結婚式へ3
『ヴァルグリオスを落とすならば、地上で挑発するがよい』
メロは地上に降り立ち、ヴァルグリオスめがけてクオックオックオッと大声で鳴いた。
耳がキーンと痛む。
メロの鳴き声は大地を揺るがし、空気を震わせている。
気付いたヴァルグリオスは首を大きく振ったかと思うと、明らかにメロをロックオンして急降下し始めた。
『レノ殿! 今だ!』
「おう、テメエら! 一斉攻撃!」
操られている大勢の魔物たちが反応する。
空からいくつもの超音波が放たれ、火炎放射が飛び、氷の刃、電撃、竜巻が起こる。
鳥型の魔物たちは上空から、地上を闊歩していた魔物たちは地上から、それぞれ一斉にヴァルグリオスへ技を仕掛けた。
ズドドドドド!
ドガガガガ!
グルルルル!
「的がデケエからよく当たるぜ!」
――グア…………グア、グァ……。
さすがのヴァルグリオスも、千匹以上の魔物から一斉攻撃を食らい、バランスを崩して地上に落下する。
「よし! ヤツの上に持ってきた死体を積み上げろ!」
『レノ殿? 何をする気だ』
「いいからさっさとしろ!」
持ってきた5千もの魔物の死体は、ヴァルグリオスの上でひとつの大きな山となった。
魔物の山の中で、ヴァルグリオスが脱出しようともがく。
が、超音波攻撃で身体の自由を奪われているヴァルグリオスは、飛び立てずにいた。
今がチャンスだ。
「よし、死体の山に火をつけろ! ヤツごと全部丸焼きだ!」
『なんだと?! 持つのだレノ殿! 我の貢物ぞ!』
「うっせえな、黙って燃やせ!」
指示下にある魔物たちは、一斉に死体の山に火を吐き、攻撃を仕掛けた。
『や、やめろ、我の貢物がぁ!』
バチバチ、バチ、バチバチ!
腐り始めてガスを含んでいた貢物の死体が、一気に大きな炎に包まれる。
『ああ、我の……我の貢物……』
火はバチバチと大きな音を立てた。
炎はどんどん大きくなり、太い火柱が天高くあがった。
獣が燃える。
空気が燃える。
ヴァルグリオスは翼が燃え、肺が焼ける生き地獄を味わいながら、もがき苦しんでいる。
「グエェグエェ、……グエェ、グエェェェ」
ヴァルグリオスの甲高い断末魔。
炎のゴゴゴゴゴと燃える音と混ざり合い、死の協奏曲をかなでた。
持ってきた死体の山は真っ黒な炭となり、燃え尽きた部分がボロリと崩れ落ちる。
その中で埋もれていたヴァルグリオスは死後もなお、筋肉を一部ピクピクと収縮させた。
他愛ない。
『我の貢物が……』
炎が完全に消える頃には、持ってきた死体はほとんどが灰になり、サラサラと飛んで行った。
戦いに参戦した千匹の魔物たちは逃げもせず、その場で黙ってその光景を見ている。
「さて、と」
俺はトンッとジャンプして、うつ伏せに倒れているヴァルグリオスの背中に着地した。
お楽しみの時間だ。
「スゥ……、ウラアァァァ!」
俺は両手の爪でヴァルグリオスの背中をバリバリと切り裂く。
「ウラウラウラウラウラァ!」
ヴァルグリオスの身をバッサバッサとほぐしていく。
ホックホクの身が周囲に山のように積まれた。
「おうおう、美味そうじゃねえの」
ほどよく蒸されたヴァルグリオス。
ホクホクジュワジュワになった身を、俺はワッシャワッシャと口に運ぶ。
「ハフ……ハフ。ん、うめえ!」
噛めば噛むほどブリブリの身からジワッと旨味が出てくる。
水分と油分をほどよく含んだ背筋。
それをゴクリと飲み込んだだけで、俺の上腕二頭筋がブクンッと大きく反応した。
ああ。食っただけで全身の筋肉が喜んでいやがる。
すべての筋肉がブクン、ブクンと反応して、細胞ひとつひとつに極限までエネルギーが貯まっていく。
蒸した内臓をズルリと食べ進めると、ゴツンと硬い物にぶつかった。
ギラギラ光り輝く硬いものが、ヴァルグリオスの皮膚と皮膚の間に10個近く挟まっている。
――秘宝か。
――しかもこんなに沢山!
直径1メートルほどのゴツゴツした宝石の原石が、それぞれ強い光を放っていた。
赤い石、青い石、黄色い石、緑の石。
近づくだけで足がガクガクするほどの威圧感を受ける。
――とんでもない生命力だ。
俺は恐る恐る、赤い石に手を伸ばした。
バチッと弾かれる感覚がして、一瞬ためらう。が、負けてられねえ。
自分の生命エネルギーを手に集中させ、石をおおうモヤを押しのけるように、グググッと手を近づけた。
「なめんじゃねえぞ、クソ野郎」
バチバチ弾かれる感覚に耐えながら、石にそっと触れる。
触れた指先がゴオオッと熱くなった。
感じたことのない「生きる力」が、そこに宿っている。
これは、もしかしたら――。
『ぴえぇぇぇん! 我の貢物ぉぉぉ!』
突然、メロの泣き叫ぶ声が聞こえてきた。
ヴァルグリオスの死体の外側で、メロはいつまでもメソメソ泣いている。
貢物、貢物ってうるせえな。
「おいメロ! ちょっと来い!」
メロを呼びつけ、沢山の光る石を見せた。
メロの瞳がキラリと輝く。
『な……なんと……、これは、と、とんでもない量の秘宝ではないか!』
「貢物なら、これだけあれば充分だろ?」
メロは息を詰まらせながら、石にジリジリ近づいていった。
さまざまな石の輝きにつつまれたメロの足が震えている。
『ああ、ああ。問題ない。レノ殿、よくやった』
「あ? テメエなんでちょっと上から目線なんだよ。立場わきまえろや、ぶっ殺すぞ」
『すみません。ありがとうございました。貢物を見つけていただき感謝します』
「よし。――で」
俺はいろいろな石に触れて回る。
「この中に、死者を生き返せる秘宝はあるか?」
『うむ……、そうだな。この、赤い石は強い生命力を持っているように見える。可能性があるとしたら、これだろう』
「やっぱそうか」
直径1メートルほどあるこの赤い石は、ここにある石の中でひときわ強く輝いている。
これを持ち帰れば、カレンが生き返るかもしれない。
カレン――!
ズキッと、とつぜん胸が痛んだ。
なんだ?
意味がわからねえ。ただ、痛い。
俺はカレンを生き返したい。
願いはそれだけなのに、生き返そうと思った途端、胸の奥がギュッと掴まれたように痛くなる。
ぶるりと震えた。
こんな痛みを感じるなんて、カレンに対する冒とくのような気がする。
良いお兄ちゃんでいたいのに、なんでこんな気持ちになるんだよ。
「しかし、どうやってこれを持って帰るかな」
国王を連れ帰るという使命がある以上、これから魔王の元へ行く。
1メートルもある石を持ち歩くのは邪魔だ。
とはいえ、無防備に置き去りにするわけにもいかねえし。
「――あ、丁度いいものがあるな」
俺はニヤリと笑みを浮かべた。




