十字軍3
十字軍から銃撃の雨が降る。
戦争が一気に加速する。
俺は走って建物の裏手に回り込み、安全地帯から戦況を伺った。
どちらの軍も相手軍へ銃をぶっ放しまくっていて、何人か地面に倒れている。火薬のにおいがきつくなってくる。
ピィはピィピィ鳴きながら地面に穴を掘り始めた。ラビット本能か? 身体こそロープでぐるぐる巻きのままだが、手先だけで器用に穴を掘り、身を隠した。
「はあ、はあ」
息を荒くした自営軍の男が、俺の近くへ駆けてくる。
右肩を撃たれている。銃はもう持てないだろう。
「貸せ」
俺は男から銃と弾薬をはぎ取った。
「おい、はぁはぁ、何をするんだ、はぁ、はあ」
「テメエらに加勢してやるんだよ。黙って見てろ」
俺は建物の裏手から十字軍へ近づき、自営軍に気を取られている十字軍の奴らを横からパァン、パァンと撃っていった。
撃たれた雑魚軍人どもがドサッ、ドサッと次々に倒れる。
残った軍人どもが俺に銃を向けようとするも、正面からは自営軍が攻めてきている。俺に意識を向けることなく、銃弾の雨を浴びた。
「フン、雑魚が」
建物に隠れ、銃に弾を装填し直す。
もう一度戦場をのぞくと、どちらの軍も十数名程度の人数でドンパチを続けている。
ピィは相変わらず穴の中だ。銃相手じゃあ賢明な判断だろう。
そんな中、銃声でパニックになっていた十字軍の馬が一頭、俺の方へ走ってきた。
馬のくせに、立派な防具までつけていやがる。
「丁度いい」
俺は暴れ馬の手綱を手に取り、馬の脇腹を蹴って背に飛び乗った。
「言うこと聞きやがれ、じゃじゃ馬!」
手綱をグイッと引く。だが馬も簡単には従わない。よろめきながら暴れ続けるたび、俺は何度も手綱を引いた。
しばらく攻防を続けると、さすがに馬も冷静になる。
我に返った馬は俺の言うことを聞き始めた。
この馬野郎、やっと俺を認めたか。
「十字軍に突撃するぞ」
馬の脇腹を蹴る。
馬はスピードをあげ、銃を撃ち続ける十字軍へ突っ込んでいった。
勇敢じゃねえか。さすが軍の馬だ。気に入った。
「オラ、オラ、オラ! 降伏しやがれクソ十字軍!」
俺は馬の上からパァン、パァンと3人撃ち倒しながら進み、馬の脚で2人蹴り飛ばした。
十字軍の怒号が飛ぶ。
「撃て! あの男を撃てぇ!」
無数の銃口が俺に向く。
だが暴れ馬の上の俺を狙いきれないのか、銃口は一向に火を吹かない。
テメエら、それでも軍人か?
