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文化祭の君  作者: 獅童最
side 佐藤菫 『文化祭の君』
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第2話 中二 九月 『波立つ』

ここから数話は菫の中二のお話です。

先輩は高一です。

 *****


 ――二年前、中学二年の九月。


「晴れたねー!気持ちいい!!」

「駒野ー、足元危ないから裸足禁止ー!!あと軍手!ケガすんよー!」

「あ、そっか。はぁい!!」


 はしゃいだ声を上げながら、いそいそと靴を脱ごうとした親友の凜が、手芸部高校部長の広瀬茉莉ひろせまり先輩に早速注意されている。


 台風が過ぎ去った九月のある日曜日、菫たち手芸部は、学校から一番近い浜辺に来ていた。近いとは言いつつ、県内でも山の手の方にある菫たちの学校からは、電車とバスを何本か乗り継いでやっと来られる距離だ。中高生の菫たちからすれば、日帰りとは言えちょっとした小旅行気分である。


 彼らの本日の目的は、一ヶ月余り先に迫った文化祭で展示販売する作品づくりのための素材集めだ。台風の高潮で波と一緒に運ばれてきた貝殻やシーグラス、流木など、クラフトの材料に使えそうなお宝を拾い集める、いわゆるビーチコーミングである。


 しかも文化祭準備という名目なので、本日は男子工芸部との合同イベントだ。完全に非日常のシチュエーションに、男女ともにそわそわと浮足立った雰囲気で、はしゃがないほうが難しい。


「広瀬、あっちの方に漂着帯ができてた。今日は期待できそうだよ」

「ホント?やったね、さすが台風一過。ていうか、岩本センセ、ドローン飛ばしてんの?」

「そ。今日はガンちゃん一段と張り切ってる。新しく買った機体を試したいんだって」

「好きだねーセンセ。まぁ、助かるけど。先生本人はどこ?あっち?」


 工芸部顧問が飛ばす私物のドローンで下見をしていた先着隊と情報交換をしながら、男女の中高部長たちが連れ立って先生にあいさつをしにいく。その様子を、菫たち下級生はなんとはなしに見送る。


「あ!菫!みてみて蟹さん!ちっちゃーい」

「ホントだね」

「こら、駒野ー、ちっちゃい生き物がちっちゃい生き物いじめんなー」

「明日香先輩!私そこまでちっちゃくないですー!」


 早速浜辺できゃあきゃあと華やいだ声をあげる女子たちの元に、突然ぬっと大きな影がさす。


「これ、軍手とゴミ袋、女子の分。缶とペットは透明の方の袋に入れて。瓶は割れていたりして危ないから、道具揃ってる男子こっちで拾う。燃えるゴミは青い袋」


 記憶にあるより少し低いその声に、菫の心臓が小さく跳ねる。


「あー、ありがとうございます」

「もし大物持って帰るなら、ガンちゃんが車出してくれてるから後で言って」

「あ、はい!女子は小物狙いなんで、たぶん大丈夫ですが、わかりました」


 ぼそぼそと、感情のうすい声で簡潔に連絡事項のみを伝えてよこしたのは、昨年菫のピンチを救ってくれた二学年上の蜂須賀先輩、通称くま先輩だった。


(おちつけ……先輩は、私のことなんて覚えてないはず。自意識過剰だよ)


 それに、話しかけられているのは自分じゃない。わかっているのに、対応している女子の先輩の横で、なんとなく気恥ずかしくて菫はうつむきがちに視線を落とす。


 今日の菫は、ビーチコーミングのために汚れてもいいジーンズとプリントTシャツに、普段通りのポニーテール姿だ。おしゃれな透かし編みのサマーニットを着ている凜に比べて、視界に入った自分の格好がなぜか突然たまらなく地味で、恥ずかしく思えた。


(髪くらい、編んでくればよかったかな)


 そんな後悔が頭をよぎったところで、凜がつんつんと肘でつついてくる。


「なぁに、凜」


 少しだけ惨めな気持ちを引きずりながら、顔をあげた菫の視界に、一面の黒。


(……黒?)


「佐藤さん、暑い?」

「え……」


 かけられた声に驚いて、気づいたら視界いっぱいに広がっていた黒いTシャツから更に目線を上げると、意外なほど強い焦げ茶色の瞳と、視線がぶつかった。


「顔、赤い。あっちの階段登ったところに自販機あるけど。まだまだ日差し強いし、熱中症になる前にしっかり水分とって」


(てゆーか、いま、なまえ……?)


 予想外に呼びかけられたことに混乱しながら、慌てて肩にかけていたボディバッグから麦茶のペットボトルを取り出して見せる。


「え、あ、だ、大丈夫です!お茶、持ってます!」

「なら、飲んで。あと塩分」


 そう言いながらカーゴパンツのサイドポケットをごそごそと探って、塩分タブレットを差し出してくれたのは、誰であろう、蜂須賀先輩その人だ。


「す、すみませ……!」

「これ、ガンちゃんの差し入れだから。他の人の分も。熱中症、ほんと気を付けて」

「あ、ありがとうございます……!」


 慌てて差し出した菫の両手のひらに、レモン風味の塩分タブレットをひとつかみ落として、先輩はさっさと戻って行った。


「びっ……くりした……」


 呆然と呟いた菫の視界に、なにやらむずがゆそうな顔でにやにやと笑う凜が入り込む。


「あれが、去年菫のピンチを救ってくれたくま先輩でしょ?やっさしーじゃーん」

「え、佐藤、そうなの?」

「なんか、去年の学祭でランプ点かなくて困ってたら、助けてくれたらしーです」

「へぇ、そんなことあったんだ。知らんかった……あ、塩タブ、一個ちょうだい。ほら、佐藤も食べな。熱中症、怖いよ」

「あ、はい」

「私も、一個欲しい。九月だってのに、暑いよねぇ」


 一部始終を遠巻きに見ていた女子の先輩たちが、わらわらと菫の元に集まってくる。


「くまっちねー、普段あんまり女子に関わってこないし、あの迫力だから、怖い人かと思ってたわ」

「そうですね。必要なとき以外はあんまりしゃべってるところ見たことないですね。でも、怖いですか?」

「怖いっていうか、近くに来ると普通に緊張する。だってあの身長じゃん?特に駒野なんてチビだから、並んだらほんとくまみたいじゃん」

「ひどいなー、明日香先輩だってそんなに変わんないじゃないですかぁ」

「私のほうが、2センチ高い」

「そんなん、誤差ですよ!」

「たかが2センチ、されど2センチ!」

「わぁん、菫ぇ、明日香先輩がいじめるよー」

「いじめてませんー、事実ですー」


「ほら、あんたたち!せっかく台風明けの干潮時間にあわせて来たんだから、遊んでないで作業はじめるよー!潮が満ちる前にお宝探しとゴミ拾い!」

「「「はぁい!」」」


 妙な緊張感から解放されて、またきゃっきゃと騒ぎ始めた女子たちに、戻ってきた部長たちが号令をかける。かしましい女の子たちは軍手とゴミ袋を受け取り、それぞれ砂浜に散っていく。


 *****

このまま中二編が続きます。

引き続きどうぞお楽しみください。

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