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ただの村人に世界の運命を背負わすな!―俺は死神に連れ去られた妹を助けたいだけ―  作者: 無限大
旅立ち

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うさ耳女との出会い1

 クソが!

 俺は心の中で叫びながら森の中をひたすら歩いていた。


 村を発って5日になる。

 徒歩で王都までどれだけかかると思ってんだクソ野郎。

 馬鹿が。間抜け。何が教会守テンプル・キーパーだボケ。聖枢機院の犬!

 悪態をつきながら俺は、延々けもの道を歩いている。

 使いとして人を派遣するなら、物資を提供しやがれクソ教会!

 

 馬が用意できないのはわかる。焼け死んだ。

 金がないのもわかる。貧乏で小さな村だ。

 だがなあ。俺ひとりでなんの装備も与えられず、魔物がウヨウヨしている森を抜けて王都まで無事にたどり着けると、本気で思ってんのかクソが!

 死ねってことか、というネガティブな思考はいつの間にか逆転した。

 ああ、いいぜ、やってやるよ。

 生き延びてやるよクソが。

 俺は村の死体からくすねた小刀一本を頼りに、雑草を薙ぎ払いながら進む。


 5日も歩けばさすがに森も深くなってくる。

 太陽の光は大木の葉で隠れ、薄暗く、じめじめした空気が肌にはりついた。汗も乾かず、ベットリして臭い。

 一歩。また一歩。

 うざったい小枝に足を取られ、下ばかり注意しながら歩く俺の頭に、突然デカくて重いものが落ちてきた。


 ドガン!

 ドサッ。


「いってえ……」


 頭頂部にぶつかったソレは弾力のある生暖かい感触で、よろめいた俺は頭を押さえながら何が落ちてきたのか確認した。

 地面に目を向ける。


「……は?」


 目を疑った。

 そりゃあ疑うだろう。

 地面にすっぽんぽんの女……のような、うさ耳や尻尾のついた生き物が落ちているのだから。


 人、か?


 俺は一応小刀を構え、重心を落としうさ耳女を警戒した。

 人とは思えなかった。

 人間の女がすっぽんぽんで居られるはずがない。


 ――じゃあ、魔物か?


 この一週間で2体の人型の魔物。そんな馬鹿げたことがあるもんか。わけわからん。だったら、観察するまでだ。

 俺は目をこらし、じいぃっとうさ耳女の肢体を観察する。

 このうさ耳女も、あのバケモンのように一瞬で動くかもしれない。警戒は必須だ。

 じっ。

 じいぃ。

 よく見えないというか、見てはいけないかもしれないが、コイツ、どう見てもケツにまん丸フワフワの尻尾が生えている。

 スカートに毛糸をくくりつけて遊ぶガキみたいな、馬鹿げた作り物感はない。


 本物か?


 この毛むくじゃらが、人間の身体から生えている? どういう原理だ。

 ――というかこの女、ピクリとも動かないのだが。


「おい」


 俺はうさ耳女に声をかけた。

 起きる気配はない。


「おい、起きろ」


 俺は声をかけながら、近くに落ちていた小枝を拾い、そろそろとうさ耳女に近づいて、白い背中をツンツンしてみた。一応、利き手で刀を構えたままだ。こんなところで油断して殺されたらクソだせぇ。カレンに合わす顔もない。

 ツンツン、ツンツン。

 うさ耳女に反応はない。気絶、もしくは打ち所が悪くて死んだか。


 ――食える、か?


 むろん、食事的な意味だ。

 柔らかな肢体は筋肉が少なく油っぽいかもしれない。だが、生きて王都を目指す上で、栄養価の高そうなものはなんでも食っておいた方がいい。

 俺は小枝で女の身体を転がし、仰向けにした。

 一糸まとわぬ姿は、人間の女のそれと違わない。泥や枯れ葉で大事な部分こそ隠れているが、それなりに肉付きはよく、可食部は多いと判断できる。


「ふぅ、ん」


 突然、うさ耳女が子猫のような声を上げた。

 とっさに俺は後ろに飛び退き、小刀を前に構える。

 うさ耳女はもぞもぞと動き、のそのそと上体を起こした。


「……あんた、誰ネ」


 それはこっちのセリフだ。


「お前こそ何だ。……人間か?」


 数メートルの間合いをあけたまま、俺はうさ耳女を睨みつける。

 神経を研ぎ澄ますと、ブブブと小さな虫の飛び回る音が耳に響いた。風に乗って植物の柔らかな匂いがする。平和な森の空気の中で、俺の放つ殺気だけが空気をピリつかせている。

 うさ耳女はまん丸でツンとした目を俺に向けながら、首をかしげた。


「ニン、ゲン? なにそれ、食い物カ?」

「あ? 食い物だと? テメエ、人間を食う気か!」


 俺は犬歯をむき出しにしてうさ耳女を威嚇する。

 ぶるんぶるん揺れるうさ耳女の乳房は、きっと人間を誘惑し、食うための罠に違いない。誰が騙されるかよボケ。俺はあえて乳房に目を向けず、じいぃと強くうさ耳女の瞳だけを見つめた。


「ウチ、人間、食わないネ! ウチが好きなのは、いちごみるくネ!」


 あ?

 ふざけんなよ可愛い子ぶりっ子しやがって。

 何が「いちごみるく」だ、クソが。油断させようとしてんじゃねえぞガキ。

 チッと舌打ちすると、うさ耳女はふと我に返ったように自分の両手をまじまじと眺め始めた。


「……ニン、ゲン? ウチ、人間? 人間ネ?」


 うさ耳女はピョンと一息で俺との間合いを詰める。


「な、なにしやがる!」


 小刀を向けようとしたその瞬間、うさ耳女は俺の腕をガッシリ掴んだ。


「ウチ、人間ネ? 人間社会、生きて良いネ? ウチ、人間ネ?」


 目を涙でうるませ、うさ耳女は俺を上目づかいに見つめる。


「な、なんだよ。なんか、事情でもあんのか」


 問いかける俺に、うさ耳女は俺の手を胸の谷間で挟みながら「ウチの話、聞いてくれるネ?」と言って涙を流した。

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