第9章5
2026年4月19日 午前6時00分
**東京・国立エネルギー研究所**
優希は、徹夜で10万人集会の計画を練っていた。
ホワイトボードには、細かいスケジュールと役割分担が書き込まれていた。
田中健吾が、大量のコーヒーを持って入ってきた。
「優希、ヤバいぞ。SNSが爆発してる」
「え?」
健吾は、スマートフォンを見せた。
Twitter(現X)のトレンド1位に、**#10万人で未来を変える** が入っていた。
「昨夜から拡散し始めて、今朝には10万ツイート超えた」
「マジか……」
優希は、投稿を見た。
『佐藤優希さんを応援します!10万人集会、絶対行く!』
『私も参加する。日本を変えよう』
『外国人だけど、行っていいですか?』→『もちろん!みんなで行こう!』
次々と、賛同の声が広がっていた。
「これ……本当に10万人、集まるかもしれない」健吾が呟いた。
「でも、一週間で準備できるか?」
その時、早川美咲が息を切らして入ってきた。
「優希!大変よ!」
「何が?」
「石橋副長官から連絡があったの。政府内の統合案支持派が、集会の許可を出してくれるって」
「本当か!」
「ええ。それに、警備も全面協力してくれる」
優希は立ち上がった。
「よし……いける」
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**2026年4月19日 午前10時00分**
**東京・新宿区 在日外国人コミュニティセンター**
リー・ジュンホが、緊急集会を開いていた。
会議室には、約200人の在日外国人コミュニティのリーダーたちが集まっていた。
「みんな、聞いてくれ」ジュンホは立ち上がった。「今日から一週間、我々は総力戦に入る」
「10万人集会を成功させるため、全員が動く」
ワン・シュウが立ち上がった。
「ジュンホさん、本当に10万人集まるのか?」
「分からない」ジュンホは正直に答えた。「でも、やるしかない」
ワン・シュウは、しばらく考えてから言った。
「……俺も協力する」
「ワン……」
「佐藤優希のことは、まだ完全には信じてない」ワン・シュウは言った。「でも、あいつが諦めないなら、俺も諦めない」
ジュンホは、ワン・シュウの肩を叩いた。
「ありがとう」
グエン・ティ・ランが立ち上がった。
「私、看護師ネットワークで5000人に声をかけます」
カルロス・サントスも立ち上がった。
「工場労働者、3000人は集められる」
キム・ミンジュが立ち上がった。
「飲食店経営者仲間、2000人はいける」
次々と、コミュニティリーダーたちが動員数を宣言した。
「よし」ジュンホは拳を握りしめた。「在日外国人コミュニティだけで、3万人は集められる」
「残り7万人は、日本人に呼びかける」
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**2026年4月20日 午後2時00分**
**大阪・梅田駅前**
優希、健吾、美咲の三人は、街頭で集会への参加を呼びかけていた。
「皆さん、聞いてください!」優希がメガホンで叫んだ。
通行人が足を止めた。
「4月25日、東京・国会前で10万人集会を開きます!日本の未来を決める集会です!」
「私たちは、日本人と外国人が共に生きる社会を作りたい!そのために、皆さんの力が必要です!」
ある中年女性が声をかけてきた。
「あの……私も参加していいんですか?」
「もちろんです!」優希は笑顔で答えた。
「私、前の対話集会に参加したんです。すごく良かった。だから、もっと多くの人に知ってほしくて」
「ありがとうございます!」
女性は、友人たちに電話をかけ始めた。
「ねえ、みんな!25日、東京行かない?」
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**2026年4月21日 午前9時00分**
**名古屋・栄**
田中健吾が、IT企業の友人たちと街頭活動をしていた。
「みんな、拡散頼む!#10万人で未来を変える、だ!」
「任せろ!」
IT企業のネットワークは強力だった。
あっという間に、Twitter、Facebook、Instagram、TikTok——あらゆるSNSで拡散された。
特に、TikTokでのバイラル動画が効果的だった。
若い女性が、対話集会での感動的なシーンを編集し、音楽をつけた動画が、200万回再生を超えた。
「えぐい……」健吾は驚いた。「若者、めっちゃ動いてる」
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**2026年4月22日 午後3時00分**
**福岡・天神**
早川美咲が、元同僚の外務省職員たちと会っていた。
「美咲、本気なの?10万人なんて……」
「本気よ。というか、もう後がないの」
美咲は、真剣な目で仲間たちを見た。
「藤堂総理は辞任した。次は桜井さんが総理になる。そうなれば、統合案は完全に廃止される」
