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J-リセット:日本人だけの地球再設計   作者: 月城 リョウ
第6章:新世界の光と影
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第6章4

一月二日。優希のマンション。


優希は、三日間部屋に閉じこもっていた。


食事もろくに取っていない。


シャワーも浴びていない。


ただ、ソファに座って――天井を見つめていた。


「僕は......間違っていたのか......」


呟く。


リーの言葉が、頭から離れない。


『もう、日本政府を信じられなくなりました』


「信じられない......か」


優希は、目を閉じた。


ドアチャイムが鳴った。


無視する。


また、鳴る。


しつこい。


「......誰だ」


優希は、重い体を引きずってドアへ向かった。


開けると――


健吾、美咲、田村、パク、アフマドが立っていた。


「よう、優希」


健吾が、笑った。


「三日も連絡ないから、心配したぜ」


「みんな......」


「佐藤先生」


美咲が、心配そうに優希を見た。


「顔色、最悪ですよ」


「......すみません」


「謝るな」


田村が、前に出た。


「俺たち、話があって来たんです」


「話......」


「中に入れてくれませんか?」


「......どうぞ」


---


リビングに、六人が座った。


健吾が、コンビニで買ってきた弁当を配る。


「ほら、食え」


「......ありがとうございます」


優希は、弁当を開けた。


久しぶりの食事。


みんな、黙って食べる。


食べ終わった後。


田村が、口を開いた。


「佐藤先生」


「はい」


「先生、諦めるんですか?」


「......」


「リーさんが離れたから、もう終わりですか?」


田村の声は、厳しかった。


「そんなつもりは――」


「じゃあ、なんで三日も引きこもってるんですか」


「......」


優希は、何も言えなかった。


「佐藤先生」


パク・ジョンスが、口を開いた。


「私も、今苦しんでいます」


「パクさん......」


「日本語化計画。それは、私の心を痛めます」


パクは、拳を握った。


「でも――私は、あなたを信じています」


「......」


「あなたは、正しいことをしようとしている。それは、間違いありません」


パクは、優希を見た。


「だから、諦めないでください」


「パクさん......」


「私もです」


アフマドも、続けた。


「日本語化は、私たちにとって辛いです。でも、必要なことも理解しています」


アフマドは、笑った。


「だから、一緒に考えましょう。どうすれば、みんなが納得できるか」


優希は、みんなを見た。


健吾、美咲、田村、パク、アフマド。


みんな、自分を信じてくれている。


「みんな......」


優希の目から、涙が溢れた。


「ありがとう......」


「泣くな」


健吾が、笑った。


「お前が泣いてどうすんだよ」


「......はい」


優希は、涙を拭った。


「僕、決めました」


優希は、立ち上がった。


「対話集会を開きます」


「対話集会?」


「はい」


優希は、ホワイトボードを取り出した。


「日本人と在日外国人が、本音で話し合う場を作ります」


優希は、図を描き始めた。


「場所は、国立競技場。参加者は、誰でも自由に」


「そして――」


優希は、振り返った。


「僕が、司会をやります」


「本気か?」


健吾が、尋ねた。


「本気です」


優希は、拳を握った。


「一週間の期限まで、あと四日。その間に、必ず成果を出します」


「でも、リーさんは――」


「リーさんにも、来てもらいます」


優希は、決意の目をしていた。


「もう一度、話し合います」


---


**一月三日、午前十時。在日外国人コミュニティセンター。**


優希は、一人でセンターを訪れた。


受付で、リーを呼んでもらう。


しばらくして――


リーが現れた。


「佐藤先生......」


リーの顔は、疲れていた。


「リーさん、お話があります」


「......聞くだけ、聞きます」


二人は、会議室に入った。


「リーさん」


優希は、まっすぐリーを見た。


「対話集会を開きます」


「対話集会......」


「はい。一月五日、国立競技場で」


優希は、資料を見せた。


「日本人も、在日外国人も、誰でも参加できます」


「そこで、何を?」


「本音で、話し合います」


優希は、拳を握った。


「日本語化について、文化について、共生について――全て」


リーは、資料を見た。


「......無駄だと思います」


「なぜですか?」


「もう、対立は深すぎます」


リーは、優希を見た。


「話し合っても、何も変わりません」


「変わります」


優希は、即答した。


「人は、話せばわかり合えます」


「理想論です」


「理想論でも、やります」


優希は、リーの手を握った。


「お願いです。もう一度、信じてください」


リーは、優希の目を見た。


そこには――


迷いのない、強い意志。


「......わかりました」


リーは、ため息をついた。


「最後のチャンスです。これで駄目なら、私は本当に諦めます」


「ありがとうございます」


優希は、深く頭を下げた。


---


**一月四日。全国放送。**


優希が、記者会見を開いた。


「国民の皆様、そして在日外国人の皆様」


優希の声が、響いた。


「明日、一月五日、午後二時より、国立競技場にて『対話集会』を開催します」


カメラのフラッシュが焚かれる。


「この集会は、日本人と在日外国人が本音で話し合う場です」


「日本語化について、文化について、共生について――何でも話し合います」


優希は、カメラを見た。


「参加は、自由です。どなたでも来てください」


「そして――」


優希は、深呼吸をした。


「お願いします。争うのではなく、理解し合いましょう」


「私たちは、同じ地球に残された、最後の人類です」


優希は、拳を握った。


「だから、一緒に未来を作りましょう」


---


**一月五日、午後一時。国立競技場・楽屋。**


優希は、鏡の前に座っていた。


手が、震えている。


「緊張するな......」


ノックの音。


「入ってます」


美咲が入ってきた。


「もうすぐ、開始ですよ」


「......はい」


「大丈夫ですか?」


「大丈夫じゃないです」


優希は、正直に答えた。


「怖いんです。失敗したら、もう後がない」


美咲は、優希の隣に座った。


「佐藤先生」


「はい」


「あなたは、一人じゃありません」


美咲は、優希の手を握った。


「私がいます。健吾さんも、田村さんも、パクさんも、アフマドさんも――みんな、あなたの味方です」


「......」


「だから」


美咲は、優希の目を見た。


「自信を持ってください」


優希は、美咲を見た。


そして――笑った。


「......ありがとうございます」


優希は、立ち上がった。


「行ってきます」


---


**午後二時。国立競技場・フィールド。**


優希がステージに上がると――


スタンドには、約三万人が集まっていた。


日本人、中国人、韓国人、ベトナム人、フィリピン人、ブラジル人......


