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ただの村人に世界の運命を背負わすな!―俺は死神に連れ去られた妹を助けたいだけ―  作者: 無限大
魔界

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国王奪還大作戦1

「なんじゃあ、こりゃあ!」


 村へ戻ってみたら、目の前にデカい集落ができていた。

 家、家、家、神殿、田畑、水路、憩いの場。

 村の建設は大勢の魔物たちによって、爆発的に進んでいたのだ。

 集落エリアに足を踏み入れると、小型の魔物たちが俺たちに気付き、近づいてきた。

 俺たちをチラチラ見ながら、村の奥へと進んでいく。


『ついて来いと言っておるな』


 魔物たちに誘導され、たどり着いた場所は神殿だった。

 魔物たちは得意げに頷いて、神殿の扉の前で立ち止まる。


「開けって?」

 

 神殿の扉を開き、息を飲む。

 扉の先、神殿の奥には、ヴァルグリオスの頭蓋骨の一部が安置されていた。

 巨大なドラゴン、ヴァルグリオス。

 天井を突き破りそうなほど巨大な頭蓋骨が、死んでもなお他の魔物たちを食い散らかしそうな恐怖と威厳を垂れ流している。

 頭蓋骨の眼球が収められていた部分には、赤い石が鎮座していた。

 カレンを生き返すための大事な赤い石が、骨を真っ赤に生き生きと照らしている。まるで神様みたいだ。

 その手前には祭壇が作られ、水や肉、植物まで供えられていた。


「完璧じゃねえか」


 石を護衛する村。想像以上の出来だ。

 カレンを生き返すための石は、もはや誰が見てもこの集落で一番大事なものだとわかる。

 これなら、安心してコイツらに石の護衛を任せられる。


「ん? なんだ、褒めてほしいのか?」


 案内してくれた魔物たちが、群れを成して俺にすり寄ってきた。

 頭を撫でてやると、魔物たちはゴキゲンに自分の巣穴へと戻っていく。

 なんだよ。ちょっと可愛いじゃねえか。

 ポリポリと頭をかいて、俺は神殿の外へ目を向けた。

 扉の外では、他の魔物たちも自分の功績をアピールするように吠えている。


『多くの魔物たちがレノ殿になついておるようだな』

「……チッ。調子狂うぜ」


 外で魔物たちを褒めてやると、魔物たちはみな自慢げに胸を張った。

 なんなんだよ、コイツら。仲間意識を芽生えさせやがって。

 頼んだ以上のことをやりやがって。

 俺のために頑張りやがって。

 なんだよ、なつくって。


 立派な集落を見ていたら、自分が他人から大事にされている感じがしてきて、むずがゆくなる。

 俺は幼い頃からカレンと二人で生きてきたから、なんとなく、カレン以外の人間は「利用するもの」だと思っていた。

 だが、利用するのと協力してもらうのとでは、胸の中に生まれる熱さが違う。

 魔物たちは、俺に協力してくれた。

 これもアレキサンドリアの精神攻撃による影響なのだろうか。

 それとも、コイツら自身の意思なのか?


