表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
J-リセット:日本人だけの地球再設計   作者: 月城 リョウ
第6章:新世界の光と影
23/34

第6章1

十二月十日。東京・首相官邸。


特異点危機から十日。


日本は、ようやく落ち着きを取り戻しつつあった。


優希は、会議室で資料を見ていた。


「J-リセット計画・第二段階」


特異点は消えた。


エネルギーも、食料も、確保できた。


では、次は?


「世界の再建......」


優希は、呟いた。


ドアが開き、藤堂総理が入ってきた。


「佐藤君、待たせたな」


「総理」


優希は、立ち上がった。


「いえ、今来たところです」


「そうか」


藤堂総理は、椅子に座った。


「では、始めよう。J-リセット計画・第二段階について」


藤堂総理は、資料を広げた。


「第一段階は、『生存』だった。エネルギー確保、食料確保、危機回避」


「第二段階は――」


藤堂総理は、優希を見た。


「『再建』だ」


「はい」


優希は頷いた。


「世界中に散らばった資源を、計画的に活用する。そして、新しい社会システムを構築する」


「具体的には?」


「まず、人口配置です」


優希は、世界地図を広げた。


「現在、一億二千三百四十万人が日本に集中しています。でも、日本だけでは狭すぎる」


優希は、地図上にマーカーで印をつけた。


「気候の良い地域へ、計画的に移住させます。オーストラリア、ニュージーランド、カリフォルニア、地中海沿岸......」


「移住、か」


藤堂総理は、考えた。


「国民は、受け入れるだろうか?」


「......わかりません」


優希は、正直に答えた。


「でも、必要なことです。人口密度を下げ、資源を有効活用する」


「そして――」


優希は、別の資料を取り出した。


「言語の統一です」


「言語......」


「はい」


優希は、資料を見せた。


「現在、地球上で使用される言語は日本語だけです。でも、海外に移住すれば――」


「現地の言語表記が残っている」


「ええ。道路標識、看板、書類......全て、その国の言語です」


優希は、資料をめくった。


「これらを、全て日本語に変える。『日本語化計画』です」


藤堂総理は、しばらく黙っていた。


「......大事業だな」


「はい。でも、必要です」


「わかった」


藤堂総理は頷いた。


「では、次の閣議で提案してくれ」


「ありがとうございます」


その時、ノックの音。


「入れ」


ドアが開き、桜井晋三が入ってきた。


「総理、佐藤君」


「桜井大臣」


「話は、聞かせてもらった」


桜井は、椅子に座った。


「日本語化計画、か。面白い」


「......ありがとうございます」


優希は、警戒した。


桜井が素直に賛成するとは思えない。


「だが」


案の定、桜井が続けた。


「一つ、問題がある」


「何でしょう?」


「在日外国人だ」


桜井は、資料を取り出した。


「彼らの中には、日本語が不自由な者もいる。特に、高齢者や子供」


「......はい」


「日本語化を進めれば、彼らは困る」


桜井は、優希を見た。


「どう対処するつもりだ?」


優希は、考えた。


確かに、問題だ。


「日本語教育を強化します」


「強化、か」


桜井は、冷笑した。


「それで間に合うのか? 言語習得には、時間がかかる」


「......時間をかけます」


「時間をかける、か」


桜井は、腕を組んだ。


「だが、その間――社会は混乱する。日本語ができない者は、仕事もできない。生活もできない」


「それは――」


「つまり」


桜井は、立ち上がった。


「君の計画は、在日外国人を排除することになる」


「そんなつもりは――」


「つもりがなくても、結果的にそうなる」


桜井は、ドアに向かった。


「よく考えたまえ、佐藤君。理想と現実は、違う」


桜井は、部屋を出ていった。


優希は、拳を握りしめた。


「くそっ......」


「佐藤君」


藤堂総理が、優希の肩に手を置いた。


「桜井の言うことにも、一理ある」


「......わかっています」


「だが」


藤堂総理は、優希を見た。


「君の計画も、正しい。日本語統一は、必要だ」


「では――」


「両立させるんだ」


藤堂総理は、笑った。


「日本語化を進めながら、在日外国人もサポートする。簡単じゃないが――」


「やるしかない、ですね」


優希は、笑った。


「はい。やります」


---


**同日、午後三時。在日外国人コミュニティセンター。**


リー・ジュンホは、日本語教室を視察していた。


教室には、約五十人の在日外国人。


年齢も、国籍もバラバラ。


講師は、日本人のボランティア。


