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J-リセット:日本人だけの地球再設計   作者: 月城 リョウ
第5章:オペレーション・ユニティ
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第5章3

十二月一日、午前八時。東京湾・浮遊プラットフォーム。


田村健太は、装置の前で最終チェックをしていた。


「全システム、正常」


「電源、安定」


「同期信号、受信中」


次々と、報告が上がる。


「よし」


田村は、深呼吸をした。


「起動まで、あと四時間」


リー・ジュンホが、隣に来た。


「緊張していますね」


「ああ」


田村は、笑った。


「こんなに緊張したの、初めてかもしれない」


「私もです」


リーも、装置を見た。


「この装置が、地球の運命を決める......」


「ああ」


二人は、しばらく黙っていた。


そして――


「リーさん」


「はい?」


「もし、成功したら――飲みに行きませんか?」


田村は、照れくさそうに言った。


「俺、リーさんとちゃんと話したことないなって思って」


リーは、驚いた顔をした。


そして――笑った。


「ええ、ぜひ」


「約束ですよ」


「約束です」


二人は、握手をした。


---


**同時刻。ロシア・シベリア地方。**


パク・ジョンスは、装置の前で祈っていた。


「主よ......」


パクの声は、震えていた。


「どうか、この作戦を成功させてください......」


「そして――」


パクは、目を開けた。


「私の家族に、伝えてください。私は、最後まで戦ったと」


「パクさん」


日本人技術者が、近づいてきた。


「祈っていたんですか?」


「ああ」


パクは、立ち上がった。


「君は、信仰を持っているか?」


「いえ、特には......」


「そうか」


パクは、空を見上げた。


「私は、クリスチャンだ。でも、今――神を信じていいのかわからない」


「......」


「神が本当にいるなら、なぜ77億人を消したのか。なぜ、私の家族を奪ったのか」


パクの目から、涙が溢れた。


「でも......それでも......」


パクは、拳を握った。


「私は、祈らずにはいられない」


技術者は、パクの肩に手を置いた。


「パクさん、あなたは一人じゃありません」


「......」


「僕たちがいます。佐藤先生も、田村さんも、みんな」


技術者は、笑った。


「だから、大丈夫です」


パクは、技術者を見た。


そして――笑った。


「......ありがとう」


---


**同時刻。太平洋・特異点中心部。**


球体の中は、相変わらず寒かった。


だが、推進装置を停止したおかげで、エネルギーは何とか持ちこたえている。


優希は、計測器を見ていた。


「残りエネルギー......五時間分」


「起動時刻まで......四時間」


優希は、安堵のため息をついた。


「何とか......間に合う......」


「よかったな」


健吾が、笑った。


「でも、ギリギリすぎるだろ」


「いつも、ギリギリですから」


優希も、笑った。


その時――


ピピピピ


通信機が鳴った。


「こちら官邸。聞こえますか?」


石橋副長官の声。


「聞こえます」


優希は、通信機を取った。


「こちら太平洋チーム。佐藤です」


『お疲れ様です。状況は?』


「エネルギー、ギリギリですが何とか持ちます」


『そうですか。よかった......』


石橋の声には、安堵が滲んでいた。


『では、カウントダウンを開始します』


「了解しました」


優希は、深呼吸をした。


そして――


健吾とアフマドを見た。


「みんな、準備はいいですか?」


「おう」


「準備完了です」


優希は、頷いた。


「では――最後の戦いです」


---


**午前十一時。首相官邸・作戦指揮室。**


大型モニターに、三つのチームの映像が映し出されていた。


東京湾、ロシア、太平洋。


それぞれの装置が、スタンバイ状態。


藤堂総理、桜井、石橋副長官、そして多くの政府関係者が見守っている。


「残り時間、一時間」


石橋が、アナウンスした。


「全チーム、最終確認を開始してください」


『こちら東京湾チーム。最終確認、開始します』


田村の声。


『こちらロシアチーム。同様に』


パクの声。


『こちら太平洋チーム。最終確認中』


優希の声。


藤堂総理は、モニターを見つめていた。


「頼む......成功してくれ......」


桜井は、腕を組んでいた。


「......」