様々な国籍の人々。


「すごい......」


優希は、その光景に圧倒された。


マイクの前に立つ。


「皆様」


優希の声が、スタジアムに響いた。


「本日は、お集まりいただき、ありがとうございます」


拍手が起こった。


「今日は、本音で話し合いましょう」


優希は、スタンドを見回した。


「日本語化について、文化について、共生について――何でも」


「そして――」


優希は、深呼吸をした。


「まず、私から謝ります」


優希は、深く頭を下げた。


「日本語化計画。それは、在日外国人の皆さんを傷つけました」


「......」


「私は、配慮が足りませんでした。皆さんの気持ちを、十分に考えませんでした」


優希は、顔を上げた。


「本当に、申し訳ありませんでした」


沈黙。


そして――


拍手が起こった。


小さな拍手が、徐々に大きくなる。


「では」


優希は、マイクを握った。


「皆さんの意見を、聞かせてください」


「まず、在日外国人の方から」


一人の中国人女性が、手を上げた。


スタッフが、マイクを渡す。


「私は......中国から来ました」


女性の声は、震えていた。


「日本語化......辛いです」


「私の子供は、中国語を話せません。もう、私と中国語で会話できないんです」


女性の目から、涙が溢れた。


「それが......とても、悲しいです」


スタンド全体が、静まり返った。


優希は、マイクを握った。


「......お子さんに、中国語を教えることはできませんか?」


「できません」


女性は首を振った。


「学校では日本語。友達とも日本語。子供は、中国語を学ぶ必要を感じないんです」


「......」


「だから」


女性は、優希を見た。


「お願いです。多言語教育を認めてください」


拍手が起こった。


次に、日本人の男性が手を上げた。


「俺は、日本人です」


男性の声は、荒かった。


「正直、外国人が嫌いです」


ざわめきが起こった。


「黙って聞いてください」


男性は、続けた。


「俺の父親は、消失で死にました。アメリカ出張中でした」


「......」


「でも、ここにいる外国人は生きてる。なんで、日本にいた外国人だけが残ったんだ?」


男性の声が、震えた。


「それが、納得できないんです」


沈黙。


重い、重い沈黙。


優希は、マイクを握った。


「......お気持ち、わかります」


優希の声も、震えていた。


「でも、それは――在日外国人の方々のせいではありません」


「わかってます」


男性は、拳を握った。


「わかってるけど......感情が、追いつかないんです」


男性は、座った。


優希は、何も言えなかった。


次々と、手が上がった。


韓国人の老人。


「私は、韓国語で育ちました。韓国語で考え、韓国語で夢を見ます。それを奪わないでください」


ベトナム人の若者。


「僕は、ベトナムの家族を失いました。でも、ベトナム語だけは残したいんです」


日本人の主婦。


「私の近所に、中国人が多く住んでいます。彼らは、大声で話します。怖いんです」


中国人の男性。


「大声? それは、中国の文化です。悪いことじゃありません」


次々と、意見が出る。


怒り、悲しみ、不安、希望――


様々な感情が、ぶつかり合う。


優希は、それを全て聞いていた。


そして――


午後五時。


三時間が経過した。


「皆さん」


優希が、マイクを握った。


「たくさんの意見、ありがとうございました」


優希は、深呼吸をした。


「正直、簡単な答えはありません」


「日本語化も、多言語共存も、どちらも一長一短です」


「でも――」


優希は、スタンドを見回した。


「今日、私は気づきました」


「何に、ですか?」


誰かが、尋ねた。


「話せば、わかり合えるということです」


優希は、笑った。


