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文化祭の君  作者: 獅童最
side 佐藤菫 『文化祭の君』
16/23

第15話 中三 八月 『景色』

 *****


 石段を登ると、人気ひとけのない静かな境内が現れる。どこか見覚えがある空気に、菫は思わず声を上げた。


「先輩の作品の雰囲気に似てる……」

「正解。ここのイメージを借りて、あれを作った」


 今日完成したばかりのガラス板に写し取られていた、あの静寂の森が、そのままの姿でそこにあった。


「泉はないけど、雰囲気は良いだろ。ここ」

「すごい……あの世界が、実際にあったなんて」

「ふ……だから、おおげさ。ああ、足元気をつけて。こっち」


 静謐の空気に魅入られたように周囲を見渡す菫を、蜂須賀先輩が促す。


 厳かな雰囲気が漂う社の脇を回り込み、木立の間を抜けると、導くように風が吹き抜けた。


「わぁ……すごい。すごい……」


 急にひらけた視界に広がるのは、少しずつ赤みを帯びていく空と、家々が建ち並ぶ街並み。

 遠くの山際を目指して落ちていく夕陽と、それを追いかけて二羽のカラスが、連れ立って飛んでいくのが見えた。


「こっちは海じゃなくて山だけど、この空の感じは、佐藤さんの作品にも似てるだろ」

「……っ」


 うまく言葉にならない。


 今日仕上げたばかりの夕暮れの海は、こんなに心を惹きつけてやまない作品にできただろうか。


 二人の作品はともに今日完成した。あとは、完全に乾いて固まるのを数日待ち、回収するだけだ。明日からはもう、工作室での作業は、ない。


(ああ、終わってしまった)


 さっきまでは確かに作品を作り上げた達成感でいっぱいだったはずなのに、いまは寂しさで胸が軋むようだ。


 暮れなずむ街並みを見渡した菫は、唐突に理解した。して、しまった。


 先ほど感じた言葉にならない想いの正体を。


(私、この人と離れたくないって思ってる)


 *****

これにて、菫の中学生編は終わります。


物語は幕間を挟んで、いよいよ現在へ。

菫が見つけた景色が、どのように移ろいゆくのか、どうぞ見届けてください。


菫の物語を楽しんでいただけていましたら、是非ご感想やリアクションなどをお寄せください。

私にとっては何よりの励みになります。


引き続き、物語の世界をご一緒しましょう。

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