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ただの村人に世界の運命を背負わすな!―俺は死神に連れ去られた妹を助けたいだけ―  作者: 無限大
旅立ち

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人と魔物の融合3

 気付いたときにはベッドの上だった。

 窓から差し込む太陽の光が、俺の顔を照らす。

 まぶしくて、俺は目を細めた。


「レノ! 起きたネ」


 ピィの声がする。


「ここは?」


 真っ白な部屋は教会内の医務室のような造りだが、人の気配はほとんどしない。

 起き上がろうと身体をひねる。

 ――ガシャン。

 手足がベッドに固定されていることに気付いた。


「なんだこれ」


 大の字に寝かされた俺は、両手両足が鎖でベッドに繋がれている。


「レノ、暴れたネ。だから、縛たネ!」


 は? なに勝手に縛ってんだよ、ふざけやがって。

 俺を覗き込んだピィは、ピッチリした白衣を着て、うさ耳をピョコピョコさせている。

 なんだテメエ。エロい格好してんじゃねえよ。


「ああ、ウゼエェ!」


 ――ミシミシッ!


 力をこめると、手をしばっていた鎖が嫌な音を立てた。

 その鎖の先はベッドの脚に繋がっており、さらに大きな音を出している。


 ――バギバギッ! バギッ!


 ベッドの脚がデカい音を立てた次の瞬間、ベッド全体がガクンッと揺れた。

 落下する感覚。


「ん?」


 ――ドゴォォン!


 ベッドが崩れたのと同時に、ベッドの脚が吹っ飛んだ。

 脚はクルクル回りながら部屋を飛び去り、ガツンと壁に突き刺さる。

 すんでのところで飛びのいたピィが、変な姿勢のまま冷や汗をかいて固まった。


「な、なにするネ!」

「いや、……悪い」


 あり得ないほどの力が出た。

 出そうと思ったわけじゃない。

 勝手に出て、ベッドを破壊してしまったのだ。


「どういうことだ……?」


 崩れたベッドの上で、足についた鎖を引っ張ってみる。

 ――バキン!

 ちょっと引っ張っただけで、鎖は粉々に崩れた。


「力が、上がってる?」


 カレンの心臓を食ったからか?

 これが、「合成の力」を手に入れたってことなのか?

 背中がゾワゾワした。

 不思議な感覚に、興奮している自分がいる。


「――って、そうだ! カレンは!」

「地下ネ! 案内するネ」


 ピィに連れられ、部屋の外へ出る。

 ステンドグラスの窓が並ぶ通路を抜け、見覚えのある講堂に出た。

 ここはやはりさっき訪れた教会で、俺はその奥にある医務室で寝かされていたらしい。


 ぎゅるるるるる。


 歩いていたら、腹が大音量で鳴った。


「腹、減ったな」

「当然ネ! レノ、5日寝てたネ!」

「5日も?!」

「そうネ! ずと、暴れたネ。魔法石、悪意、吸たネ。次、起きなくなたネ」


 ようは、カレンの心臓を食った俺は、しばらく魔族の悪意によって操られ、暴れた。だから身体をベッドに縛り付けた。その後、魔法石によって悪意を吸い取ったら、しばらく深い眠りについてしまった。

 そういうことだろう。

 なんとなく、想像がつく。


「レノ、カレン会ったら、ごはんネ! いぱい食べるネ!」

「ああ、そうだな」


 俺は空腹でフラフラしながら地下への階段を下りた。

 地下通路の中ほどにある部屋へ足を踏み入れる。

 部屋の中央には棺が置かれ、その脇で教皇が棺の中を覗き込んでいた。


「おお、レノ。起きたか」


 教皇が俺に気付き声をかけてくる。

 俺は教皇を無視して、棺に寄り添った。


 ――カレン。


 棺の中。薄青く輝く液体の中に、カレンの肉体が沈められている。

 力を失い、閉じるでも開くでもない瞳が、ぼんやりと天を仰いでいた。


「カレン。お兄ちゃんだぞ」


 返事なんてあるわけがない。

 それでも、声をかけずにいられない。


「カレン。すぐ生き返してやるからな。もうちょっと待ってろよ」


 俺のささやき声は水面に反射し、静かにかき消える。

 灰色になって、心臓も失って、身体中あちこちひび割れたカレン。

 液体の中で自由を失い、朽ちることもなく、ただ時を重ねている。

 そんなカレンの姿を見て、俺の胸の奥はズキンと痛んだ。


 ――これは、本当にカレンの望みか?


