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ただの村人に世界の運命を背負わすな!―俺は死神に連れ去られた妹を助けたいだけ―  作者: 無限大
魔界

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結婚式へ1

「ウチ、この宝石付けるネ!」

『我はぁ、この花!』

「可愛いネ! メロちゃん、似合うネ!」

『そうであろう、そうであろう! ピィ殿も、もっと宝石を付けるが良い』

「ありがとネ! じゃあ、このデッカイのもらうネ!」

『良き、良きだ!』


 女どもがキャイキャイ言っている。

 草原から5キロほど離れた湖畔。

 メロが「我が財宝は湖に沈めてある」とかなんとか言うから、みんなでそれを取りに来た。

 魔王の結婚式へ参列するための、衣装選びだ。


「っつーかさ、招待されてないヤツも、結婚式って行けるもんなのか?」

『行けるに決まっておる。貢物さえ積めば誰でも快く受け入れてもらえる。魔王様は寛大なのだ』


 寛大じゃなくて、ただの守銭奴だろ。

 と思ったが、言わないでおく。


『ハルナフトプも結婚式に参列するのでしょうか』


 エネルギー体であるアレキサンドリアが俺の精神に語り掛けてくる。


「するんじゃねえの? 知らんけど」

「ピ? レノ、誰と喋てるネ」

「あ? 気にすんな」


 アレキサンドリアのことは、みんなに話していない。

 ドラゴンのメロはアレキサンドリアのことを「緑のモヤ」として認識しているし、声も聞こえているようだが、ピィは見ることも声を聞くこともできていないようだ。面倒だからそのままで良いだろう。


『レノ殿。おぬしも少し、めかしてはどうだ』


 メロは湖の底から色とりどりの宝石をすくい上げ、地面に並べた。

 宝石はそれぞれカラフルなモヤで覆われている。きっと魔力か生命力が宿った宝石なのだろう。


「いらねえよ、鬱陶しい」


 モヤの量をみるに、大した力もない宝石だとわかる。

 俺が欲しいものは、こんなモンじゃない。死んだカレンを生き返せるくらい、バカデカい生命力をもったアイテムだ。


『だが、そのようなみすぼらしい格好で参列するのか? 恥ぞ』

「あ?」

「そうネ! 宝石ジャラジャラ付けるネ! 良い男、ジャラジャラネ!」

「ピィ、テメエは最初すっぽんぽんだっただろうがよ」

「あれ若気の至りネ! ウチ、大人なたネ。オシャレするネ!」


 ピィは胸をはって、胸元に輝くいくつものネックレスを見せつけてきた。

 デカい胸の谷間に、ゴテゴテの宝石がギラギラ輝き、趣味が悪い。


「うるせえな。そんなモンより、貢物の方が大事なんだろ?」


 無ければ参列できない、というのなら、用意すべきは当然貢物だ。

 適当な貢物を持って行って、貴重な宝をブン盗ってきてやる。


『そうなのだ』


 メロが声を落とした。

 ため息とともにドラゴンブレスが漏れる。

 ゴォォと足元の草が焦げた。

 ったく、あぶねえな。


『我もずっと何を持っていくか考えておるが、何も決まらぬ』


 メロが草原をさまよい、ぼんやりしていたのは、魔王の結婚式へ持参する貢物を探していたからだったらしい。

 宝石はありきたりだし、ザコ魔物を持って行っても陳腐。

 ドラゴンらしく威厳を保てて、周りの魔物たちがアッと驚くような貢物を持っていきたいと悩んでいるそうだ。

 ……って。


「何がアッと驚く貢物だ。自己顕示欲つよすぎだろ」


 チッ。

 ドラゴンの威厳ってなんだよ、面倒くせえ。

 そんなもん気にしてるから雑魚なんだよ。

 小さくなったクソ弱ドラゴンのくせに、自尊心ばっかデカい方がみっともないだろ。

 だから弱ぇし、チビになるんだよ。馬鹿が。


『レノ様、少々言いすぎでは……』


 緑のエネルギー体、アレキサンドリアが、おどおどした感情と共に言う。

 良いんだよ、直接全部言ってるわけじゃねえんだし。

 心の中で思うくらい、自由だろ。


『……そうですか。肉体のある方は、不自由ですわね』


 アレキサンドリアはそう嘆いて、ふわりと宙を舞った。


「ねえメロちゃん、貢物て、普通なに持てくネ?」

『うむ。まあ、貴重な秘宝であろうな。他の魔物では簡単に入手できないものが良い』

「テメエの首の中にあった竜の玉とか?」

『ぴ、ぴえぇぇん! あれは無理! 竜玉はあげられないぃぃぃ!』

「あ、レノ! またメロちゃん泣かせたネ! 悪い奴ネ!」

「あ? うっせえな。テメエは泣きすぎなんだよ、クソドラゴン!」


 ああ、面倒くせえ!

