第1話 中一 十一月 『灯る』
菫の中学一年生時代の回想です。
中一はこの回でおわります。
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――三年前、中学一年の十一月。
「え、点かない。な、なんで……。ごめんね、ちょっと待ってね。」
中学一年の秋、初めての文化祭で朝一番のシフトを任された菫は、焦っていた。菫が担当した体験者のランプの明かりが、点かないのだ。
自分の組み立て方が悪かったのか、何か手順を忘れているんじゃないか。何度も確認するが、うんともすんとも言わない。
慌てまくる菫を見て、ランプシェードを作り終えた体験者の男の子も、不安そうな顔をしていた。それが一層、菫を焦らせる。
助けを求めて周囲を見渡しても、いつも頼りになる手芸部の先輩たちは、みんなそれぞれの体験者に対応中でこちらの様子に気づいていない。一緒に入部した親友の凜も、手芸部が引き受けている演劇部の最終衣装チェックについて行っているため不在だ。
(どうしよう……)
「貸して」
突然、変声期が終わりかけの男子特有の、少しかすれた声が聞こえた。続いて、菫のものよりも随分と大きくて骨ばった手が頭上から伸びてきた。そのままランプを取り上げると、突然の事態に固まる菫をよそに、軽く揺する。その動きにあわせて、ちりちり、と鈴みたいなかすかな音が菫の耳に届いた。
「フィラメントが切れてる。豆電球は時々こういうことがあるから」
なんでもないことのように言いながら、その大きな手は意外とも思えるほどするすると器用に動き、あっという間に不良品の豆電球を新しいものにつけ替えてしまった。
「ほら」
「点いた!お兄ちゃんありがとう!」
「あ、ありがとうございます!」
男の子のはしゃいだ声に、菫も我に返り慌ててお礼を口走る。助けてくれたのは確か、工芸部中学部長の三年生だ。他の男子よりも際立って背が高く、のっそりと動く姿からか、男子の間では『くま』という愛称で呼ばれていた。
(フィラメントって、なんだっけ……。あ、電球の、光るところ)
菫の窮地をさりげなく救ってくれた先輩は、ひらりと手を振り、そのまま男子生徒たちの群れに戻ってしまう。
男子の群れの中でも頭ひとつ飛び出ている彼を、視界の端で追う。そんな菫の胸にも、何かちりちりと温かい明かりが灯ったような気がした。
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菫が中一、先輩が中三です。
次話からは菫の中二編が始まります。




