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J-リセット:日本人だけの地球再設計   作者: 月城 リョウ
第6章:新世界の光と影
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第6章2

十二月二十日。アメリカ・カリフォルニア州。


優希は、初の海外移住地を視察していた。


ロサンゼルス郊外。温暖な気候、広大な土地。


「ここが、第一移住地です」


田村健太が、説明した。


「既に、五千人が移住しています。日本人三千人、在日外国人二千人」


「どうですか? 生活は?」


「順調です」


田村は、住宅地を指した。


「住居は確保できています。食料も、近くの農場から供給されています」


「よかった......」


優希は、安堵した。


その時――


「佐藤先生!」


声がした。


振り返ると、日本人の女性が駆けてきた。


「はい、何でしょう?」


「ちょっと、見てください!」


女性は、優希を商店街に連れて行った。


そこには――


看板が、並んでいた。


英語の看板。


『MARKET』『RESTAURANT』『HOSPITAL』


「これ、どうするんですか?」


女性が、尋ねた。


「英語、読めない人もいるんですけど」


「......そうですね」


優希は、看板を見た。


「日本語化計画で、順次変えていきます」


「いつ頃ですか?」


「来月から、作業チームを派遣します」


「そうですか......」


女性は、不安そうだった。


「早くしてください。子供が学校の標識、読めなくて困ってるんです」


「わかりました。急ぎます」


女性は、去っていった。


優希は、看板を見上げた。


「日本語化......思った以上に、大変だな......」


「ええ」


田村も、頷いた。


「看板だけじゃないです。道路標識、公共施設の案内、書類......全部です」


「そして――」


田村は、別の建物を指した。


「図書館の本。全部、英語です」


「......」


「これを全部、日本語にするんですか?」


「......やるしかないです」


優希は、拳を握った。


「時間がかかっても、やります」


---


**同日、午後三時。ロサンゼルス・在日外国人居住区。**


リー・ジュンホは、中国人コミュニティを訪問していた。


そこは、チャイナタウン。


以前からあった、中国系移民の街。


今は、在日中国人たちが多く住んでいる。


「リーさん、ようこそ」


ワン・シュウが、出迎えた。


「ワンさん、お久しぶりです」


「ええ。見てください、我々の街を」


ワンは、通りを歩き始めた。


街には、中国語の看板が並んでいる。


『中华餐厅』(中華レストラン)

『杂货店』(雑貨店)

『中医诊所』(漢方医院)


