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ただの村人に世界の運命を背負わすな!―俺は死神に連れ去られた妹を助けたいだけ―  作者: 無限大
旅立ち

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人と魔物の融合1

 聖枢機院の敷地内は、思ったよりも静かだった。

 山積みになった人の死体、ウルフの死体。いくつもの死体の山ができているが、生きたウルフは見当たらない。

 生き延びた人間は建物の中に隠れているのか、外を歩く人影はない。

 俺はカレンを抱えたまま一番デカい教会まで走り、正面のドアを思い切り蹴った。


「おい! 開けやがれ! 誰かいねえのか!」


 偉い奴と話がしたい。

 カレンを生き返す方法を聞き出してやる。

 ガンッ! ガンッ! と俺は何度もドアに足を打ち付けた。が、ドアはびくともしない。

 バリケードでも作っているのか?

 めんどくせえ。

 しばらくして、扉の向こうから男の声がした。


「……人間か?」


 チッ、やっと来たか。


「ったりめーだろうがよ! はやく開けろ!」

「そこにウルフは?」

「いねえよ! 魔物はみんな消えた。……国王もな」

「なんだって?」


 ガチャガチャガチャと物音がして、扉が開く。

 出迎えた聖職者の男は、カレンを見て顔をしかめた。


「悪いが、ここには避難してきた人間が大勢いる。死体は外に」

「嫌だね。このまま中に入れろ。無理なら、偉い奴をここまで連れて来い。俺はカレンと一緒に話したいんだ」

「しかし」

「国王がどうなったか聞きたくねえのか? 城の兵はほぼ全滅してる。チンタラしてる場合か? 国王の命に関わる話だぜ?」


 男は目を白黒させ、よろめきながら頭を抱えた。


「そんな、まさか……」

「嘘だと思うなら外を見てみな。どこもかしこも死体の山ばっかだぜ」


 男は、はあ、と大きなため息をつき、「ついてきなさい」と俺を中へ案内する。

 さっさとそうしろ、ザコが。

 俺は急かすように大股で教会内を歩いた。

 教会の奥の階段を降り、地下へ。

 じめじめした地下通路の一番奥には重々しい扉があって、男はゴウンと鐘を鳴らしてから、その扉を開ける。


「教皇様」


 男が部屋の奥に向かって話しかけた。

 奥では聖職者が10人ほど顔を突き合わせ、なにやら会議をしている。

 が、俺たちが入るやいなや、一番手前の席の聖職者が勢いよく立ち上がり、男と俺に向かって罵声を浴びせてきた。


「おい、なんだこの酷い臭いは! 死体か! そんなに腐敗した死体を、こんなところまで持ってくるではない! ここは教皇様の部屋であるぞ!」

「も、申し訳ございません。しかし、この者が『大事な話がある』と」


 男がオドオド答えると、卓の一番奥に座っていた老人が片手を上げて二人の争いを静止した。


「よい、よい。どんな話だね」


 老人は金縁眼鏡を細い指で押し上げながら俺を見る。

 老人のローブは他の聖職者たちよりも、ずっと上等だった。ひとりだけ高貴な帽子までかぶるっている。

 この老人、教皇か。

 ――ゴクリ。と、俺は息を飲んだ。

 コイツが教皇なら、コイツの機嫌を損ねないほうが良い。

 コイツなら、カレンを生き返す方法を知っているかもしれないのだから。


「お初にお目にかかります。アルトリ村のレノと申します」


 俺はカレンを抱えたまま、深々と頭を下げた。

 カレンがずり落ちないように、ぎゅっと抱き寄せる。

 ――もうすぐだ。もうすぐだからな。お兄ちゃんが、すぐ生き返してやるから。

 もはや、カレンのこの異臭さえ愛おしい。

 俺は声を張った。


「国王陛下のこと、そして合成について、お話ししたいことがございます」


 合成の話題を出した途端、空気がピリッと冷える。

 俺は顔をあげ、そこにいた聖職者ひとりひとりの顔色をうかがった。

 興味、関心、そして恐怖が無言の圧になって、一斉に俺へ注がれている。

 なかでも、教皇は目の奥をキラリと輝かせ、俺に一番の関心を示していた。


「アルトリ村か。そのような遠くの村の人間がなぜ、国王陛下ならびに合成の話を知っておるのかね」


 教皇の目は鋭い。眼鏡の奥の眼光が、ナイフのように俺を刺した。

 これが世界のあらゆる情報を握っている集団のトップか。

 面白れえ。

 慣れない緊張感に、俺の口角が自然と上がる。

 俺は村で起こった惨劇から、国王がハルナフトプに連れ去られるまでの経緯を、順を追って説明した。カレンのことも、ピィのことも。

 聖職者たちは聞きながら、みるみる青ざめていく。

 俺がすべて話し終えると、聖職者たちはみな頭を抱え、うつむいてしまった。


「まさか近衛兵たちが全滅するとは」

「王宮が壊滅? 信じられぬ」

「なんということだ」


 絶望を口にする聖職者たちを、教皇が咳払いで鎮める。


「つまり、国王陛下は生きていらっしゃる、というわけだな」


 教皇が、周囲を落ち着かせるように言った。聖職者たちが一気に顔をあげる。

 ――なんだよ、国王さえ生きてりゃ良いのかよ。

 カレンを抱く俺の手に力が入った。

 テメエらは、誰が死のうが、街や城がどうなろうが、それは二の次か。

 国王陛下万歳ってか?