「撃たねえならコッチから撃たせてもらうぜ」
暴れ馬の上から俺は軍人を狙う。肩に一発。奥の野郎の腹にもう一発。
後ろから迫ってきた軍人を馬の後ろ脚で蹴り上げ、馬を止めようと近づいてきた軍人の頭を銃で殴りつける。
ついでにその奥の2人を続けざまに仕留めた。
ドサドサと軍人の山が積みあがる。
「雑魚が。そろそろ投降したらどうだ」
俺は十字軍の親玉に銃を突き付けて言った。
銃声が鳴りやむ。
十字軍の奴らがひとり、またひとりと銃を地面に落とし、両手を上げていった。
親玉も観念したように両手をあげる。
「フン」
俺は対岸にいるロケッティア団長に視線を送った。
「これでもまだ俺を敵扱いするか?」
ロケッティア団長は口を真一文字に結び、鼻の穴を広げて大きく息を吸った。
のけ反るような姿勢から俺をじっくり眺め、弾みをつけて頭を下げる。
「すまない。貴殿の協力、感謝する」
「わかりゃいいんだよ、わかりゃあ」
自営軍の生き残りが十字軍を捕らえていく。
全員を地下牢にぶち込んで、十字軍たちとロケッティア団長、俺とピィで話をすることになった。
俺は牢の外で仁王立ちになり、牢の中の無様な十字軍を見下ろした。
「聞きたいことは山ほどある。が、まずは俺たちが巻き込まれた理由を聞かせてもらおうか」
俺の後ろでピィはブルブル震えながらホットチョコレートを飲み、ロケッティア団長がそんなピィを慰めている。
十字軍の親玉は、苦虫をかみつぶしたような表情でボソボソと言った。
「……巫女を見つけたから攻めたまでだ……」
「ああ? 声が小さくて聞こえねえなあ! もっとデケエ声で喋れや、軍人だろうがボケ!」
「貴様! 軍幹部相手にその口の利き方はなんだ!」
「うっせぇボケ! 幹部なんか知るか! 捕虜の癖にデケエ態度とるんじゃねえぞコラ!」
十字軍の奴らは歯がゆそうに俺をねめつけている。
いい気味だ。
勝手に争いに巻き込んでおいて、謝罪もしねえような奴なんざ、この扱いでじゅうぶんなんだよクソが。
「で? 巫女ってなんなんだよ」
俺の問いに、ピィも「ウチも聞きたいネ」と声を震わせた。
十字軍の親玉があぐらをかき、デケエ態度で俺を睨む。
「巫女は巫女だ。聖枢機院で働く女。主に聖女様の身の回りの世話をしておる」
「聖女様ってのは?」
「司祭様と同格の女性を指す」
「俺、聖女なんて役職、聞いたことねえんだけど」
司祭はわかる。
俺の村にも数年に1回くらい巡回に来て、祝福を授けてくれる。でもみんなジジイだ。女なんかいない。
「聖女様の役目は王族たちの祝福。一般人は知らなくて当然だ」
「へえ、王家専属の聖職者ってわけか」
俺はチラッとピィを見た。
相変わらずピィはウルフの皮を服にしている。
――コレを王家専属の聖職者だと思うか、普通。
王家専属の聖職者がこんな格好でウロチョロしてたら大問題だろ。
っつうか、この格好でよくピィを巫女だと思ったな。どちらかといえば性職者じゃねえか。
「テメエら、なんでコイツを巫女だと思ったんだよ」
「なんでもなにも、そやつは巫女だ」
「いや巫女じゃねえよ。理由になってねえぞ」
だってピィは元ジャックラビットだ。
巫女なわけあるか。
「しかしその顔、その髪、その体型。まちがいなく聖枢機院の巫女、ベアトリーチェだ」
「は?」
俺はもう一度ピィを見る。
顔。人間らしい顔だ。
髪。人間らしいフワフワのブロンドだ。
体型。どう見ても人間だ。
だが、ベア……誰だって?
「いや、だってこいつは」
「十字軍団長!」
俺の言葉をさえぎって、ロケッティア団長が声を上げた。
「お言葉ですが、この女にはラビットのような耳が生えている。人間の耳は持っていない。しかし巫女ベアトリーチェは、人間のはずでは?」
「ベアトリーチェは人間だ。いかにも」
「ではこの耳をどう考える。この女は巫女ベアトリーチェではない、と考えるのが妥当ではないのか」
ロケッティア団長の指摘に、十字軍の親玉は口をつぐむ。
それからなんとか「しかしこの者は、聖枢機院の鞄を背負っておったのだ」と絞り出し、巫女だと言い張る。
馬鹿らしい。鞄がなんだ。うさ耳の方が重要だろ。
その他の軍人たちも、それに気付いているのだろう。みんな一様に首をかしげている。
しばらくして、指摘したロケッティア団長までも首をかしげた。
ピィにを見て、口を開く。
「おぬし、何者だ? 人間……では、ないのか?」