「美しいでしょう?」


ワンは、誇らしげに言った。


「これが、我々の文化です」


「......ええ」


リーは、複雑な表情をしていた。


「でも、ワンさん。日本語化計画が始まります」


「わかっています」


ワンは、立ち止まった。


「だから、見せたかったんです。これが消える前に」


「消える......」


「ええ」


ワンは、看板を見上げた。


「日本語化されれば、これらの看板は全て変わる。中国語は、消える」


ワンは、リーを見た。


「それでいいんですか?」


「......わかりません」


リーは、正直に答えた。


「でも、統一は必要です」


「なぜ?」


ワンの声が、強くなった。


「なぜ、我々が日本に合わせなければならないんですか?」


「それは――」


「日本が特異点だったから? だから、日本語が選ばれた?」


ワンは、拳を握った。


「それは、偶然です。もしも中国が特異点だったら、中国語が世界共通語になっていた」


「......」


「つまり」


ワンは、リーを見た。


「これは、文化的侵略です」


「侵略......」


「ええ」


ワンは、周りを見回した。


「リーさん、私は佐藤先生を尊敬しています。彼は、良い人です」


「でも――」


ワンの声が、震えた。


「良い人でも、間違うことはある」


リーは、何も言えなかった。


---


**十二月二十五日。東京・国立エネルギー研究所。**


優希は、深夜まで資料と格闘していた。


日本語化計画の進捗状況。


遅れている。


予想以上に、作業が多い。


「くそっ......」


優希は、頭を抱えた。


ノックの音。


「入ってます」


ドアが開き、健吾が入ってきた。


「よう、優希。まだ起きてたか」


「健吾さん......もう、こんな時間ですか」


優希は、時計を見た。


午前二時。


「お前、最近寝てないだろ」


健吾は、コーヒーを差し出した。


「飲めよ」


「......ありがとうございます」


優希は、コーヒーを受け取った。


「健吾さんこそ、なぜここに?」


「お前が心配でな」


健吾は、椅子に座った。


「最近、顔色悪いぞ」


「大丈夫です」


「嘘つけ」


健吾は、優希を見た。


「何か、あったんだろ?」


「......」


優希は、しばらく黙っていた。


そして――


「日本語化計画......思った以上に、反発が強いんです」


優希は、資料を見せた。


「在日外国人から、抗議が来ています。『文化を奪うな』『母国語を守れ』って」


「......そうか」


「僕は......間違っているんでしょうか」


優希は、健吾を見た。


「日本語化、本当に必要なんでしょうか」


健吾は、しばらく考えた。


そして――


「必要だと思うぜ」


「でも――」


「聞けよ」


健吾は、優希を見た。


「言語が統一されなきゃ、コミュニケーションが取れない。それは、もっと大きな問題を生む」


「でも、文化が――」


「文化は、言語だけじゃねえ」


健吾は、笑った。


「料理、音楽、芸術......色々ある。言語が変わっても、文化は残る」


「......」


「それに」


健吾は、優希の肩を叩いた。


「お前は、ちゃんと配慮してるじゃねえか。段階的に進める、サポートする、って」


「それで、十分なんでしょうか......」


「十分かどうかは、わからない」


健吾は、正直に答えた。


「でも、お前にできることは、それが精一杯だろ?」


「......はい」


「なら、それでいいんだよ」


健吾は、立ち上がった。


「完璧な答えなんて、ないんだ。お前は、ベストを尽くしてる。それで十分だ」


優希は、健吾を見た。


「......ありがとうございます」


「おう」


健吾は、ドアに向かった。


「じゃあな。たまには寝ろよ」


「はい」


健吾が去った後。


優希は、一人になった。


「ベストを尽くす、か......」


優希は、窓の外を見た。


東京の夜景。


「でも、それで本当に......みんなが幸せになれるのかな......」


---


**十二月三十日。在日外国人コミュニティセンター。**


緊急会議が開かれていた。


集まったのは、各国のコミュニティ代表。


そして――新しい顔ぶれもいた。


「皆さん、紹介します」


ワン・シュウが、一人の男性を紹介した。


「チャン・ウェイ。中国人コミュニティの若手リーダーです」


チャン・ウェイは、三十代前半。鋭い目つき。


「よろしく」


チャンの声は、冷たかった。


「チャンさん」


リーが、尋ねた。


「今日は、何の用ですか?」


「単刀直入に言う」


チャンは、全員を見回した。


「日本語化計画に、反対します」


「......」


「そして、在日外国人の権利を守るため、新しい組織を立ち上げます」


チャンは、資料を配った。


「『多文化共生連盟』」


資料には、組織の概要が書かれている。


**目的:**

- 在日外国人の文化・言語の保護

- 多言語共存社会の実現

- 日本政府への政治的圧力


「待ってください」


リーが、手を上げた。


「政治的圧力? それは、対立を生みます」


「対立は、既にあります」


チャンは、リーを見た。


「リーさん、あなたは日本政府に協力しすぎです」


「私は――」


「佐藤優希は、良い人かもしれない。でも、彼のやり方は間違っている」


チャンは、立ち上がった。


「日本語化は、文化的侵略です。我々は、黙って従うべきではない」


「でも――」


「リーさん」


パク・ジョンスが、口を開いた。


「チャンさんの言うことも、一理あります」


「パクさん、あなたまで......」


「私は、佐藤先生を尊敬しています」


パクは、静かに言った。


「でも、母国語を失うことは――心が痛みます」


「......」


リーは、何も言えなかった。


「では、多数決を取りましょう」


チャンが、提案した。


「『多文化共生連盟』の設立に、賛成の方は?」


手が上がった。


ワン、チャン、そして――


数人のコミュニティ代表。


「反対の方は?」


リー、パク、グエン、カルロス。


「......同数ですね」


チャンは、笑った。


「では、保留としましょう。ですが――」


チャンは、リーを見た。


「私は、諦めません。必ず、この組織を立ち上げます」


チャンは、去っていった。


リーは、その場に座り込んだ。


「分裂が......始まった......」


---


**同日、午後十時。優希のマンション。**


優希は、美咲と電話していた。


『佐藤先生、聞きましたか?』


「何をですか?」


『在日外国人コミュニティが、分裂しています』


「......なんですって?」


優希は、立ち上がった。


『『多文化共生連盟』という組織が立ち上がろうとしています。日本語化に反対する、過激派です』


「過激派......」


『リーさんも、苦しんでいます』


美咲の声には、心配が滲んでいた。


『このままでは、在日外国人コミュニティが真っ二つに割れます』


「......僕の、せいだ」


優希は、拳を握った。


「僕が、日本語化なんて言い出したから......」


『佐藤先生、あなたのせいじゃありません』


「でも――」


『でも、何もありません』


美咲の声が、強くなった。


『あなたは、正しいことをしています。ただ、それが簡単じゃないだけです』


「......」


『明日、リーさんと会ってください。そして、話し合ってください』


「わかりました」


優希は、電話を切った。


窓の外を見る。


東京の夜景。


「分裂......」


優希は、呟いた。


「僕は......どうすればいいんだ......」



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