「皆さん、今日初めて本音で話しました。日本人も、外国人も」


「そして――」


優希は、拳を握った。


「お互いの痛みを、知りました」


スタンドが、静まり返った。


「これが、第一歩だと思います」


優希は、宣言した。


「日本語化計画、見直します」


ざわめきが起こった。


「完全な日本語化ではなく、段階的な多言語共存を目指します」


「具体的には――」


優希は、資料を見せた。


「公用語は日本語。でも、重要な標識や案内は、多言語表記を認めます」


「学校教育では、日本語を基本としますが、母国語教育の時間も設けます」


「そして――」


優希は、全員を見回した。


「在日外国人の文化を尊重します。祭り、料理、音楽――全て」


拍手が起こった。


だが――


一人の男が立ち上がった。


チャン・ウェイだ。


「待て」


チャンの声が、響いた。


「それで、十分だと思うのか?」


「......チャンさん」


リーが、立ち上がった。


「これは、妥協案です。双方が歩み寄った結果です」


「妥協?」


チャンは、冷笑した。


「我々が、また譲歩するのか?」


チャンは、スタンドを見回した。


「在日外国人の皆さん、聞いてください」


「この案は、まだ日本語が中心です。我々の言語は、『補助』に過ぎない」


「それで、いいんですか?」


ざわめきが起こった。


優希は、拳を握った。


「チャンさん」


「何だ」


「あなたの言いたいことは、わかります」


優希は、チャンを見た。


「完全な平等を求めている。それは、正しい」


「ならば――」


「でも」


優希の声が、強くなった。


「現実を見てください」


「現実?」


「はい」


優希は、スタンドを指した。


「ここにいる日本人は、約一億二千万人。在日外国人は、約三百四十万人」


「数の差が、約三十五倍です」


優希は、チャンを見た。


「多数決の世界では、少数派は不利です。それが、現実です」


「だから、諦めろと?」


「いいえ」


優希は首を振った。


「諦めるんじゃない。現実を受け入れた上で、最善を目指すんです」


「......」


「完璧な平等は、今すぐには無理です。でも――」


優希は、拳を握った。


「少しずつ、近づけます。一歩ずつ、前進します」


「それが――」


優希は、全員を見回した。


「僕たちにできることです」


沈黙。


そして――


拍手が起こった。


最初は小さく。


でも、徐々に大きくなる。


チャン・ウェイは、しばらく立ち尽くしていた。


そして――


座った。


「......わかった」


チャンは、小声で言った。


「お前の案を、受け入れよう」


優希は、安堵のため息をついた。


「ありがとうございます」


---


**午後六時。対話集会、終了。**


優希は、ステージから降りた。


疲労困憊。


でも――


心は、軽かった。


「佐藤先生!」


美咲が、駆け寄ってきた。


「やりましたね!」


「......ええ」


優希は、笑った。


「何とか、なりました」


健吾、田村、パク、アフマドも、集まってきた。


「お前、すげえよ」


健吾が、優希の肩を叩いた。


「あの空気、よく変えたな」


「みんなのおかげです」


優希は、みんなを見た。


「ありがとうございます」


その時――


「佐藤先生」


声がした。


振り返ると――


リー・ジュンホが立っていた。


「リーさん......」


「お疲れ様でした」


リーは、優希に手を差し伸べた。


「あなたの言葉、心に響きました」


「......」


「私、もう一度信じます」


リーは、笑った。


「あなたと、一緒に歩みます」


優希は、その手を握った。


「ありがとうございます、リーさん」


二人は、握手をした。



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