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ただの村人に世界の運命を背負わすな!―俺は死神に連れ去られた妹を助けたいだけ―  作者: 無限大
旅立ち

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十字軍4

「ウチ、ピィ、ネ!」


 ピィがなんの説明にもなっていない説明をする。

 馬鹿か。


「この耳はなんなのだ」


 ロケッティア団長がピィのうさ耳を引っ張る。

 ピィは「ピィィ」と鳴いて痛みを訴えた。


「生え……てる」

「ウチ、ジャックラビットだたネ! 人間、なたネ!」


 ピィがご機嫌に返事をして、軍人の頭上にハテナマークが並ぶ。


「この娘は何を言っておるのだ」


 イカレた奴を見るように、ロケッティア団長がコソッと俺に耳打ちした。

 や、わかる。

 わかるぞ、その気持ち。


「っつってもまあ、言葉通りとしか言いようがねえんだけど」


 俺だって何か知っているわけじゃない。

 それでも俺は、ピィから聞いた話を軍人たちに聞かせてやった。

 死にかけていたピィ。現れた死神。呪文。苦痛。――そして、人間になった。

 半信半疑といった表情のロケッティア団長の一方で、みるみる顔を青ざめさせていったのは十字軍だ。


「なんということだ」


 親玉が地面に崩れ落ち、他の捕虜たちが親玉を支える。

 そこまでショックを受けるようなことかよ。

 親玉は青い顔をしたまま、ピィに目を向ける。


「そなた、合成されたのか」


 シン、と、場が静まりかえる。

 合成?


「なんだって?」

「合成だ。ベアトリーチェと、ジャックラビットの合成」


 は?

 意味がわからない。


「どういうことだよ」

「ベアトリーチェとジャックラビットは、肉体をバラバラにされ、つなぎ合わされたのだ。そなたはベアトリーチェであり、ジャックラビットでもある」


 そんなことが可能なのか?

 意味不明すぎて声が出ない。

 だけど、ピィが言っていた。死神に呪文をかけられたあと、肉体に強い圧力を受け、身体が押され、破裂するような感覚を受けたって――。

 つまり、その時、身体が合成された?


「ウチ、違うネ! ベアなんとか、知らないネ!」


 ピィが叫ぶ。


「だが、肉体はほとんどベアトリーチェのものであろう。意識はジャックラビットが勝ったようだが」

「違うネ! ウチ、ウチ」


 ピィは否定しながら、自分の身体をまじまじと見ている。

 自分が「自分」でないことに、ショックを受けているのかもしれない。


「ピィ……」

「ウチ、ベアなんとかネ? ウチ、じゃあ、聖職者ネ? かっこいいネ! すごいネ!」


 あ?

 喜ぶことかよ、コレ。


「おい、ピィ」

「ウチ、教会働けるネ? ウチ、王都はたらけるネ?」


 馬鹿なのか。

 ピィはゴキゲンに十字軍の親玉に問いただしている。

 ジャックラビットに人間の繊細さを期待した俺が馬鹿だったのか?

