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ただの村人に世界の運命を背負わすな!―俺は死神に連れ去られた妹を助けたいだけ―  作者: 無限大
旅立ち

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人と魔物の融合2

「え……?」


 俺は顔を上げる。

 しわだらけの教皇が、満面の笑みで俺を見ていた。


「簡単なことだ。この娘をそなたが取り込み、そなたの中で生かせば良い」

「……は?」


 取り込む?

 俺の中で生かす?

 何言ってんだ。ボケてんのか?

 俺は意味がわからず、他の聖職者たちの様子をうかがった。

 聖職者たちはみな固唾をのんで、教皇の次の言葉を待っている。

 教皇は、聖職者らしい穢れの無い笑みを浮かべながら、しわ枯れ声で言った。


「そなた、この娘の心臓を、食せ」


 カレンの心臓に視線が落ちる。

 なんだって?

 食せ?

 身体中に悪寒が走る。


「国王陛下は、この娘の血液を飲み、この娘の持つ『合成』の効果を得た――と、言ったであろう?」


 教皇の言葉を聞いて、俺の心臓はドキン、ドキンと強く音を立てた。

 冷たい汗が毛穴という毛穴からブワワッと噴き出る。

 俺を見つめる教皇が、にんまりと笑う。


「つまり、そういうことじゃ」


 教皇が俺の胸をツンと突いた。


「この娘の心臓を食えば、そなたの中にこの娘の力が宿る。そなたと共に生きることができる」


 食べる。

 カレンを?

 本気で言ってんのか?

 俺は急に呼吸が難しくなって、ヒッ、ヒッと雑に息を吸った。

 できるかよ、そんなこと。

 そんな、バケモンみたいなこと。

 額に汗がにじむ。

 喉の奥が焼けるように痛い。


「ちなみに、これは推測じゃが、心臓を食うことで魔界への耐性がつくのだろう。心臓を食えば、国王陛下同様、そなたも魔界で活動できるようになるはずじゃ」

「……魔界」

「左様。魔界には、この娘の宿敵もおるのじゃろう? それに、我々の知らぬ呪術や、死体を生き返す特効薬を見つけられる可能性もある」

「それじゃあ」


 ――カレンを生き返せるかもしれない?


 ドクンドクンドクンドクンと俺の心臓が爆音を立てる。

 魔界に行けば、カレンが助かる?

 あり得ないとは、言い切れない。

 魔界は未知の宝庫だ。


 視界の端に、教皇のムカつく笑顔が見える。

 ドッドッドッドッと心臓の動きが、俺の身体中に響いた。

 可能性がゼロじゃないなら、やるしかない。

 そうだよな?

 カレンが戻ってくるかもしれないなら、俺は、カレンを――!


「しかしなぁ」


 教皇が口をはさむ。


「死んだ者の肉体は、そのままでは腐っていくのじゃ。時間的な猶予はない」

「では、急いで呪術や特効薬を見つけて来い、ってことですね」


 俺が興奮気味に言うと、教皇は「いやいや」と、かぶりを振った。


「この娘はすでに腐敗しておる。もう、手遅れに近い」

「じゃあ、どうしろって言うんですか!」


 俺は思わず声を荒らげた。

 だが教皇は俺の無礼を気にする様子もなく、笑みを顔に貼り付けたままだ。

 余裕のある声色で、教皇が言う。


「実はな、肉体を保つ方法があるのじゃ。高貴なる大聖水。あれに漬け込めば、ある程度は肉体を維持できるであろう」

「きょ、教皇様! 大聖水ほどのものを、そう簡単に利用するわけにはいきませぬ!」


 教皇の発言に、聖職者たちが一斉に慌てふためいている。

 その大聖水とやらは、相当特別なものらしい。

 なんだよ、それ。

 そんなもの、俺が手に入れられるわけがない。

 クソッ。自分の無力さに腹の中がムカムカしてくる。


「そこで、交換条件だ」


 そう言って、教皇がいやらしく口角をあげた。

 交換条件。

 俺はぎゅっとカレンを抱き寄せる。カレンの身体からあふれた変なにおいの体液が、俺の服に強くしみこんだ。


「……その、条件とは?」

「ふむ。魔界から、国王陛下を連れ帰ってほしい」


 国王奪還。

 俺の脳内に、口の端から血をしたたらせた金髪の国王が浮かぶ。

 魔王の元へ連れ去られた国王。

 魔王から奪還しろって?