 それが聖枢機院の正義なのかと思うと、反吐が出る。

 だけど俺は、そんな感情を表に出さないよう細心の注意を払い、返事をした。


「はい。ハルナフトプは『人間が魔界で生活するために必要だ』と言って、カレンの血液を国王陛下に飲ませました。奴の目的が、国王陛下を魔界で生活させることなら、今後も国王陛下が殺されることはないと思います」


 俺の返事に、安堵と困惑の混じったようなため息が、あちこちから漏れる。


「なるほど」

「ということは、国王陛下の奪還も可能であるな」

「では十字軍を派遣させよう」

「だが王宮の兵は全滅したと言うではないか」

「まずは軍の強化が必要だ」

「村人を動員してはどうか」

「徴兵制度の改定を」

「兵役の義務化もだ」

「いや待て、そもそも魔界とはどこにあるのだ」


 グダグダ、グダグダ、聖職者たちは好き勝手言いやがる。

 ああ、ウゼエ。

 城の現状も見てねえくせに、口ばっか達者なジジイたちに虫唾が走る。

 城を守る人間も、環境を維持する人間も、国王の周りの人間はほとんど殺されてんだぞ。

 それでもまだ、王室を維持できると思ってんのか。

 国王を奪還してどうなるって言うんだよ。

 そんなことより目の前の惨状をなんとかしろよ。

 王がいない今、実質ここが国のトップだろ?

 傷ついた人を、街を、……カレンを、なんとかしてくれよ!

 ああ! ウゼエ!

 俺は口の端をギリリと噛んだ。


「ところで」


 教皇が小さく手を挙げて言う。


「レノ、と言ったか。そなたがここにその娘を連れてきたのは、合成研究の検体として提供するためか?」


 教皇の視線がカレンに向く。

 俺の全身の毛穴がブワッと開いた。

 は?

 検体?

 ふざけんなよ、クソジジイ。


「……違い、ます」


 俺はなんとか自分の気持ちを抑え込み、まともな言葉を返した。

 だけど腹の中はグチャグチャだ。

 身体中が怒りで熱を帯びる。

 フゥゥ、フゥゥと、ゆっくり息を吐く。

 教皇は深くうなずいた。


「では、ここで手厚く弔いたい、ということだな。であれば、そなたの情報提供の功績をかんがみ、盛大に葬送の――」

「違います」


 ああ、もう!

 駄目だ、我慢できねえ!


「俺は、……カレンを生き返したい」


 教皇の眉がピクリと動いた。

 他の聖職者たちも、一斉に目を見開いている。


「なにを馬鹿なことを」

「死んだ人間は生き返らぬ」

「そのような発言は神への冒涜だ」


 非難、批判が投げかけられる。

 だけど、俺は。


「カレンは、一度生き返りました。故郷の村でボロボロになったあと、身体を腐らせながらも立って、歩いて、話もしたんだ! 死んで終わりじゃない! もう一回、もう一回で良いから生き返したい! できるだろ? 聖枢機院ならできるだろ!?」

「レノ」


 教皇が席からゆっくり立ち上がる。

 のんびり歩いて俺の隣までやってきて、教皇は俺の肩を抱いた。

 穏やかなしわ枯れ声で、俺に優しく語り掛ける。


「それは、生き返ったとは言わんのじゃよ。たとえ動いたとしても、死は、紛れもなく『死』だ。見てごらんなさい、この娘の朽ちた肉体を。これ以上、この娘を乱暴に扱ってはいかん。愛しておるなら、正しく供養してあげるのが、本当の『愛』じゃ」


 嫌だ!

 そう言う代わりに、俺の目から涙が落ちた。

 嫌だ、嫌だ、嫌だ!

 愛ってなんだよ、知らねえよ!


 カレンはさっきまで動いてたんだよ!

 もっとずっと一緒に居たいと思って、何が悪いんだ!

 ……悪いのか?

 カレンを連れまわして、カレンの身体に無理をさせるのは、悪いことか?

 もうわかんねえよ。

 俺だって、カレンに乱暴なんてしたくねえよ。


 なあ、カレン。

 お前、どうしてほしいんだ?

 お兄ちゃんに教えてくれよ。

 なあ。

 頼むよ。

 カレン。


「ふ……うぅ……」


 俺はたまらず嗚咽をもらした。

 そんな俺の肩を叩いて、教皇が言う。


「だがなあ。この娘の命を維持する方法が、ひとつだけあるのじゃ」

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