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文化祭の君  作者: 獅童最
side 佐藤菫 『文化祭の君』
19/28

第17話 高一 十一月 『ねじれ』

 *****


 ――文化祭一日目、午後。


「凜、本当に衣装すごかった……。お姫様が目覚めるシーンとか、舞台のライトでキラキラして、本当に綺麗だった」

「えっへへ。ありがとう!菫が作ってくれたレジンの宝石も、本当に魔法の石みたいで、綺麗だったねー」

「私は単に素材を作っただけだよ。でもあの石を、あんなふうに活かしてくれるなんて……私、感動しちゃった」

「ふふふ。あのシーン、みんなでめっちゃ考えたんだよ。姫と野獣の心の変化を表現するのに、どうしたらいいかって。脚本書いた詩郎くんとも、最初は結構揉めたし」

「でも、本当に一瞬で夢の世界から出てこられたんだってわかったよ。あれ、衣装どうなってたの?」

「あぁ、あれはねー、例の工芸部が協力してくれた仕掛けを使っててね……」


 演劇部の舞台『眠れる森の美女と野獣』を鑑賞し終えた凜と菫は、大ホールからロビーへ、熱気を帯びた人の波に押し流されるようにして出てきた。


「ねぇ凜、このあとってさ、クラスの方を回って……」


 突然、菫の言葉が、不自然に途切れる。


「菫?どしたの?――え、あれって……」


 大きく見開いた菫の目線の先には、ロビーの人の流れから少し外れたところに、頭ひとつ飛び出た蜂須賀先輩の姿。


「せんぱい……」


 ふらりと引き寄せられるように、人混みに逆らって菫が近付いていく。


(会えた。会えた……!)


 喜びで胸がいっぱいになった菫が、声をかけようとしたそのとき。


 ピタリ、と菫の動きが止まる。


「菫、良かったじゃん!くま先輩、まだいたんだね!……あれ?菫どしたの?」


 遅れて追いついた凜が、菫の様子がおかしいことに気がつく。

 もう一度彼女の視線をたどったとき、ちょうど人の流れが途切れた。


「明日香先輩……」


 穏やかな表情の蜂須賀先輩の前にいたのは、こちらも明るい笑顔で話す、小柄な手芸部OGだった。


 *****


「ちょ、待ってよ菫っ。ねぇ、話しかけなくて良かったの?せっかく会えたんだよ?ねぇってば……!」


 足早に鵲橋を渡る菫の腕を、凜が掴む。それでも、菫は止まらない。


「無理、だよ……私には……。だって、先輩のあんな顔。あんな、優しい顔……」

「そんな、そんなのわかんないじゃん!確かに、ああいう顔、私も初めて見たけど……」


 菫の瞳に張った水の膜を見て、凜の言葉もすぼんでいく。


(私は、見たこと、ある。あの顔は、先輩が去年仕上げた森の泉の作品を見てるとき、神社で夕焼けを見てるときも、あんな顔だった。あんな『特別』な、顔だった……)


 口数が少ない先輩の言葉より雄弁に、わかった。わかって、しまった。


 石を飲んだような、とはこういう気持ちのことを言うのだろうか。いき場をなくした菫の想いが、胸の内で固く固く縮こまっていくのを感じて、思わずその場にしゃがみ込む。

 持っていた演劇部のパンフレットが、手のなかでくしゃり、とかすかな悲鳴を上げた。


 *****

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