「いや、なんで、ただの村人の俺が」

「フフッ。『ただの村人』か、レノよ。そなた、王宮が壊滅した中で魔物と対峙し、生きて帰ってきたのであろう? 運が良いのか、力があるのか。どちらにせよ、そなたが適任じゃ」

「だからって……」


 今後も無事とは限らねえだろ。

 捨て駒みたいに利用しようとしてんじゃねえよ。

 フー、フー、と怒りを呼吸と共に吐き出す。

 カレンを救いに行くならまだしも、国王のために魔王へ喧嘩を売るなんて馬鹿か!

 どんだけデケェリスク背負わせようとしてんだよ。

 俺は唇を噛みながら教皇を睨みつける。

 教皇はお構いなしに目を細めた。


「それにな、魔界で活動するには、その娘の心臓を食わねばならぬ。そなたが断るのであれば、別の者にその娘の心臓を食わせる必要があるのだ。そなた、それで良いか? よく考えて判断しなさい」

 

 全身に鳥肌が立った。

 誰か知らねえ馬の骨にカレンを食われるなんて、絶対に嫌だ。許せねえ。


「レノや。国王陛下がお戻りになるまでは、我々も責任を持ってこの娘の肉体を維持、保管しよう。むろん、嫌ならば断っても構わない。断れば、その娘はあっという間に朽ちていくだろうがな。さて、どうするね?」


 頭がモヤモヤした。

 交換条件を受け入れなければ、カレンは土に還ってしまう。

 でも、魔王から国王を奪還なんて、俺にできるのか?

 軍に入ったこともない、戦闘訓練を受けたこともない、ただの村人だぜ? 狩猟経験しかないんだ。

 魔王とか国王とか、そんなデケェモンを相手にする自分が、イメージできない。


 でも。


 俺はカレンを助けたい。

 カレンのためなら、俺はなんだってする。

 ……だったら、やるしかねえってことだ。

 やるしかねえなら、やってやるよ。

 それが俺だクソ野郎!

 俺の生き様、目に焼き付けやがれ!


「わかりました」


 俺はそう返事して、カレンを床に寝かせた。

 胸の穴に収めていた心臓をぬるりと持ち上げ、両手で優しく包み込む。

 心臓は氷のように冷たかった。ぶるり、と身体が震える。


 食えばいいんだろ、食えば。

 そんで、魔王をぶっ飛ばして、国王を連れてくりゃ良いんだろ。

 やってやるよ、そのくらい。

 やってやるから、ちょっと我慢してくれよな、カレン。


「これを食ったら、俺は魔界を目指す。カレンを救う『何か』を見つけて、国王も連れて帰ってくる。だからその間、カレンの肉体を頼みます」


 教皇を睨みつけながら、俺はカレンの心臓に歯を立てた。

 ぷしゅり。

 皮を裂くような感触がして、冷たい血液が口内に広がる。

 カレン。

 塩気を含んだ鉄のような味が舌にまとわりつき、腐敗しはじめた心筋が、歯に強い抵抗を与えた。

 カレン。

 心臓はゴムのように硬い。

 カレン。

 俺は大事な大事なカレンの心臓を、一気にゴクンと飲み込んだ。


 喉が裂けそうだ。

 胃が熱い。

 身体が内側からジワジワと熱せられていく。


「はあ、……ハア……ハァ」


 なんだ?

 急に呼吸が荒くなった。

 目の前がかすんで、意識が飛びそうだ。

 身体から力が抜けて、身体を保てない。

 俺は床に倒れてしまった。

 それを、教皇が覗き込むように見ている。


「これは、二次的な合成が起こっているのか?」


 教皇の言葉に、聖職者たちがワラワラと集まってきて、俺の身体を取り囲んだ。

 見せモンじゃねえぞコラ。

 見てんじゃねえよ、クソが。

 そんな悪態をつきたいけれど、口が動かない。

 身体がどんどん麻痺していく。


「記録係や。経過をしっかり記録しなさい。念のため、押さえつけるものの準備も。そして魔法石を――」


 教皇や聖職者たちがゴチャゴチャ喋っているのに、その声がどんどん遠くなる。

 言葉は聞き取れず、目も見えない。

 身体は動かないし、頭が働かない。

 俺はいつの間にか、完全に意識を失っていた。

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