結婚式へ2
俺たちは魔物の大群を連れ、目的地へと歩いていった。
森を抜け、谷を渡り、ゴツゴツした岩肌の山に差し掛かる。
――ああ、くせえ。
どんよりとした重い空気が立ちこめ、野獣のような魔物の臭いがプンプンする。
キエー、キエーと鳴くデカい鳥が飛んで行ったと思ったら、その後ろからワッサワッサと翼を揺らしたドラゴンが飛んできて、鳥を丸呑みしていった。
ゴクリと唾をのんだ。瞬殺だ。
ドラゴンの風圧だけで、小さい魔物はゴロンと転がり、隊列が乱れる。
『魔王様の居住地まで、だいぶ近くなってきたようだ』
「そうみたいだな」
ドシン、ドシンというクソデカい足音がどんどん増えた。
少しずつ増えた緊張感が、背骨を伝う。ブルりと震えるも、不思議と悪い気はしない。
鳥類の魔物が空をおおい、太陽光は地面に届かない。
明らかに、俺らを取り囲む魔物の数が増えている。
それでも戦闘が起きないのは、みな「魔王の結婚式への参列」という同じ目標があるからだろう。
「コイツら、みんな貢物を持ってるんだよな」
つまり、周りはすべてカモというワケだ。おもしれえ。
闘志がみなぎり、指がヒクヒク動く。
俺は、キッ、と辺りを睨みつけた。
周囲にピリリと緊張感が走る。
「レノ、どしたネ?」
「ちょっと貢物を頂戴してくる。テメエらはこのまま先を急げ」
「わかたネ! レノ、強盗がんばるネ!」
強盗って言うな、強盗って。
俺は軽くジャンプして、魔物の隊列の先頭から後方まで、トトンッと駆け抜けた。
走りながら、アレキサンドリアの力によって行進させられている魔物たちを眺める。
――コイツだな。
隊列の中で、俺が乗れそうな鳥類の魔物を見繕う。
全長3メートル近い、コンドリフィード。
翼を広げ、爪でマウントボアを引っ掛けて、地上数メートル付近を飛んでいる。
コイツ、ギラギラした良い眼をしてやがる。操られているくせに、闘志とプライドが顔からにじみ出ていた。
こういう血気盛んなヤツは嫌いじゃない。
俺はソイツのそばまでジャンプして、ソイツの首根っこを掴んだ。
「おいオマエ。マウントボアは捨てていい。俺を乗せろ」
コンドリフィードは俺に向かってうなずいた。
パッとマウントボアを落っことし、翼を大きく広げ直す。
利口なヤツだぜ。
俺は惰性で飛び続けるコンドリフィードの背に乗っかり、翼の付け根をつかんだ。
「おし。まずは旋回、右斜め45度後方にいる鳥野郎へ突っ込め」
コンドリフィードは素直に俺の言葉を聞き入れ、後ろにいた鳥の獣へ、ひるむことなく一直線に突っ込んでいく。
コイツ、いい度胸だぜ。
俺はコンドリフィードの背から身を乗り出し、右手の指先に力を込めた。
「オラオラオラ! そのまま突っ込め!」
コンドリフィードが加速する。俺はそのまま、飛んでいる鳥の獣の喉をめがけて手刀を突き刺した。
――プシュウッ。
鳥の喉から血が噴き出して、地面にボタボタと垂れる。
俺は死んだ鳥の腹をかっさばき、腹の中にあったキラキラ光る石を取り出した。
「これが貢物か? ふぅん。まあまあのエネルギー量だな」
赤く輝く光の玉。これに死者を生き返す力があるかどうかは不明だ。
「とりあえず持って帰るか」
俺は光の玉をポケットに入れ、鳥の死骸に軽くドラゴンブレスを吐いた。
パリパリに焼けた鳥ステーキへ、ガブリ、ガブリと食らいつく。
鳥の筋肉に歯を立てると、肉汁が口内いっぱいに広がった。ぬるりとした上質な脂に舌が躍る。
ああ。やっぱコレだよ、コレ。
じゅわっとした肉汁を飲み込む。
鳥のエネルギーが、俺の細胞ひとつひとつにまで染み渡る。
美味い。
――ブワサッ……ブワサァツ……。
そんな俺たちの元へ、デカい羽根の音が、遠くから近づいてくる。
「なんだあ?」
巨大なシルエットだ。
デカいシルエットが沢山の魔物たちを吹っ飛ばしながら、スゥゥゥゥと飛んできた。
ドラゴンと鳥の中間みたいな巨大なソレは、人間が百人くらいは乗れるんじゃないかと思うほどデカい翼を広げている。
周囲の鳥型の魔物たちはその翼にゴンッ、ゴンッとぶつかり、四方八方へと飛び散った。
「なんだアイツ。態度のデケエ魔物だなあ」
だが、デカいのは態度だけではない。
コイツ、アホみたいに莫大なモヤを持っている。
モヤの濃さは生命力、もしくは魔力の証だ。全身が濃厚な青いモヤで覆われているこの鳥みたいなドラゴンは、相当な力を持っているのだろう。
「ん?」
奴の腹部あたり。濃い青のモヤの向こうに、七色に強く輝く光が見える。
まるで腹に大きなポケットを持ち、その中へ光る玉を何個も入れているみたいだ。
――光る玉。……貢物か?