 親玉は気おされながら、のけ反った。


「いや、さすがにそれは無理であろう。おぬしはその、ラビットだ」

「何言うネ! ウチ、ベアなんとか言ったの、おっさんネ! ウチ、ベアなんとかネ! 王都で働くネ!」

「い、いやいや、いや、そのような格好で来られても困る」


 まあ、これじゃ聖職者ならぬ「性」職者だからな。

 だけど、ピィのこの必死さが、俺の胸にちょっとだけ傷をつけた。

 ピィ。やっぱベアトリーチェとかいう女の記憶が少しはあるんじゃねえのか。

 そう思えて苦しくなる。

 ピィが森の中で拾った十字架の刺繍入りの鞄。あのゴテゴテした十字架は、聖枢機院の紋様だ。十字軍の羽織っているマントにも同じ刺繡が施されている。

 そして、あの鏡。

 あれを見て涙を流したのは、もしかしたら、ベアトリーチェの感情が溢れたからじゃねえのか。

 俺は舌打ちして言う。


「服なら着せる。それなら文句ねえだろ」

「いや、そういうことではない。問題はその耳だ。合成は聖枢機院でも一部の人間しか知らぬ秘匿情報。そのような格好で王都に現れては困る」

「へえ」


 それは良いことを聞いた。


「そんな重要な情報なのか」

「左様」

「ってことはつまり、聖枢機院は合成についての情報を、まだ集めきれてないな?」

「なに?」

「情報が少ないから秘匿してんだろ? だから本当は、ピィの体験や情報が、喉から手が出るほど欲しい。違うか?」

「ぐっ……」

「それだけじゃねえな? もしかして、ピィの見た『死神』の情報も、大事な秘匿情報なんじゃねえの?」


 十字軍の親玉がギリギリと歯を食いしばる。

 この光景、めちゃくちゃ気持ち良い。俺の口角は上がりっぱなしだ。

 偉い奴が俺みたいないち村人に屈服している姿、興奮するぜ。


「なあ、十字軍の親玉さんよぉ」


 俺は鉄格子ギリギリまで近づいて、ニヤリと笑って親玉を見下ろした。


「俺と取引しねえか」


 親玉の眼が充血していて、笑える。

 俺は笑みを消し、声のトーンを落として言った。


「俺は死神の情報がほしい。というか、ピィの言う死神と同じモノかは知らんが、人型の魔物の情報がほしい」


 親玉は絶句している。

 顔は緊張で引きつっていた。

 やっぱコイツ、人型の魔物について何か知ってるな。相当焦っている。

 俺はその場にしゃがみ、小声で話しかけた。


「実はよォ、俺も人型の魔物と会ってるんだよ。話もした。詳しい情報を寄こせば、こっちも知ってることを教えてやるぜ?」


 親玉の目が泳ぐ。

 ギュウウと目をつむり、親玉は絞り出すように言った。


「できない。私にそのような権限はない」

「チッ。誰ならその権限がある?」

「そんなもの、聖枢機院のトップ、教皇様しかおらぬだろう」


 教皇か。

 結局、聖枢機院まで行かなくては話にならない。


「おぬし」


 ずっと黙っていたロケッティア団長が俺に声をかける。


「私と共に王都へ参らぬか」

「はあ?」

「なに、私もこの十字軍の扱いについて国王と話をつけに行きたいのだ。いつまでも閉じ込めておくわけにはいかぬしな。おぬしも聖枢機院へ参るなら私が同行してやろう。おぬしの戦闘能力は頼りになる。ワハハハ」


 ロケッティア団長は椅子の上でふんぞり返っている。

 偉そうな奴だが、本当に偉い奴ならこっちだって利用できるかもしれない。悪い話じゃない。


「ちょ、ちょっと待て! 貴様ら、まさかその女を連れていくわけではあるまいな」


 十字軍の親玉がピィを見て言う。

 ああ、そうか。ピィの姿を見られたら困るんだったか。

 こりゃあ良い。


「ああ、連れて行くぜ。教皇をゆするネタに丁度いい」

「ピ! ウチ、王都行けるネ?」

「当たり前だろ。ピィが俺たちの鍵だぞ。聖枢機院の奴らが門前払いしようもんなら、ピィに街中で暴れさせてやる」

「暴れるネ? 楽しそうネ!」

「ま、待ってくれ、そんなことをしたらどれだけパニックになるか」


 十字軍の親玉は両手を地面につき、頭を下げた。

 本気で心配しているらしい。


「大丈夫だよ、オッサン。ピィには帽子をかぶらせるから耳なんてバレねえだろうし、聖枢機院が舐めた真似しなけりゃなんもしねえよ」

「し、しかし……」

「しかしじゃねえよ、うっせえな。いい加減黙っとけ、クソジジイ!」


 俺は十字軍に捨て台詞を吐き、地下牢をあとにした。

 ロケッティア団長を利用して、王都で情報を集める。ピィという切り札もある。俺ならできる。

 ――待ってろよ、カレン。

 俺は力強く大地を踏みしめた。

 そう。このときの俺は、こんなにも早くカレンに再会できるとは思ってもみなかったのだ。

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