桜井の表情は、複雑だった。


---


**午前十一時三十分。**


『こちら東京湾チーム。最終確認、完了』


『こちらロシアチーム。最終確認、完了』


『こちら太平洋チーム。最終確認、完了』


「よし」


石橋は、深呼吸をした。


「では――カウントダウンを開始します」


大型モニターに、カウントダウンが表示される。


**00:30:00**


三十分。


---


**午前十一時四十五分。**


**00:15:00**


十五分。


田村は、装置の前に立っていた。


手には、起動スイッチ。


「あと、十五分......」


田村の手が、震えていた。


「大丈夫ですか?」


リーが、尋ねた。


「......大丈夫じゃない」


田村は、正直に答えた。


「怖いんだ。もし、失敗したら......」


「失敗しません」


リーは、田村の肩を叩いた。


「私たちを、信じてください」


田村は、リーを見た。


そして――頷いた。


「......ああ。信じるよ」


---


**午前十一時五十分。**


**00:10:00**


十分。


パクは、装置の前で祈っていた。


「主よ......どうか......」


周りの技術者たちも、それぞれに祈っていた。


宗教は違う。


言語も違う。


国籍も違う。


でも――


みんな、同じ思いだった。


「成功しますように......」


---


**午前十一時五十五分。**


**00:05:00**


五分。


優希は、制御パネルの前に座っていた。


手には、起動キー。


「あと、五分......」


優希は、深呼吸をした。


「健吾さん」


「ん?」


「もし、これで終わりだったら――」


「バカ言うな」


健吾は、優希の頭を叩いた。


「終わりなわけねえだろ。これから、始まるんだ」


「......そうですね」


優希は、笑った。


「これから、始まる」


---


**午前十一時五十九分。**


**00:01:00**


一分。


全員が、息を呑んだ。


**00:00:50**


五十秒。


藤堂総理は、拳を握りしめていた。


**00:00:40**


四十秒。


桜井は、目を閉じていた。


**00:00:30**


三十秒。


石橋副長官は、モニターを見つめていた。


**00:00:20**


二十秒。


田村は、スイッチに手をかけた。


**00:00:10**


十秒。


パクは、祈り続けていた。


**00:00:09**


九秒。


優希は、起動キーを握りしめた。


**00:00:08**


八秒。


**00:00:07**


七秒。


**00:00:06**


六秒。


**00:00:05**


五秒。


「みんな......」


優希は、呟いた。


**00:00:04**


四秒。


「一緒に......」


**00:00:03**


三秒。


「やりましょう......」


**00:00:02**


二秒。


**00:00:01**


一秒。


**00:00:00**


---


三人は、同時にスイッチを押した。


---


瞬間。


世界が、光に包まれた。


---


東京湾の装置から、青い光の柱が天に向かって伸びた。


ロシアの装置から、赤い光の柱が天に向かって伸びた。


太平洋の装置から、白い光の柱が天に向かって伸びた。


三つの光が――


空で交わった。


---


「うわああああ!」


あまりの光に、全員が目を覆った。


だが――


光は、優しかった。


温かかった。


---


優希は、光の中で浮遊していた。


いや、全員が浮遊していた。


「これは......」


周りには、無数の数式。


データ。


情報。


**「同期、成功」**


声が聞こえた。


いや、声ではない。


直接、脳内に響く言葉。


**「三つの特異点、統合開始」**


**「地球、再構築開始」**


優希は、その言葉を聞きながら――


涙を流した。


「成功した......」


「僕たち......やったんだ......」


---


光が、徐々に弱くなっていく。


そして――


消えた。


---


**十二月一日、正午十分。東京湾・浮遊プラットフォーム。**


田村は、地面に倒れていた。


ゆっくりと起き上がる。


「......終わった......?」


周りを見る。


装置は、静かに稼働している。


でも、光の柱は消えていた。


「成功......したのか......?」


その時――


計測器を見ていた技術者が、叫んだ。