 すぐ泣く奴も、貢物が全然決まらないのも、鬱陶しくてかなわねえ。

 こんなもん、俺が一発で解決してやる。


「おい。簡単に手に入れられないモノってのはよお、別に質じゃなくて、量でも良いよなあ?」


 俺は若干ブチギレながら、周囲に意識を散らし、爪を立てた。


「量ネ?」

「ああ。簡単に手に入れられなきゃ良いんだろ?」


 やってやろうじゃねえか、俺にしかできない貢物ってヤツをよぉ。

 俺はニヤリと笑って牙をむく。

 翌日。

 俺たちの目の前には、魔物の死骸の山がこんもりと50個も出来上がった。


「す、すごい量ネ」

『レノ殿、寝ずに狩ったのか?』

「まあな」


 昨日、俺は一晩かけて、ひたすら魔物を狩った。

 耳をすませて魔物の位置を索敵し、エネルギーを感知して相手の状況を視る。

 強化された脚力で一瞬にして間合いを詰め、自慢の手刀で急所を突く。

 ドラウルパンサー、レッドマング、ベルベイン、フォーンベルト、フロックウィング、アルドラス――。

 さまざまな魔物を次から次へと狩っていく。


 近場のドレグノスの心臓を突きながら、遠くで逃げようとしているブレードビークの群れをドラゴンブレスで焼き尽くす。

 地面に蹴りを入れてテラドンの巣に穴をあけ、そこにもドラゴンブレスの炎を流し込んだ。

 殺すたび、心が躍る。

 ひとつひとつの戦術が綺麗に決まって気持ちいい。

 踊るように狩りを進めているうちに、蒸し焼き、丸焼き、生け捕り、いろんな方法で仕留めた魔物がわんさか集まった。

 気付けば、すっかり夜もあけていた。


「これで5000匹くらいはいるだろ。どうだ? 貢物として、悪くねえだろ」

『確かにそうだが』

「どやって持ていくネ? 多すぎネ」

「あ?」


 それは、たしかに。

 バカデカい死体の山が50個。

 俺自身、腕力には自信があるが、どう考えても手が足りない。

 俺の力だけで運ぶのは、到底、無理だ。

 ということは。


「うまく利用できる手下が必要ってことだな。……おい、アレキサンドリア!」

『なんでしょう』


 アレキサンドリアがふわりと舞い、俺の頭上をくるくる回る。


「お前、精神に直接語り掛けられるんだよな?」

『ええ、そうです』

「じゃあよ、この一帯の生物全部の精神に攻撃して、俺の言うことを聞くように操作してくれ」

『操作……ですか。やったことはありませんが、やってみます』


 そう言い残して、アレキサンドリアはビュウゥゥンと飛んでいった。


「レノ? なに話してるネ」

「気にすんな。それより、面白いことが始まるはずだ。見てな」


 耳をすますと聞こえてくる。

 鳥型の魔物が飛んでくる音、小さな獣たちが駆けてくる音、デカめの魔物がドシンドシンと歩く音。

 いろんな音が俺の方へ集まってくる。


「ピ? なんか来るネ!」


 草の陰から獣の大群が押し寄せてくる。

 数はゆうに千を超えている。


「お、襲われるネ!」


 臨戦態勢になるピィを、俺が片手で制止する。


「見てろっつったろ。おい、アレキサンドリア! コイツらを整列させろ!」


 緑色のモヤが空をおおい、ヒラリ、ヒラリと舞う。

 獣たちはアレキサンドリアの舞いにつられるように首をフラフラと揺らし、隊列を組み始めた。


「よぅし! よく聞け! クソ魔物ども! 今から俺がテメエらのあるじだ! 言うことを聞かなきゃテメエらもその死骸の山に加えてやるからな!」


 魔物たちはうつろな表情のまま、俺に忠誠を誓うよう、俺へと頭を向けた。


「テメエら! 協力してこの魔物の死体を魔王の元まで運べ! これは大事な貢物だ。ぶっ壊した奴はぶっ殺す!」


 魔物たちは返事するようにうなすき、ワラワラと動き出した。

 デカい獣たちは背に沢山の死骸を積み、鳥型の魔物たちは死体を大きな爪で刺して持ち上げる。小さな魔物たちは2,3体で協力して、ひとつの死体を転がし始めた。

 千匹以上の魔物が綺麗に並び、5千もの貢物を持って歩く。

 何キロも続く隊列。

 さながら、魔物の特大パレードだ。


『圧巻だな』


 メロがその光景を眺め、ため息を漏らす。

 ため息と共に漏れたドラゴンブレスで、また足元が焦げた。

 ほんと面倒な能力だな、このクソドラゴン。


「で、結婚式はどこでやるんだ?」


 魔王の所在を知っているであろうメロとピィは、互いに顔を見合わせた。


「んー、あっちネ」

『こっちだ』


 ピィとメロはそれぞれ全く別の方向を指さしている。

 なんで一致しねえんだよ。


「おい、どっちが本当だ?」

「あち、悪い気配するネ」

『いや、こっちが魔王様の気配だ』


 二人はどちらも譲らない。

 が、ここは魔界在住のメロの方が信用できるだろう。


「とりあえず、こっちに行くか。全体、進め!」


 俺は魔物の隊列に、メロの示した方向へ進むよう指示を出した。

 このまま、死者を生き返す財宝を手に入れ、さっさとここからおさらばしてやる。

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