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ただの村人に世界の運命を背負わすな!―俺は死神に連れ去られた妹を助けたいだけ―  作者: 無限大
旅立ち

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うさ耳女との出会い2

 まあ、話くらい聞いてやるか。

 仕方なく、俺は苔むした岩の上へ座った。

 うさ耳女はすっぽんぽんのまま岩の上であぐらをかこうとするので、さすがに止める。


「お前、服はねえのか」

「フクって何ネ」

「こういうのだよ、こういうの」


 俺は自分の着ている服を引っ張って見せた。うさ耳女は興味深そうに俺の服に顔を近づけ、ブロンドの髪をかき上げながらクンクンと臭いをかいだ。ぼいんと乳房が揺れる。


「臭いネ」

「うっせえなクソが! 着替えもねえ、風呂もねえ状況じゃ仕方ねえんだよ!」

「声デカいネ。うるさいネ」

「んだテメエぶち殺すぞ」


 コイツ、頭のネジが外れてやがる。

 やりづらくてかなわねえ。

 俺はうさ耳女から一人分距離をとって岩に座り直した。


「まあいい。お前は何者だ」

「ウチ、気付いたら人間なってたネ」

「……は?」


 意味がわからない。

 うさ耳女が岩の上に身を乗り出す。


「だから、人間なってたネ。群れからはぐれて、気付いたら、人間なってたネ!」

「……えぇと?」


 俺はこめかみを押さえ考えた。

 群れ。人間になってた。

 は?


「群れ、ってのは?」

「えぇっとぉ、ジャックラビット? ネ。ウチ、ジャックラビットだったネ」


 ジャックラビット。

 山に住む野兎の一種だ。比較的簡単に狩れるし、村でもよく獲って食っている。

 両手で抱えられる大きさの、至って普通の獣だ。


「……お前が?」


 そんなわけあるか。

 たしかにうさ耳は生えているし、モフモフの尻尾も存在している。が、それ以外はどう見ても人間の女だ。

 コイツ、相当頭がおかしい。


「ウサギが人間の身体で人間の言葉を話すかよ、馬鹿が。おかしいだろ」

「ほんとそれネ! 不思議ネ! 神様のおかげネ!」


 うさ耳女はテンション高く上半身を揺らす。あわせて乳房もゴウンゴウン揺れた。

 コイツ、本気で言ってるのか?


「どういうことだよ……」


 人間になったってなんだ。

 なんの奇跡だ。


「ウチ、群れからはぐれて死にかけたネ。でも、死神おかげで人間なれたネ! 生きたい、生きたい願ったネ! 死神、願い叶えたネ!」


 死神、と聞いて、俺の頭には真っ先に村で対峙したバケモンが浮かんだ。

 口から漏れる死臭。あふれる死の空気。

 あの野郎、死神という形容がしっくりくる。

 まさか、あいつは、死神?


「なあ、死神は死人を生き返らせられるのか?」

「知らないネ! でも、死にかけたウチ、人間なったネ!」


 ぶるりと鳥肌が立った。

 死神は、何かよくわからない力を持っているのか?

 そうだとしたら、もしかしたら。

 俺はうさ耳女をジロリと見た。

 死にかけのジャックラビットが人間の形になるなら、灰色になってしまったカレンだって、もしかしたら、きっと。


「おい。お前、人間の世界で暮らしたいんだよな?」

「もちろんネ!」


 うさ耳女が飛び跳ねる。ウサギの習性が強すぎる。俺はそのぶるんぶるん揺れる肉体から目をそらした。


「だったら人間の常識を覚えろ」

「もう覚えてるネ!」

「どこがだよ」


 胸を張るな、胸を。

 普通の人間の女はすっぽんぽんで胸を張ったりしないんだよ。

 俺は森の中を見渡した。デカい葉を見つけ、小刀で切り落とす。


「人間界で生活したいなら、まずこれで身体を隠せ」

「葉っぱ? 邪魔ネ!」


 能天気な返事にイラッとする。


「テメエ。人間の世界で生きたいなら人間様の言うことを聞きやがれや。いいか? 女がこんな格好で歩いてたら、穴という穴に異物を突っ込まれて死ぬぞ」

「穴という穴、ネ? どこにそんな穴があるネ」

「知らねえよクソが。能書きは良いから身体を隠せっつってんだよクソウサギ。それができなきゃお前をここで殺す。殺して今日の晩飯にしてやる」


 俺は小刀をうさ耳女に向けた。うさ耳女は急に口をパクパクさせている。


「わ、かったネ。隠せば、人として生きられるカ?」

「知らん。だが今のお前じゃ無理だろうな。常識が無さすぎる」

「ぴぇ……どうしたらいいネ」

「俺についてこい」


 俺は小刀で手近な木を伐り落とした。

 ある程度持ちやすく整えた木の棒をうさ耳女へ放る。


「俺が人の生き方を教えてやる。その代わり、協力しろ」

「協力? 何ネ?」

「お前が人間になれた謎を解明させろ」

「解明? して、どうするネ」

「利用する。助けたい人がいる」


 うさ耳女は耳をピクリと動かした。納得したように頷く。


「いいネ!! 助けたい人、助けるべきネ! 交渉成立ネ!」


 うさ耳女は葉を身体に巻き付け、木の棒を武器替わりに装備した。


「これからよろしくネ!」


 ニヤッと笑ううさ耳女は、原始人のように野性的だ。


「ふん。俺の名はレノ。お前は?」


 うさ耳女は首をかしげて、何も答えない。


「お前、名前はないのか?」

「名前って何ネ」


 そこからか。


「呼び合う時に使う言葉だよ。お前は仲間になんて呼ばれてたんだ?」

「呼ぶ……?」


 頬に手を添え、うさ耳女が空を見上げる。


「ピィィって鳴けば、来るネ」

「それは名前じゃねえよ。合図だ」

「じゃあ、持ってないネ」


 めんどくせえ。


「だったら今日からピィが名前だ。わかったか?」

「ピィ! 了解したネ、レノ」


 俺はポリポリと頭をかいた。

 冷静に考えると、変なモンを拾っちまった気がする。


「ピィ。とりあえず、その恰好じゃ王都には入れない。そこら辺の村で身支度するぞ」

「村! わお! 行ってみたかたネ! 楽しみネ!」


 ピィはぴょんぴょこ飛び回る。

 しつけが必要だなと感じながら、俺たちはさっさと森を抜けるべく先を急いだ。

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