「成功です! 特異点のエネルギー、急速に減衰しています!」


「本当か!?」


「はい! 太平洋の特異点、消滅しました!」


「やった......」


田村は、その場に座り込んだ。


「やったぞ......!」


技術者たちが、抱き合った。


涙を流しながら、笑い合った。


---


**同時刻。ロシア・シベリア地方。**


パクは、雪の上に倒れていた。


空を見上げる。


青い空。


雲一つない、美しい空。


「......神様」


パクは、涙を流した。


「ありがとうございます......」


技術者たちが、駆け寄ってきた。


「パクさん! 成功しました!」


「本当か......」


「はい! ロシアの特異点も、消滅しました!」


パクは、立ち上がった。


そして――


両手を広げて、叫んだ。


「ハレルヤ!!」


技術者たちも、叫んだ。


「ハレルヤ!!」


---


**同時刻。太平洋・特異点中心部。**


優希は、球体の中で目を開けた。


「......生きてる......」


健吾も、起き上がった。


「お、おう......生きてる......」


アフマドも、無事だった。


「成功......しましたね......」


優希は、窓の外を見た。


光の渦は、消えていた。


ただ、普通の海が広がっているだけ。


「成功した......」


優希は、拳を握りしめた。


「みんな......ありがとう......」


そして――


優希は、通信機を取った。


「こちら太平洋チーム。作戦成功。繰り返す、作戦成功」


---


**同時刻。首相官邸・作戦指揮室。**


優希の声が、スピーカーから流れた。


『こちら太平洋チーム。作戦成功。繰り返す、作戦成功』


瞬間――


作戦指揮室が、歓声に包まれた。


「やった!」


「成功だ!」


「地球が救われた!」


藤堂総理は、その場に座り込んだ。


そして――泣いた。


「よかった......本当に......よかった......」


石橋副長官も、涙を流していた。


「佐藤先生......ありがとうございます......」


桜井晋三は――


窓の外を見ていた。


その表情は、複雑だった。


敗北感、安堵、そして――


何か、決意のようなものが浮かんでいた。


「......佐藤優希」


桜井は、呟いた。


「お前は、また奇跡を起こした」


桜井は、拳を握った。


「だが――これで終わりだ。お前は、約束通り辞めるんだろう?」


桜井は、不敵に笑った。


「次は、私の時代だ」


---


**午後一時。全国放送。**


藤堂総理が、緊急記者会見を開いた。


「国民の皆様」


藤堂総理の声は、震えていた。


「本日、正午。オペレーション・ユニティが成功しました」


カメラのフラッシュが焚かれる。


「太平洋の特異点は消滅し、地球の危機は去りました」


「これは――」


藤堂総理は、深呼吸をした。


「佐藤優希博士を始めとする、全てのチームメンバーの尊い努力の結果です」


「日本人も、在日外国人も――全員が、協力しました」


藤堂総理の目には、涙が浮かんでいた。


「私は、彼らを誇りに思います」


「そして――」


藤堂総理は、カメラを見た。


「国民の皆様にも、感謝します。この困難な時期に、希望を失わず、信じてくださって」


藤堂総理は、深く頭を下げた。


「ありがとうございました」


---


**午後三時。羽田空港。**


三つのチームが、次々と帰還していた。


東京湾チーム。


ロシアチーム。


そして――太平洋チーム。


優希が輸送機から降りると――


そこには、大勢の人々が待っていた。


美咲、石橋副長官、そして――


藤堂総理。


「佐藤君」


藤堂総理が、歩み寄った。


「お疲れ様」


「総理......」


優希は、敬礼をした。


藤堂総理も、敬礼を返した。


そして――


抱きしめた。


「よくやった......本当に、よくやった......」


優希は、藤堂総理の背中に手を回した。


「......ありがとうございます」


周りから、拍手が起こった。


田村、リー、パク、アフマド、健吾――


みんなが、笑顔で拍手していた。


優希は、その光景を見て――


涙が止まらなかった。


「みんな......ありがとう......」


---


だが。


その光景を、遠くから見ている男がいた。


桜井晋三。


「......楽しんでいるな、佐藤優希」


桜井は、呟いた。


「だが、お前の時代は終わった」


桜井は、踵を返した。


「次は、私の番だ」


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