 聞きたくないような声が、俺の心の奥から聞こえてくる。


 ――こんな姿で生き返ることを、本当にカレンが望んでいるのか?


 耳をふさいでも、内側から何度も何度も俺に問いかけてくる。


 ――カレンは、本当は。


 やめて。やめてくれ。

 目をギュッと閉じる。

 おい、俺。

 現実から目をそらすなよ。

 お前がここへ連れてきたんだろう。なあ!


「レノ」


 教皇の声で我に返る。


「これからの話をしよう。どのように魔界へ行くか、そなたが寝ている間に計画を立てたのじゃ」

「……はい」


 ああ、そうかよ。さっさと行けってか。

 心の中で舌打ちして、教皇を睨みつける。


 ぎゅるるるるる。


 空気を読まない俺の腹は、また大きな音を立てた。

 チッ。なんだよ、こんなときに。

 苦々しい気持ちで顔をそらした俺とは対照的に、教皇はフッと笑った。


「食事をしながらにするかの。では、食堂へ」


 俺たちは別の建物にある食堂へと移動した。


「復興の真っ最中で物資が足りなくてな。食事と言っても、ウルフの死骸くらいしか食材がないのじゃ。悪いな」


 そう言って教皇は、厨房へ3人分の食事を申し付ける。

 食堂の端の席で教皇と俺は向かい合って座り、ピィは俺の隣に座った。

 俺たちの放つ緊張感で、静かな食堂の空気が一段と冷える。

 教皇は机に身を乗り出し、重々しく口を開いた。


「魔界の正確な位置は、我々、聖枢機院も把握しておらぬ」

「……は?」


 無能かよ。

 それでどうやって魔界に行けって? クソが。

 俺はイライラと指を机に打ち付ける。机に指がめりこむ感覚がした。


「じゃが」


 教皇がピィに目を向けた。


「ウチ、わかるネ! 魔王とこ、行くネ!」


 ピィがゴキゲンに手を掲げる。

 ピョコピョコッとうさ耳の先っぽが揺れた。


「ベアトリーチェが合成されたとき、魔王の所在地が記憶の中にインプットされたようじゃ」

「ウチ、ピィネ!」

「それを頼りに魔界へ向かえば、国王陛下ともお会いできるだろう」


 ――じゃあ。


「ピィを連れて行け、ってことか?」

「左様。ベアトリーチェの戦闘力は高い。足手まといにはならんじゃろう」

「ウチ、ピィネ!」


 話しているところへ、大皿に山盛りのウルフ肉が運ばれてくる。

 香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。

 1センチ厚のウルフ肉は両面こんがりと焼かれ、塩と臭み消しのハーブが大量にかかっていた。

 唾液が勝手にあふれてくる。


「さあ、食事にしよう。獣臭いだろうが、我慢して食べてくれ」


 教皇はそう言って、ウルフ肉をナイフで小さく小さくカットし、口に放り込んだ。

 それから長いことクッチャクッチャ噛んでいるが、このジジイ、どうやら噛み切れないらしい。

 ジジイのアゴに筋肉質な獣肉は難しいのだ。

 俺は鼻でフンッと笑って、一枚肉をペロリと食べた。自分で作ったウルフの燻製よりも複雑な味がするのは、きっと豊富なハーブのおかげだ。

 ゴクンと飲み込むと、胃が急激に熱くなる。

 久しぶりの飯だからだろうか。


「で? 魔界で国王に会ったとして、どうやって王を連れ帰ればいいんですか。国王が俺を信用するとは思えないですよ」


 魔界で平然と活動する村人なんて、誰が信用するか。

 怪しさ満点すぎるだろ。

 そんな人間にホイホイ付いてくる国王がどこにいる。

 ……それにしても、なんか胃の調子が悪いな。ムカムカして、熱い。

 俺は、久々の食事でビックリしている胃を撫でつけながら水を飲んだ。

 妙に身体が熱くなってきやがる。


「ふむ。……そうじゃな……」


 教皇はもぐもぐしながら、コッソリ肉を吐き出した。

 やっぱり噛み切れなかったか。

 汚ぇな、と俺は教皇を睨んだが、教皇は平然と話を続ける。


「レノや。そなたに教皇の証を授けよう」

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