うさ耳女との出会い4
血抜きの終わったウルフの皮をはぎ、解体する。5体もいれば相当な量になった。
――この皮、使えるな。
皮は食い物にはならないが、衣服にはなる。
俺は葉っぱ一枚で飛び回るピィを思い返した。
あんな格好じゃあ目のやり場に困る。戦闘中はとくにそうだ。動けば吹っ飛ぶ葉っぱより、皮を着た方がいくらかマシだ。
村から持ってきた塩を肉に揉みこんでいると、草木がガサガサと揺れた。
――チッ、また魔物か?
小刀を抜き、構える。
音と臭いに集中する。
ガサゴソ、ガサゴソ。
不均一に草木が揺れる。
その瞬間、バンッと黒い影が葉をかき分け飛び出してきた。
「レノ―! あっち、川あったネ!」
「なんだピィかよ。……って、なんだそれ」
ピィは両手で重たそうに皮の袋を持っている。中には水が入っていた。
「これネ? 落ちてたネ」
ピィはそう言って俺に背を見せる。背中には、手持ちの革袋の他に、大きな鞄を背負っていた。
「水、くんだネ! ウチ、えらいネ!」
褒めてほしそうに耳をパタつかせるピィを無視して、俺は背負い鞄をマジマジと見た。
鞄の中央には、ゴテゴテした十字架の刺繍が入っている。
「教会の印……? にしては派手だな」
だがこのゴツい十字架、どこかで見た記憶もある。
どこだ?
そうだ、たしか、村に司祭が――。
「鞄、中! キラキラいっっっぱい入ってるネ!」
「キラキラ?」
俺はピィから鞄をはぎ取り、中を確認した。
「これ、金貨じゃねえか!」
それは山のような金貨だった。
これだけあれば武器も買える。宿にも泊まれる。王都までの道のりが楽になる!
「えっへへぇ。どうネ? ピィ、偉いネ! いいもの見つけたネ! ネ? レノ」
ピィは頭を撫でられたそうに、うさ耳頭を俺に差し出してきた。
「えっへへぇ」
ご機嫌に笑うピィ。
満面の笑みを浮かべるピィに、元気なカレンの幻が重なる。
家事を頑張って、俺に頭をポンポンされるために可愛く頭を向けたカレン。あの幸せな日々に、今はもう、手が届かない。
俺は唇を噛んだ。
「レノ? どうしたネ?」
「いや、なんでもない」
俺は頭を振ってカレンの残像を振り払った。
カレン。
会いたい。会って抱きしめたい。
だけど、叶わないのだ。
「レノ。キラキラの下、何かあるネ」
ピィの指摘に応じて、俺は鞄の奥に手を突っ込んだ。ゴツゴツした金貨の指ざわりの中に、ひときわひんやりしたザラザラの感触がある。
「なんだこれ。……鏡?」
取り出したソレは、宝石がいくつもあしらわれた鏡だった。ただ、レンズは汚らしく錆つき、鏡としての役目は果たせそうにない。
「きったねぇな。売れんのか、コレ」
安物には見えないが、使い物にもならなそうだ。売れるかどうかは買い手次第だろう。
しかし、森の奥深くにこんな金目のものが落ちているとは。
もしも遭難者の荷物だとしたら、他にも落ちているかもしれない。
金の誘惑が俺の心をくすぐる。
「なあピィ。これ、どこにあった……ん? ん?」
ピィを見て、俺は息を飲んだ。
ピィが静かに涙を流している。
鏡を一点に見つめ、黙って、ポタポタと。
「おい、どうしたんだよ」
ピィは心ここにあらずといった表情で、俺の言葉も届いていないようだった。
革袋を取り落としたピィが、鏡に手を伸ばす。
落ちた袋からビチャッと大量の水が足にかかった。
「つめてえな、おい」
そんな俺の言葉も無視して、ピィは鏡を手に取り、胸に抱いた。
ぎゅうっと抱きしめ、肩を震わせシクシク泣いている。
「な、なんなんだよ。おい、ピィ……」
「わからない、わからないネ」
そう言って、ピィはほろほろ泣き続ける。
「わからないネ。でも、胸、苦しいネ。なに、ネ。これ、何ネ」
しまいにピィはしゃくり上げ、わんわん泣き出した。
俺はどうしようもなくなり、とりあえずピィの頭、うさ耳の間に手を添える。
ぽん、ぽん。
昔カレンにしてやったように、ピィの頭をなでる。
ピィはそれからたっぷり5分は泣いて、ようやく大人しくなった。
「なんなんだよ、ピィ」
落ち着きを取り戻したピィに尋ねる。
ピィは静かにかぶりを振った。
「ウチ、コレ、大事な気がするネ」
「コレが? なんで」
「知らないネ。でも、コレ、胸あたたかくなるネ。苦しくもなるネ。なにか、なにかあふれそうなるネ。コレ、たぶん、大事ネ」
そう言うピィの目に元気はなく、寂しそうに見える。
ピィ。ジャックラビットだった、人間。
「もしかしたらそれ、ピィの過去に何か関係があるのかもな」
だが、ピィは今、それを覚えていない。
「なあ、ピィ。お前、過去をどれだけ覚えてる? その、人間になったときのこととか、覚えてんのか?」
ピィは首をかしげた。
「覚えてたり、覚えてなかったりネ」
「じゃあ、覚えてるところだけで良いから聞かせてくれねえか。どうせ干し肉を作るのに数日かかる。ここを拠点に少しとどまって、互いの話をしよう。少しはお互いのこと知っといた方がいいだろ」
「うん、そうネ。わかったネ」
俺たちは焚火の周りに腰を下ろした。
「ウチ、死にかけたとき、死神会ったネ。死神、人間ひきずってたネ」




