第17話 高一 十一月 『ねじれ』
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――文化祭一日目、午後。
「凜、本当に衣装すごかった……。お姫様が目覚めるシーンとか、舞台のライトでキラキラして、本当に綺麗だった」
「えっへへ。ありがとう!菫が作ってくれたレジンの宝石も、本当に魔法の石みたいで、綺麗だったねー」
「私は単に素材を作っただけだよ。でもあの石を、あんなふうに活かしてくれるなんて……私、感動しちゃった」
「ふふふ。あのシーン、みんなでめっちゃ考えたんだよ。姫と野獣の心の変化を表現するのに、どうしたらいいかって。脚本書いた詩郎くんとも、最初は結構揉めたし」
「でも、本当に一瞬で夢の世界から出てこられたんだってわかったよ。あれ、衣装どうなってたの?」
「あぁ、あれはねー、例の工芸部が協力してくれた仕掛けを使っててね……」
演劇部の舞台『眠れる森の美女と野獣』を鑑賞し終えた凜と菫は、大ホールからロビーへ、熱気を帯びた人の波に押し流されるようにして出てきた。
「ねぇ凜、このあとってさ、クラスの方を回って……」
突然、菫の言葉が、不自然に途切れる。
「菫?どしたの?――え、あれって……」
大きく見開いた菫の目線の先には、ロビーの人の流れから少し外れたところに、頭ひとつ飛び出た蜂須賀先輩の姿。
「せんぱい……」
ふらりと引き寄せられるように、人混みに逆らって菫が近付いていく。
(会えた。会えた……!)
喜びで胸がいっぱいになった菫が、声をかけようとしたそのとき。
ピタリ、と菫の動きが止まる。
「菫、良かったじゃん!くま先輩、まだいたんだね!……あれ?菫どしたの?」
遅れて追いついた凜が、菫の様子がおかしいことに気がつく。
もう一度彼女の視線をたどったとき、ちょうど人の流れが途切れた。
「明日香先輩……」
穏やかな表情の蜂須賀先輩の前にいたのは、こちらも明るい笑顔で話す、小柄な手芸部OGだった。
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「ちょ、待ってよ菫っ。ねぇ、話しかけなくて良かったの?せっかく会えたんだよ?ねぇってば……!」
足早に鵲橋を渡る菫の腕を、凜が掴む。それでも、菫は止まらない。
「無理、だよ……私には……。だって、先輩のあんな顔。あんな、優しい顔……」
「そんな、そんなのわかんないじゃん!確かに、ああいう顔、私も初めて見たけど……」
菫の瞳に張った水の膜を見て、凜の言葉もすぼんでいく。
(私は、見たこと、ある。あの顔は、先輩が去年仕上げた森の泉の作品を見てるとき、神社で夕焼けを見てるときも、あんな顔だった。あんな『特別』な、顔だった……)
口数が少ない先輩の言葉より雄弁に、わかった。わかって、しまった。
石を飲んだような、とはこういう気持ちのことを言うのだろうか。いき場をなくした菫の想いが、胸の内で固く固く縮こまっていくのを感じて、思わずその場にしゃがみ込む。
持っていた演劇部のパンフレットが、手のなかでくしゃり、とかすかな悲鳴を上げた。
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