「でも——」
「お願い」美咲は頭を下げた。「力を貸して」
元同僚たちは、顔を見合わせた。
やがて、一人が立ち上がった。
「……分かった。外務省ネットワーク、使わせてもらう」
「ありがとう!」
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**2026年4月23日 午前10時00分**
**札幌・大通公園**
北海道でも、地元の大学生たちが動いていた。
「みんな、東京行くぞ!」
「でも、交通費が……」
「大丈夫!カンパで集めよう!」
学生たちは、クラウドファンディングを立ち上げた。
『10万人集会への交通費支援プロジェクト』
目標金額500万円。
24時間で、達成した。
「マジか!日本人、優しすぎる!」
北海道から、約2000人の学生が東京に向かうことが決まった。
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**2026年4月24日 午前6時00分**
**東京・国立エネルギー研究所**
集会前日。
優希は、参加予定者数の集計を見ていた。
「現時点で……8万3000人」
「あと、1万7000人……」健吾が呟いた。
「届くか……?」
その時、優希のスマートフォンが鳴った。
藤堂誠一郎からだった。
「もしもし?」
「佐藤博士、藤堂です」
「総理……いえ、藤堂さん」
「明日の集会、成功を祈っています」
「ありがとうございます」
「それと」藤堂は言った。「私も、参加します」
「え!」
「元総理が参加するのは異例ですが……私は、あなたを信じています」
優希の目に、涙が浮かんだ。
「……ありがとうございます」
電話を切ると、優希は窓の外を見た。
東京の朝日が、昇り始めていた。
「明日……全てが決まる」
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**2026年4月25日 午前8時00分**
**東京・国会前広場**
集会当日。
朝から、人々が続々と集まり始めていた。
日本人、外国人——区別なく、人々が集まってきた。
老人も、若者も、子供連れの家族も。
リー・ジュンホが、コミュニティメンバーたちと到着した。
「すごい人だ……」
グエン・ティ・ランが感動の声を上げた。
「本当に……10万人、集まるかもしれない」
カルロス・サントスが、ブラジル人労働者たちを引き連れてきた。
「よう、ジュンホ!」
「カルロス!」
二人は、抱き合った。
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**2026年4月25日 午前10時00分**
**国会前広場**
広場は、人で埋め尽くされていた。
警察の発表によると、現時点で約7万人。
そして、まだ増え続けていた。
優希は、ステージの裏で、深呼吸をしていた。
「緊張してる?」健吾が声をかけた。
「めちゃくちゃ」
「大丈夫だよ。お前なら、できる」
その時、早川美咲が駆けてきた。
「優希!信じられないわ!」
「何が?」
「新幹線、満席よ!全国から、人が来てる!」
「マジか……」
美咲は、涙を流していた。
「みんな、あなたを信じてる」
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**2026年4月25日 午前11時00分**
**国会前広場**
警察の最終集計が出た。
**参加者数:10万3000人**
目標を超えた。
優希は、ステージに上がった。
会場から、大きな歓声が上がった。
「皆さん!」
優希の声が、スピーカーを通じて広場に響いた。
「ありがとうございます!10万人……いや、10万3000人!信じられません!」
会場が、さらに盛り上がった。
「一週間前、俺は負けました。不信任案が可決され、藤堂総理は辞任しました」
「でも」優希は力強く言った。「俺は諦めなかった。そして、皆さんも諦めなかった!」
優希は、会場を見回した。
「今日、ここに集まった10万人は、日本の希望です!」
「日本人も、外国人も——みんな、同じ未来を望んでいる!」
優希は、リー・ジュンホを手招きした。
ジュンホがステージに上がった。
「ジュンホさん、一緒に話しましょう」
二人は、並んで立った。
「皆さん、この方はリー・ジュンホさんです。在日韓国人三世で、在日外国人コミュニティのリーダーです」
ジュンホがマイクを握った。
「私は……今日、この光景を見て、涙が止まりません」
ジュンホの声が震えた。
「10万人が、ここに集まった。日本人と外国人が、一緒に未来を作ろうとしている」
「これが……これが、私たちが夢見た社会です」
会場から、大きな拍手が起こった。
優希が再びマイクを握った。
「明日、総理指名選挙があります。恐らく、桜井晋三さんが総理に選ばれるでしょう」
会場が静まった。
