『鵲橋』を渡っていた。温室のように全面が窓で覆われているからか、少し蒸し暑い。
なんとなく落ち着かなくて、胸元の乱れてもいないリボンタイを指先で整える。
工作室を含む共用エリアは、菫たち手芸部がいつも活動している女子校舎の被服室から見て鵲橋の向こう側だ。共用エリアなので、もちろん女子の立ち入りは禁じられてはいない。けれど、橋の向こう側というだけで、やはり敷居は高く感じる。まして、普段の授業などであれば集団で移動するのに、今は菫ひとりきりだ。
(やっぱり、凜に付いてきてもらえばよかったかな……)
被服室を出るときに、付き添いを申し出てくれた親友に、ひとりで大丈夫だからと強がったことを、菫はすでに後悔し始めていた。
(でも、布もの班は、今が山場だもんね……)
手芸部では、毎年の文化祭に向けて演劇部の衣装を請け負っている。本番まで残り一ヶ月を切っている今、二年生ながらに完全に戦力である凜に、自分が心細いというだけでついてきてもらうわけにはいかない。
文化祭準備期間の今は、普段より鵲橋を行き来する生徒が多い。そんな彼らの視線を心もち避けるようにうつむきながら、恐る恐る共用エリアに足を進める。
(工作室、久しぶりだな……)
工作室からは、手芸部で聞き慣れた軽やかな声とは明らかに異なる、男子たちのガヤガヤした声が漏れ聞こえている。作業音すらも、普段のミシンとは違う太くて獰猛な機械音で、それが一層菫の心細さに拍車をかける。
(よ、よし……)
無意識に生唾を飲み込み、なけなしの勇気と一緒に拳を固めて、工作室の戸をノックした。
瞬間、室内でどっと笑い声が上がる。それを耳にした菫がビクリと肩を震わせて数秒。聞こえてくる中の雰囲気に、変化はない。
(ど、どうしよう……)
完全に途方に暮れた菫が、半泣きの心もちで唇を噛み締めた。
その時――
ガラリ
目の前の扉が唐突に開いた。
「あぁ、やっぱり」
開いた扉から覗いた顔に、強張っていた肩の力が一気に抜けていくのを感じた。
「せ、先輩……」
「おう。入っておいで。ガンちゃんには話を通してあるから」
蜂須賀先輩が戸口を大きく開けて菫を招き入れてくれた。
「お、おじゃまします……」
思いがけず優しく響いたその声音に勇気をもらって、菫は恐る恐る室内に足を踏み入れた。
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