表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ただの村人に世界の運命を背負わすな!―俺は死神に連れ去られた妹を助けたいだけ―  作者: 無限大
魔界

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/45

魔界で食事トレーニング5

「おい、ドラゴン。なんかオマエ、だいぶ小さくなってねえか?」


 俺はさっきまで、全長15メートルほどのドラゴンと対峙していたはずだ。

 だが、しかし。

 目の前に居るドラゴンは、どう見ても足の先から頭のてっぺんまで、合わせて3メートルくらいの背丈しかない。


「……えぇと、大丈夫か?」


 コイツ、めちゃくちゃ縮んだよな?

 なんで?

 さすがに15メートルが3メートルになるなんて、あり得ないだろ。別ドラゴンかと疑いたくなる。

 俺は腕を組んで、ドラゴンにそろりそろりと近づいた。

 ドラゴンの目の前に立ち、奴の顔を見上げる。

 よく見ると、ドラゴンの首には大きな穴がポッカリ開いていた。

 俺が体内から脱出したときの穴だろう。


『大丈夫なわけあるかあぁぁぁぁぁ!』


 ドラゴンはスースースースー言いながら泣き喚いた。


『貴様! 貴様! 我の大事な生命力を食いおったな! 貴様のせいで! 貴様のせいで我は! 我はあぁぁぁ』

「おいおい、泣くなよ。男だろ?」

『我は女だ! ぴえぇぇぇん!』

「は、女? ……あぁ、そう。そりゃ、悪かったな」


 俺はドラゴンの腰をポンポン叩いて慰めた。

 いや、女ってガチか。初老のオッサンかと思ったぜ。

 異種族の性別はどうにもわからない。


『貴様が我の生命力を! 生命力をぉぉ! うわぁぁん!』

「おい、泣くなって」

『泣くに決まっておるわ! こんなにも縮んだのだぞ! こんなにも!』

「いや、小さい方が可愛いんじゃねえの? 知らんけど」

『え……、か、可愛い?』


 ドラゴンの表情がパッと華やぐ。

 おい、何ときめいてんだよ!

 ドラゴンは急に手をモジモジさせ、俺にすり寄ってきた。

 なんだ、そのアピールは。

 俺に「魔物フェチ」みたいな趣味はねえからな。鬱陶しい。


「はあ。とりあえず、なんか飯でも食って元気出そうぜ」


 俺が話題を変えると、隣でピィがピョコンと跳ねる。


「メシ、良い案ネ! レノ、メシとてくるネ! 女の子泣かせた罰ネ!」

「はあ? なんで俺が」

『ぴえぇぇぇん、我の身体があぁぁぁ』

「ほら! ドラゴン泣いたネ! レノ、女の子泣かす、良くないネ!」

「いや、嘘泣きだろ。さっき泣き止んでたじゃねえか」

『ぴえぇぇぇん! こやつ、我を嘘つき呼ばわりしよったぁぁぁ! うわぁぁん!』

「あー! レノ、また泣かせたネ! 悪い奴ネ!」


 ドラゴンはさっきまでの威勢はどこへやら、えんえん泣き真似を続けている。

 その隣でピィが、両手を腰にあて、プンプンと頬を膨らませていた。

 ……クソ。めんどくせえ。

 女二人を相手にすると、どうにも厄介だ。


「へえへえ、わかりましたよ。俺が狩ればいいんだろ、俺が」

「そうネ! さっさと行くネ!」

『ぴえぇぇぇぇん! 美味い飯をたのむ! ぴえぇぇ!』


 ああ、ウゼエ。

 だが言い争うのも面倒だ。俺はトンッと軽く地面を蹴って、狩りに出発した。

 まあいい。

 ドラゴンの玉を食って得た能力も試してみたいし、丁度いいだろう。


 トンッ、トンッ、トンッと走る。

 一歩足を踏み込むだけで、10メートルは前進した。

 ゆるく走ってこれだ。全力を出したら、3倍は速く走れるだろう。

 どんどん人間離れしていく身体に、ニヤリと笑みがこぼれる。


 ――キンッ!


