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J-リセット:日本人だけの地球再設計   作者: 月城 リョウ
第6章:新世界の光と影
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第6章5

一月六日、午前十時。首相官邸・会議室。


藤堂総理、桜井、石橋副長官、そして優希が集まっていた。


「佐藤君」


藤堂総理が、口を開いた。


「昨日の対話集会、見事だった」


「ありがとうございます」


優希は、頭を下げた。


「そして――」


藤堂総理は、資料を見た。


「君の提案。段階的多言語共存案、閣議で承認された」


「本当ですか!?」


「ああ」


藤堂総理は、笑った。


「これで、日本語化計画は見直される。完全な日本語化ではなく、多言語との共存だ」


「よかった......」


優希は、安堵のため息をついた。


「ただし」


桜井が、口を挟んだ。


「これは、妥協案に過ぎない」


「......」


「根本的な問題は、解決していない」


桜井は、腕を組んだ。


「日本人と在日外国人の対立。それは、言語だけの問題じゃない」


「わかっています」


優希は、桜井を見た。


「でも、一歩ずつ進むしかありません」


「一歩ずつ、か」


桜井は、冷笑した。


「その間に、また衝突が起きるかもしれない」


「それは――」


「起きないように、努力します」


優希は、拳を握った。


「僕は、諦めません」


桜井は、優希を見つめた。


そして――


「......好きにしろ」


桜井は、立ち上がった。


「だが、覚えておけ。理想だけでは、世界は動かない」


桜井は、部屋を出ていった。


藤堂総理は、ため息をついた。


「桜井大臣も、納得していないようだな」


「......はい」


「気をつけたまえ」


藤堂総理は、優希を見た。


「彼は、まだ何か企んでいる」


「わかっています」


優希は、頷いた。


---


**同日、午後三時。在日外国人コミュニティセンター。**


リー・ジュンホは、緊急会議を開いていた。


集まったのは、各国のコミュニティ代表。


そして――チャン・ウェイもいた。


「皆さん」


リーが、口を開いた。


「昨日の対話集会、そして政府の決定を受けて、我々も方針を決めなければなりません」


リーは、資料を見せた。


「段階的多言語共存案。これに、賛成しますか?」


沈黙。


そして――


パク・ジョンスが、手を上げた。


「私は、賛成です」


「パクさん......」


「完璧ではありません。でも、前進です」


パクは、全員を見回した。


「佐藤先生は、我々の声を聞いてくれました。それに、応えるべきです」


「私も賛成です」


グエン・ティ・ランも、手を上げた。


「私たちの文化も尊重される。それだけで、十分です」


次々と、手が上がった。


カルロス、アフマド、そして――


多くのコミュニティ代表。


最後に、チャン・ウェイが立ち上がった。


「......私も、賛成します」


「チャンさん......」


「ただし」


チャンは、全員を見回した。


「これで終わりではありません」


「......」


「我々は、これからも権利を主張し続けます」


チャンは、拳を握った。


「いつか、完全な平等を勝ち取るまで」


リーは、チャンを見た。


そして――笑った。


「ええ。それでいいと思います」


「リーさん......」


「我々は、戦い続けます。でも――」


リーは、全員を見回した。


「暴力ではなく、対話で」


「対話、か」


チャンは、苦笑した。


「昨日の集会を見て、少しだけ――対話の力を信じるようになりました」


「よかった......」


リーは、安堵した。


「では、決定です。我々は、段階的多言語共存案を支持します」


拍手が起こった。


---


**一月十日、午後六時。東京・国立競技場。**


「多文化共生フェスティバル」が開催されていた。


対話集会の成功を受けて、政府と在日外国人コミュニティが共同で企画したイベントだ。


スタジアムには、様々な国の屋台が並んでいる。


中華料理、韓国料理、ベトナム料理、ブラジル料理......