もしかしたら、あそこにとんでもない秘宝を隠し持っているのかもしれない。
だとしたら、大収穫じゃねえか!
「狩らないわけには、いかねえな」
ズンズン近づいてくる鳥ドラゴン。
まだだいぶ遠くにいるはずなのに、視界のほとんどが鳥ドラゴンで埋め尽くされる。
――デカい。
縮む前のメロもデカいと思ったが、あの頃のメロより2,3倍はデカそうだ。
ズンッと広がる威圧感に、飲み込まれそうになる。
――殺れるか?
手が震えている。
武者震い?
馬鹿馬鹿しい。
デカいからなんだよ。
やることは決まってる。
丸焼きにして食って、秘宝を奪う。
それだけだ。
「焼け焦げろ! ドラゴンブレス!」
――ゴオォォォ!
俺は大きく息を吸い、鳥ドラゴンの真正面から特大のドラゴンブレスを吹きかけた。
息が続く限り、ゴオゴオ吐き続ける。
地上数十メートルで、俺の足場はコンドリフィードだけだ。
ひるまず突進するコンドリフィードの背で、俺はドラゴンブレスを吐き続ける。
――ゴオォォォォ!
――ブチッ、ブチッ、ブチチチ!
俺のドラゴンブレスは、鳥ドラゴンの顔面にブチ当たり続けている。
しかし羽根一本一本がブレスを弾き、流れに沿って空へ散った。
「チッ。舐めた真似しやがって」
ブレスを止めると、その向こうから鳥ドラゴンのしたり顔が覗いた。
ニタァ、とこっちを小馬鹿にしたように笑う。
テメエ。舐め腐りやがって。
「これで勝ったと思うなよ、クソ鳥ドラゴン野郎が!」
だがドラゴンブレスは効かない。
かといって、この巨体相手に、俺の手刀が通用するわけもない。
どうする?
「フンッ。殺せないなら封じるまでよ! おい、アレキサンドリア!」
俺は緑色のエネルギー体、アレキサンドリアを呼びつけた。
ふわりと緑のモヤが浮遊する。
『いかがなさいましたか、レノ様』
「全魔物に通達だ! 自分が持っている魔物の死骸と、自らの肉体を使って、この鳥ドラゴンの動きを抑えろ! ってな」
『承知しました』
アレキサンドリアが、魔物の隊列の上を舞う。
魔物たちはアレキサンドリアにピクッと反応して、鳥ドラゴンの方へ向き直った。
「よし! 飛行部隊! あの鳥ドラゴンの真上から一斉攻撃だ! まずはヤツを地上へ降ろせ!」
手なずけた鳥型の魔物たちが、俺の指示で一斉に空高く飛び上がる。
一緒に、メロも加勢してきた。
『あのヴァルグリオスを落とそうと言うのか?』
「アイツ、ヴァルグリオスっていうのか」
『左様。我よりも圧倒的に格上の竜ぞ』
「へえ。そりゃあ、さぞかし貴重な宝を持ってるだろうな。腕がなるぜ」
『……そなたが勝てるとでも? 本当に強気な人間だな』
メロはバサッと翼を広げた。




