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ただの村人に世界の運命を背負わすな!―俺は死神に連れ去られた妹を助けたいだけ―  作者: 無限大
旅立ち

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うさ耳女との出会い3

 深い森を歩く。

 生い茂る草木は生き物の足音をかき消し、立ちこめる緑の香りが獣臭さを中和させた。

 ――これじゃ無防備だな。

 俺の索敵能力はほぼ機能していない。生きて森を抜ける上で致命的だ。

 そんな中、ピィは耳をピクリと動かすと突然足を止め、腰を低くした。


「あっち、ウチ5人分の距離、ウルフいるネ」


 ピィが声をひそめる。


「何体だ?」


 俺にはわからなかった。

 横目でピィを確認する。

 ピィは目を見開き、殺気立った顔をしていた。


「いち、にぃ、さん匹ネ」


 それが本当ならピィは相当敏感だ。

 姿だけじゃなく、聴覚や嗅覚にもジャックラビットの名残があるのかもしれない。

 ――3匹か。

 殺るか、逃げるか。

 俺は小刀を構えた。


「ピィ、殺れるか?」


 フー、フーと静かな呼吸がリズムを刻んでいる。

 ピィはすでに戦闘態勢だ。

 じゃあ、どうやる。


「ピィ。ウルフを分散させろ」


 これは狩りじゃない。生存が第一だ。

 一匹ずつ完璧に仕留める。

 それが一番、生存率が高くなる。


「簡単ネ」


 ピィは弾みをつけて言った。

 自信満々ってとこか。

 俺もニヤリと口角を上げる。


「よし、散らせ」


 俺の声と共に、ピィは脚にグッと力を入れ飛び上がる。

 ピィの目にはするどい炎が宿っていた。

 ブワッと巻き上がる風圧。ピィは土を蹴り大木を蹴り、一瞬で数メートル先のウルフの群れへ突っ込んだ。


「ぴゃあああ!」


 ピィの雄たけびが草木を揺らす。

 不意に現れたピィに、ウルフが三方向へそれぞれ退いた。

 上出来だ。

 俺は小刀を構えたまま一番近いウルフへ飛びかかる。


「死ね」


 ウルフがこちらに気付くその瞬間、俺はウルフの首に小刀を突き刺した。

 ブシュッと硬い肉感が手に伝わり、熱い血が噴き出す。

 だがウルフは倒れることなく牙をむき出し、俺の腕に噛みつこうとする。


「させるかよ」


 俺は軸足に力をいれ身体を反転した。

 ウルフのアゴをギリギリでかわし、小刀の柄で下からウルフのアゴを突き上げる。

 飛び上がったウルフの脳天に、今度は振り上げた小刀の切っ先を突き立てた。

 熱い血液を全身に浴びる。

 これで、一匹。


 俺は首を左に振る。

 そっちに退いたウルフの行方を目で追うと、ピィが高らかに上げた脚でかかと落としを決めるところだった。

 こっちはピィに任せておけばいいだろう。

 右手側に目を向ける。

 残りのウルフがピィの背後めがけて駆け出していた。


「シィッ」


 俺は歯のすき間から息を吐きながら、小刀をウルフへ投てきする。

 刃はウルフの胴に突き刺さり、衝撃でウルフが横にふっとんだ。俺はそこへ飛びかかり、刀を抜いて、頭部めがけて振り上げる。


「テメエも死ね」


 降り降ろす刹那、俺の手に何かが飛びかかってきた。

 前腕に激痛が走り、身体が数歩引きずられる。


「っつう!」


 よろめいた先で俺は顔を上げた。目の前、近距離にウルフが1体。その奥にもう1体。


「チッ、まだ居やがったか」


 隠れていたのか、戦闘の気配を察知し加勢したのか。どこからか飛んできた2体のウルフが俺をマークしていた。

 俺は2体から視線を逸らさず、ウルフの出方を伺う。奥の一匹がカサリと枯れ葉を踏み鳴らした。

 ――来るか?