そして、日本料理。


ステージでは、各国の音楽や踊りが披露されている。


優希は、美咲と一緒に会場を歩いていた。


「すごい人ですね」


美咲が、笑った。


「約五万人が来場しているそうです」


「五万人......」


優希は、周りを見た。


日本人も、外国人も、みんな笑顔だ。


子供たちが、一緒に遊んでいる。


「綺麗事かもしれませんけど」


優希は、呟いた。


「こういう光景が、続けばいいなって思います」


「続きますよ」


美咲は、優希の手を握った。


「あなたが、そう願っているんですから」


優希は、美咲を見た。


そして――笑った。


「......ありがとうございます」


二人は、しばらく会場を歩いた。


「あ、佐藤先生!」


声がした。


振り返ると、中国人の女性――対話集会で発言した女性が、子供と一緒に立っていた。


「こんにちは」


優希は、笑顔で応えた。


「お子さん、元気そうですね」


「ええ」


女性は、子供の頭を撫でた。


「最近、学校で中国語の授業が始まったんです」


「本当ですか?」


「はい。週に一回ですけど」


女性の目には、涙が浮かんでいた。


「それだけで、嬉しいです。ありがとうございます」


「いえ、僕は――」


「あなたのおかげです」


女性は、深く頭を下げた。


「本当に、ありがとうございます」


女性と子供は、去っていった。


優希は、その背中を見ていた。


「佐藤先生」


美咲が、優希を見た。


「やっぱり、あなたは正しかったですね」


「......そうでしょうか」


「ええ」


美咲は、笑った。


「あの女性の笑顔が、証明しています」


優希は、空を見上げた。


夕日が、美しかった。


「僕、まだまだやることがあります」


「はい」


「でも――」


優希は、拳を握った。


「少しずつ、前に進めている気がします」


「ええ」


美咲は、優希の手を握った。


「一緒に、進みましょう」


「はい」


二人は、手を繋いだまま、会場を歩き続けた。


---


**同日、午後九時。桜井の執務室。**


桜井晋三は、窓の外を見ていた。


遠くに、国立競技場の明かりが見える。


「多文化共生フェスティバル、か」


桜井は、呟いた。


「馬鹿げている」


桜井は、机に戻った。


そして――引き出しを開けた。


中には、一枚の書類。


『新世界秩序法案(最終稿)』


「佐藤優希。お前は、甘い」


桜井は、書類を見つめた。


「多文化共生? 綺麗事だ」


桜井は、拳を握った。


「この世界に必要なのは、秩序だ。強いリーダーシップだ」


「そして――」


桜井は、不敵に笑った。


「それを示す時が、来た」


桜井は、インターホンを押した。


「はい」


秘書の声。


「明日、緊急記者会見を開く。準備しろ」


「了解しました」


桜井は、椅子に深く座った。


「佐藤優希。お前の時代は、もうすぐ終わる」


---


**一月十一日、午前十時。全国放送。**


桜井晋三が、緊急記者会見を開いた。


「国民の皆様」


桜井の声が、響いた。


「本日、重要な発表があります」


カメラのフラッシュが焚かれる。


「私は、新しい法案を提出します」


スクリーンに、法案の名前が表示される。


『新世界秩序法案』


「この法案の目的は、秩序の確立です」


桜井は、資料を見せた。


「具体的には――」


**第一条:統一政府の設立**

- 日本政府を中心とした、世界統一政府を設立する


**第二条:地域管理の明確化**

- 世界を複数の地域に分割し、それぞれに管理者を配置する


**第三条:資源の中央管理**

- 全ての資源を政府が管理し、計画的に配分する


**第四条:移動の制限**

- 治安維持のため、地域間の移動には許可を必要とする


「そして――」


桜井は、カメラを見た。


「第五条:国籍の再定義」


桜井の目が、鋭くなった。


「全ての人間を、『日本国民』として統合する」


ざわめきが起こった。


「つまり」


桜井は、続けた。


「在日外国人も、日本国民となる。国籍の違いは、なくなる」


「一見、平等に見えます。しかし――」


桜井は、次のスライドを表示した。


「日本国民としての義務を果たさなければなりません」


**義務:**

- 日本語の習得(義務教育)

- 日本の法律への完全な服従

- 政府の指示への絶対服従


「これが」


桜井は、宣言した。


「新世界秩序です」


---


**同時刻。優希のマンション。**


優希は、テレビを見ていた。


桜井の会見を。


「なんだ、これ......」


優希は、立ち上がった。


「統一政府? 絶対服従?」


優希は、拳を握った。


「これは......独裁だ......」


スマートフォンが鳴った。


美咲からだ。


「もしもし」


『佐藤先生! 見ましたか!?』


「見ました」


『これ、明らかに独裁体制です!』


美咲の声は、怒りに満ちていた。


『桜井大臣、何を考えているんですか!?』


「......わかりません」


優希は、テレビを見た。


桜井の顔が、映っている。


「でも――」


優希は、拳を握った。


「止めなければなりません」


『どうやって?』


「わかりません。でも――」


優希は、窓の外を見た。


「もう一度、戦います」


---


**午後三時。在日外国人コミュニティセンター。**


緊急会議が開かれていた。


リー、パク、アフマド、ワン、グエン、カルロス、そしてチャン。


全員が、集まっていた。


「皆さん、見ましたね」


リーが、口を開いた。


「桜井大臣の法案」


「ふざけるな!」


チャンが、机を叩いた。


「『日本国民として統合』? これは、同化政策だ!」


「我々のアイデンティティを、奪うつもりだ」


ワンも、怒りを露わにした。


「これは、絶対に許せない」


「でも」


パクが、冷静に言った。


「この法案、世論はどう見るでしょうか」


「......」


全員が、黙った。


「一見、平等に見えます」


パクは、資料を見た。


「『全員が日本国民』。差別はない、と言える」


「でも、実態は同化だ」


リーは、拳を握った。


「我々の文化、言語、全てを捨てさせるつもりだ」


「どうする?」


チャンが、リーを見た。


「また、佐藤優希に頼るのか?」


「......」


リーは、考えた。


「佐藤先生は、味方です」


「本当に?」


チャンは、疑わしげに言った。


「彼は、日本政府の人間だ。いざとなれば、政府の側につくんじゃないか」


「違います」


リーは、チャンを見た。


「佐藤先生は、正義の人です。この法案には、反対するはずです」


「......信じていいのか?」


「信じます」


リーは、立ち上がった。


「そして、一緒に戦います」

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