 鋭い音がした。

 獣が歯を噛み合わせる音だ。

 場所は、30メートル先の森。

 加速する。


 走りながら、森に視線をおくる。

 緑色の草木の合間に、ぼやっとしたモヤが見える。

 ――いるな、そこに。

 モヤの色はオレンジに近い赤。好戦的な色だ。俺に気付いて、待ち構えているのかもしれない。

 いい度胸じゃねえか。


 俺は口を尖らせ、細く、鋭く、ドラゴンブレスを吐いた。

 ドラゴンブレスは針のように尖り、草木の合間を抜け、影に隠れる獣へ一直線に飛んでいく。


 ――ブシュッ。


 肉を裂き、骨を砕いて、血しぶきの飛ぶ音が聞こえた。

 俺の放ったドラゴンブレスは、俺の狙い通り獣の眉間を貫通して、一撃で獣を絶命させている。

 楽勝だ。

 そこに居たのは単体のグリムボア。

 俺はでっぷり太ったグリムボアを肩に担ぎ、あたりを見回した。


「これだけじゃ物足りねえな」


 せっかくドラゴンを食ったんだ。

 もっと手ごたえのある奴を狩りたい。

 どこかに丁度いい獲物はいないかと、耳を澄ます。

 森の奥で、ザワザワとした聞きなれない音がする。

 何か居るな。


「行ってみるか」


 何が居るのかは知らねえが、俺はトトッと駆け出した。

 聞こえてくるざわめきは、人間が音として拾える周波数ではなさそうだ。もっとずっとキンキンして、いかにも魔物っぽい。

 というか、この音。


 ――ハルナフトプの声に似ている。


 もしかしたら、ハルナフトプに近い種族が居るのかもしれない。

 ぞわり、と鳥肌が立った。

 あの、腐れ死神野郎。

 一発ぶん殴らねえと気が済まねえ。

 心の奥に潜んでいた怒りや不快感が、沸々とわき上がってくる。


 数百メートル進んだところで、ざわめきがだいぶ大きくなってきた。

 だがそのざわめき周辺からは、ハルナフトプとは違い、死の臭いや不快な気配は一切しない。

 爽やかだ。

 どちらかといえば、大自然の中を散歩しているときのような、心の洗われる感じさえする。


 ざざめきにだいぶ近づいた。

 そろそろ慎重に距離を詰めた方がいいだろう。

 俺はその場にグリムボアを置き、自らの気配を消した。

 草木に隠れながら、ざわめきの元へゆっくり近づいていく。

 そろり、そろり。

 ――さわさわさわ、さわさわさわ。

 聞こえてくる大きなざわめきは、ハープの演奏のように心地よい。

 緊張感が緩みそうになる。が、油断している場合ではない。


 木の陰から、ざわめきの震源地を覗き込む。

 木々の間は、あたり一面が緑のモヤにおおわれていた。


 ――誰もいない?


 けれど、ざわめきは確実にこの辺りから聞こえてくる。

 モヤを頼りに、音の出どころを突き止めようとしたものの、やはり視認するのは無理だ。


 ボワワワワ。


 ざわめきが急に大きくなる。


「っ! なんだ!」


 ピッと身体に変な感覚が走った。

 身体が動かない。

 全身が急に麻痺したみたいだ。指一本たりとも、ピクリとも動かせない。

 俺は木の陰から少し身を乗り出した姿勢のまま、一歩も動けずにいる。


 ――まずい。


 これが誰かからの攻撃なら、非常にまずい。

 無防備すぎる。

 間違いなく殺られる。

 たらり、と汗が垂れる。口の中が急激に乾燥してきた。


 ――落ち着け。


 まず、動けないのは何故か、考えろ。

 誰かの攻撃か?

 それとも、なんらかの罠を踏んだか。

 見極めようとしたところで、おかしなものは何も見えない。


 ――何もない?

 ――いや、そんなわけあるか。

 ――見えないなら、感じろ。エネルギーを、五感で!


 俺は視覚を遮断した。

 目で見るのではなく、皮膚、鼻、耳、すべての感覚を使って、世界のエネルギーを全身で感じる。

 意識の中で、自分のエネルギーを緑のモヤにぶつけた。

 モヤに触れた瞬間、モヤの意識が俺に流れ込んでくる。


『おまえは何者だ』

『我らの生活を邪魔するな』

『出て行け、出て行け』


 いくつもの自我が、俺に攻撃的な感情を向けている。

 そのたび、俺のエネルギーは、ブチッ、ブチッと弾かれるような感覚を受けた。


『消えろ、消えろ』

『来るな、来るな』


 まるで大勢の人たちから一斉に指を刺され、非難されているみたいだ。

 精神的に追い詰められるような不快感が、俺の心を支配する。


 ――うぜえな。テメエらこそ何者なんだよ。


 心をグサグサと刺されたような気持ちになりながら、俺は反抗的なことを思った。

 その瞬間、緑色のモヤモヤたちが一斉にギョッとしたのが伝わってくる。


『なんだ、お前』

『話せるのか』

『話せる獣は珍しい』

『我らの村へ何をしに来た?』

『お前は何者だ?』


 ――ん? なんだ?

 ――もしかして、心の中同士で会話ができてる?


 俺がそう疑問に思ったとき、モヤが『そうだよ』という感情を俺に送ってきた。

 そう、なのか。

 変な気分だ。

 なんというか、やりづらい。

 というかコイツら、実体はないのか。


『ないよ』


 心の中の呟きに返事をされて、俺は心の中でさえ閉口してしまった。


『我々は魔力エネルギーの集合体。肉体という概念がない』


 なんじゃそりゃ。

 わけわかんねえ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