 俺は激痛に耐え小刀を持ち直し、グッと握りしめる。

 だが奥の一頭はカサリ、カサリとゆっくり近づき、手前のウルフと並んだ。

 俺は数歩あとずさり、間合いを取っている。


「2対1かよ、上等だ」


 ウゥゥと唸るウルフは牙の間からよだれをボタボタ垂らしている。口元を引きつらせ、笑っているようにも見えた。

 コイツ、俺を食おうって魂胆か。馬鹿にしやがって。

 そう思った瞬間、二匹は同時に俺へ飛びかかってきた。


「なめんじゃねえぞコラァ!」


 俺は地面をけり上げ、一匹のウルフの顔面へ土を思い切りかけた。その隙にもう一匹のウルフの目をめがけて刃を突き立てる。

 小刀は目のど真ん中にグサリと刺さり、キュイィと声を上げたウルフが地面に倒れこんだ。その顔を蹴り飛ばしながら刀を抜き、土をかけた方のウルフの頬めがけて力任せに差し込む。

 頬をえぐるように小刀を動かし、首に手刀を入れる。崩れ落ちるウルフの腹をかかとで思い切り踏みつぶした。


「グアゥアウグア」


 耳元でウルフの声がした。

 一匹に集中しすぎた。右目の潰れたウルフが今まさに俺の頭に噛みつこうとしている。


 ドオォォン!


 鈍い音と共に風圧が顔面にかかる。

 ウルフのよだれだけが俺の顔にかかり、ウルフ自身は数メートル先まで吹っ飛んでいる。


「ピィ!」


 真横でウルフに飛び蹴りをかましたらしいピィが着地した。

 ピィは瞬時にそのウルフの元へ駆け、心臓めがけてとどめを刺す。

 続けざま、最初にとどめを刺しそびれたウルフにもしっかりとかかと落としをお見舞いした。


「楽勝ネ!」


 ピィは倒れたウルフの上に飛び乗り、満面の笑みで片手を天高く突き上げている。

 耳をすます。

 ウルフの息づかいはもう聞こえない。小さな虫の羽音だけがした。


「やるじゃねえか、ピィ。草食動物のくせに」

「レノも人間思えなかたネ! すごいネ! びくりしたネ!」


 ピィはピョンピョコ飛び跳ねる。

 一時はとんでもねえ生物を拾っちまったかと思ったが、なかなか使えるかもしれない。


「ウチ、強い当然ネ! 殺らなきゃ殺られるネ!」

「ふん。命がけじゃあ、強くもなるってか。違いない」


 俺だってそうだ。

 カレンを守るため、必死に生きてきた。

 たった一人の家族なんだ。

 このくらいできなきゃ、カレンを守れない。

 俺は仕留めたウルフをその場に集めた。


「よし、とりあえず今日はここで一晩すごすぞ」

「なんでネ。村、行きたいネ」

「アホ。村は遠い。せっかく肉が手に入ったんだ。血抜きして燻製を作る。移動は数日後だ」

「数日ぅ? そんな待てないネ! はやく行きたい、行きたい、行きたい、行きたぁぁい!」


 ピィがピィピィ騒ぎながら地団太を踏む。衣類代わりの葉の向こう側で肉体がバインバインと揺れた。

 俺はすかさずピィの頭をチョップする。


「黙れクソウサギ。これは貴重な食糧だ。これが無かったら村へ着く前に飢え死にするかもしれねえんだぞ。テメエも人として生きたいなら人間様の言うことを聞きやがれ」


 俺が睨みつけると、ピィはようやく大人しくなった。

 手を胸の前でモジモジさせ、「わかったネ」とボソボソ呟く。


「じゃあテメエも働け。そろそろ水が尽きる。川でも探してこい」

「ピッ! わかったネ!」


 仕事を与えると、ピィはパッと顔を明るくして、ぴょんぴょんと森の奥へ駆けていった。

 表情のコロコロ変わるガキだ。


「さて。俺もやるか」


 俺はウルフの下処理のため、その首を小刀で切った。

 このときの俺は、まさかあんなものを見つけるとは思いもしなかった。

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