「おい、アレキサンドリア。コイツらって、まだ精神攻撃の――って、あれ?」


 キョロキョロと周りを見たが、アレキサンドリアが見当たらない。


『アレキサンドリア殿なら、魔王様の元からここへ戻る道中も居なかったぞ』

「え」

『レノ殿。そなた、アレキサンドリア殿を置いてきたのではないか?』


 ガチか。

 やっちまった。

 実体がないから、居ないことに気付かなかった。

 呆ける俺の肩を、メロが憐れむようにポンと叩く。


『気にするでない。アレキサンドリア殿も良い大人だ。じき戻ってくるであろう』

「まあ、そう思っとくしかねえか」


 メロが、彼女の背中でぐったりしているピィを抱え直した。

 そうだ、ピィを休ませてやらねえと。


「なあ、お前ら。どこかにピィを休ませられる家はないか?」


 魔物たちに目を向ける。

 魔物たちは「ついて来い」と言わんばかりに、一軒の家へ俺たちを案内した。

 家の中には、ヴァルグリオスの羽毛で作られた布団が置いてある。


「おお、準備がいいな」


 ピィを布団に寝かす。

 そんな俺のあとについて、小型の魔物たちがゾロゾロやってきた。

 魔物たちは獣の皮で作った食器を持ち、肉や水を運んでいる。


「まさかそれ、ピィの飯か?」


 魔物たちがうんうん頷く。

 まるで救護隊のように、ピィの周りでテキパキと看護体制を整えていった。

 協力。慈愛。

 そんなものが、この集落に生まれている。

 信じられなかった。

 だって、俺のわがままで造った村だぞ。

 なんでこんな優しいんだよ。魔物たちがみんな、誰かのために動いてんだよ。

 手の空いた魔物たち数匹が俺の元へやってくる。

 寄ってたかって、俺に鼻を激突させた。


「なんだよ、テメエら」

「グルル、グル」


 何か言っている。

 よくわからんが、ピィを見て、俺を見て、魔物たちを見て、というのを繰り返している。


「あ……?」


 顔をしかめる俺を、魔物たちはもっと強い力で押しはじめた。

 グイグイ押してきて、俺は扉の前まで追いやられてしまう。


「……ああ。女の寝室だから、出ていけって?」


 獣たちが一斉にうなずく。

 なるほど。コイツら、そういう配慮もできるのか。

 だったら、ピィのことはこの魔物たちに任すとしよう。

 俺はピィを魔物たちに任せて外へ出た。

 なんだか、故郷の村よりも慈愛に満ちている気がする。

 俺は建物の外で待っていたメロと落ち合い、二人で集落を歩いて回ることにした。

 道中、広場の隅に丸太が置かれていることに気付き、そこへ腰かける。


『レノ殿、これからどうするつもりだ。国王とやらを奪うのか?』

「ああ」

『魔王様へ喧嘩を売る気か? 死ぬぞ』

「だから、死なねえように作戦を立てるんだよ」

『言うだけなら簡単だ。だが見たであろう、魔王様のお力を。そなたなど瞬殺だ』


 メロの指摘がその通りすぎて、声も出ねえ。

 今の俺は力だって、五感だって、以前とは比べ物にならないほど強くなっている。

 それでも魔王の手からは逃れられなかった。

 簡単に首を掴まれ、放り投げられてしまった。

 圧倒的にレベルが違う。

 俺は、魔王に殺意がなかったから生き伸びただけだ。あのとき、魔王に殺意があったら、一瞬で首をもがれていただろう。


「正攻法で勝てるとは思っちゃいねえよ」


 国王さえ奪還できればいい。

 でも、奪還してどうなる。

 王都へ連れ帰ったところで、魔王が生きている限り、また国王を取り返しにくるだろう。

 そうなれば、また戦争になる。


 ――魔王を殺す。あるいは、封じる。それが最低条件だ。


 最低条件のハードルが高い。

 今のままでは勝ち目なんてない。

 どうにかしろよ、俺。


「まずは魔王について、もうちょっと知る必要があるな」


 弱点、癖、なんでもいい。

 つけこめる部分があれば、どうにかなるかもしれない。

 でも、どうやってそれを見つけろって?

 馬鹿馬鹿しい。

 俺にわかるわけねえだろ!

 腹が立って、俺は座っていた丸太に拳を打ち付けた。

 隣のメロがうつむいて、言いにくそうに口を開く。


『魔王様のことは、我も少しは知っておる。幼き頃、一緒に遊んだ仲じゃ』

「そうなのか?」

『うむ。……だからこそ、そなたが魔王様を殺そうとするのであれば、協力はできかねる』


 メロは俺の顔を見ずに言った。

 メロにとって、魔王は友達の類なのかもしれない。

 意外だ。

 魔物たちにも、そんな情があるのか。


「じゃあ、殺さないと約束すれば、協力してくれるのか?」


 そよそよと風がふき、魔物たちの声が遠くから聞こえる。

 メロはしばらく黙って、『どうじゃろうな』と呟いた。

 ボワッと小さなドラゴンブレスを吐いたメロの足元に、小さな穴が開く。


『魔王様は、ピィ殿を半殺しにした。昔は、もっと優しいお方だったのに。昔の魔王様に戻ってもらえるよう、そなたが協力してくれるなら、我もそなたに協力しても良いが……昔に戻るなんて、夢物語かもしれぬな』


 フン、と俺は鼻を鳴らした。

 魔王という肩書の生き物が「優しい」なんてあり得ねえだろ。

 そう馬鹿にしたいのに、メロが冗談を言っているようにも聞こえなかった。


「どんな感じだったんだ、昔の魔王は」

『ああ。話してしんぜよう』

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