「でも」優希は声を上げた。「もし、この10万人の声を、議員たちが聞いてくれたら——未来は変わるかもしれない!」
優希は、国会議事堂を指差した。
「議員の皆さん!見てください!これが、国民の声です!」
「私たちは、分断を望んでいません!共生を望んでいます!」
優希は、拳を握りしめた。
「お願いします!私たちの声を、聞いてください!」
会場全体が、立ち上がって叫んだ。
「共生を!」
「未来を変えよう!」
「一緒に生きよう!」
10万人の声が、国会議事堂に響いた。
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**2026年4月25日 午後2時00分**
**国会議事堂内**
桜井晋三は、窓から10万人の集会を見下ろしていた。
「……10万人、か」
部下が報告に来た。
「桜井先生、これは……予想外です」
桜井は、黙っていた。
「世論が、動いています。SNSでは、統合案支持の声が急増しています」
桜井は、資料を見た。
最新の世論調査。
統合案への支持率:58%(前回32%から急上昇)
桜井晋三への支持率:41%(前回62%から急落)
「……くそ」
桜井は、資料を握りしめた。
「佐藤優希……お前、まさか本当に——」
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**2026年4月25日 午後3時00分**
**国会議事堂 自民党控室**
田辺議員が、他の議員たちと話していた。
「みんな、見ただろう?10万人だ」
「ああ……信じられない」
「明日の総理指名選挙、どうする?」
議員たちは、顔を見合わせた。
「正直に言う」ある議員が口を開いた。「俺、迷ってる」
「俺も……」
「桜井さんの政策は現実的だ。でも、佐藤博士の理想も……捨てがたい」
田辺が立ち上がった。
「みんな、聞いてくれ」
全員が田辺を見た。
「俺は、佐藤博士に投票する」
「田辺さん!」
「桜井さんには申し訳ないが、俺は国民の声を聞きたい」
田辺は、窓の外を見た。
「あの10万人が、俺たちに何を求めているか——分かるだろう?」
議員たちは、黙って頷いた。
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**2026年4月25日 午後6時00分**
**東京・国立エネルギー研究所**
集会が終わり、優希は研究室に戻っていた。
疲労困憊だったが、心は軽かった。
「10万人……本当に、集まった」
健吾が缶ビールを差し出した。
「お疲れ、優希」
「ありがとう」
二人は、窓の外を見ながらビールを飲んだ。
「明日、どうなると思う?」健吾が聞いた。
「……分からない」優希は正直に答えた。「でも、やるだけのことはやった」
「そうだな」
優希のスマートフォンが鳴った。
母からだった。
「もしもし?」
「優希!テレビ見たわよ!すごかったわね!」
「うん……」
「お父さんもね、『優希は本当に頑張ってる』って泣いてたのよ」
優希の目に、涙が浮かんだ。
「……ありがとう、母さん」
「明日、頑張りなさい。でも、無理はしないでね」
「うん」
電話を切ると、優希は深呼吸した。
「明日……全てが決まる」
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**2026年4月26日 午前10時00分**
**国会議事堂 本会議場**
総理指名選挙の日。
議場は、異様な緊張に包まれていた。
候補者は二人。
桜井晋三と——藤堂誠一郎が推薦する、石橋恵子副長官。
石橋は、統合案支持派の切り札として、急遽立候補していた。
議長が立ち上がった。
「これより、内閣総理大臣指名選挙を行います」
投票が始まった。
議員たちが、一人ずつ投票用紙を投票箱に入れていく。
田辺議員が、投票用紙に書いた。
**石橋恵子**
他の議員たちも、次々と投票していく。
優希は、傍聴席から固唾を飲んで見守っていた。
「頼む……」
投票が終わり、開票が始まった。
議長が、票を数えていく。
「桜井晋三……1票」
「石橋恵子……1票」
「桜井晋三……1票」
「桜井晋三……1票」
「石橋恵子……1票」
拮抗していた。
優希の心臓が、激しく鳴っていた。
やがて、開票が終わった。
議長が、結果を読み上げた。
「桜井晋三……243票」
会場がざわめいた。
「石橋恵子……245票」
優希の目が、見開かれた。
「よって、第100代内閣総理大臣に、石橋恵子氏が指名されました」
議場が、どよめいた。
優希は、その場で崩れ落ちそうになった。
勝った。
わずか2票差だったが——勝った。
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**2026年4月26日 午後3時00分**
**首相官邸 記者会見場**
石橋恵子が、新総理として記者会見を開いた。
「本日、私は内閣総理大臣に指名されました」
石橋の声は、落ち着いていて力強かった。