「では、復唱してください。『おはようございます』」


「おはよう、ございます」


生徒たちが、口々に言う。


発音は、バラバラ。


でも、みんな真剣だ。


「よくできました。次は、『ありがとうございます』」


「ありがとう、ございます」


リーは、その光景を見ながら――


複雑な表情をしていた。


「リーさん」


声がした。


振り返ると、ワン・シュウが立っていた。


「ワンさん」


「この教室、どう思いますか?」


ワンの声には、皮肉が込められていた。


「......必要なことだと思います」


「必要、か」


ワンは、教室を見た。


「私たちは、母国語を捨てて、日本語を学ばなければならない」


「ワンさん......」


「それが、『全人類で協力』の結果ですか?」


ワンは、リーを見た。


「私は、納得できません」


「私も......複雑です」


リーは、正直に答えた。


「でも、他に選択肢がありますか?」


「あります」


ワンは、資料を取り出した。


「多言語共存です」


「多言語......」


「日本語だけでなく、中国語、韓国語、英語......複数の言語を公用語にする」


ワンは、資料を見せた。


「そうすれば、誰も母国語を捨てる必要はありません」


「でも、それは非効率では......」


「効率より、人権です」


ワンの声が、強くなった。


「リーさん、あなたは佐藤先生に協力しすぎです」


「......」


「私たちは、もっと権利を主張すべきです」


ワンは、去っていった。


リーは、一人残された。


「権利......か」


リーは、窓の外を見た。


「でも、それを主張したら――また、対立が生まれる」


リーは、拳を握った。


「どうすればいいんだ......」


---


**十二月十五日。全国放送。**


藤堂総理が、記者会見を開いた。


「国民の皆様」


藤堂総理の声が、響いた。


「本日、J-リセット計画・第二段階を発表します」


カメラのフラッシュが焚かれる。


「第二段階の目標は、『世界再建』です」


スクリーンに、世界地図が表示される。


「まず、人口の再配置。現在、日本に集中している人口を、世界各地に計画的に移住させます」


「次に、日本語化計画。世界中の言語表記を、日本語に統一します」


「そして――」


藤堂総理は、カメラを見た。


「新しい社会システムの構築。全人類が、平等に、幸せに暮らせる社会を作ります」


拍手が起こった。


「詳細は、佐藤優希博士が説明します」


優希が、壇上に上がった。


「皆様」


優希の声が、響いた。


「J-リセット計画・第二段階は、私たち全員の協力が必要です」


優希は、資料を見せた。


「移住計画は、任意です。強制ではありません」


「日本語化も、段階的に進めます。急ぐことはありません」


「そして――」


優希は、カメラを見た。


「在日外国人の皆さんにも、全力でサポートします。日本語教育、生活支援、全て行います」


優希は、深く頭を下げた。


「どうか、ご協力をお願いします」


---


だが。


その会見を見ていた人々の反応は――


分かれていた。


**SNS上:**


『佐藤先生、素晴らしい計画だ!』

『世界が一つになる!』

『日本語が世界共通語になるのか、すごい』


一方で――


『なんで外国人までサポートするんだ?』

『日本人を優先しろ』

『税金の無駄遣いだ』


そして――


『母国語を奪われる......』

『これは文化的侵略だ』

『在日外国人の人権はどうなる?』


優希は、会見後、そのSNSの反応を見ていた。


「......やっぱり、簡単じゃないな」


美咲が、隣に来た。


「当然です。こんな大きな変革、誰もが賛成するわけがありません」


「わかっていますけど......」


優希は、スマートフォンを置いた。


「でも、やるしかないんです」


「ええ」


美咲は、優希の手を握った。


「私も、一緒にやります」


「ありがとうございます」


優希は、笑った。


---


**同日、午後八時。桜井の執務室。**


桜井晋三は、秘書と話していた。


「佐藤の会見、見ましたか?」


「ああ」


桜井は、窓の外を見ていた。


「相変わらず、甘いな」


「甘い......ですか?」


「ああ」


桜井は、振り返った。


「在日外国人をサポート? 馬鹿げている」


桜井は、資料を取り出した。


「こちらの準備は?」


「順調です。『新世界秩序法案』、来月には提出できます」


「よし」


桜井は、不敵に笑った。


「佐藤優希。お前の理想は、すぐに崩れる」


「そして――」


桜井は、拳を握った。


「私の時代が、始まる」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