うさ耳女との出会い6
「これがウチの記憶ネ!」
ピィの話を聞いた俺は考えこんだ。
ピィはジャックラビットだった。
だが死神と出会い、何か呪文をかけられ、気付けば人間になっていた。
そういうことだろう。
気になるのは、死神の残した「魔王様の元へ行け」という言葉だ。
「お前、もう魔王とやらの所に行かなくていいのか」
「行くわけないネ。魔王なんて知らないネ。どこ居るネ。興味もないネ」
ピィは雑草をむしり、ポイと焚火に投げ入れる。
「でもお前を人間にした死神野郎は魔王のところへ行ってほしそうだぞ」
「ウチはなんの用もないネ」
そりゃそうだ。
だいたい、魔王って何者だよ。
俺だって聞いたことがない。
「ウチ、ひとりぼっちなっちゃったネ」
ピィが焚火を見つめながらつぶやく。
「葉っぱ食べても、お腹いっぱいならないネ。寂しかたネ。ひとり、怖かたネ」
ピュウと風が吹いた。隣に人がいないと妙に冷える。
頭にカレンがちらついて、俺は唇をかんだ。
ひとりで過ごす一日の味気無さを、必死に飲み込む。
「だから、レノ見つけて嬉しかたネ!」
ピィが俺に笑いかける。
ピィは森の中を歩く俺を見かけ、人恋しくなって喜んでついてきたらしい。
自慢の脚力を生かし、木の上を飛び回って俺を追った。その際に足を滑らせて、俺の頭上に落ちてきた。
ということらしい。
「ウチ、もう人間ネ。村行きたいネ。人なりたいネ。だからレノ。レノが頼りネ」
俺は何も言えなくなってしまった。
能天気な馬鹿に見えるが、ピィは切実だ。
生と死が混在する中で、ピィは生きる道を探している。生き抜くために、ここにいる。
俺の胸の奥がチクリと痛む。
ピィから死神について聞き出して、カレンを助けるために利用してやるつもりだった。
聖枢機院まで連れまわし、ピィを司祭に差し出せば、より早く解決するかもしれないとさえ思った。
だけど、コイツの人生を犠牲にしてまで自分の欲を貫こうとしている自分が、すごく汚らしく感じる。
俺はこぶしを地面に打ち付ける。
馬鹿が。迷ってる余裕なんてねえだろ。
利用できるものはなんでも利用しろ。カレンを助けたいんだろ。
そう思うのに、なんでこんなに胸が重くなるんだ。
クソ。
「レノはなんで森いるネ」
ピィが俺の顔を覗き込む。
俺は目をそらし口を開いた。
「妹がさらわれた。死ん……いや、死にかけて、……まあ、そんな状況で、変な奴にさらわれた。そいつを追ってる」
「変な奴ネ?」
「ああ。姿かたちは人。だが、人とは思えない雰囲気だった。死んでるみたいな。ピィの言う、死神みたいな」
ピィが死神という言葉に反応して震える。
うさ耳がへにゃっと垂れた。
「死神、死の臭いしたネ。強烈だたネ」
「ああ、俺の会った奴もそうだった」
アイツのせいで村は壊滅した。
大勢の人が死んだ。
死神という言葉がふさわしい。
死神に、魂を奪われたのだ。
そして、カレンも――。
ギリリと唇を噛む。
「それで、なんで森いるネ」
「別に森に用があるわけじゃない。王都にある聖枢機院を目指してる道中だ。聖枢機院には世界中から魔物の情報が集まってくるからな。そこで人型の魔物について調べて、カレンを追うつもりだ」
「ふぅん?」
ピィの頭上にハテナマークが並んでいる。
この馬鹿が。
知能はウサギレベルかよ。
「だから、王都へ行くってことだよ」
「王都! いいとこネ! 行きたいネ!」
「おい。テメエに王都の何がわかるんだよ」
「わかるネ! 王都、キラキラいっぱいネ! 人いっぱいネ! 楽しい、いっぱいネ! 王都、いいとこネ!」
なんで王都にだけそんなに詳しいんだよ。服も知らなかったくせに、知識偏りすぎだろ。
「ま、その前にまずは近くの村へ向かうけどな」
幸い、金も手に入った。
村で身支度を整え、馬を借りればだいぶ時間を短縮できる。
パチパチと火の粉の舞う焚火を眺める。俺の闘志のように、強い炎が上がった。
すぐに見つけてやるからな、カレン。
俺の決意もメラメラ燃える。
そんな俺をあざ笑うかのように、近くの村では戦闘ののろしが上がっていたのだった。