「私は、藤堂前総理の意志を継ぎ、統合案を継続します」
記者たちが、一斉にフラッシュを焚いた。
「昨日、国会前に10万人が集まりました。日本人と外国人が、共に未来を作ろうとしている」
石橋は、カメラを見た。
「これが、国民の声です。私は、この声に応えます」
石橋は、深く一礼した。
「佐藤優希博士、そして国民の皆様——私を信じてください」
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**2026年4月26日 午後6時00分**
**東京・国立エネルギー研究所**
優希は、仲間たちと共に、勝利を祝っていた。
「やった!やったぞ!」健吾が叫んだ。
「信じられない……」美咲が涙を流していた。
リー・ジュンホが、優希の肩を叩いた。
「佐藤博士、おめでとうございます」
「ジュンホさん……ありがとうございます」
二人は、抱き合った。
グエン、カルロス、ワン・シュウ、キム——みんなが、喜びを分かち合っていた。
「でも」優希は、みんなを見た。「これで終わりじゃない」
全員が、優希を見た。
「本当の戦いは、これからだ」
優希は、窓の外を見た。
「統合案を、本当に実現する。日本人と外国人が、共に生きる社会を作る」
優希は、拳を握りしめた。
「そのために、もっと頑張らないといけない」
ジュンホが微笑んだ。
「私たちも、一緒に頑張ります」
全員が、頷いた。
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**2026年4月26日 午後10時00分**
**永田町 桜井晋三の執務室**
桜井晋三は、一人で書類を整理していた。
負けた。
わずか2票差で、負けた。
部下が、部屋に入ってきた。
「桜井先生……」
「もういい」桜井は手を振った。「帰ってくれ」
部下が去った後、桜井は窓から夜景を見た。
「佐藤優希……お前は、本物だったか」
桜井は、苦笑した。
「理想で、現実を変えた。信じられない」
桜井は、書類を閉じた。
「しかし」
桜井の目が、鋭くなった。
「これで終わりだと思うな。現実は、そう甘くない」
桜井は、新しい資料を取り出した。
そこには、『長期戦略・第二段階』と書かれていた。
「優希くん、君の理想が本物かどうか——これから試される」
桜井の目は、依然として冷たかった。
---
**2026年4月27日 午前8時00分**
**東京・首相官邸**
石橋恵子新総理が、優希を呼んでいた。
「佐藤博士、おめでとうございます。あなたの活動がなければ、私は総理になれませんでした」
「いえ、総理こそ」
石橋は微笑んだ。
「これから、統合案を本格的に実行します。あなたの力が必要です」
「はい」
石橋は、資料を渡した。
「新内閣で、『多文化共生担当大臣』という新しいポストを作ります」
「え?」
「あなたに、就任してほしいのです」
優希は驚いた。
「俺が……大臣?」
「そうです」石橋は頷いた。「あなた以上に、適任な人はいません」
優希は、資料を見た。
「……お受けします」
優希は、石橋総理の目を見た。
「必ず、統合案を実現させます」
「期待しています」
二人は、握手を交わした。
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**2026年4月30日 午前10時00分**
**東京・新宿区 在日外国人コミュニティセンター**
優希は、コミュニティメンバーたちに報告をしていた。
「みんな、聞いてください。俺、多文化共生担当大臣に就任することになりました」
会場が、どよめいた。
「すごい!」
「おめでとうございます!」
リー・ジュンホが立ち上がった。
「佐藤博士、私たちも協力します」
「ありがとうございます」
優希は、会場を見回した。
「でも、これからが本当の勝負です」
「治安、雇用、文化——全ての問題を、一つずつ解決していかなければなりません」
優希は、深呼吸した。
「時間がかかるかもしれません。失敗するかもしれません」
「でも」優希は力強く言った。「諦めません」
会場全体が、立ち上がって拍手した。
---
**2026年5月1日 午前8時00分**
**東京・国立エネルギー研究所**
新しい朝。
優希は、研究室で新しい計画を練っていた。
田中健吾が、コーヒーを持ってきた。
「大臣様、コーヒーどうぞ」
「やめろよ」優希は笑った。
「いやー、でもすごいな。お前、本当に大臣になっちゃったよ」
「まだ実感ないけどな」
二人は、窓の外を見た。
東京の朝は、いつもと変わらなかった。
でも、何かが変わり始めていた。
「健吾」
「ん?」
「俺たち、やり遂げられるかな?」
健吾は、優希の肩を叩いた。
「やり遂げるさ。お前なら、できる」
優希は微笑んだ。
「……ありがとう」
優希は、新しい一日を始めた。
J-リセット後の日本——
理想と現実が交差する、新しい社会を作るために。
優希の戦いは、まだ続く。




